資源循環、豊かな生活を続けるためにどう広げる?
JFEホールディングス・北野嘉久社長(11月5日)
産業革命以降、石炭や石油、天然ガスなどの資源を使うことで人類の生活はより便利で豊かになってきました。ただ、地球の資源には限りがあり、使い続けるだけでは持続可能な社会とは言えません。豊かな生活を維持するためには、資源を循環させて利用することがとても重要になってきます。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)の社会を築くためには、全国民が認識を共有して日本全体で取り組んでいく必要があると思います。企業も当然、努力を続けていかなければなりません。当社もグループを挙げてリサイクル、リユース、リデュースの3Rを推進していきます。
鉄という素材は溶かすことで鉄鋼製品の原材料として何度でも再利用でき、リサイクル率は9割を超えています。ただ、日本は年間700万トンの鉄スクラップを輸出しており、輸送の際にはエネルギーも消費します。日本で出た鉄スクラップはやはり国内で使い切ることが重要でしょう。JFEスチールでは鉄スクラップの使用率を高める努力を進め、JFE商事が流通網の構築を手がけています。
自動車などに使われる亜鉛めっき鋼板では、亜鉛の再利用にも取り組んでいます。亜鉛めっき鋼板はさびにくく寿命も長いのですが、スクラップを回収しても亜鉛が鉄に密着していて分離することができません。そこで鉄の精錬の工程で発生する蒸気から亜鉛を取り出し、有効活用につなげています。
![](https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO5444714004102024000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=214&h=277&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=b526fc255163d7d008b9c192b4c4a062)
リデュースに貢献できる製品にも力を入れています。電気自動車(EV)やハイブリッド車のモーターに使われる電磁鋼板は優れた磁気特性を持ち、モーターを効率良く回転できるため、エネルギー使用量を減らし小型・軽量化も可能になります。高性能化とコストダウンを進め、世界市場で販売を増やしていく計画です。
JFEエンジニアリングは廃棄物発電の建設・運営を国内33カ所、海外ではベトナムで展開しています。使用済みのペットボトルを細断して原料として使うリユースも手がけています。
資源循環にはコスト増という壁があります。相当な技術革新が生まれない限り、企業単体の努力だけでは乗り越えるのは難しく、政府による制度面での後押しも必要だと思います。カーボンニュートラルも同様です。二酸化炭素(CO2)排出量を抑えた「グリーン鋼材」は鋼材としての性能は変わりません。環境価値を認めていただくことによって増えたコストを応分に負担する社会が実現すると考えています。
日本はエネルギーも食料も輸入に依存しており、資源の枯渇は非常にシリアスな問題です。危機感があるからこそ、日本ならではの循環型社会が築けるのではないかと思っています。
そこで読者の皆さんにお願いがあります。私たちが豊かな生活を続けるために、資源循環をどう広げればいいとお考えでしょうか。一つ一つの物を長く使い続け、できるだけ廃棄しないことは大事ですよね。分別回収など新たな技術開発も必要になるでしょう。皆さんからの様々なアイデアの投稿を楽しみにしています。
編集委員から
衣服や書籍、家電などのリユース商品を購入したことがある人は多いと思います。「お得だから」というのが大きな理由かもしれませんが、果たしてそれだけでしょうか。例えばフリーマーケットなどでは宝探しのような楽しさも味わえます。大量生産・大量消費の時代は過ぎ去り、自分なりの価値を見いだす消費者が増えてきたように感じます。
インタビューでは「環境価値」というキーワードが浮かび上がりました。製造過程で環境や人権に配慮した製品が様々な分野で登場し、多少割高であっても好んで購入する人が増えています。デフレ経済を事実上脱した今、このような成熟した消費行動が広がる可能性はあると見ています。
サーキュラーエコノミーを実現するために必要なのは、消費者の意識や行動の変化だけではありません。資源を循環させる社会的なシステムや技術革新が不可欠です。従来の延長線上にはない大胆な発想も必要になりそうです。(編集委員 半沢二喜)
◇ ◇
今回の課題は「資源循環、豊かな生活を続けるためにどう広げる?」です。420字程度にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは12日(火)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、25日(月)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/future/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。