自然を身近に感じながら学ぶ[2023年度山の学校レポート] | FRECC+(フレックプラス) 福島から地域と環境の未来を考えるWEBマガジン
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自然を身近に感じながら学ぶ[2023年度山の学校レポート]

高校生が先生となった2023年度の山の学校

NPO法人しんせいと共同で開催している環境学習プログラム「山の学校」に2023年度も国立環境研究所福島地域協働研究拠点(以下、福島拠点)のメンバーが参加しました。

「山の学校」は、NPO法人しんせいが進める山の農園を活用した体験学習の場です。
NPO法人しんせいは、東日本大震災・原発事故後、その影響を受けた障がい者を支援する活動を行ってきた団体です。
2021年度から、国立環境研究所福島地域協働研究拠点は、NPO法人しんせいが進める山の農園プロジェクトの支援を行ってきました。
山の学校は、山の農園を活用した体験学習の場で、そのうちの『環境学習プログラム』を福島拠点が担当します。

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山の学校 記事一覧

前年度までの山の学校から大きく変わったのは、あさか開成高校の高校生たちが先生となって、参加している大人たちに授業を行ったことです。

2023年度のプログラムでは午前中は、高校生から学ぶ防災学習の時間となり、お昼ごはんに向けて、ポリ袋使った炊飯を行いました。これは耐熱の袋にお米とお水を入れて、沸騰したお湯でゆでるだけ、という簡単なもので、災害時でもお湯さえ沸かせれば炊飯器を使わずに済み、また袋のまま食べることで洗い物を減らすことができます。

加えて、おかずとして山の農園で採れた野菜などを使った天ぷらや“まんがこ”という長方形のすいとんのような料理を作りました。なお、“まんがこ”は小野町の郷土料理で、長方形の形が田植えの際に馬が引く農機具の馬鍬(まぐわ)の形に似ていることから、まぐわ、まぐわっこと変化し、“まんがこ”と呼ばれることがあるとのことです。

薪ストーブを使って炊飯をする様子
ポリ袋を使った炊飯。薪ストーブを使ってお湯を沸かす
ご飯と“まんがこ”、山の農園で採れた野菜の天ぷらなどが載った食卓を囲む様子
お昼ごはんは自分たちで炊いたご飯と“まんがこ”、山の農園で採れた野菜の天ぷらなど

午後は福島拠点の研究者さんが参加者に向けて環境学習プログラムを行います。前年度までと同じく、山の農園の周辺でのフィールドワークと座学の二本立てです。

内容は季節によって変わり、境優主任研究員から周辺に生息する生物の観察、林誠二研究グループ長から放射能のお話しと放射能測定の体験、中村省吾主任研究員から森林についての学習を行いました。

講義を行う林研究グループ長
放射能について講義を行う林研究グループ長(写真は2024年3月のもの)
捕まえたカエルを見せながら説明をする境主任研究員
山の農園近くでカエルを発見してみんなで観察
木の幹の直径を測る様子
山に入って木の直径を計り、育成具合から適切に管理されているかを調べる

冬の山の学校はあさか開成高校での親子参加型特別プログラム

冬場は積雪のため山の農園に入れないので、郡山市街にあるあさか開成高校にお邪魔しました。
この回ではNTT労働組合の方々がお子さんを連れて親子で学習する、という特別回でした。

高校生からは猪苗代湖で行っている水環境保全活動のお話しをしてもらい、その後は洗剤をあまり使わなくても汚れが落ちるという、「アクリルたわし」をみんなで作りました。
福島拠点からは石井弓美子主任研究員とJO Jaeick(ちょう ちぇいっく)准特別研究員から昆虫の脚クイズや水辺に生息する生物のお話しと昆虫の標本やサンショウウオの観察などを行い、山の学校の校長先生である大原利眞氏(埼玉県環境科学国際センター研究所長、前国立環境研究所福島支部フェロー)からは気候危機について学びました。

水辺に棲む生物について解説する石井主任研究員
水辺に棲む生物について解説する石井主任研究員
昆虫の脚の説明をするJO准特別研究員
どうしてこんな形をしているか予想する「昆虫の脚クイズ」は子どもに大人気のコンテンツ
JO准特別研究員が小学生を相手に自作の標本を見せる様子
昆虫の標本や生きているサンショウウオ、イモリなどの観察をする

2024年度に向けた新たなプログラムが始動

2024年3月に行われた2023年度最後の山の学校は、新年度に向けて新しいプログラムが始動しました。これまで二日間行われる山の学校の二日目の部分を福島拠点が担当していましたが、新年度からは両日共に参加することになります。今回は一日目に放射線についての学習や山の農園付近の放射能測定を行い、二日目には汚れている水をきれいにする水のろ過実験を行いました。

昆虫の脚の説明をするJO准特別研究員
山に入って放射能の値を測定する。なかなかの重労働
JO准特別研究員が小学生を相手に自作の標本を見せる様子
ペットボトルで作った水のろ過装置。左はミョウバンを使って泥を沈殿させた後にろ過しているので右に比べて水が透明に近い

防災学習では、これまでと同じく袋を使った炊飯に加えて、袋を使った味噌汁、大根サラダ作りも行い、災害時に非常食だけでなく、温かいもの、栄養のあるものを食べられるような取組みを学びました。さらに、防災リュックの中身について考える、という新しいプログラムがあり、災害時に本当に必要なものは何か、実はいらないものもあるんじゃないか、と防災リュックのテンプレートに疑問を持ち、実際に避難所で生活していた方のお話しも伺いながら、みんなで防災リュックについて考えました。

座学では、難民支援を行っているAARJapanの方からは能登半島地震の被災地の現状について、ロシアのウクライナ侵攻におけるウクライナ情勢について、現地で活動をしているからこそわかる実態についてお話しいただき、最後は大原校長先生から気候危機について改めてお話しをしていただきました。

昆虫の脚の説明をするJO准特別研究員
防災リュックの中身。本当にこれで十分なのか、再度確認することが重要
JO准特別研究員が小学生を相手に自作の標本を見せる様子
最後は大原校長の気候危機についてのお話し

二日間を通して学んだ、災害や戦争、気候危機はすべて遠い場所で起こっている出来事ではなく、自分にも関係があって身近に起こりえることで、その問題を“自分事にしてほしい”というしんせいさんの思いのもと作られたプログラムとなりました。

2024年度も福島拠点は山の学校に参加いたしますので、今後のレポートも引き続きチェックしてみてください。また山の学校にご興味のある方はぜひ福島拠点もしくはNPO法人しんせいまでお問合せください。

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参考文献

概要

イベント名
2023年度山の学校
開催日時
2023年4月~2024年3月
会場
NPO法人しんせい山の農園、あさか開成高等学校
参加者
あさか開成高校、NTT労働組合、KDDI労働組合、星の杜高等学校、しんせい、福島拠点
主催
NPO法人しんせい
共催
国立環境研究所福島地域協働研究拠点

講師

林 誠二

福島地域協働研究拠点 研究グループ長/地域協働推進室長

中村 省吾

福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室 主任研究員

境 優

福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室 主任研究員

石井 弓美子

福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室 主任研究員

JO Jaeick

福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室 准特別研究員

大原 利眞

埼玉県環境科学国際センター研究所長