COP28閉幕:化石燃料時代のその先へ|コラム|国立環境研究所 社会システム領域

COP28閉幕:化石燃料時代のその先へ

執筆:久保田 泉(社会システム領域 主幹研究員)
2023.12.26

 「ドバイで、化石燃料の時代に終止符を打つことはできなかったが、今回の結果は、終わりの始まりだ」
 これは、気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)閉会会合での気候変動条約事務局長のサイモン・スティル氏の言葉です。

 2023年11月30日から12月13日にかけて、ドバイ(アラブ首長国連邦)において、COP28が開催されました。この記事では、まず、COP28の成果の評価と課題を示し、その後で、COP28までの経緯と注目ポイント、主な成果について解説します。

この記事のポイント

  • COP28最大の成果は、1.5℃目標の実現に向かうための、エネルギーに関する合意ができたことです。具体的には、化石燃料から「脱却」していき、2030年までに再生可能エネルギー容量を3倍にし、かつ省エネ改善率を2倍にすることです。
  • 1回グローバル・ストックテイクの成果文書が出されました。各国は、この成果文書を参照して、2025年までに、次期目標(2035年目標)を立てることになります。
  • 1.5℃目標実現の道を選ぶために残された時間はほとんどありません。日本に課された宿題は、今回の合意を踏まえて、世界での1.5℃目標の実現を可能にするような2035年目標を策定し、その達成に向けて気候変動対策をさらに加速させることです。そのためには、社会の変革が不可欠です。
写真1 COP28会場(グリーンゾーン)前
写真提供:林 しおん(地球システム領域)

1. COP28の成果の評価と今後の課題

 私は、COP8(2002年)から気候変動COPを傍聴しています。COPでは、劇的な展開に出くわすことがありますが、COP28は、私がこれまで傍聴してきた中でも、最後まで目が離せないCOPの一つでした。

 注目を集めた化石燃料の今後については、COP26(2021年)のグラスゴー合意にある「段階的削減」(phase down)でも、今回、事前に期待された「段階的廃止」(phase out)という文言でもなく、「脱却」(transition away)という表現で合意しました。合意に至るまでに数回出された議長案は、記載ぶりの振れ幅が大きく、最も消極的なものでは、化石燃料の消費と生産の削減を各国が選ぶことができるといったようなものまであり、小島嶼国の代表が涙を流しながら失望の意を表明する場面もありました。

 最終的に合意した化石燃料からの「脱却」という表現は、冒頭に示した気候変動枠組条約事務局長の言葉にもある通り、当初期待された「段階的廃止」よりも弱いものであるため、これに対する批判も聞かれます。しかし、理想通りとは言えないものの、エネルギー転換の方向性を明確に示す非常に重要な合意であると言えます。また、グローバル・ストックテイクの成果文書の中で、1.5℃目標の実現のために緊急に行動が必要であることを改めて確認し、各国に野心的な2035年目標を策定するよう促している点も重要です。

 それでは、以下で、経緯も含めて、COP28の成果について詳しく見ていきましょう。

2. COP28までの経緯

(1) パリ協定の目的:2℃目標と1.5℃目標

 パリ協定(2015年採択、2016年発効)では、産業革命後の地球平均気温の上昇幅を、2℃を十分下回る水準で維持することを目標とし、さらに1.5℃に抑える努力をすべきとされています(2条1項(a))。

 パリ協定交渉中は、パリ協定の目的として、産業革命後の地球平均気温の上昇幅を2℃に抑えること(2℃目標)がメインに据えられていましたが、COP21の最終段階において、小島嶼国の強い主張により、1.5℃までに抑えること(1.5℃目標)も付け加えられることとなりました。ただし、パリ協定採択時点では、産業革命後の地球平均気温が1.5℃上がった場合と、2℃上がった場合とで、現れる気候変動影響にどの程度の差があるのかや、どのような気候変動対策をとれば1.5℃目標を実現できるのかについての知見が十分ではありませんでした。

(2) 2℃目標メインから1.5℃目標メインへ

 その後、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による「1.5℃特別評価報告書」の公表(2018年)をきっかけとして、産業革命後1.5℃の地球平均気温上昇でも、現在よりも、かなりの悪影響が予測されること、そして、1.5℃上昇と2℃上昇の場合では、生じる影響に相当程度の違いがあることが認識されるようになりました。そこで、1.5℃目標実現を目指すべきだとする機運が高まりました。

 IPCC第6次評価報告書によると、1.5℃目標を実現するためには、遅くとも2025年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を減少傾向に転じさせ、2030年までに2019年と比べて約4割の削減を達成し、さらに、2050年までに、CO2排出量のネットゼロを達成することが必要になります。

 COP26(2021年)では、1.5℃目標に向かって世界が努力することがCOPの場で正式に合意され(グラスゴー気候合意)、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの対策が講じられていない石炭火力の「段階的な削減」を初めて成果文書に盛り込みました(COP26の合意内容の解説はこちら:「COP26閉幕:「決定的な10年間」の最初のCOPで何が決まったのか?」)。

 COP26の最終局面で議論になったのが、石炭火力の「段階的な廃止」か「段階的な削減」かという問題でした。結局、「段階的削減」を強く主張するインドや中国などの国の意向を汲んで、グラスゴー気候合意は採択に至りました。昨年のCOP27では、さらに踏み込んだ表現とすることが期待されましたが、実現しませんでした。

(3) 1.5℃目標実現に向けての大きな課題

 1.5℃目標実現の道を選べる時間は限られており、時間切れが近づこうとしています。2020年代は「勝負の10年」と言われています。現在の課題は、1.5℃目標実現のために、どのようにして世界全体の温室効果ガスの排出削減を大幅に強化していくかということです。現時点で各国が掲げている2030年の削減目標がすべて達成されたとしても、1.5℃目標実現に大きく及ばないからです。

3. COP28での注目ポイントは?

(1) 化石燃料の「段階的廃止」に今度こそ合意できるか

 先に述べた通り、COP26では、石炭火力の「段階的廃止」か「段階的削減」かで激しい応酬がありました。COP27では、グラスゴー気候合意を踏襲するにとどまりました。このため、COP28ではさらに踏み込んで、化石燃料の「段階的廃止」に今度こそ合意できるのかが注目を集めました。
 
 この問題が大きな注目を集めた理由は、COP26とCOP27で「段階的廃止」に合意できなかったということの他に、COP28の議長国が、世界有数の産油国であるアラブ首長国連邦であり、議長のスルターン・アル・ジャーベル氏が、産業・先端技術大臣かつアブダビ国営石油会社の最高経営責任者だったという事情もあります。つまり、産油国、しかも石油会社のトップが主導する会議で、果たして化石燃料廃止に合意できるのか、という懸念を抱く人が多かったということです。

(2) グローバル・ストックテイクの成果文書

 パリ協定では、長期目標の実現に向けて、世界全体の気候変動対策がどれくらい進んでいるのかを5年ごとに評価することになっています(14条)。これをグローバル・ストックテイクと呼んでいます(ストックテイクは、棚卸しという意味)。このグローバル・ストックテイクの成果を受けて、各国は次の期の排出削減目標を立てることになります。

図 グローバル・ストックテイクと各国目標設定のスケジュール
(図中に「検証」とあるのが、グローバル・ストックテイクのことです)
図出典:国立環境研究所対話オフィス(2020)『気候危機』—パリ協定のゆくえ[前編]「COP25、ここがみどころ」(https://taiwa.nies.go.jp/colum/climatecrisis_cop25.html)

 第1回グローバル・ストックテイクを2023年に行うとパリ協定に書かれていますが、評価のプロセスはCOP26から始まっていました。COP28で、成果文書が出されることになっており、これが今回最大の注目ポイントでした。パリ協定では、各国の中期目標の達成が義務とはされておらず、どれだけ高い目標を設定するかは各国の意思に委ねられています。このため、この成果文書によって、各国が、次期目標(2035年目標)を設定する際に、各国のより高い削減目標を設定する意欲をかき立てられるようなものにすることが、1.5℃目標実現の鍵となると考えられていたからです。

(3) 「損失と損害」基金と気候資金目標

 気候変動対策のお金まわりの問題について、注目されていたポイントは二つあります。

 一つは、「損失と損害」基金の運用についてです。COP27では、途上国が長年にわたって要求し続けてきた、特に脆弱な途上国の「損失と損害」支援に特化した基金が設置されました。基金は設置されたものの、その運用に必要な詳細は今後の交渉に委ねられることになっていたため、COP28でどのような合意がなされるのかに注目が集まりました。

 もう一つは、気候資金目標に関する問題(2025年までの進捗と2025年以降の目標設定)です。1.5℃目標実現のためには、先進国も途上国も気候変動対策を大幅に強化していかなければなりませんが、途上国には対策実施のための技術、能力、資金などの実施手段が不足していて、パリ協定ではそれを支援することが約束されています。実施手段の中でも、資金についての注目度はひときわ高いものでした。

 「1,000億米ドル(約14兆円)目標」(先進国全体で、途上国の気候変動対策支援のために、毎年1,000億米ドルを2025年まで動員していく目標)の達成状況と、2025年以降の新しい資金目標をどうするかについての交渉が注目を集めていました。

4. COP28の主な成果

(1) エネルギーに関する合意:化石燃料からの「脱却」、2030年までに再生可能エネルギー容量を3倍に、省エネ改善率を2倍に

 ジャーベルCOP28議長は、今回の最大の成果として、エネルギーに関する合意を挙げていました。このエネルギーに関する合意については、下記(2)で述べるグローバル・ストックテイクの成果文書に含まれています。

 注目度の高かった、化石燃料の今後については、化石燃料の「段階的廃止」という文言では合意できず、化石燃料からの「脱却」という表現になりました。

 具体的には、「2050年までに、ネットゼロを達成するために、公正で秩序だった衡平な方法で、エネルギー・システムにおいて化石燃料からの脱却を図り、この重要な10年にその行動を加速させる」と書かれています。

(2) グローバル・ストックテイクの成果文書:各国の2035年目標設定のガイドとなるもの

 第1回グローバル・ストックテイクの成果文書が出されました。この成果文書では、1.5℃目標達成のために緊急に行動をとる必要があることが改めて確認され、全ての温室効果ガスおよび産業・運輸・家庭などの全てのセクターを対象とした排出削減、分野別の貢献(2030年までに再生可能エネルギー発電容量を3倍にすること、省エネ改善率を2倍にすること等)が盛り込まれました。各国は、この成果文書を参照して、2025年までに、次期目標(2035年目標)を立てることになります。

 現時点では、各国の2030年目標がすべて達成されたとしても、1.5℃目標の実現に遠く及びません。「勝負の10年」に気候変動対策を加速させることが最も重要ですが、各国の2035年目標もより高い目標にする必要があります。その目標設定のガイドとなる合意ができたと言えるでしょう。

(3) 「損失と損害」基金の運用開始

 COP28の初日、11月30日に、COP28参加者に大きな驚きをもたらすできごとがありました。「損失と損害」基金の大枠についての決定が採択されたのです。途上国が長年にわたって主張し、COP27でようやく設置されたこの基金の注目度は高く、交渉が難航すると予想されていましたし、そもそも、COPの開会会合で実質にかかわる合意が採択されることは、これまでまずありませんでした。

 この決定には、支援対象を気候変動影響に特に脆弱な途上国とすること(この部分は、昨年の合意にもありました)、基金を世界銀行の下に設置すること、公的資金、民間資金、革新的資金源等のあらゆる資金源から拠出を得ること、などといった内容が盛り込まれていました。

 この決定の採択の後、各国による基金への拠出表明が行われました。日本も、基金の立ち上げのために、1000万米ドル(約14億円)を拠出する用意があると表明しました。

5. おわりに

 気候変動COPは、ますます世界中の注目を浴びるようになってきています。COP28の参加登録者は、とうとう10万人を超えました(現地参加97,372人、オンライン参加者3,074人)。パリ協定が採択されたCOP21(2015年)の参加者は30,372人で、その時と比べると、3倍以上の人数が参加していることになります(ただし、COP21の際は、会場の安全性確保等の理由から、参加人数が抑えられていたという事情があります)。会議の注目度が高いことから、COPに合わせて、さらに多くの関連イベントが開催されるようになり、参加人数も増えていっています。

 1.5℃目標実現の道を選ぶために残された時間はほとんどありません。今回のグローバル・ストックテイクの成果文書によって、各国に宿題が課されました。もちろん、日本にもです。日本に課された宿題は、今回の合意を踏まえて、世界での1.5℃目標の実現を可能にするような2035年目標を2025年までに策定し、その達成に向けて、気候変動対策をさらに加速させることです。そのためには、社会の変革が不可欠です。

 COP29はアゼルバイジャンで、COP30はブラジルで開催されることになりました。COPの主眼は、国際社会全体の気候変動対策についての合意をすることにあります。1.5℃目標の実現に向けて、「勝負の10年」の気候変動対策を加速させる重要な合意ができる場であり続けているか、引き続き注視していきます。

写真2 世界最大の噴水「ドバイ・ファウンテン」横に掛かる橋
写真提供:増冨 祐司(気候変動適応センター アジア太平洋気候変動適応研究室 室長)

パリ協定の英文及び和文は、パリ協定.外務省.2016-12-8、https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page24_000810.html 、(参照2023-12-21)。

正式なタイトルは、「1.5℃の地球温暖化:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から 1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC 特別報告書」。原文(政策決定者向け要約、本文)は、https://www.ipcc.ch/sr15/(参照2023-12-21)。日本語による同報告書の背景及び概要は、IPCC「1.5℃特別報告書」の公表(第48回総会の結果)について.環境省.2018-10-8、https://www.env.go.jp/press/106052.html 、(参照2023-12-21)。

IPCC第6次評価報告書第3作業部会の報告『気候変動 - 気候変動の緩和』。原文は、Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change.IPCC.2022-4-4、https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-3/ 、(参照2023-12-21)。同報告書の政策決定者向け要約の和訳は、https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/global2/about_ipcc/202310ipccwg3spmthirdversion.pdf 、(参照2023-12-21)。

過去のCOP解説記事

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執筆:亀山 康子(社会環境システム研究センター 副センター長=当時=)」