論文情報
Analysis of primary-party traffic accident rates per driver in Japan from 1995 to 2015: Do older drivers cause more accidents?
(1995~2015年の日本の運転者1人当たりの交通事故率の分析:高齢ドライバーは事故を起こしやすいのか?)
著者:金炅敏、松橋啓介、石河正寛
掲載誌:IATSS Research, Volume 47, Issue 4, December 2023, Pages 447-454
DOI: https://doi.org/10.1016/j.iatssr.2023.09.001
キーワード
交通事故、第一当事者、平日運転者、ベイズ型APC分析
論文の紹介
高齢者による交通事故が多いとしばしば聞きます。交通事故の被害だけでなく加害(第一当事者)も多いのでしょうか。人口が多いからでしょうか。運転免許を持っている高齢者が増え、運転者数が多いから事故も多いように見えるのでしょうか。それとも、事故を起こす確率つまり事故率が高いのでしょうか。その場合の事故率とは、免許保有者1人当たりでしょうか、それとも運転者1人当たりでしょうか。
1995~2015年の複数車両事故及び単独事故における第一当事者の男女別・年齢別(5歳刻み)統計、ならびに免許保有者に関する統計と、道路交通センサスから集計した平日運転者数を基に、年齢効果・時代効果・コーホート効果の三つに分離する分析手法である「ベイズ型APC分析」1)を用いて、交通事故の要因を調べました。
以下に示した三つの図の実線は、年齢・時代・コーホート効果の推定値、網掛けはベイズ95%信用区間2)の上限または下限を示します。0より上に点がある属性は、免許保有者数および平日運転者数に対して第一当事者としての交通事故の発生確率が増加する傾向を表しています。
交通事故の第一当事者の年齢、時代、コーホート効果の特徴を見ると、一般に、若者の事故率は他の年齢に比べて高いことと、近年は事故が少ないことなどが分かります。図1、図2で複数車両の事故を見ると、免許保有者当たりでも平日運転者当たりでも、高齢者の事故が多いわけではありません。一方で、図3で単独事故を見ると、男性80歳以上、女性75歳以上の平日運転者1人当たりの事故数が多いことが分かります。
結論として、免許保有者1人当たりでみると、高齢者の事故率が高いとは一概には言えないのですが、平日運転者1人当たりの単独事故については、事故率が若年ドライバーの次に高い傾向があることが分かりました。
用語解説
1)ベイズ型APC分析:古典的なAPC分析では、「時代」=「年齢」+「コーホート」という線形従属になる「識別問題」のため、三つの要因を分離することが困難でした。分析方法が発展し、ベイズ推定を分析に取り入れることで要因の効果を分離して相対的に評価することができるようになりました。
2)ベイズ95%信用区間(credibility interval):ベイズ統計学において、あるパラメータや統計的な推定値が、その区間内に含まれる確率が95%である範囲を指します。これは、推定値の不確実性を示し、その値が特定の範囲内にある確信度を示します。