CVG(キャンパスベンチャーグランプリ勉強会)
ビジネスプランのポイント、投資家目線で伝える
新規事業を立ち上げても、革新的なアイデアでニッチトップに立ち、急速に事業を拡大するスタートアップ企業と言われるのはわずか。日々起業家から成長資金提供の相談を受ける名南M&A投資担当の伊藤将規氏が、起業家を目指す学生たちにスタートアップとして企業を立ち上げるために必要な視点について語った。
名南M&Aの伊藤将規氏
事業拡大を視野に市場を選択
スタートアップとして急速成長するためには、ビジネスプランの段階で押さえるべきポイントが三つある。まず注目すべきなのが、市場規模だ。ニッチトップに立つことを意識し過ぎてあまりにも狭い市場を選んでしまうと、すぐに売り上げが市場限界に到達し伸び悩んでしまう。今は小さな市場でも、今後伸びていく市場を見極める必要がある。そこで注目したいのが、「変化」だ。ニーズは変化に伴って生まれ、購買行動が起きる。世の中が大きく変わるとき、既存のサービスでニーズに対応できなければ、新しいサービスを頼るしかない。ここにスタートアップの活躍する場がある。
生成AIなど日々新たな市場が生まれている。こうした新興市場に小売りやコンサルティングなど既存のビジネスモデルを組み合わせることで、新しいビジネスを生むことができる。また既存の市場であっても、新たなビジネスモデルと組み合わせて成長した企業もある。新興市場で新しいビジネスモデルを立ち上げようとすると、顧客の有無すら不明瞭になるため新規性を求め過ぎない方がいいだろう。
顧客の負の感情に着目
二つ目に必要なのが「誰が顧客になるのか」という視点だ。現状のフラストレーションが強いほど、解決する手段の顧客となる可能性が高い。新しいビジネスのアイデアを探す際は「嫌だな」「面倒くさい」など負の感情に着目し、解決策となるビジネスプランを考えるといいだろう。また顧客の支払うお金の動きも重要だ。新しいサービスが成長する裏では、常に既存のサービスから乗り換えが起こっている。例えばコロナ禍で伸びた動画配信での投げ銭市場は、アイドルなどのコンサートのチケット代以外にも、飲み会など交際費からお金が流れたと考えられる。複数の仮説を持ち、お金の流れを見極めれば参入する市場の参考にもできる。
スタートアップは資金的な体力がないため、高単価でも買われる状況を作り出す発想も求められる。既存の市場に参入する場合、現状にプラスアルファの価値がある程度では切り替えの手間が勝ってしまう。新技術やソリューションなどで圧倒的なメリットを生み出す工夫が必要だ。市場を開拓し、流行が追いついたときにそのソリューションしか存在しない状況を作る方法もある。しかし何がいつ流行するかは予想が難しい。世の中に出回っている情報からでなく、常にその先に何が起こるかに思いを巡らせることが重要となる。社会課題の解決に目を向ける学生も多いが、社会課題を解決するソリューションは直接的に顧客となる人間がおらず、ビジネスとして成立が難しい。顧客の課題を解決する方法を提供し、結果として社会課題の解決につながるビジネスプランにするのがいいだろう。
ビジネス単純化し、競合と比較
三つ目は競合との比較だ。競合が誰なのかを理解することは、自分のビジネスを理解することにつながる。新しいアイデアを思いついても、既に誰かが思いついている場合がほとんど。ビジネスとして成立させるには他社がやらなかった理由について社会的背景やテクノロジーの問題など、さまざまな側面で仮説を立てて精査し、なぜ自分ならできるか検討する必要がある。また競合がいないと思っていても、ビジネスを単純化して見直すことで本質的な競合が見えるようになる。競合の活躍している市場は事業の拡大余地にもなる。新規性を求めるあまり競合の全くいない市場に参入してしまうと、顧客がおらずビジネスとして成立しない可能性もあるため注意したい。
起業家を目指す学生と支援企業がセミナーを通して交流
これら三つの要素はビジネスプランを考える上で重要だが、スタートアップにとって最も重要なのは実際に行動し、試行回数を重ねることだ。大学技術が身近にあり、10年後に消費のマス層となる学生という優位性を最大限に活用し、自分の興味がある内容から新たなビジネスを生み出していって欲しい。