インターネット10分講座:IGFとは - JPNIC

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ニュースレターNo.47/2011年3月発行

IGFとは(Internet Governance Forum)

IGFは、Internet Governance Forumの略称でインターネットガバナンスについて話し合う、 国連管轄のフォーラムです。 開始より5年を迎え、継続について議論中です。
今回のインターネット10分講座では、このIGFが設立された経緯と、 その役割や活動内容について解説します。

IGFとは

インターネットガバナンスフォーラム(Internet Governance Forum: IGF)とは、 インターネットガバナンス※1の問題に関し、 マルチステークホルダー(各界関係者)間で政策対話を行う、 国際連合(以下、 国連)管轄下に設置されているフォーラムのことです。

成り立ち

世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society: WSIS)が2003年にスイス・ジュネーブで、 その後2005年にチュニジア・チュニスで開催されました。

WSISの主要なテーマは、それぞれの会合後に発表された、 ジュネーブ基本宣言※2およびチュニスアジェンダ※3でも大半の項目を占めている通り、 デジタルデバイド解消など発展途上国支援分野でした。

一方、ジュネーブ会合では、 ICANNによるインターネット資源の管理体制に疑義が呈され、 現行体制を維持したい先進国を中心とするグループと、 国連の組織である国際電気通信連合(ITU)の関与を強めたい、 一部の発展途上国を中心とするグループ間で議論が分かれました。

この状況の収束を図るため、 国連インターネットガバナンスワーキンググループ(Working Group for Internet Governance: WGIG)が設置され、 チュニス会合までに、 インターネットガバナンスに関する課題を明確化することになりました。 その最終報告書※4中で、 インターネットガバナンス全般を扱うフォーラムの設置が提案されました。

WGIG最終報告書を受け、 WSISチュニス会合で採択されたチュニスアジェンダでは、 以下のように、明確にIGFの設置・開催がうたわれています。

我々は、国連事務総長に対し、開かれた包括的なプロセスにより、 2006年第二四半期までに、 マルチステークホルダーの政策対話のための新しいフォーラムの会合を開催することを求める。 これをインターネットガバナンスフォーラム(IGF)と呼ぶ。 (以下略)(第72項)

IGFは、その作業と機能において、多国間、 マルチステークホルダー、民主的、及び透明であるべきである。 (以下略)(第73項)

IGFは監督機能を持たず、既存の取り決め、仕組み、 機関や組織を置き換えることは行わない。 逆に、それらと関与し、その能力を活用するものである。 IGFは中立で、重複することなく、 拘束力のないプロセスに基づいて進められる。 インターネットの日常的又は技術的な運用業務には関与しない。 (第77項)

(総務省参考訳※3より引用)

これらの項目によってIGFの設置がうたわれた以外には、 インターネットガバナンスに関する記述が無かったため、 ジュネーブ会合で議論の対象となっていたICANNの体制は、 米国政府による関与も含めて現状維持ということになりました。

IGFの役割

IGFは監督機能を持たず、 既存の組織や取り決めなどを置き換えるものではなく、 むしろそれらとの関与を行い活用した上で対話を行う場として開始されました(チュニスアジェンダ第77項)。

チュニスアジェンダの第72項には、 12項目にわたってIGFの使命が記載されています。 主なポイントとしては、分野や組織を横断した公共政策課題の議論、 新たな課題の特定や対応策の議論、 発展途上国に対するインターネット支援などが並んでいますが、 重要なインターネット資源(CIR:Critical Internet Resource)に関する議論も、この使命の中に含まれています。 なお、CIRとは、狭義にはドメイン名およびIPアドレスを指し、 広義にはDNS、ルートサーバシステムの管理、技術標準、 ピアリングおよび相互接続、 電気通信のインフラストラクチャも含まれます。

監督機能を持たず既存の体制を置き換えるものではないということから、 現在のインターネットガバナンス体制における、 政府による関与の強化を望む人たちの、 ガス抜きという側面があるという見方もされました。 しかし、実際には、IGFが開始されるまでの間は、 行き場が無くICANNに矛先が向いていた問題がIGFで議論されるようになり、 ICANNを本来の技術的な課題に集中させられるようになったのは、 大きな成果だと言えます。

マルチステークホルダーアプローチ

チュニスアジェンダの第73項によれば、

インターネットガバナンスフォーラムは、 その作業と機能において、多国間、マルチステークホルダー、 民主的、及び透明であるべきである。 そのため、提案されたIGFは、

  1. インターネットガバナンスの既存の構造に基づく。ここでは、政府、ビジネス団体、市民社会、及び政府間機関といった、このプロセスに含まれる全てのステークホルダー相互の補完性を特に強調する。
  2. 軽量で分散した構造をもち、定期的に評価を受ける。
  3. 必要に応じ定期的に会合を開催する。IGF会合は原則として、特に事務的サポートを得るため、関連する主要な国連の会合と並行して開催することが考えられる。

(総務省参考訳※3より引用)

となっており、政府および政府間組織だけでなく、 インターネットを築いてきた、 さまざまなステークホルダーが参加することがうたわれています。 このマルチステークホルダーアプローチというものが、 IGF最大の特色と言ってもよいでしょう。

参加者数は、いずれの会合も総数1,000名を超えており、 2010年開催のリトアニア・ビリニュス会合では、 107ヶ国より1,451名の参加となっています。 参加者の分布については、各会合で多少異なりますが、 基本的な傾向として、政府、産業界、学術/技術コミュニティ、 および市民社会のそれぞれから2割前後と、バランスが取れています。 それ以外には、 メディアが1割強、政府間組織が1割弱などとなっています。

組織・運営

開催主体は国連で、 チュニスアジェンダにより創設から5年以内に継続について調査・勧告するとしているため、 IGFの延長について現在議論されています(後述)。 事務局の運営資金は、国連事務局内の経済社会局(United Nations Departmentof Economicand Social Affairs: DESA)が中心となって集められた基金が使用されています。 この基金には、各国政府(日本では総務省)、 企業および非営利団体(ICANNおよびNRO※5を含む)などが寄付を行っています。

また、開催支援のため、政府、産業界、学術/技術コミュニティ、 および市民社会の代表からなるマルチステークホルダー諮問委員会(Multistakeholder Advisory Group: MAG)が設立され、 MAGとは別に議長の顧問として、 6名の専門家が選ばれています。

IGF開催までの流れは、毎年同じというわけではありませんが、 2010年の場合は、まず2月頃公開の準備会合を開催して、 前年に開かれた会議の評価および当年の会議に向けた議論を行い、 次に5月に諮問委員会を開催し、 その次に6月末に公開の準備会合が2日間にわたって開催されました。

各会合で主に議論された内容

今までに開催された会議で、主に議論された内容は次の通りです。

  • 2006年アテネ(ギリシャ)会合※6
    2007年リオデジャネイロ(ブラジル)会合※7

「開放性(Openness)」「セキュリティ(Security)」「多様性(Diversity)」「アクセス(Access)」の四つのテーマごとにセッションが設けられました。 リオデジャネイロ会合では、 アテネ会合で議論された四つのテーマに加え、 CIRも議論のメインテーマとなりました。 CIRセッションでは、「ICANNへの政府の関与が必要で、 ICANN内での政府の役割についても、 さらなる明確化が必要」とのコメントもありましたが、 全体的には、ICANNという存在を認めつつ、 その組織運営およびプロセスの改善を今後は求めていくべきという方向に、収束していったように思われます。

  • 2008年ハイデラバード(インド)会合※8

ハイデラバード会合では、 メインセッションのテーマについてはCIR以外が変更され、 「次の10億人へのリーチ(Reachingthe Next Billion)」「サイバーセキュリティの推進および信頼向上への取り組み」「CIRの管理」「新たな課題:明日のインターネット」「実績評価と今後」の五つとなりました。 メインセッション以外でインターネットガバナンスに関連するものは、 CIRに関連して、ICANNと米国政府間で2009年9月まで締結されていた、 共同プロジェクト合意(Joint Project Agreement: JPA)※9後の監督について議論するセッションが挙げられます。

  • 2009年シャルム・エル・シェイク(エジプト)会合※10
    2010年ビリニュス(リトアニア)会合※11

シャルム・エル・シェイク会合では、 「CIRの管理」「セキュリティ・開放性およびプライバシー」「アクセスと多様性」「WSIS原則の観点から見たインターネットガバナンス」の、 四つのメインセッションが開かれました。

「CIRの管理」メインセッションでは、 「IPv4からIPv6への移行」「開発における新TLDと国際化ドメイン名(IDN)の重要性」「ICANNと米国政府の関係における最新情勢」「CIR管理における拡大協力(enhanced cooperation)と国際化」の、 四つのトピックについて主に議論されました。 「WSIS原則の観点から見たインターネットガバナンス」メインセッションでは、 「ジュネーブ基本宣言およびチュニスアジェンダ、 そしてインターネットガバナンスが情報社会を志向した発展途上国の開発にどのように影響を及ぼしたか」ということについて議論されました。 ビリニュス会合では、 「WSIS原則の観点から見たインターネットガバナンス」が、 「インターネットガバナンスと開発」と改題されました。

各国、地域におけるIGF活動

IGFと類似の活動が、各国、地域で行われています。 IGFのWebサイトに掲載されたもののうち、主なものを挙げますと、

  • アジア太平洋地域:全体で1:Asia Pacific Regional IGF(APrIGF)
  • 米州地域:カリブ海地域全体1、ラテンアメリカおよびカリブ海全体1、米国
  • 欧州地域:欧州全体1、北欧3ヶ国、西欧5ヶ国、ロシア・東欧2ヶ国
  • アフリカ地域:中央アフリカ全体1、東アフリカ全体1、東アフリカの4ヶ国、西アフリカ全体1、西アフリカの1ヶ国

他に、複数地域にまたがるものとして、英連邦IGFがあります。
日本でも、 国レベルのIGF活動を活発化させたいという動きも起こっています。

今後

今後のIGFの行く末については、 国連事務総長よりIGFを延長する提案※12がなされており、 国連総会での議決待ちとなっています。 これに関連して、国連経済社会理事会(United Nations Economic and Social Council: ECOSOC)の下部機関である科学技術委員会(Commission on Science and Technology for Development: CSTD)により、 2010年12月17日にIGF改善ワーキンググループ(Working Group on improvements to the Internet Governance Forum)が設立されました。

当初、 このIGFワーキンググループのメンバーは政府のみとされていました※13が、 マルチステークホルダーを標榜するIGFにはそぐわないという反対意見が出されたため、 政府以外のステークホルダーも含めたワーキンググループを設立することで、 最終的に落ち着きました※14。 このワーキンググループが何らかの結論を出した後、 国連総会での議決が行われるものと思われます。

(JPNIC インターネット推進部 山崎信)

画面:IGF Webサイト
IGF Webサイト
写真:IGFアテネ会合(2006年)
IGFアテネ会合(2006年)の様子

※1 インターネットガバナンス
インターネットを安定的に運用するための体制を整備する活動全般を指します。現在は、ICANNがインターネット資源であるIPアドレスやドメイン名のグローバルな管理や調整を行っていますが、インターネット利用者等も含めた形で、ボトムアップによる意思決定がなされることが特徴です。
※2 ジュネーブ基本宣言(“Declaration of Principles”)
http://www.itu.int/wsis/docs/geneva/official/dop.html
総務省による日本語仮訳:
http://www.soumu.go.jp/wsis-ambassador/pdf/wsis_declaration_jp.pdf
※3 チュニスアジェンダ(“TUNIS AGENDA FOR THE INFORMATION SOCIETY”)
http://www.itu.int/wsis/docs2/tunis/off/6rev1.html
総務省による日本語仮訳:
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/997626/www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2005/pdf/051119_1_2.pdf
※4 WGIG最終報告書(“WGIG Report”)
http://www.wgig.org/WGIG-Report.html
※5 Number Resource Organization(NRO)
NROはRIR全体として外部組織との調整が必要な場合に、全RIRを代表する組織です。また、万が一ICANNがIANA機能やグローバルポリシーの批准機能を失った場合には、代わりにこれらの機能を担うことが想定されています。APNIC、ARIN、LACNIC、RIPE/NCCの四つのRIRにより2003年10月24日に設立された非営利組織で、RIRとして承認を受けた後、AfriNICも正式メンバーとなっています。
※6 JPNIC News & Views vol.408「IGFアテネ会合報告」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2006/vol408.html
JPNIC News & Views vol.421「IGFを振り返る」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2006/vol421.html
※7 JPNIC News & Views vol.500「IGFリオデジャネイロ会合報告」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2007/vol500.html
※8 JPNIC News & Views vol.607「IGFハイデラバード会合報告」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2008/vol607.html
※9 JPNIC News & Views vol.646「ICANNと米国政府の関係~JPA終了に向けて~」
http://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2009/vol646.html
※10 “Fourth Meeting of the Internet Governance Forum(IGF) Sharm El Sheikh, Egypt, 15-18 November 2009 Chairman's Summary”
http://www.intgovforum.org/cms/2009/sharm_el_Sheikh/Chairman%27s%20Summary.Completed.04.12.2009.doc
※11 “Fifth Meeting of the Internet Governance Forum(IGF) Vilnius, Lithuania, 14-17 September 2010 Chairman's Summary”
http://intgovforum.org/cms/2010/The.2010.Chairman%27s.Summary.pdf
※12 “Continuation of the Internet Governance Forum”
http://unpan1.un.org/intradoc/groups/public/documents/un/unpan039400.pdf
※13 “10 Dec 10-Composition of the Working Group on Internet Governance”(2010年12月10日付アナウンス)
http://www.unctad.org/Templates/Page.asp?intItemID=5783&lang=1
※14 “23 Dec 10-Multi-stakeholder participation in the Working Group on Internet Governance”(2010年12月15日~17日開催の会議にて)
http://www.unctad.org/Templates/Page.asp?intItemID=5783&lang=1

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