アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(APBON)の2023年度の活動をまとめた年次報告書(APBON Highlights FY2023)及び第15回APBONワークショップの報告書(The summary of 15th APBON workshop)を公開しました。ぜひご覧ください。
【APBON Highlights FY2023】
https://nies.repo.nii.ac.jp/records/2000130
2023年度のAPBON活動:各国の生物多様性観測、政策支援、生物多様性データの共有、保全活動に関する取り組みと成果について紹介しています。主な活動としては、4回のウェビナーと1回の対面ワークショップの開催、GEO BONとの協働(会合への参加やGBiOS論文の公表)が挙げられます。また、論文や報告書もリストで紹介しています。
【The summary of 15th APBON workshop】
https://nies.repo.nii.ac.jp/records/2000131
第15回APBONワークショップが2024年2月21-22日に東京とオンラインで開催され、10カ国・地域から34名が参加しました。アジア太平洋地域の生物多様性観測の取り組み、データギャップ、必須生物多様性変数(EBVs)の適用、生物多様性国家戦略や昆明モントリオール生物多様性枠組みを支援するための活動についての議論を行いました。
生物多様性条約ポスト2020目標の達成への貢献のため、国内およびアジア・太平洋地域を対象にした生物多様性の観測・解析に関する革新的な研究開発、および広域・長期評価を実施します。中長期期間を越えた研究の継続性を確保するため、国立環境研究所(以下、NIES)の生物多様性研究拠点化を進めます。生物多様性評価連携研究グループを立ち上げ、NIESを拠点とした、国内およびアジア・太平洋地域の生物多様性観測に携わる機関やグループ間のネットワークを構築し、迅速な政策対応のための体制構築を行います。
生物多様性条約ポスト2020目標の達成度評価を可能にするための先進的な評価手法・指標開発や標準化、また、生物多様性の広域・長期観測情報の統合による継続的な評価を実施します。
3~5年程度で、遺伝的多様性の広域評価手法を確立します。また、国内における生物個体数にもとづいた生物多様性トレンド評価が継続的に実施される体制を確立し、評価結果がリアルタイムで可視化されるようにします。5~10年程度で、生物多様性ポスト2020目標における生物多様性そのものを対象とした各項目の達成度評価可能にします。また研究開発の成果を活用し、遺伝的多様性評価も含めたアジア・太平洋地域における生物多様性評価に貢献します。
生態系サービス、グリーンインフラや Nature-based Solutions など、生物多様性・生態系が持つ機能への社会ニーズや期待が多様化する一方、それらの機能の源泉である生物多様性の劣化・喪失は加速しています。さらに、生物多様性そのものの現状把握・評価は、未だ技術的にも、取り組みの広がりとしても不十分な状態におかれています。NIESのもつ、生物多様性評価に関する研究資源や経験・実績の蓄積を活かし、生物多様性評価研究の拠点として10年先を見越した研究活動を展開します。
生物多様性条約ポスト2020目標では、多くの項目について数値目標の設定が見込まれています。NIESは生物多様性研究拠点として、個体数や絶滅リスク、遺伝的多様性など、生物多様性そのものを対象とした目標の達成度評価に対応するための革新的な研究開発および評価に取り組みます。
観測ネットワークの強化と次世代型評価指標の開発
継続的な評価には、生物多様性の1次情報取得が必須であるため、多様な主体で実施されている観測のネットワーク化が欠かせません。研究拠点としてのNIESがコアになり、生物多様性評価連携研究グループを組織し、国内外の観測ネットワークの運営・強化、および情報の一元化・共有化を行います。
さらに、観測ネットワークから得られた粒度の異なる不均質なデータを統合し、生物多様性トレンドについての目標値の達成度評価につなげるためには、適切なデータ解析手法と指標の開発が必要になります。例えば、生物個体数の統合指標として国際的に通用力が大きくなっている Living Planet Index は、最近になって、減少率の大きな一部の生物個体群の値に敏感であるなど、全体のトレンドを定量化する指標としての限界が指摘されるようになっています。NIES研究拠点では、不均質な情報を取り扱う最新の統計科学の知見を活用しつつ、高いパフォーマンスをもつ次世代型の指標開発に取り組みます。また、NIES研究拠点で開発・標準化した観測・評価手法を観測ネットワークにフィードバックします。
遺伝的多様性広域評価の実現にむけた研究開発
NIESでは、第4期(2016-2020)の環境ゲノム情報解析事業を中心とした取り組みにより、環境DNAを含むゲノム情報を活用した生物多様性把握のための実験・技術基盤が確立されつつあります。本提案では、ゲノム事業から得られる技術・情報基盤を活用しつつ、ゲノム情報に固有なバイアスを考慮して生物分布情報に変換するための解析手法の開発など、ゲノム情報を活用した生物多様性評価のための先進的な解析手法の検討やスキームの標準化に取り組みます。
また、生物多様性の重要な構成要素である遺伝的多様性そのものについても、広域評価手法がいまだ国際的にも確立されていません。多種・広域でのトレンド評価を可能とするため、効率的なサンプリング設計の手法や、種・集団・個体・遺伝子座と多階層で構成される遺伝子の多様性を適切に評価するための指標の開発・標準化が必要とされています。また、気候変動を含めた広域的な環境変化の中で、適応遺伝子の組成がどう変化し、生物集団の存続性どのように寄与しているかを理解することは、生物多様性保全における根本的な課題です。このような評価を可能とする、集団ゲノミクス解析の研究分野は、未だ発展の初期段階にあり、効果的な解析手法の開発等が欠かせません。
生物多様性連携研究拠点では、生物多様性の観測手法として高い潜在力をもつゲノム情報を活用した広域評価の実現、および、それ自体が重要な生物多様性の要素である遺伝的多様性の広域評価を可能にするための研究開発を重点課題とします。
村岡 裕由*(岐阜大学 高等研究院 環境社会共生体研究センター 教授,センター長)、角谷 拓、石濱 史子、深澤 圭太、竹内 やよい、今藤 夏子、松崎 慎一郎、大沼 学、深谷 肇一、吉岡 明良(福島地域協働研究拠点所属/生物多様性領域兼務)、西廣 淳(気候変動適応センター所属/生物多様性領域兼務)、熊谷 直喜(気候変動適応センター所属/生物多様性領域兼務)、小出 大(気候変動適応センター所属/生物多様性領域兼務) *グループ長 、池上 真木彦(国立環境研究所 琵琶湖分室所属/生物多様性領域兼務)
Last updated Apl. 2, 2024