国立環境研究所では、環境配慮活動の一つとして、構内の生物多様性の保全にも取り組んでいます。
この取り組みの方針は、2011年に「国立環境研究所構内の緑地等の管理方針」という所内の公式の文書で定めており、管理の実務担当者と自然を専門とする研究者とが協力して、柔軟に、そして持続的に取り組む体制を整えました。
ここではそんな取組みについてご紹介します。
国立環境研究所(当時は公害研究所)が発足した1974年当時、元来敷地周辺に生育していたアカマツ林や雑木林の一部を残して土地開発が行われました。その後、さらに多めに緑地を設けたいという所の判断があり、職員総出で敷地縁辺にシラカシ林を造成しました。このように、当研究所は発足時より構内の緑地に対する意識が高かったことが記録に残っています。
しかしながら、その後はアカマツ林の中に外来種が植栽されたり、成長した常緑樹によって暗い場所が多くなってしまったりと、地域の自然としても、散策を楽しむ緑地としても、課題が見えるようになってきました。
そんな中、管理部門と生物・生態系分野の研究者が連携して構内の緑地を改善する動きが始まりました。まずは2007年に、管理部門と研究部門のスタッフ(植物生態学の専門家)が協力して構内の樹木に種名の札を付けました。その後も、2009年に新しく植栽を増やす際の種の選定に研究者が加わるなどして、徐々に管理部門と自然を専門とする研究者との協力体制が築かれていきました。
「見て美しく、散歩して楽しく、さまざまな生き物が集まるもとにするとともに、地域の自然環境の一部として生物多様性保全にも貢献することを目的に、構内の緑地等の管理を行う。」という方針をまとめた「緑地管理の基本方針」文書の原案が作られたのもこの頃です。この文書は2011年に所内の公式文書となり、現在も緑地をより良くするための取り組みが進行中です。
2007年に構内の樹木につけた名札の例。
図鑑に書いてある文章をそのまま使用するのではなく、
より親しみを持って覚えられるような情報を交えたオリジナルのものを作成しました。
構内の植栽は3つのタイプに分け、それぞれの特徴を考慮して管理を行っています。
中でも、「半自然的な林地」は地域の自然の一部と位置づけ、つくば地域の本来の自然を再生・維持するための取り組みを行っています。
草刈りは、景観維持と歩きやすい緑地を維持するために行われますが、常に草丈が短い状態だと、すみかやエサがなくなり、生き物にとってすみにくい環境となってしまいます。そこで草刈りの頻度を調整することにしました。
2012年には、草刈りを行わない区画を設けました。これは植物の開花・結実を促し、生物の生息場所を確保するためです。それ以外の場所でも、昆虫の餌資源となる植物や、高木となりうる樹木の実生を選定し、それらは刈らずに残すことも行ないました。
アカマツ林は病気などによる枯死が目立ちます。そこで、アカマツが枯れた後は、地域の在来種の苗木を植えて、少しずつ落葉広葉樹主体の雑木林に誘導することにしました。
これまでに高木はアカシデ、ミズキ、イタヤカエデなど15種100本あまり、低木は宇ウツギ、ガマズミ、キブシ、クロモジなど19種全部で200本あまりを植えました。これらの種は関東にもともと自然分布している種です。
構内には池が3つありますが、これらの池においても外来生物の定着などにより本来の地域の生態系が損なわれている状態が見られました。そこで緑地等管理検討チームは、地域にもともとあったため池の生態系を再生するプロジェクトを始動しました。構内の中心部にある池の一つを「秋津(あきつ)の池」と名付け、まずはこの池から取り組みを開始しています。秋津とはトンボの古い呼び名です。現在トンボが少なくなっているこの池に、トンボが戻ってくることを願ってこの名前を付けました。
秋津の池には長年の間にコイやソウギョ(中国原産の魚)が持ち込まれており、それらが水生植物を食べて泥をまきあげるため、植物の生えない濁った池になっていました。他にも水生植物を根本から切ってしまうアメリカザリガニも生息していました。それらの外来生物を除去するため、数か月の間、池の水を抜いて干すことにしました。この池干しの作業を2012~2013年にかけて行いました。
2013年4月の秋津の池の様子
2013年4月、池の給水を再開しました。そして、霞ヶ浦に自生する水生植物の移植を行いました。
水草移植の様子
コイやソウギョによる泥のまきあげがなくなり、水生植物が生育する池になれば、トンボや他の水生昆虫が飛来し生息することが期待できます。池の中の植物が繁茂しすぎないような管理も継続して行っていきます。
看板を設置しました
2013年7月上旬、ガガブタが初めて花を咲かせました!
(2013年7月現在)
「緑地等管理検討チーム」を設け、柔軟・順応的に管理を行う体制を整えています。チームメンバーは管理部門(総務部)と生物・生態系環境研究センター研究者数名で構成し、請負先業者とも密に連絡を取りながら行っています。
毎年、秋津の池の景観維持のため、エリアを区切り、ヨシ・ガマの管理を行ってきました。一昨年までは、ヨシ・ガマの地上部を刈っていましたが、昨年から、管理方針の見直しのため、試験的に地下部から地上部まで根こそぎ抜き取っています。今年は6/18に管理作業を行いました。
左:土の中でヨシ・ガマの根が絡み合い、引き抜くのは一苦労
右:抜き取った大量のヨシ・ガマを流れ作業で運搬
左:抜き取ったヨシ・ガマを集めたら、高さ人一人分くらいの山が完成
右:総務部&生物センターの管理作業参加メンバー
現在、適度に光が差し込む林床では写真のようにさまざまな草本植物が見られます。
今後もこれらの植物が生育できる環境を維持するために、高木の配置や草刈りの方法に配慮していきます。
左:アキノタムラソウ 中央:アマドコロ 右:ウメガサソウ
左:ウラシマソウ 中央:ジュウニヒトエ 右:タチツボスミレ
写真協力:竹中明夫、深澤圭太
Last updated Jun. 19, 2018