温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)の観測データの プロキシ法による解析結果(メタンと一酸化炭素)について|2019年度|国立環境研究所
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2019年7月5日

温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)の観測データのプロキシ法による解析結果(メタンと一酸化炭素)について

(筑波研究学園都市記者会、環境記者会、環境省記者クラブ同時配付)

令和元年7月5日(金)
国立研究開発法人 国立環境研究所
地球環境研究センター
 衛星観測センター
  観測センター長  松永恒雄
  主任研究員    吉田幸生
  主任研究員    森野 勇
  主任研究員    齊藤 誠
  主任研究員    丹羽洋介
  主任研究員    大山博史
  高度技能専門員  亀井秋秀
  高度技能専門員  佐伯田鶴
 

   環境省、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXAという)、 国立環境研究所(以下、NIESという)の共同開発衛星である温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(以下、「GOSAT-2」という)は、平成30年10月29日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット40号機により打ち上げられ、その後平成31年2月1日より定常運用を開始いたしました。この度、このGOSAT-2に搭載された温室効果ガス観測センサ2型が取得したデータを、プロキシ法で解析した結果(メタンと一酸化炭素)が得られましたので、ご報告いたします。
   なお、今回の結果は2019年6月25〜27日に米国・サンノゼで開催されたOSA Optical Sensors and Sensing Congressで発表されました。
   今後はフルフィジクス法による二酸化炭素のカラム平均濃度推定等に取り組むとともに、得られた濃度データの比較検証を地上観測データや欧米の類似衛星のデータを用いて進めていきます。

   温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(以下、「GOSAT-2」という)は、環境省、NIES及びJAXA(以下、「三者」という)が共同で開発した温室効果ガス観測専用の衛星で、同じ三者が開発し、2009年に打ち上げ、現在でも運用中の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(以下、「GOSAT」という)の後継機です。

   GOSAT-2は平成30年10月29日にJAXA種子島宇宙センターからH-IIAロケット40号機により打ち上げられました。その後、平成30年11月5〜6日にはGOSAT-2に搭載された雲・エアロソルセンサ2型(以下、「CAI-2」という)の初画像が、平成30年12月12〜14日には温室効果ガス観測センサ2型(以下、「FTS-2」という)の初データが取得され、これらの観測機器が正常に動作していることが確認されました。さらに、平成31年2月1日には、GOSAT-2は定常運用に移行し、CAI-2及びFTS-2による全球観測を開始しました。本報道発表では、FTS-2が取得したデータのプロキシ法による解析結果についてご報告いたします。なお、今回用いたプロキシ法は、二酸化炭素には適用できずメタンと一酸化炭素のみになりますが、雲・エアロソルの影響が多少大きく、処理対象事例の選別や導出結果に対する品質管理が必要な場合でも、比較的精度のよいカラム平均濃度が得られるという特徴があります。

   図1は、FTS-2が平成31年3月5日〜4月3日に取得したデータから求めたメタンのカラム平均濃度の分布図です。今回はFTS-2のレベル1Bプロダクト(V002.004)に対し、プロキシ法と呼ばれる手法を適用しました。この図より、メタンの排出源である湿地や森林火災等の多い東南・南アジア、アフリカ中央部、南米北部でメタンの濃度が高くなっていることが分かります。

   また、GOSATによる同じ期間のメタンのカラム平均濃度と比較した結果を図2に示します。これよりGOSATとGOSAT-2の差は、平均0.0026 ppm(2.6 ppb)、ばらつき0.0127 ppm(12.7 ppb)であることが分かります。一方、GOSATによるメタンのカラム平均濃度の精度は地上観測データとの比較により確認されていますが、GOSATと地上観測データの差は平均0.0019 ppm(1.9 ppb)、ばらつき0.0134 ppm(13.4 ppb)であり、GOSATとGOSAT-2の差とほぼ同等です。このためGOSAT-2によるメタンのカラム平均濃度推定は適切に行われていると期待できます。

   同様に、FTS-2データからプロキシ法で求めた一酸化炭素のカラム平均濃度の分布図を図3に示します。一酸化炭素の発生源となる化石燃料の使用や森林火災等の多い東アジア、アフリカ中央部で濃度が高くなっていることが分かります。同様の分布は、同時期に取得された欧州の地球観測衛星Sentinel-5pに搭載された観測機器(TROPOMI)のデータにも見られています。また推定された濃度の値については、いくつかの世界各地の地上観測データと概ね整合的であることも確認できました。なお、一酸化炭素は温室効果ガスの発生源の種類の識別に有用なGOSAT-2の新規測定項目の一つです。

   ただし、現時点ではまだCAI-2による雲識別データ等を使っていないため、今回の解析結果には雲の影響を受けたFTS-2データも含まれている可能性があります。

FTS-2が平成31年3月5日〜4月3日に取得したデータにプロキシ法を適用して求めたメタンのカラム平均濃度の分布図の画像
図1 FTS-2が平成31年3月5日〜4月3日に取得したデータにプロキシ法を適用して求めたメタンのカラム平均濃度の分布図。
同じ日に取得されたGOSATとGOSAT-2によるメタンカラム平均濃度の比較の図
図2 同じ日に取得されたGOSATとGOSAT-2によるメタンカラム平均濃度の比較。GOSATの観測点に対し、同一観測日、かつ地心と観測点のなす角が 0.01 ラジアン 以下の最近隣の GOSAT-2の観測点をマッチアップ点として選択した。
FTS-2が平成31年3月5日〜4月3日に取得したデータにプロキシ法を適用して求めた一酸化炭素のカラム平均濃度の分布図の画像
図3 FTS-2が平成31年3月5日〜4月3日に取得したデータにプロキシ法を適用して求めた一酸化炭素のカラム平均濃度の分布図。

   今後はフルフィジクス法による二酸化炭素のカラム平均濃度推定等に取り組むとともに、得られた濃度データの比較検証を地上観測データや欧米の類似衛星のデータを用いて進めていきます。また、これらの濃度データを含むGOSAT-2レベル2プロダクトの公開はGOSAT-2打上げから1年後の令和元年10月末以降を予定しています。

○NIESの担当者について

・FTS-2データを用いたメタン及び一酸化炭素のカラム平均濃度の推定:吉田幸生 主任研究員
・地上観測データを用いた検証:森野 勇 主任研究員
・カラム平均濃度推定に用いる先験値の作成:齊藤 誠 主任研究員、丹羽洋介 主任研究員、佐伯田鶴 高度技能専門員
・欧米の類似衛星データとの比較:大山博史 主任研究員
・進行管理等:松永恒雄 観測センター長、亀井秋秀 高度技能専門員

○謝辞

・カラム平均濃度推定に用いる先験データの作成に際し、NICAMと呼ばれる数値シミュレーションモデルを用いて大気輸送の計算を行いました。また、この計算において、気象庁の海洋二酸化炭素フラックスデータ(1)や長期再解析データJRA-55(2)等を用いました。またこれら数値シミュレーションに関する研究開発は(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(2-1701)「温室効果ガスの吸排出量監視に向けた統合型観測解析システムの確立」のもとで行いました。また計算には国環研スーパーコンピュータシステム(3)を使用しました。
(1): https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/mar_env/results/co2_flux/animation/index.html【外部サイトへ接続します】
(2): https://jra.kishou.go.jp/JRA-55/index_ja.html【外部サイトへ接続します】
(3): http://www.cger.nies.go.jp/ja/activities/supporting/supercomputer/
・本報道発表におけるメタン、一酸化炭素のカラム平均濃度の推定には、環境省のGOSAT-2 研究用計算設備(RCF2)を使用しました。
http://www.gosat-2.nies.go.jp/jp/about/rcf2/
・本報道発表における地上観測データとは、地上に届く際に大気中微量成分による吸収を受けた太陽光を地上設置のフーリエ変換分光計を用いて観測し、温室効果ガスを中心とする全球観測網(全球炭素カラム観測ネットワーク、Total Carbon Column Observing Network)で取得されたデータのことです。
今回はOrleans(フランス)、陸別(北海道)、つくば、佐賀、Burgos(フィリピン)、Wollongong(オーストラリア)、Lauder(ニュージーランド)の各観測地点における地上観測データを用いました。各観測地点は、以下の機関によって運営されています。
 Orleans: Bremen大学(ドイツ)
 陸別、つくば: NIES
 佐賀: JAXA
 Burgos: GOSATシリーズプロジェクトで設置され、NIES、Wollongong大学(オーストラリア)、Energy Development Corporation(EDC、フィリピン)による共同運用
 Wollongong: Wollongong大学
 Lauder: 国立水・大気圏研究所(National Institute of Water and Atmospheric Research、ニュージーランド)

○問い合わせ先

国立環境研究所 衛星観測センター
   観測センター長 松永 恒雄(029-850-2838、matsunag末尾に@nies.go.jpをつけてください)
   GOSAT-2プロジェクト(029-850-2731/2966、gosat-2-info末尾に@nies.go.jpをつけてください)

○用語等

・レベル2プロダクト:  地球観測衛星の観測データ等は一般に、レベル1プロダクト(生データ相当)、レベル2プロダクト(物理量に変換したもの)、レベル3プロダクト(レベル2プロダクトに対し時空間平均処理等を施したもの)、レベル4プロダクト(レベル1〜3プロダクトをモデル等に入力して作成したもの)に大別して配布される。GOSAT-2のレベル2プロダクトは二酸化炭素、メタン、一酸化炭素のカラム平均濃度等である。
・プロキシ法:     プロキシ(Proxy)法は気体のカラム平均濃度の導出において、雲・エアロソルの散乱に起因する光路長変動の影響を低減する手法の一つ。吸収帯が近接した二種の気体に対して雲・エアロソル無の仮定のもとで算出したカラム平均濃度の比を利用するもので、雲・エアロソルの影響が多少大きい場合でも比較的精度のよいカラム平均濃度が得られる。その一方で導出対象気体に制約があり、二酸化炭素には適用できない等の欠点もある。
(参考:吉田、日本リモートセンシング学会誌、39、1、22-28、2019)
・フルフィジクス法:  フルフィジクス(Full physics)法は雲・エアロソルの特徴を記述するパラメータを用いて光路長変動の影響をフォワードモデルで直接取り扱い、気体のカラム平均濃度を推定する手法。フルフィジクス法では導出対象気体に制約がつかないものの,プロキシ法に比べて雲・エアロソルに起因する光路長変動の影響を受けやすく,処理対象事例の選別や導出結果に対する品質管理等の対策が必要である。
(参考:吉田、日本リモートセンシング学会誌、39、1、22-28、2019)
・カラム量:      気体の総量を単位面積当たりの地上から大気上端までの柱(カラム)の中にある気体分子の数で表した数値
・カラム平均濃度:   乾燥空気のカラム量に含まれる温室効果ガスのカラム量の割合
参考 https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/69/column2.html
・フォワードモデル:  本報道発表におけるフォワードモデルとは、大気中の気体濃度、雲、エアロソルの分布や地表面反射率等を仮定した上で、衛星で観測される大気上端における上向き放射輝度スペクトル(地表面で反射された太陽光を含む)を計算するためのモデルである。
・光路長:       本報道発表における光路長とは、太陽光が地球大気中を伝搬し衛星に到達するまでの平均的な距離に、空気の屈折率を乗じたもの。太陽光は気体分子・雲・エアロソルによる散乱、地表面における反射を受けながら様々な経路をたどって衛星に到達する。どのような経路をたどるかは、雲・エアロソルの量や分布、地表面反射率の大きさなどによって変化し、これに伴い光路長の値も変動する。
・ppm(ピーピーエム):気体の濃度を表す単位の1種。1 ppmは100万分の1を表す。
・ppb(ピーピービー): 気体の濃度を表す単位の1種。1 ppbは10億分の1を表す。

○関連ウェブサイト

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