【ミラクルジュニア】ウワサの! 電工少女
- 2024年11月8日
あっと驚く才能や技術を持つ、県内の若い世代を紹介していく「うわさのミラクルジュニア」。今回ご紹介するのは、8歳で「第二種電気工事士」の資格を取った西郷村の小学3年生です。この年齢での合格は、全国的にも珍しいとされるこの資格。小学生にとっては難関ともいえる試験に受かったのは、どんな子なのか。そして、受験に向けた驚くべき努力と戦略とは。その“シビれる”素顔に密着しました。
小学3年生で!? 「第二種電気工事士」取得の少女
小学生で合格するのは珍しいという国家資格を取得した女の子が県内にいると聞き、10月中旬、西郷村にある電気工事会社を訪ねてみました。すると、大人たちに混じってリズムよく銅線をむき、配線をつなげている女の子を発見。この子こそウワサの電工少女、ことし8月に「第二種電気工事士」に合格した小学3年生、石川禾奈子さん(8)です。将来は電気工事士として働きたい、という夢に一歩近づいた彼女に、合格した当時の気持ちを聞いてみました。
(禾奈子さん)
試験は2、3回受けました。合格したのが3回目で、合格したときはうれしかったですね。なんだかとてもうきうきして、やったーみたいな気分でした。
「第二種電気工事士」って? 年間10万人以上が受験
禾奈子さんが合格した「第二種電気工事士」とはどんな資格なのでしょうか。試験を主催し、免許を交付する団体の電気技術者試験センターによると、二種は“一般住宅や店舗などの600ボルト以下の設備の工事に従事できる”とあります。
そもそも国内では、法令により商店、一般住宅などの電気設備の安全を守るため、一定の資格のある人でなければ、電気工事を行ってはならないと定められています。その知識・技術の基準を試験で満たしていると認められた人が電気工事士として施設での施工ができるのです。
二種の学科試験を受験した人は、去年は13万人あまり。高校生レベルの数学などの知識が必要とされ、まずは電気工事に関する知識を問う学科試験が課されます。学科試験に合格すると、配線などの技術を試される技能試験を受験する必要があり、合格率は平均6割とされています。しかし、なぜ、こんな難しそうな試験を小学生の女の子が受けようと考えたのでしょうか? 禾奈子さんの奮闘をずっと見守ってきたお母さんの格子(のりこ)さん(41)に聞くと、理由は彼女の生育環境にありました。
(格子さん)
2歳ぐらいから会社に遊びに連れてきていました。そのときに、よく会社の人たちが一緒に遊んでくれていたんですけれど、その中に工具があったり、現場を見に行ったり。電気工事に携わる人や環境が、彼女の暮らしの中で自然に存在していたのがきっかけではないかと思います。わたしも工事士の資格を持っているので、受けたいと思ってくれたらいいなと思いつつ、6歳か7歳のころにいま資格を取ったらすごいねって冗談で話していたら、本人が本気になって取り組み始めたというところもあります。
実は禾奈子さんのお母さん、格子さんは西郷村で90年以上続く老舗の電気工事会社を営む経営者。もともとは格子さんの祖父が会社を興し、格子さんで3代目だといいます。小さいころから会社を訪れるようになって、アットホームな会社の雰囲気の中、社員や電気工事用の工具などに触れるうちに、禾奈子さんが自然と電気工事士の道を意識するようになったのだとか。禾奈子さん本人も、ものを作ることが好きで、物心ついたときからこの仕事に魅力を感じていたそうです。
(禾奈子さん)
わたしはいろんなものを作るのが好きなので、いろいろ配線をしたりして作るのが面白いと感じます。それにみんなが現場でお仕事しているところを見て、電柱上ったり、電線切ったりして楽しそうだし、格好いいなと思ったから、電気工事やってみたいなって思いました。
試験対策その①:過去問暗記、写真問題を得点源に
こうして小学2年生から本格的な受験のために勉強を始めた禾奈子さん。しかし、高校生レベルの知識が必要な試験に小学生の彼女が挑戦するのは、容易ではありません。そもそも分数や割り算など、まだ習っていない知識も数多く含まれています。そこで知恵を絞ったのが、お母さんの格子さんです。
(格子さん)
まずは学科試験ですね。とにかく漢字や言葉を読んで内容が理解できるよう、根気強く読み聞かせました。ある程度問題に慣れてきてところで取り組んだのが、過去問の暗記です。過去10年度分を中心にとにかく解くことをベースにして、しっかり公式などを覚えて計算できるようにする。10年分あると、正解や出題のパターンがわかってきて、問題文を読めばある程度正解がわかるようになるんです。そして高校生レベルの難しい問題は見送って時間のロスを防ぐなど、取捨選択をしながら戦略を立てました。
さらに得点源として力を入れて取り組んだのが、「写真鑑別問題」と呼ばれる設問です。毎回10問ほど出題され、写真で示した工具などを回答させる形式で、覚えることができれば回答できるため、複雑な計算問題を得点源にできない禾奈子さんには大きな助けになったといいます。こうして挑戦開始からほぼ1年かけて、60点以上の得点が必要とされる第一の関門の筆記試験にパスすることができました。
試験対策その②:技能試験は特訓で制す
禾奈子さんに立ちはだかった第二の関門は、工事士としては絶対に避けられない、実際に配線などを組み立てる技能試験です。与えられた課題を40分以内で完成させないと合格できません。また、「欠陥」と呼ばれる仕上げのミスなども厳しく審査されるといいます。
最初の壁は、技能試験に取り組むときに使う工具の問題でした。使用する工具は、当然ながらすべて大人用。子どもが使うには大きく、かなりの力が必要とされます。技能試験で問われる内容は理解できても、自分で手を動かして課題を仕上げるのはひと苦労でした。
そこで禾奈子さんは、まずは工具を使いこなせるようにと、あるトレーニングを始めます。
(禾奈子さん)
この黄色いのが10キロで、この緑のやつが15キロです。この器械で握力トレーニングをしました。
それが握力トレーニングでした。お母さんの格子さんが運転する小学校への送迎の車内で、毎朝このトレーニング器具を手に、徹底的に握力を鍛えたのです。
工具を使いこなせるようになり、制限時間40分の壁が見えてくると、今度は課題を製作する際、「欠陥」と呼ばれる細かな仕上げの甘さが問題になってきました。そんな彼女を技術的にサポートしたのが、社歴30年のベテラン社員、小松孝行さん(48)でした。
小松さんは「欠陥」で審査に引っかからないよう、細かな仕上げの技術を指導。銅線のむき方や、器具との接続の仕方など、制限時間を意識しながらも、細かい部分の作業をおそろそかにしないよう、根気強く教えました。
(小松さん)
2種の試験は一般住宅を模した問題です。ブレーカーがあって、スイッチとコンセントがあって、電球を付けるレセプターなどがあって、それを配線でそれぞれつないでいくという感じです。欠陥、つまり間違いが1つでもあると不合格になってしまうので結構大変です。時間も大事なのですが、可能な限り欠陥を1個ずつ潰していって合格できるように指導を進めていきました。
握力を付け、工事のコツを覚えると、禾奈子さんは放課後、特訓に次ぐ特訓で課題をこなしました。二種は13問の問題があらかじめ公開されていて、試験ではその中から1問が出題されます。
禾奈子さんは13問すべてを3か月近くかけて何度も反復し、解くのに1時間以上かかっていた時間を、制限時間の半分の20分程度まで短縮。見事、合格をその手に勝ち取ったのです。
(禾奈子さん)
握力の器具みたいなので車でトレーニングしたら工具もしっかり使えるようになって、それからすごい楽しくなりました。116回練習したのまったく苦しくなかったです。難しい問題はちょっと嫌でしたけど、苦手な問題とかをいっぱい練習して、もっと時間を縮めたいです。
合格後も情熱は衰えず…現場を見学
周りの大人たちのサポートもあって、二種の試験に合格した禾奈子さん。しかし、電気工事士への情熱は、冷めるどころかますます高まっているようです。この日、お母さんの格子さんとともに訪れたのは、会社の施工先である中島村の工務店。
工務店が新設するオフィスでどんな電気工事が行われているのか、見に来たといいます。試験で得られる知識や技術は、工事士としては必要不可欠のものですが、あくまで教科書の上での基礎的のもの。工事の手法や資材の使い方は現場ごとに微妙に異なり、現場でしか得られない生きた知識を学びたいと、休みの日を利用して禾奈子さんが自主的に見学しに来ているというのです。
(禾奈子さん)
実際に試験を受けただけではわからない、どの器具をどこにさすかとか、どうやって配線するのかとかがわかるので、現場に来て、見て、わかることが多いと思います。器具を天井や壁に付けるとか、試験の練習ではまだわからないことが多いので、参考になります。
現場でも、電気工事の実践的な知識や技術を熱心に吸収する禾奈子ちゃんの姿は、師匠・小松さんの目にも頼もしく映っているようです。
(小松さん)
どうしても器機や工具の写真は平面で立体ではないので、実物を見ると1回で覚えてもらえたりしますし、実際にどのくらいの大きさでどうやって付けるのかとか、細かいこともわかるんですよね。試験だけの知識で満足しない姿勢は、本当に大事ですね。将来、いい工事士になると思います。
電工少女、次のステップへ
二種試験の合格からひと月半近くがたった10月のある日、彼女の姿は、郡山市の大学のキャンパスにありました。また工事の見学かと思いきや…?
(禾奈子さん)
一種の筆記試験を受けに行きます。
二種の試験に合格したのもつかの間、さらに難しい一種電気工事士の学科試験を受けるという禾奈子さん。試験問題に慣れるため、二種の合格から間を空けずになるべく早めに受けたい、という本人の意志だそうです。
(格子さん)
とにかくわたしたち大人も、彼女の努力とやる気から本当にいろいろとエネルギーをもらっています。それに心底、電気工事が好きっていうのは彼女から伝わってくるので、さらに一種の試験を受ける、やるって決めたからには全力でサポートしたいと思っています。将来はわたしは経営者として、彼女は職人として、二人三脚でやっていく、なんていうのも面白いなと思っています。
“明るく楽しく、みんなで支え合える電気工事士になって、友達の家のコンセントやスイッチを取り付けたい”と、将来の夢を話してくれた禾奈子さん。夢に向かって突き進む姿は、周りの大人たちを“シビれ”させ、熱い気持ちにさせているようです。彼女の今後に、これからも注目していきたいと思います。