ポイント

  • マルチコア光ファイバネットワークの毎秒1ペタビットスイッチング実験に世界で初めて成功
  • 光ノードなどの最新技術を集結し、現在の運用に即したペタビット級光基幹ネットワークを試作
  • 現在の100倍以上の通信容量を持つ、将来の光基幹ネットワークの実用化に大きく前進
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)ネットワークシステム研究所は、次世代光ファイバと大規模光ノードの実験ネットワークで、世界で初めて、毎秒1ペタビットの光パスのスイッチング実験に成功しました。このビットレートは、8K放送の1,000万チャンネル分に相当するものです。
今回、低損失なMEMSスイッチ素子を利用した大規模光ノードを開発し、これまで開発した3種の次世代光ファイバと接続して、ペタビット級の実験ネットワークを試作しました。現在のネットワークの運用方法に即した4つのスイッチング実験を行い、全てのパターンでスイッチングに成功しました。
今回の実験成功により、次世代光ファイバと大規模光ノードで現在の100倍以上の通信容量を持つペタビット級の光基幹ネットワークが可能となることを示し、実用化に大きく前進しました。
本実験結果の論文は、第45回欧州光通信国際会議(ECOC2019)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択されました。

背景

これまでNICTは、産学と連携し1本の光ファイバに複数の光通信路(コア)を収めたマルチコア光ファイバ等の次世代光ファイバを開発し、伝送容量の世界記録を更新してきました。マルチコア光ファイバの伝送容量としては、ペタビット級の研究成果が報告されていますが、実際の光ネットワークには、光ファイバ以外にも、光ノードや光増幅器といった光ファイバと接続する通信機器が必要であり、これらの大容量化も不可欠です。NICTは、将来の次世代光ネットワークに必要となる光ノードや光増幅器の大容量化の研究開発も進めてきました。

今回の成果

大規模光ノード(右)と実験ネットワークの一部
大規模光ノード(右)と実験ネットワークの一部
今回NICTは、次世代光ファイバを利用した大容量通信を目指し、低損失なMEMSスイッチ素子を利用した大規模光ノードを新たに開発し、これまで開発した3種類の次世代光ファイバを用い、現在の光基幹ネットワークの運用方法に即した4パターンの光パススイッチング実験を実施しました。その結果、世界記録となる、8K放送の1,000万チャンネル分に相当する毎秒1ペタビット光パスのスイッチングや、障害発生時における運用系パスから予備系パスへのスイッチングなどに成功しました(補足資料 図1、2参照)。
 
4パターンのスイッチング実験の概要は、次のとおりです。
・パターン1: 世界記録となる毎秒1ペタビット光パスのスイッチング
・パターン2: 冗長構成を構築、毎秒1ペタビット光パスの運用系と予備系のスイッチング
・パターン3: 毎秒1ペタビット光パスから容量の異なる2種類の光パスへの分岐
・パターン4: 現在運用されている容量程度の毎秒10テラビット光パスのスイッチング
 
パターン スイッチ容量
(毎秒)
実験の概要 利用イメージ 利用した光ファイバ
1 1ペタ 世界記録容量の
光パスのスイッチング
大都市間の
ネットワーク
22コア
2 1ペタ 運用系と予備系のスイッチング
(冗長構成を構築)
障害発生時におけるネットワーク 22コア
3 346テラ
148テラ
1種類の光パスから
容量の異なる2種類の光パスへの分岐
大都市間の
ネットワーク
22コア、7コア、シングルコア3モード
4 10テラ 現在運用されている容量程度の
光パスのスイッチング
都市間の
ネットワーク
22コア

次世代光ファイバと本ノードを利用することで、現在の光ネットワークの通信容量を100倍以上更新するペタビット級の光ネットワークを構築することができます。
なお、本実験の結果は、アイルランドで開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第45回欧州光通信国際会議(ECOC2019、9月22日(日)~9月26日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択され、現地時間9月26日(木)に発表しました。

今後の展望

今回の実験成功により、次世代光ファイバと大規模光ノードでペタビット級の光基幹ネットワークが可能となることが確認できたので、今後は、産学官連携による光増幅器を利用した長距離伝送システムの研究も進め、大容量光ネットワークの実用化を目指して、研究開発に取り組んでいきます。

採択論文

国際会議:第45回欧州光通信国際会議(ECOC2019) 最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)
論文名:Demonstration of a 1 Pb/s spatial channel network node
著者名:Ruben S. Luís, Benjamin J. Puttnam, Georg Rademacher, Tobias A. Eriksson, Yusuke Hirota, Satoshi Shinada, Andrew Ross-Adams, Simon Gross, Michael Withford, Ryo Maruyama, Kazuhiko Aikawa, Yoshinari Awaji, Hideaki Furukawa, and Naoya Wada

過去のNICTの報道発表

補足資料

1. 実験ネットワークの構成

図1 実験ネットワーク及びスイッチングパターンのイメージ
図1 実験ネットワーク及びスイッチングパターンのイメージ
図1は、実験ネットワーク及びスイッチングパターンのイメージ図である。
現在の運用方法に即し、4種類の光パスを使用した4パターンのスイッチングを実施した。
 
使用した4種類の光パス
● 空間多重光パス(光ファイバのコア又はモードを多重したパス)
・毎秒1ペタビット=毎秒245ギガビットの光信号×202波長×22コア
・毎秒346テラビット=毎秒245ギガビット光信号×202波長×7コア
・毎秒148テラビット=毎秒245ギガビット光信号×202波長×3モード
● 波長多重光パス(光の波長を多重したパス)
・毎秒10テラビット=毎秒245ギガビット光信号×41波長
スイッチングパターン
[1]毎秒1ペタビット空間多重光パスのスイッチング
[2]毎秒1ペタビット空間多重光パスの冗長構成で、運用系パスと予備系パスのスイッチング
[3]毎秒1ペタビット空間多重光パスから異なる空間多重光パス(毎秒346、148テラビット)への分岐 
[4]毎秒10テラビット波長多重光パスのスイッチング(毎秒1ペタビット空間多重光パスの合流・分離を想定)

2. 実験結果

図2 実験結果: スイッチング後の光信号の品質
図2 実験結果: スイッチング後の光信号の品質
図2は、スイッチング後の光信号の品質(Q-factor)で、パターン1、2はそれぞれで22コアの波長ごとの光信号の品質、パターン3は7コア及び3モードの各波長の光信号の信号品質、パターン4では各波長のQ-factorが5.7dB以上で、高品質を保ったまま伝送されている。

用語解説

次世代光ファイバ
現在普及している既存の光ファイバは、1本当たり1つの光の通り道(コア)を持つ構造である。マルチコア光ファイバは、1本当たり複数のコアを持ち、同時並列に通信可能である。マルチモード光ファイバは、異なる伝搬モードを利用し並列通信を行う。これらの光ファイバは、既存の光ファイバを束ねるよりもはるかに小さい断面積で大容量通信を可能とするため、次世代の光ファイバとして期待されている。
次世代光ファイバ表
光ノード
光パスの宛先に応じて、光パスの方向をスイッチするための装置。多数の入出力ポートを持つ光スイッチや光増幅器などから構成される。光パスは波長単位や空間単位でスイッチされる。
ペタビット
1ペタビットは1000兆ビット、1テラビットは1兆ビット、1ギガビットは10億ビット。毎秒1ペタビットは、1秒間に8K放送の1,000万チャンネル相当
MEMS
MEMSはMicro Electro Mechanical Systems の略語。微細な電気回路と機械的構造を一体化したものであり、MEMS技術により実現された小型ミラーを多数並べて制御可能にしたものをMEMS光スイッチと呼ぶ。入射してきた光信号に対してミラーの角度を変えて反射させることで、光信号の進行方向を変えることができる。多数の入力ポート、出力ポートを備える。
光基幹ネットワーク
東京、名古屋、大阪など、全国の大都市間を大束の光ファイバ回線で接続しているネットワーク。コアネットワークとも呼ばれる。現在、伝送容量が毎秒8テラビット程度の光ネットワークが整備されている。
冗長構成
ファイバ断線などの障害時における通信の途絶を防止するために、地域間を二つ以上のファイバで接続し、一方を運用系、もう一方を予備系とし、両方に同じデータを送信する。障害が発生した場合は、瞬時に運用系から予備系に切り替えて継続した通信を可能とする。

本件に関する問い合わせ先

ネットワークシステム研究所
フォトニックネットワークシステム研究室

古川 英昭、品田 聡

Tel: 042-327-5694, 5679

E-mail: PNS.webアットマークml.nict.go.jp

広報

広報部 報道室

廣田 幸子

Tel: 042-327-6923

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