高血圧は日本人に多い生活習慣病。放っておくと脳卒中や心不全などのリスクが高まるため、注意が必要な症状です。その90%は、原因が特定できない「本態性高血圧」と呼ばれるもの。これは遺伝的因子を背景に、生活習慣などの環境的因子が加わって発症します。
環境的因子で最も大きいのが食事です。高血圧を招く食事といえば、塩分(ナトリウム)のとり過ぎがよく知られています。血圧が上がるメカニズムは完全にわかっていませんが、ナトリウムが血液循環量を増やし、心拍出量を増加させるためという説があります。
ナトリウムの血圧上昇作用を、妨げる働きがあると注目されるのが、カルシウムです。
1971〜75年にアメリカで行われた調査によると、カルシウム摂取量が多いほど、高血圧の発症頻度が低いという結果が報告されています(図参照)。日本で行われた疫学調査でも、カルシウムの摂取量が少ないと、高血圧や脳卒中の発生が増加するとの報告があります。カルシウムが血圧を下げるメカニズムはまだ詳しく解明されていませんが、カルシウムがナトリウムの排泄を促進することが要因のひとつといわれています。
また最近では、牛乳のカゼインが消化されてできるペプチドについても研究が進んでいます。
腎臓から分泌されるたんぱく質のアンジオテンシンから、分解酵素レニンの作用でアンジオテンシンIがつくられ、さらにアンシジオテンシンI変換酵素(ACE)の作用でアンシジオテンシンIIがつくられると、強い血圧上昇作用を示します。ペプチドのいくつかの成分が、この変換酵素の働きを阻害すると考えられ、結果的に血圧の上昇を防ぐと考えられているのです。
牛乳は、毎日の食生活で塩分をうまくコントロールしたいときにも役に立ちます。
日本で定められている1日の食塩相当量の目標値は、男性9.0g以下、女性7.5g以下。しかしWHOのガイドラインでは、高血圧の予防と治療のための指針として、6.0g/日未満を勧めています(欧米でも6.0g/日以下を推奨)。
そこで、塩分が多くなりがちなしょうゆやみそベースの和食などに、牛乳を加えてみてはいかがでしょうか。牛乳をだし代わりに使えば、しょうゆやみその量を控えてもコクやうまみが出て、もの足りなさを感じません。具に野菜をたっぷり使えば、牛乳のカリウムに野菜のカリウムが加わって、ナトリウムの排泄効果も高まります。
カルシウムによる血圧コントロールの働きに加えて、料理に使うことで減塩効果も得られる牛乳は、高血圧の予防に欠かせない食品なのです。