Q : SDGsの目標に掲げられている「持続可能なまちづくり」に向けて、国内外でどのような都市計画の取り組みがありますか? また、現状ではどのような課題があるのでしょうか?
A : 2023年7月に香川・高松市で開催された「G7都市大臣会合」では、「持続可能な都市の発展に向けた協働」をテーマに3つの視点――――「温室効果ガス排出のネット・ゼロでレジリエントな都市」「多様なニーズを考慮したインクルーシブな都市」「デジタル技術を活用した都市」で議論・意見交換が行われ、国際的な共通課題や大きな方向性について確認がなされました。
日本の未来の都市空間を考える時に、まず念頭に置くべきことは人口減少です。そもそも従来の都市計画は、人口の増加を前提にしているので、人口が減少していく中での都市計画は前例がなく、この10年、20年ずっと有識者の皆さんと議論しているのですが、なかなか明確な方向性が見えてこないのが実情です。
日本の将来推計人口を見ると、この先も人口減少が続くことは明らかであり、それが都市に与えるリスクを考えなければなりません。1969年に現行の都市計画法が施行されてから2020年までの約50年間に、人口は1.3倍に増加し、DID(人口集中地区)面積は3.4倍に拡大しています。今まさに社会問題として顕在化している空き家・空き地の増加や、都市施設の維持管理コストの負担増大など、都市部のリスクを回避するためには、地方を含めた持続可能な都市構造への転換が急務であると考えます。少子高齢化によって、今後ほとんどの中核都市は財政状況が悪化していくことが見込まれますが、道路実延長を10%削減した場合、「将来負担比率」は1.2%減少するという研究結果があります。つまり、維持管理するべきインフラを削減すれば、それだけ負債も小さくなるわけです。また「国土交通白書」を見ると、人口密度が高い市町村ほど1人あたりの行政コストは低くなり、都市施設の維持管理コストは都心居住型、つまり集まって住むことにより抑えられることがわかります[スライド1]。
こうした状況から導き出された具体策が、集約型の都市構造(コンパクトシティ)の形成です。都市部に人を集めると、多様な産業が成立しやすくなり行政コストも効率化できますが、地方には、散住する人たちを1つのエリアに集約するのが難しいという市町村もあります。それに対しては、中心市街地を核として、非集約エリアに小さな拠点をつくり、その間を交通で繋ぐ「ネットワーク型コンパクトシティ」を提案しています。
この交通の部分で重要な役目を果たすと思われるのが、次世代交通システムです。私は「人主体の交通システム」と呼んでいますが、LRT(次世代型路面電車)やBRT(バス高速輸送システム)、パーソナル・ビークル、自動運転車・バスなどで、これらがAI、ICTと繋がって、シームレスに移動できるようになる時代が来ると予想しています。コンパクトシティにおいては、集約エリア[スライド2の赤い部分]では徒歩や公共交通、非集約エリア[同・青い部分]では自転車やパーソナル・ビークルといった個別交通を主流とする都市構造が考えられます。赤い部分で魅力的なまちづくりを計画することによって若い世代を呼び込み、定住してもらえれば、ゆるやかにコンパクトシティが実現していくだろうと、個人的には思っています。
Q : 集約エリアと非集約エリアが、次世代交通によってゾーニングされた「ネットワーク型コンパクトシティ」は、海外でも発展していくと思われますか? それとも、日本特有のもので、海外では別の形の発展が見込まれるのでしょうか?
A : 2023 年3月に開催された「G7都市大臣会合に向けた官民ハイレベルラウンドテーブル」に参加した時、コンパクトシティの話をしたのですが、他国の参加者から「世界的には都市化が進む傾向があり、都市で暮らす人口が増加している状況で、都市を小さくしていくことが将来的なビジョンだと、なぜ言えるのですか?」と繰り返し質問されました。
確かに世界全体では都市人口が急速に増えており、都市部の環境悪化を改善するためのニュータウン開発やインフラ整備が必要である一方で、実はさまざまな国で少子化が進んでいます。日本の合計特殊出生率は、2020年で1.34でしたが、台湾は0.99、韓国はさらに少ない0.84でした。日本は一歩先に少子高齢社会のフェーズに入りましたが、少子化傾向にある国は決して少なくありません。国の総人口が減少していけば、結果的に高密度な都市部でも人口が減少していくか、日本同様、人口が高密度になる地域と低密度になる地域で二極化する現象が起こり得ると説明しました。「日本のコンパクトシティは、皆さんの国が将来、人口減少に直面したときの解決モデルの一つとなるはずです」と申し上げたところ、「確かに、準備として必要な取り組みですね」と理解して下さいました。
人口が集積し、そのための整備や開発が必要な地域もあれば、人口が流出し、過疎化する地域もあって、我々としてはどちらの「都市」に対しても計画をしておかなければなりません。人口が増えていく場合の都市計画は世界中にたくさんの知見がありますが、減少していく場合の知見は、ほとんどありません。唯一、1990年の東西ドイツ統一後、旧東ドイツでは急激に人口が減少したため、集合住宅の上階部分を取り壊してダウンサイジングする「減築」が行われましたが、緩やかに数パーセントずつ人口が減少していく事例は、世界を見渡してもほとんどありません。日本の都市計画が、そのモデルケースになるだろうと考えています。
- G7都市大臣会合:2022 年のG7ドイツ・サミットで新設された会合で、第1回は「都市のレジリエンス」や「気候変動への対応」などをテーマに議論。2023年のG7議長国であった日本は、香川で第2回会合を開催した。
- 将来負担比率:地方公共団体が将来に支出しなければならない財政負担が、標準的な状態で収入が見込まれる一般財源の規模の何倍にあたるのか、将来財政を圧迫する可能性の度合いを示す指標。
PROFILE
早稲田大学理工学術院教授、日本都市計画学会会長
森本 章倫
もりもと あきのり
1964年山口県生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。博士(工学)、技術士(建設部門)。マサチューセッツ工科大学(MIT)研究員、宇都宮大学助教授、教授などを経て現職。専門分野は「都市計画」および「交通計画」。主な研究テーマは、次世代交通、コンパクトシティ、スマートシティ、TOD戦略、交通安全などに取り組む。 現在、日本都市計画学会会長、日本交通政策研究会常務理事、防災学術連携体代表幹事。国土交通省「都市交通における自動運転技術の活用方策に関する検討会座長」、東京都土地利用審査会会長、静岡県都市計画審議会会長など他多数。主な著書に「図説 わかる都市計画」(編著、学芸出版社、2021)、「City and Transportation Planning: An Integrated Approach」(Routledge、2021)など。
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Update : 2018.09.21