厚切りジェイソンさん「米国ETFの積み立てでFIRE達成」
お笑い芸人・IT企業役員・個人投資家
――初のお金の本『ジェイソン流お金の増やし方』が電子書籍と合わせ43万部を突破したそうですね。ジェイソンさんは主に米国のETF(上場投資信託)「バンガード・トータル・ストック・マーケットETF(VTI)」に積立投資されて資産を作ったということですが、投資との出合いは?
大学院を出てGEヘルスケアに入った時に、入社手続きの標準制度でインデックス型の投資信託や自社株を買う機会があったのが最初です。当時は今ほど知識はなく、一応父から401k(確定拠出年金)制度の仕組みや、投資では分散投資した方がいい、ということくらいは聞いてましたが。
だからある意味、最初に始めたことを15年間ずっと続けている形です。でも、最初が間違っていたらそうは言えない。僕はデータを調べるのが好きなので、過去の事例などを調べて「このやり方ならお金が増やせるはずだ」という自分なりの正しいやり方を見つけ、それをずっと計画通り続けてきたんです。投資の知識が増えても、そのやり方を変えることはしません。僕は買った投信はまだ一度も売却したことがないですよ。
――最初の頃はS&P500種株価指数に連動する投信で積み立てされていたそうですが、それも?
ずっと持っています。新しく買い増しするのはVTIに変えましたが、その前に買ったものは放ったらかしにしています。売らなければ税金を払わなくていいし。
――VTIに変更したのは、中小企業が含まれているからですか。
そうですね。時価総額の成長率でいうと、時価総額100億円の企業が1000億円になるのと、1兆円の企業が10兆円になるのは同じ10倍です。ただ難しさでいうと、中小企業の方が10倍を達成しやすいと思うんです。
――投資家の夢のFIRE(Financial Independence, Retire Early)もついに達成されたそうですが。
FIREはあくまで計算上の話で、年間支出の25倍(25年分)以上の財産があれば、年4%の運用で生活費は賄えるということです。
――つまりこれまでの投資で一生安定的に家族を養っていくことができる状態になった、しかし仕事は続けていく、という意味ですね。
そう。そういうことです。
服は買ったことがなく、スーパーでは30kgまとめ買い
――FIRE達成の鍵は。
収入と支出の差額ですね。言い方は悪いですけど、僕はまあ高収入で支出が少ない。この両方が必要。支出が少なくても収入がなければ投資に回せるお金が少ない。また収入が増えただけでは不十分で、収入が増えると支出も比例して増えるので節約も必要です。
例えば、僕は私服は今でも人からもらったものを着ていて、自分で買ったことがほぼないんです。価値観は人それぞれですが、僕は何でも安いものを探して「わあ、得した」という方が楽しいですね。
――そういえば「業務スーパー」で買った2リットルの飲料の空き瓶に、インスタントコーヒーを溶かして飲んでいるという話も……。
もちろん実話です。今日も3リットル飲みましたよ(笑)。
――スーパーもハシゴをするなど、よく行かれるんですよね。
今日もテレビの1日密着取材で「オーケーストア」に行きました。牛乳や冷凍食品など30kgくらいの買い物をして、登山リュックをしょったまま歩いて。だから今はもうふくらはぎがパンパン。普段も2km離れている業務スーパーまで行って、満杯のリュックをしょって帰りますよ。マイバッグも必ず持ってます。レジ袋にマネー払ってる場合か!と(笑)。
――最近買った一番高いものは?
ネズミガシラハネナガインコという中型の珍しいインコです。25万円くらいしました。口笛のまねをしたりして、かわいいよ!
――価値あるものには大胆にお金を使うんですね。しかし、その節約はどこで身に付いたんでしょう。米国でも義務教育でお金のことを習うわけじゃないですよね。
なかったですね。むしろ母が節約の努力を見せてくれたのが大きいと思います。父も結構お金を使わない方でしたけどね。米国の教育は教会と学校と家庭の3本柱で、金銭教育は基本、家庭内で教えます。最近は多少変わってると思いますが、僕の世代はそういう感じでした。日本は学校に任せ過ぎの人が多く、家庭教育もあまり熱心じゃないかも。例えばお父さんは夜遅くまで会社で働いてて、平日は家族と全然会わない日が多い人もいる。米国人は家族を大事にするので、それは珍しいんですね。
お年玉に利息を付け投資教育。生活費3カ月分以外は全て投資に
――日本人もお金をタブー視していないで、家でどんどんお金の話をすべきだと思うんですが。
僕も3人の娘たちと話をしていて、いつもそう思います。金融リテラシーはちゃんと持ってほしいし。そこで娘たちのお年玉を預かって僕が運用し、毎年末に10%の利息を払うことにしました。僕が子供の時に預けた銀行預金には5%の利息が付いてましたが、今の日本ではそうやってお金が増えるという体験ができません。代わりに僕が仮想の仕組みでやってあげようという思いですね。
――家庭が円満だというのもお金が貯まる秘訣ですよね。
確かに、夫婦でお金の価値観が合わないとうまくいかないケースがある。金銭感覚の不一致は米国の離婚原因の上位に入ってます。
ともかく日本は年金制度があり退職金が出るところも多いから、これまではお金の知識がなくても何とかなった人が多いのは事実ですよ。ただ、この先はちゃんと考えた方が有利な時代になると思います。子供たちに財産としてお金の知識を渡すとしたら、それをするとしないとでは子供の人生の豊かさが違ってくると思いますね。
――ご本には「手元には3カ月分の生活費を残して、後は全部投資に回していい」とありました。
僕自身そうしてますから。なぜ3カ月かというと、それだけあれば次の収入を見つけられる自信があるからです。最近ですと収入の95%くらいを投資に回していて、究極というか、もうこれ以上やりようがない感じですが(笑)。
――ジェイソンさんは個別株や暗号資産、不動産には投資せず、米国株ETFの長期の積み立てが中心です。時々「投資は怖い」と言う人がいますが、そういうやり方なら怖くないのでは。
僕も一時的に下がるのは気にしてません。一昨日かな、米国市場が下落してマンション1室分くらいの損が出たんですけど、売らなかったらただの数字ですよね。
過去のデータを見ると、米国株の場合は金融ショックがあっても3年くらいで元に戻りますね。そして下がってる時もずっと計画通り買い続けてたら、その間に買った分が加速して増えるからね。
――ドルコスト平均法の強みです。
父はリーマン・ショックの時に狼狽売りして、後悔してました。僕はそれを見ていたので今回のコロナショックでは売却しないで済んだ。一時は今までに得た利益が全て消えた瞬間もありましたよ。でも、3年は無理でも10年あれば元に戻るだろうと思って。
――データ好きが生きましたね。
データは友達ですね。ロシアのウクライナ侵攻の時には、世界的な紛争で株価が暴落した後、戻るのにどのくらいかかるのかを調べました。3カ月ほどで戻ってくる傾向があるのが分かりましたが、それはいわば安心材料で、何か投資法を変えるわけではありません。データが明らかに何か違うことを示していたら変えますが、よく考えて決断したのなら、データが変わるまでは自分の投資法を信じ切ってもいいんじゃないですか。
米国は投資で利益を出しやすい国
――ETFは自動で積み立てできないのが難点ですが……。
僕は米国市場で投資していて、手動でやってます。毎週土日に買い注文を入れておき、向こうの月曜日の朝に買い付ける形です。もし毎週が難しければ毎月でもいいんじゃないですか。VTIの投信版、「楽天・全米株式インデックス・ファンド(楽天VTI)」でもいい。これなら積み立ても簡単ですし。
――日本でも若い人は、かなり米国市場に投資しているようです。
米国は国全体がビジネスに優しく、世界中から資金が集まるので、より利益を出しやすい国。そこにVTIなどを通じて投資すれば、シンプルな仕組みでリターンを得られるのでいいと思います。
米国企業は国内だけじゃなくて最初から「全世界を目指します」みたいな感じ。グーグル、フェイスブック、アップル、スターバックスなどは日本でも世界でも毎日使われています。大手企業がベンチャーを育て、その利益がまた大手企業に戻るような好循環もありますし、いくら稼いでも、それを全部次の成長に使いましょうよという会社が多いんですよね、米国は。
――ジェイソンさんの投資法は保守的ですが、一種楽観的というか、米経済の成長を信じているということなんですね。
長期的な成長をね。短期では急落することもありますけど。
いずれにせよ自分の将来は自分自身で作り出すものですから、読者の皆さんも将来どうなりたいのかを考えて、今から動き出せばいいと思います。
(撮影/大沼正彦 取材・文/大口克人)
[日経マネー2022年7月号の記事を再構成]
1986年米ミシガン州生まれ。17歳でミシガン州立大学に飛び級で入学。卒業後、イリノイ大学大学院に進み、エンジニアリング学部コンピューターサイエンス学科修士課程を修了。現在は3姉妹のイクメンパパながらIT企業の役員も務める二刀流芸人。NHK「えいごであそぼ with Orton」のレギュラー出演のほか情報番組でコメンテーターを務め、ドラマや映画にも出演するなど幅広く活動している。
独自の節約術とETFの積み立てによる投資術でFIREを達成した厚切りジェイソン氏の、初めてのお金に関する書籍。お金を増やしたいが何をしたらいいか分からない投資初心者に向け、誰でも苦労なくできる資産形成の方法を解説している。15年にわたる自らの投資経験に基づいたノウハウだけに、明快で実践しやすい。個別株や暗号資産、不動産には投資しないなど保守的なのも特徴。節約や資産形成を通じて人生を真に豊かなものにすることが語られており、氏特有の語り口調で読みやすいので、若い人にもお勧めできる。
「お金のことを本でも学びたいけど、たくさん出ていてどれを読んだらいいか分からない」。初心者の方からよく聞く話です。そこでこのコーナーでは「お金×書籍」をテーマとして、今読むべきお金の新刊本や古典の名著などを紹介し、あわせてお金の本の著者にも読みどころなどをインタビューします。
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