Q : 建設業界を取り巻くビジネスの最新の動向を教えてください。
A : 現在、施設建築にまつわる社会経済は、7つの領域で動いています[スライド1]。この図は2015年に作成したものですが、その頃からほとんど変わっていません。今、最も投資額を集めている領域が「技術先進国の堅持」と「インフラ・RE再構築と強靭化」です。
特に「技術先進国の堅持」はコロナ禍が明けてから際立って投資額が増えていて、半導体や製造業といった日本の得意技を、国内回帰させようという動きが非常に活発化しています。「インフラ・RE再構築と強靭化」は2015年以降で一番大きな動きが起きていて、この先10年は続くと思います。皆さんが携わってきた東京・丸の内周辺は施設建築の新陳代謝が早く、短いサイクルでどんどん変わっていきますが、地方の中核都市の駅前には、高度経済成長期に建った銀行の支店や保険会社などのビルがいまだに残っているんですね。これらの建物が駅前再開発により、こぞって変わろうとしています。
次に「クールジャパンの国づくり」については、観光立国推進の取り組みによるインバウンド拡大で、第二の経営資源になろうとしています。そして、人口動態のトピックでも触れた「健康長寿社会の実現と少子高齢化対策」。学校の統廃合や、地域医療構想による病床再編などを検討していくことになるでしょう。「スポーツビジネスと余暇」は、2015年にスポーツ庁と内閣府が打ち出した政策で、スポーツビジネス、まちづくり、余暇を組み合わせて経済効果を出せる産業構造にしようという取り組みです。最近話題になった長崎スタジアムシティなど、国内ではスタジアムやアリーナの新設・建替計画が100件近く進められています。スポーツ観戦だけではなく、食事や買い物、アクティビティなどが楽しめるレジャー施設としての側面を持たせ、まちづくりにもつながるような空間・施設を創設するという方向で動いています。
そして、「メディアおよび情報流通の変革」と「金融ビジネスの変革」ですが、この2つは今、ビジネスモデルが大きく変わろうとしています。まず、メディアについて考えてみると、若い世代は新聞を読まないし、地上波テレビも見ない。YouTubeやNetflixなどのインターネットメディアへと、媒体そのものが入れ替わろうとしています。同時に情報流通量は2030年までに15倍に増えるという試算もあり、ハイパースケールデータセンターの需要が高まっていくでしょう。また、金融ビジネスも紙幣の取引が減り、キャッシュレス化が急速に進むかもしれません。そうすると、駅前に点在する銀行の支店の役割が変わってくる可能性もあります。
以上7つの要素が建設バリューチェーンと相まって、さまざまな形で複合化しようとしているのが、現在の状況です。
事業者(発注者)はというと、それぞれ自分のビジネス領域から市場のニーズ、ウォント、ウィッシュを見つけ出し、事業を創造します。解決者である建設業者は、発注者の視座を見据え、つまり顧客のビジネス領域のトレンドや課題を理解した上で、事業創造を事業戦略に落とし込む必要があります。戦略の段階で施設・建築につなぎ、合理的なプロジェクト推進で実現化する。この部分をうまくパッケージできれば、先進のビジネスモデルになるのではないでしょうか。
Q : これからの建設産業には、どのような人材が求められると思われますか?
また、われわれはどのようなスキルを身に付け、どのような点に注力していけばよいでしょうか?
A : 個人的には、設計者はいずれインテグレーターになると思っています。人材活用の拡大と転換という観点からも、これまでの自分の領域だけに留まらず、技術者や専門職を多能工化していく必要があります。これからの経済社会でブレークスルーを起こすには、「総合解決プロバイダー」としての道を歩んでいくことが鍵になると考えています。
例えば、スポーツビジネスにおいても、単にスポーツ施設を建設するだけではなく、「長崎スタジアムシティ」(2024年開業予定)のようにホテル、商業施設、レジャーなど複合的な機能を持たせ、経済効果を生み出す仕組みをつくる。そして、いかに施設の外・まちとつなげて集客していくかというところまで連動させてプランに落とし込むかが重要になってきます。そのため、普段から自分の専門領域の少し先とか、少し外側の部分、例えば事業構想や開発の背景などにも興味を持って、知見を取り入れたり考えを広げる習慣を身に付けることをおすすめします。
ただ、メディアの情報には惑わされないでください。ものごとを本質的に捉えようとする姿勢が大切です。また、建設業界は固定観念や既成概念が強い世界だと感じていますが、それらをいったんリセットすること。単一の用途や業種で事業を捉えないことが重要です。事業の組成からビジネス全体を見通し、施設建築を捉えることが、今後は必要とされてきます[スライド2]。
そして経営面では、「BS(バランスシート)主義からオペレーション主義へ」、つまり資産主義から運営主義へとさらに転換は進んでいきます。その大元になっているのが、国土交通省が推進するCRE戦略・PRE戦略です。企業不動産の資産価値向上や、学校の統廃合・再編といった公的不動産の最適化など、CRE、PREそれぞれの課題を解決する事業が、今後の建設産業では主流になってくるでしょう。長期的な展望を持ち、複合的な効果を生み出すためには、事業者(発注者)と一緒につくるというビジネス文化を浸透させていくことが鍵となります。
社内や業界内の業務でも、DXにおいても、ビジネス全体でも、新たなビジネスモデルへと転換していくためには、シームレスな連携が不可欠です。まずは自社の人材、知財、資本など経営資源を再確認した上で、他分野や他産業であっても先行事例は積極的に取り入れてみてください。建設産業はこれから日本経済を牽引していくはずですから、ぜひ変革を遂げていただきたいと思っています。
- 膨大なデータ処理やストレージを行う大規模なデータセンター。
- CRE(Corporate Real Estate)戦略とは、企業が保有している不動産を経営戦略的に見直し、不動産投資の効率性を向上させていく考え方。
- PRE(Public Real Estate)戦略とは、公的不動産の公的・公益的な目的を踏まえつつ財政的に見直し、不動産投資の効率性を向上させていく考え方。
PROFILE
ALFA PMC代表取締役社長
川原 秀仁
かわはら ひでひと
一級建築士、認定コンストラクション・マネジャー、認定ファシリティ・マネジャー/1960年佐賀県唐津市出身。大学卒業後、農用地開発/整備公団を経て、1991年株式会社山下設計に入社。その後、株式会社山下PMCに創業メンバーとして参画し、代表取締役社長、取締役会長を歴任。2023年3月に株式会社ALFA PMCを設立。著書に「施設参謀」(ダイヤモンド社、2015)、「プラットフォームビジネスの最強法則」(光文社、2019)など。
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Update : 2018.09.21