平成15年度 職場のメンタルヘルス問題の実態調査
主任研究者 | 宮城産業保健総合支援センター所長 | 安田 恒人 |
共同研究者 | 宮城産業保健総合支援センター相談員 | 加美山茂利 |
同 | 佐藤 洋 | |
同 | 三塚 浩三 | |
同 | 佐藤 祥子 |
1 はじめに
平成15年8月に厚生労働省が5年毎に実施している「労働者健康状況調査」が公表された。この中で、心の健康に関する調査を見ると、普段の仕事で疲れを感じている労働者が72.3%、自分の仕事や職業生活に関して強い不安や悩み、ストレスがある労働者は61.5%であった。仕事で悩みや不安、ストレスを感じる労働者は、昭和57年の調査では50.5%、前回調査の平成9年には62.8%と増加傾向を示していたものの、今回は大きな変化が認められなかった。
しかし、バブルからデフレ不況の中、リストラは継続され、業務量の増大・複雑化さらには成果主義の導入など心身の疲れからうつ予備軍が増加していると推定されるが、メンタルヘルス指針が公表されてからは、各事業場においても、他人事ではなく、自分たちに直接関係ある問題として、正面からメンタルヘルスへ取組もうという姿勢がうかがえる。このような中で、事業場におけるメンタルヘルス対策の重要課題は、「心の病」で休業している労働者への「職場復帰」に関することである。
そこで、当センターでは、宮城県の事業場におけるメンタルヘルス対策への取組状況および「心の病」により休業している労働者に対する職場復帰への対応と産業医の役割等についての実態調査を行うことにより、現状を把握し、メンタルヘルス支援、特に職場復帰問題へなんらかの提言を目的に調査研究に取組んだ。
2 対象と方法
宮城県内の主要事業場323社、および、その事業場の産業医323名を対象にアンケート調査票(事業場用、産業医用の2種)を送付し記入を依頼した。
総依頼数、646件のうち回答は258件で、回収率は39.9%であった。そのうち事業場からの回答は323件中166件で回収率は51.4%、産業医からの回答は323件中92件で回収率は28.5%であった。
3 調査結果
- 心の健康に関する事業場での取組内容は、「安全衛生委員会の年間目標に入れている」、「管理者向けの研修」「外部講師を招いての講演会」、「産業医による講話、研修」、「社内報を通しての広報活動」等の順であった。(図1)
- ここ3年間に「心の病」で休業している従業員がいる事業場は、48.1%、その主なきっかけは、対人関係、仕事の量・質、配置転換であった。(図2)
- 休業している従業員の年齢は、20代までが13.9%、30代が27.7%、40代が19.3%、50代が12.0%であった。(図3)
- 「心の病」に罹り休業している従業員への対応としては、「本人と会って話しを聴く」、「産業医に報告しておく」との回答が多く認められた。
- 復職の時期の決め方について、事業場調査では、「産業医、上司、本人、人事労務担当者、看護師・保健師などが面接、話し合いをした上で主治医の意見もふまえ総合的に結果を出す」が多かったものの、未回答も多く、復職対応の難しさが感じとられた(図4)。産業医調査では、「主治医の診断書を参考にして会社側と相談して復職時期を決める」との回答が60.9%であった。
- 復職に対する受け入れ体制は、「休職中のリハビリ勤務」、「勤務時間の軽減」、「残業・休日出勤・出張等の免除期間を設けている」、「通院に対する特別時間休の設定」等であったが、未回答が3割ほどあったことから、どうしてよいのか苦慮している様子がうかがわれた。(図5)
- 心の健康の取組をしている事業場としていない事業場での「心の病」で休業している者の有無(図6)
- 「心の病」で休業していた者を復職させる場合について、「主治医の意見に従う」とする事業場と「面接、話し合い、主治医の意見も踏まえ総合的に結果を出す」とする事業場での産業医の選任の有無(図7)
4 実地調査について
アンケート調査に回答した事業場の中から、実地相談等を希望した7事業場を訪問し、実地調査を行った。
早急にメンタルヘルス実施体制づくりやメンタルヘルス不全状態の従業員対策等を行いたいと考えている事業場と、今は特別メンタル面で困っていることはないが、しかし、衛生管理者や保健師・看護師として考慮しなければならないと考えている事業場では、メンタルヘルスへの取組の姿勢が違うことが明らかであった。
産業医に対しては、実地調査した事業場の産業医が嘱託であることから、定期的な健康診断実施後の事後指導との考えの事業場がほとんどで、メンタルヘルス対策は産業医を巻き込んで行う必要があるということをはじめから重要視していないとも考えられた。
5 考察
衛生管理者または安全衛生推進者を選任している事業場(158社)における、心の健康の取組状況は、選任しているところが、特別心の健康への取組に力をいれているとは言い切れないのが現状のようである。
産業医を選任している事業場(154社)でも、産業医を選任している事業場が特別に心の健康への取組に力を入れているとはいいきれない。
心の健康の取組をしているとの回答があった84社について、最近3年間に「心の病」で休業している従業員はいるかとの質問には、心の健康への取組をしていても、「心の病」で休業している従業員はいるとの回答であった。
事業場での心の健康に関しての取組状況としては、2社に1社の割合で、その内容としては、「安全衛生委員会の年間目標に入れている」、「管理者(ライン)向けの研修」、「産業医による講話・研修、社内報を通しての広報活動」の順であり、熱心に力を入れているというよりは、メンタルヘルスにも一応関心をもって取組をしていると推定された。
復職については、6割の産業医が「主治医の診断書を参考にして、会社側と相談し決定している」こと、また、職場復帰マニュアルの必要性を82.6%の産業医が感じていたことは、精神疾患患者の回復状況や就労適性を判断することの難しさを示している。
6 まとめ
今回の調査研究は、事業場におけるメンタルヘルス対策への取組状況と職場復帰への対応についてである。事業場、産業医ともに、事例発生を未然に防ぐための対策づくりや、職場復帰に対し復帰時期の判定、再発防止としてのリハビリ出勤の体制づくりと労務管理などへの具体的マニュアルを求めていることがわかった。
メンタルヘルスに対する取組は、現実に直面しないと他山の石に等しいところがある。問題が起きたとしても「くさいものには蓋」か「なるべく責任をかぶらないように穏便に」といった取組をしがちである。しかしこれは、プライバシーの問題や守秘義務といったことが前面に出てくる心の問題においてはしかたのないことでもあり、難しいことでもある。だからこそ、心の健康づくりは、生活習慣病の予防と同じように自分の問題として予防に力を入れることが大切であると思われる。
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