なぜ人の話を聞くのか
私たちは同じ社会に住んでいても、他人のことは何も知りません。同じ地域に住む人だって、もしかしたら家族のことであっても知らないことばかりです。
他人が何を考えているのか、この地域社会にはどのような社会的な課題があるのかと調べようと考えたら、そこに住む人に話しを聞き考えることがとても大切です。小さな課題から大きな課題、世間話までいろいろな話を聞きながら課題を整理して研究の結果や解決策を考え行政などと協力していく必要があります。
今回は、環境問題や震災復興の課題を解決していくうえで大切になる、そこに住む人たちが何を考え、何を望んでいるのかについて、住民の話を聞き調べる研究の一つを紹介します。
話を聞く準備
まずは、人の話を聞いて研究するまでの準備を紹介します。
社会にはたくさんの課題がありますが、ただ生活していても気が付きません。
ですので、新聞などの報道で情報を得たり、情報収集のために街に出かけたりします。そのなかで気になったことや疑問に感じたことをメモします。
そのメモをもとに、自分は何を調べたいのかを整理します。そして話を聞きたい人や役所などに連絡をし、訪問する日時などを調整してはじめて調査ができるようになります。
聞きたいことを教えてくれるとは限らない
いよいよ人の話を聞く段階になります。
事前に聞きたいことをまとめた質問票をもとに(見ながら)質問していきます。質問票には名前や生年月日、これまでの生活、(自分の専門は農家調査なので)栽培面積や栽培品目、使っている農業機械、農業経営の課題などいろいろなことをメモしていきます。
教えたくないことは無理して聞かないことが鉄則ですが、人と人どうしのやり取りですから、聞きたいと思っていたことが、どう質問しても返ってこないこともあります。
しかし、質問票にある質問が終わって、お茶をいただきながらの世間話や畑に出て雑談をしていた時にその答えが返ってくることもあります。そこに私は、聞き取り調査の奥深さを感じていますし、自分自身の未熟さも同時に感じます。
大切な言葉をくみ取る
現在は福島県の3地域で聞き取り調査を中心にフィールドワークをおこなっています。
問い詰めるようなことはせず、住民(農家)の方が自分の言葉で話してくれるまで気長に向き合います。福島県の農業では原発災害の他にも、高齢化や担い手不足など様々な課題が入り組んでいます。
一例をあげると、川内村の高齢者の方々が始めたハウスブドウの栽培があります。
農業をやめたくないという彼らの思いから、何か栽培することができる作物はないかという執念で始め、現在では販売され、また、新たな生産者仲間も増えています。
ここまでの道のりを農家の方々自身の言葉で話してもらったことで、より深く彼らにとって農業は生計だけでなく生きがいだと理解しました。
私たちは、一言で復興と言ってしまいますが、その道のりにある農家の方々の考えや葛藤は計り知れません。
そのため彼らの言葉を丁寧に汲み取り、生きる姿を代弁し、研究として論証していくことが、社会学の研究者として、なにより大切であり、地域研究として最も重要なことだと考えています。ですから、私は人の言葉と話を大切に研究に取り組んでいきたいと考えています。
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