腸管出血性大腸菌Q&A|厚生労働省

腸管出血性大腸菌Q&A

腸管出血性大腸菌の特徴について

Q1 「腸管出血性大腸菌」って何ですか?

A1

大腸菌は、家畜や人の腸内にも存在します。ほとんどのものは無害ですが、このうちいくつかのものは、人に下痢等の消化器症状や合併症を起こすことがあり、病原大腸菌と呼ばれています。病原大腸菌の中には、毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす腸管出血性大腸菌と呼ばれるものがあります。
腸管出血性大腸菌は、菌の成分(「表面抗原」や「べん毛抗原」等と呼ばれています)によりさらにいくつかに分類されています。代表的なものは「腸管出血性大腸菌O157」で、そのほかに「O26」や「O111」等が知られています。
腸管出血性大腸菌は、牛等の家畜や人の糞便中に時々見つかります。家畜では症状を出さないことが多く、外から見ただけでは、菌を保有する家畜かどうかの判別は困難です。

Q2 腸管出血性大腸菌の「O157」ってどういう意味ですか?

A2

大腸菌は、菌の表面にあるO抗原(細胞壁由来)とH抗原(べん毛由来)により細かく分類されています。「O157」とはO抗原として157番目に発見されたものを持つという意味です(現在約180に分類されています)。
さらに細かく分類するとO157でも、毒素(ベロ毒素)を産生し溶血性尿毒症症候群(HUS)等の重篤な症状を起こすものは、H抗原がH7(O157:H7)とH-(マイナス)のもの(O157:H-)の2種類です。

Q3 腸管出血性大腸菌のほかに病気を起こす大腸菌がありますか?

A3

大腸菌には病原性のないものから、腸管出血性大腸菌のように強い病原性を有するものまで様々な種類のものがあります。腸管出血性大腸菌は菌の構成成分の性質からみた分類ですが、大腸菌は病気の起こし方によって、主として以下の5つに分類されます。

1 腸管病原性大腸菌:小腸に感染して腸炎等を起こします。
2 腸管組織侵入性大腸菌:大腸(結腸)粘膜上皮細胞に侵入・増殖し、粘膜固有層に糜爛(びらん)と潰瘍を形成する結果、赤痢様の激しい症状を引き起こします。
3 腸管毒素原性大腸菌:小腸上部に感染し、コレラ様のエンテロトキシンを産生する結果、腹痛と水様性の下痢を引き起こします。
4 腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌):赤痢菌が産生する志賀毒素類似のベロ毒素を産生し、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を特徴とし、特に、小児や老人では、溶血性尿毒症や脳症(けいれんや意識障害等)を引き起こしやすいので注意が必要です。近年、食中毒の原因となっているものは、O157がほとんどですが、腸管出血性大腸菌にはこの他にO26、O111、O128およびO145等があります。
5 腸管凝集性大腸菌:主として熱帯や亜熱帯の開発途上国で長期に続く小児等の下痢の原因菌となります。我が国ではまだほとんどこの菌による患者発生の報告がありません。

Q4 腸管出血性大腸菌は毒素を出すと聞いたけれど、どのようなものですか?

A4

腸管出血性大腸菌は、毒力の強いベロ毒素(志賀毒素群毒素)を出し、溶血性尿毒症症候群(HUS)等の合併症を引き起こすのが特徴です。溶血性尿毒症症候群が発症する機構は十分には解明されていませんが、この毒素が身体の中で様々な障害を起こすことによって、全身性の重篤な症状を出すものと考えられています。
ベロ毒素には、赤痢菌の出す志賀毒素と同じ1型(VT1)と、それと異なる構造を持つ2型(VT2)及びこれらの亜型があります。
腸管出血性大腸菌には、これらの毒素のうち1つ又は複数を出すものがあります。

Q5 DNAパターン分析って何ですか?

A5

生物の遺伝情報をつかさどるDNAはA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の4種の塩基からなり、この配列はそれぞれの菌株により異なっていることがわかっています。これを利用して腸管出血性大腸菌 をDNA分析と呼ばれる方法で解析すると、汚染原因菌の由来が同じ株によるものかどうか、更には腸管出血性大腸菌による汚染源が、同じかどうかを推定することができます。腸管出血性大腸菌に対するDNA分析法として、現在、主に「パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)」と呼ばれる方法がもちいられています。
これは、腸管出血性大腸菌 のDNA を制限酵素で切断処理後、寒天(ゲル)の中で特殊な電気泳動を行い、そこから得られるDNAのパターンを比較する方法です。このパターンは、数十本からなるNDAの断片が作り出すもので、丁度、いろいろな商品についているバーコードの帯に似ています。
これまで、国内で集団発生を起こした腸管出血性大腸菌のDNAパターンの分析結果から、細かくみると、数千種類のパターンがみられています。

腸管出血性大腸菌の発生状況について

Q6 腸管出血性大腸菌は、最近見つかった細菌ですか?

A6

腸管出血性大腸菌は昭和57年(1982年)アメリカオレゴン州とミシガン州でハンバーガーによる集団食中毒事件があり、患者の糞便からO157が原因菌として見つかったのが最初で、その後アメリカだけでなくアルゼンチン、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、カナダ、スウェーデン、スペイン、チリ、ドイツ、ニュージーランド、フランス、ロシア、中国、南アフリカ等世界各地で見つかっています。

Q7 腸管出血性大腸菌はどこからうつるのですか?

A7

腸管出血性大腸菌O157の感染事例の原因食品等と特定あるいは推定されたものは、国内では井戸水、牛肉、牛レバー刺し、ハンバーグ、牛角切りステーキ、牛タタキ、ローストビーフ、シカ肉、サラダ、貝割れ大根、キャベツ、メロン、白菜漬け、日本そば、シーフードソース等です。海外では、ハンバーガー、ローストビーフ、ミートパイ、アルファルファ、レタス、ホウレンソウ、アップルジュース等です。
また、国内で流通している食品の汚染実態を調査したところ、牛肉、内臓肉及び菓子から本菌が見つかったという報告もあります。
平成9年4~5月に開催された腸管出血性大腸菌O157に関する世界保健機関(WHO)の専門家の会議でも、ハンバーガー、ローストビーフ、生乳、アップルジュース、ヨーグルト、チーズ、発酵ソーセージ、調理トウモロコシ、マヨネーズ、レタス、貝割れ大根のような生食用の発芽野菜が原因として指摘されています。 このように腸管出血性大腸菌は様々な食品や食材から見つかっていますので、食品の洗浄や加熱等、衛生的な取扱いが大切です。
なお、動物と接触することにより感染した事例も報告されております。

Q8 これまでにどのような食中毒事例がありましたか?

A8

腸管出血性大腸菌による食中毒事例については、国内では、焼肉店等の飲食店や、食肉販売業者が提供した食肉を、生や加熱不足で食べて感染する事例が多くなっています。腸管出血性大腸菌に汚染された食品が広域に流通していたために、複数の自治体で患者が発生する事例もみられます。
海外では、肉類の他、生鮮野菜を食べて感染した事例も発生しています。米国で発生した生のホウレンソウによる食中毒事例では、複数の州で患者が発生し、アメリカ食品医薬品局(FDA)では、感染原因となったホウレンソウの回収や生のホウレンソウの摂取を避ける旨の勧告を行いました。なお、本事例におけるホウレンソウの汚染原因として、菌を持つイノシシが農場に入り、農場を汚染したことが推測されています。

Q9 これまでどのくらい発生があったのですか?

A9

なお、平成19年以降の腸管出血性大腸菌による食中毒の発生状況は次のとおりです。

○ 腸管出血性大腸菌による食中毒の発生状況

※表を左右に動かしてご覧ください。

年度 平成19年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年 令和2年 令和3年 令和4年 令和5年
事件数(件) 25 17 26 27 25 16 13 25 17 14 17 32 20 5 9 8 19
患者数(人) 928 115 181 358 714 392 105 766 156 252 168 456 165 30 42 78 265
死者数(人) 0 0 0 0 7 8 0 0 0 10 1 0 0 0 0 1 0

注)腸管出血性大腸菌による食中毒事件として、厚生労働省に報告があったものを集計しています。

腸管出血性大腸菌による食中毒は、過去10年間では、年間10~30件、患者数は100~1,000人で推移しています。平成28年には共通の原因食品により合わせて10人が亡くなる等、死者の出た事例が発生しています。
なお、感染症法に基づく報告数と比べて、食中毒の患者数が少ない理由としては、感染経路がヒトからヒトへの感染と推定される事例があることや、患者が1人の場合に感染原因を特定することが難しく、飲食物を介した感染であると判断される事例が少ないこと等が考えられます。

Q10 これからも腸管出血性大腸菌は発生しそうなのですか?

A10

腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者を含む)の平成29年の発生状況を見ますと9月6日現在で、47都道府県から2,310名の報告が出ています(最新の発生状況については、https://www.niid.go.jp/niid/ja/data.htmlにて感染症発生動向調査週報の最新号をダウンロードの上、ご覧頂けます。)。
また、海外でも発生が続いています。
前述(Q7)の世界保健機関(WHO)の専門家の会議でも広範な食品が感染の原因となっており、注意が必要と指摘しています。
さらに、これまでの多くは、腸管出血性大腸菌感染症は夏場に発生していますが、その他の季節にも発生していることから、常に腸管出血性大腸菌感染症の発生はあるものと警戒し、十分に注意することが必要です。

Q11 どんな時期に腸管出血性大腸菌は発生しやすいのですか?

A11

食中毒は一般に、気温が高い初夏から初秋にかけて多発します。この時期は、食中毒菌が増えるのに適した気温であり、これに人の体力の低下や食品等の不衛生な取扱い等の条件が重なることにより発生しやすくなると考えられます。平成28の腸管出血性大腸菌の食中毒発生状況をみますと、6月に1件、5人、7月に5件、80人、8月に6件、89人、10月に1件、67人、11月に1件、2人となっており、夏~秋にかけて多いのが分かります。
したがって、初夏~初秋は腸管出血性大腸菌多発期として、十分注意が必要です。
しかしながら、気温の低い時期でも発生が見られることから、夏以外の季節も注意が必要です。

Q12 腸管出血性大腸菌がハエについているのですか?

A12

平成8年11月に、佐賀県内の腸管出血性大腸菌O157の感染者が発生した施設において、採取されたイエバエからも腸管出血性大腸菌O157が検出されました。その後、他の県でも採取されたイエバエから腸管出血性大腸菌O157が検出された例があります。
これまでのところ、ハエと腸管出血性大腸菌O157伝播との直接的な因果関係については不明ですが、ハエ等のいわゆる衛生害虫が、消化器系感染症の原因となりうることは昔から知られています。
食品関係施設はもちろん、一般家庭においても、ハエ等の害虫対策にも注意を払って下さい。

Q13 動物からの感染事例はありますか?

A13

これまでに、ふれあい動物イベント、搾乳体験等を原因とする感染事例が報告されています。牛等の反芻動物では、O157をはじめとする腸管出血性大腸菌を保菌していることがあります。また、反芻動物の糞便に汚染されたウサギ等の小動物の体表から二次的にヒトが感染した事例もあります。

腸管出血性大腸菌の予防方法について(家庭での予防)

Q14 予防は可能なのですか?

A14

腸管出血性大腸菌はサルモネラや腸炎ビブリオ等の食中毒菌と同様加熱や消毒薬により死滅します。したがって、通常の食中毒対策を確実に実施することで十分に予防可能です。

Q15 予防方法はどうすればよいのですか?

A15

腸管出血性大腸菌の予防のポイントは食品の衛生的取扱いです。そのため、次の家庭でできる食中毒予防の6つのポイントを確実に実行し、腸管出血性大腸菌の感染を予防しましょう。

家庭でできる食中毒予防の6つのポイント
- 家庭で行うHACCP(ハサップ:宇宙食から生まれた衛生管理) -
食中毒というと、レストランや旅館等の飲食店での食事が原因と思われがちですが、毎日食べている家庭の食事でも発生しており、発生する危険性がたくさん潜んでいます。
ただ、家庭での発生では、発症する人が1人や2人のことが多く、また症状が軽かったり、風邪や寝冷え等と思われがちで、食中毒とは気づかずに重症になったり、死亡する例もあります。
あなたの食事作りをチェックしてみましょう!
食中毒予防のポイントは6つです。
ポイント1 食品の購入
ポイント2 家庭での保存
ポイント3 下準備
ポイント4 調理
ポイント5 食事
ポイント6 残った食品


ポイント1 食品の購入
■ 肉、魚、野菜等の生鮮食品は新鮮な物を購入しましょう。
■ 表示のある食品は、消費期限等を確認し、購入しましょう。
■ 購入した食品は、肉汁や魚等の水分がもれないようにビニール袋等にそれぞれ分けて包み、持ち帰りましょう。
■ 特に、生鮮食品等のように冷蔵や冷凍等の温度管理の必要な食品の購入は、買い物の最後にし、購入したら早めに帰るようにしましょう。

ポイント2 家庭での保存
■ 冷蔵や冷凍の必要な食品は、持ち帰ったら、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れましょう。
■ 冷蔵庫や冷凍庫の詰めすぎに注意しましょう。めやすは、冷蔵庫や冷凍庫の7割程度です。
■ 冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下に維持することがめやすです。
温度計を使って時々温度を計るとよいでしょう。
細菌の多くは、10℃では増殖がゆっくりとなり、-15℃では増殖が停止しています。しかし、細菌が死ぬわけではありません。早めに使いきるようにしましょう。
■ 肉や魚等は、ビニール袋や容器に入れ、冷蔵庫の中の他の食品に肉汁等がかからないようにしましょう。
■ 肉、魚、卵等を取り扱う時は、取り扱う前と後に必ず手を洗いましょう。簡単なことですが、細菌汚染を防ぐ良い方法です。
■ 食品を流し台の下に保存する場合は、水漏れ等に注意しましょう。

ポイント3 下準備
■ 台所を見渡してみましょう。ゴミはきちんと捨ててありますか?タオルやふきんは清潔なものと交換してありますか?せっけんは用意してありますか?調理台の上は かたづけて広く使えるようになっていますか?もう一度、チェックをしましょう。
■ 井戸水を使用している家庭では、水質に十分注意してください。
■ 手を洗いましょう。
■ 生の肉、魚、卵を取り扱った後には、手を洗いましょう。途中でペット等動物に触ったり、トイレに行ったり、おむつを交換したり、鼻をかんだりした後の手洗いも大切です。
■ 生の肉や魚等の汁が、果物やサラダ等生で食べる物や調理の済んだ食品にかからないようにしましょう。
■ 生の肉や魚を切った後、その包丁やまな板を洗わずに、続けて果物や野菜等生で食べる食品や調理の終わった食品を切ることはやめましょう。生の肉や魚を切った包丁やまな板は、洗ってから熱湯をかけたのち使うことが大切です。包丁やまな板は、肉用、魚用、野菜用と別々にそろえて、使い分けるとさらに安全です。
■ ラップしてある野菜やカット野菜もよく洗いましょう。
■ 冷凍食品等凍結している食品を調理台に放置したまま解凍するのはやめましょう。室温で解凍すると、食中毒菌が増える場合があります。解凍は冷蔵庫の中や電子レンジで行うとよいでしょう。また、水を使って解凍する場合には、気密性の容器に入れ、流水を使います。
■ 料理に使う分だけ解凍し、解凍が終わったらすぐ調理しましょう。解凍した食品をやっぱり使わないからといって、冷凍や解凍を繰り返すのは危険です。冷凍や解凍を繰り返すと食中毒菌が増殖したりする場合もあります。
■ 包丁、食器、まな板、ふきん、たわし、スポンジ等は、使った後すぐに、洗剤と流水で良く洗いましょう。ふきんのよごれがひどい時には、清潔なものと交換しましょう。次亜塩素酸ナトリウム製剤(台所用漂白剤)又は亜塩素酸水に1晩つけ込むと消毒効果があります。包丁、食器、まな板等は、洗った後、熱湯をかけたりすると消毒効果があります。たわしやスポンジは、煮沸すればなお確かです。

ポイント4 調理
■ 調理を始める前にもう一度、台所を見渡してみましょう。下準備で台所がよごれていませんか?タオルやふきんは乾いて清潔なものと交換しましょう。そして、手を洗いましょう。
■ 加熱して調理する食品は十分に加熱しましょう。加熱を十分に行うことで、もし、食中毒菌がいたとしても殺菌することができます。めやすは、中心部の温度が75℃で1分間以上加熱することです。料理を途中でやめてそのまま室温に放置すると、細菌が食品に付いたり、増えたりします。途中でやめるような時は、冷蔵庫に入れましょう。再び調理をするときは、十分に加熱しましょう。
■ 電子レンジを使う場合は、電子レンジ用の容器、ふたを使い、調理時間に気を付け、熱の伝わりにくい物は、時々かき混ぜることも必要です。

ポイント5 食事
■ 食事の前には手を洗いましょう。
■ 清潔な手で、清潔な器具を使い、清潔な食器に盛りつけましょう。
■ 温かく食べる料理は温かく、冷やして食べる料理は冷たくしておきましょう。めやすは、温かい料理は65℃以上、冷やして食べる料理は10℃以下です。
■ 調理前の食品や調理後の食品は、室温に長く放置してはいけません。 例えば、O157は室温でも15~20分で2倍に増えます。
■ 乳幼児やお年寄りのO157等の腸管出血性大腸菌感染症は症状が 重くなりやすく、死亡率も高くなります。特にこれらの年齢層の人々には加熱が十分でない食肉などを食べさせないようにした方が安全です。

ポイント6 残った食品
■ 残った食品を扱う前にも手を洗いましょう。残った食品はきれいな器具、皿を使って保存しましょう。
■ 残った食品は早く冷えるように浅い容器に小分けして保存しましょう。
■ 時間が経ち過ぎたら、思い切って捨てましょう。
■ 残った食品を温め直す時も十分に加熱しましょう。めやすは75℃以上です。味噌汁やスープ等は沸騰するまで加熱しましょう。
■ ちょっとでも怪しいと思ったら、食べずに捨てましょう。口に入れるのは、やめましょう。

食中毒予防の三原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、やっつける」です。
「6つのポイント」はこの三原則からなっています。
これらのポイントをきちんと行い、家庭から食中毒をなくしましょう。
食中毒は簡単な予防方法をきちんと守れば予防できます。
それでも、もし、腹が痛くなったり、下痢をしたり、気持ちが悪くなったりしたら、お医者さんに相談しましょう。
 

Q16 最近、「HACCP(ハサップ)」ってよく聞くけど何ですか?

A16

有効な食中毒対策を行うためには、食中毒を起こす菌をよく知って、これらの菌が食品の製造・加工・調理過程のどこで食品を汚染し、増殖するのかを明らかにしておくことが重要です。

その上で、食中毒菌の汚染や増殖を防ぐ方法を調理過程に組み込むことが必要です。このような予防方法を確実に行うための新しい方法が、「HACCP(ハサップ)」と呼ばれる衛生管理方法です。

れは、米国航空宇宙局(NASA)での宇宙食の開発に当たって、高度に安全性を保証する方式として確立された「危害要因分析に基づく、重要管理点(HACCP)方式」で、食品の生産・製造・加工・消費の工程で発生するおそれのある微生物汚染等の危害要因を分析し、特に原料生産から重点的に管理する事項又は工程を決め、これが守られているかを常時監視するものです。

Q17 食品はどうやって殺菌したらいいのですか?

A17

腸管出血性大腸菌は75℃で1分間以上の加熱で死滅します。
この他、食品に用いる殺菌剤として、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水等が食品添加物としてその使用が認められています。
この効果や使用方法は、濃度、つけおき時間、食品の種類によって異なりますので、各製品の使用説明書をよく読んで使ってください。
なお、野菜の腸管出血性大腸菌を除菌するには、湯がき(100℃の湯で5秒間程度)が有効であるとされています。

Q18 野菜にも気をつけた方がよいのでしょうか?

A18

野菜が原因とされる腸管出血性大腸菌の感染例も報告されています。したがって野菜の衛生管理にも十分注意して下さい。具体的には、以下の事項に気をつけて下さい。
(1) 野菜は新鮮なものを購入し、冷蔵庫で保管する等保存に気をつける。
(2) ブロッコリーやカリフラワー等の形が複雑なものは、熱湯で湯がく。
(3) レタス等の葉菜類は、一枚ずつはがして流水で十分に洗う。
(4) きゅうりやトマト、りんご等の果実もよく洗い、皮をむいて食べる。
(5) 食品用の洗浄剤や次亜塩素酸ナトリウム、又は亜塩素酸水等の殺菌剤を使ったり、加熱することにより殺菌効果はより高まります。

Q19 まな板やふきんをしっかり洗うようにとよく言われますが、どのように洗えばよいのですか?

A19

まな板は、使用の都度、洗浄剤でしっかり洗い、熱湯、次亜塩素酸ナトリウム製剤(台所用漂白剤)、亜塩素酸水(※1)等で消毒するとよいでしょう。
【使用例】
(1)洗剤(台所用合成洗剤)洗浄 →水洗浄 → 湯(55℃)すすぎ →沸騰水かけ
(2) 洗剤(台所用合成洗剤)洗浄 →水洗浄 →湯(55℃)すすぎ →次亜塩素酸ナトリウム(濃度200ppm、1時間浸漬)・亜塩素酸水(※1)(遊離塩素濃度25ppm(含量 亜塩素酸として0.05%≒500ppm)、30分以上浸漬)
また、野菜や果実等生食用食品に用いるまな板と、肉や魚等に用いるまな板は使い分けることが必要です。
なお、傷ついた古いまな板(特に木製)は、表面が洗浄されにくいので、十分に注意しましょう。
ふきんやスポンジは、菌が増殖しやすいので、十分に煮沸や消毒し、よく乾燥しておくことを心がけましょう。
※1: 有機物が存在する環境下での使用を想定した報告がなされています。

Q20 電子レンジで加熱すれば菌は死滅するのですか?

A20

腸管出血性大腸菌は75℃で1分間以上の加熱で死滅します。レンジで調理する時も、食品全体をむらなく75℃で1分間以上加熱すれば、菌は死滅します。
電子レンジを使う場合は、電子レンジ用の容器、ふたを使い、調理時間に気を付け、熱の伝わりにくい物は、時々かき混ぜることも必要です。
しかし、食べ物を単に温めるだけでは、菌は死滅しないので注意が必要です。

Q21 食器乾燥機を使うと菌は抑えられますか?

A21

細菌が増えるためには水分が必要です。従って、細菌の増殖を防止するために食器類を十分洗った後、水滴を拭き取り、乾燥させることが有効です。また、十分な加熱により菌は死滅します。このため、食器乾燥機で食器を加熱・乾燥させることは、菌を死滅させたり、菌の増殖を抑えるために有効と考えられます。

腸管出血性大腸菌の予防方法について(食品の安全性)

Q22 食肉の安全対策はどのように実施されていますか?

A22

牛等を食用に供する目的でとさつ解体することは、と畜場法によりと畜場以外では行ってはならないとされています。と畜場に搬入され、とさつ解体される牛等は、すべてと畜検査員の検査を受けなければなりません。検査は、まず生体検査を行い、合格したものだけがとさつを許され、次いで解体前の検査を行い、合格したものが解体を許されます。さらに、解体後の内臓及び枝肉等の検査を行い、すべてに合格したもののみが食用に供することを認められます。
また、と畜場では検査員の監督下で衛生的な処理が行われていますが、平成8年の腸管出血性大腸菌の集団食中毒事件の多発を踏まえ、腸管出血性大腸菌が存在するとされる家畜の腸内容物や体表面の汚染物に食肉が汚染されることのないよう、と畜場法に基づく処理や消毒方法、施設設備の基準を改正しました。
と畜場の総合的な衛生状態を監視するために、枝肉の微生物検査が行われ、汚染が高い場合、その原因の究明、処理工程の見直し等を行うことにより、と畜場の衛生管理システムの向上が図られています。(Q51 1(3)参照 )

Q23 食肉は、熱を通せば大丈夫ですか?

A23

腸管出血性大腸菌は75℃で1分間以上の加熱で死滅しますので、食肉も加熱して食べる限り、安全です。
特に、ハンバーグ等の挽肉を使った食品、テンダライズ処理(針状の刃を刺し通し、原形を保ったまま硬い筋や繊維を短く切断する処理)、タンブリング処理(調味液を機械的に浸透する処理)、結着(他の食肉の断片を結着させ成型する処理)を行った食肉は、中心部まで75℃で1分間以上加熱して食べましょう。

Q24 加熱不十分な食肉を製造、調理、販売する上で注意することは何ですか?

A24

生食用の牛の肉については、平成23年10月に生食用食肉の規格基準が定められています。また、馬の肉については、平成10年に生食用食肉の衛生基準が定められています。しかしながら、これらに適合したものであっても、食中毒菌を完全に除去することは困難なため、特に子ども、高齢者等の抵抗力の弱い方は生肉を控える必要があります。
また、加熱用を除き、生の牛レバーや生の豚肉・レバーを含む内臓を販売・提供することは禁止されています。

Q25 生ハム等は大丈夫ですか?

A25

生ハムを含め食肉製品は、熱、水分活性、pH及び保存温度により、製造基準並びに保存基準が設けられており、許可を受けた施設において適切な方法により製造され、適切な温度管理のもとで、製造・保存されています。したがって、定められた基準を遵守して製造・保存されているのであれば、食品衛生上の問題はありません。

Q26 低温殺菌の牛乳では、腸管出血性大腸菌も殺菌されていますか?

A26

低温殺菌牛乳は殺菌条件である63℃で30分の加熱処理されており、腸管出血性大腸菌は死滅します。

Q27 子供にヨーグルトを食べさせたいのですが、ヨーグルトの衛生管理は大丈夫ですか?

A27

ヨーグルトは、発酵乳として規格基準が定められており、その原料を63℃で30分間加熱殺菌するか、又は、これと同等以上の殺菌効果を有する方法で殺菌しなければなりません。この殺菌条件で腸管出血性大腸菌は死滅します。また、成分規格では、腸管出血性大腸菌を含む大腸菌群が陰性であることが決められています。

Q28 輸入食品はどんな検査をしているのですか?

A28

輸入食品については、検疫所において牛肉や野菜を輸入する輸入者に対して、腸管出血性大腸菌について検査を実施し、汚染がないことを確認するよう指導しています。
また、検疫所において、牛肉や野菜について輸入時の監視を実施しており、違反の可能性が高い食品については、輸入の都度、その他の食品は一定の違反を発見できる検体数に基づく年間計画により、腸管出血性大腸菌の検査を実施しています。

Q29 水道水は安全だと聞きましたが、井戸水やマンションの受水槽の水も安全ですか?

A29

水道水の残留塩素濃度は、水道法で蛇口部分で0.1mg/リットル以上と定められており、この濃度で大腸菌は十分死滅します。従って、一般に水道水は塩素消毒がきちんとされているので安全です。ただし、長期間水道を利用しなかった場合には、水道管内に水がたまっているため、残留塩素濃度が低くなっていることがあります。そのような場合は、水をしばらく流してから使用するようにしてください。
また、井戸水については大腸菌の有無、共同住宅(マンション等)の受水槽については残留塩素の有無を定期的に検査するよう設置者又は管理者に指導されており、この結果に異常がなければ安心です。施設の設置者又は管理者は定期的に検査を行うようにしてください。

Q30 浄水器を通すと残留塩素が除去できると聞きましたが、飲んでも安全ですか?

A30

塩素消毒がきちんとされている水道水であれば、大腸菌については問題ありません。しかし、浄水器を通した水は、残留塩素が減少しているため、長期間汲み置きした水は飲まない方がよいでしょう。また、水道を長期間使用しない場合は、その後に使用する前に、水をしばらく流してから使用するようにして下さい。なお、浄水器については、カートリッジの使用期限等、使用上の注意をしっかり守り、清潔に保つことが重要です。

腸管出血性大腸菌の予防方法について(その他)

Q31 外食する時腸管出血性大腸菌に感染しないか心配です。大丈夫でしょうか?

A31

都道府県等において、飲食店に対して衛生管理の徹底を指導し、安全性の確保に努めていますのでいたずらに不安になる必要はありません。

Q32 プールで腸管出血性大腸菌に感染することはありますか?

A32

市民プール、民間のプール等のいわゆる遊泳用プールについては衛生基準が設定されており、それに従い定期的に塩素濃度を測定して、殺菌力が低下した場合には殺菌剤を追加するとともに、プールの水に大腸菌が含まれていないかどうか調査しています。
家庭用プールについては、水道水を利用し、使用のたびに水を交換しましょう。また、患者や下痢をしている子供等は、プールに入らせないようにしましょう。

Q33 公衆浴場・温泉で感染することがありますか?

A33

公衆浴場や温泉では、浴槽にお湯を常に入れることであふれさせたり、完全に浴槽水を入れ替えたりして、また循環ろ過装置や消毒剤を用いて浴槽水をきれいにしています。
また、公衆浴場や温泉の営業者は、利用者が浴槽に入る前に、せっけんを用いて体を洗ってもらったり、下痢症状のある方の共同浴場への入浴を控えてもらうようお願いし、安全性の確保に努めています。
なお、浴槽水を飲まないようにしましょう。

Q34 動物とのふれあいの際にはどのようなことに注意すればよいですか?

A34

動物とのふれあいは、情操の涵養(かんよう)等のため有意義ですが、感染予防のため、次のようなことに注意する必要があります。なお、乳幼児等は監督者による十分な注意が必要です。
・ 動物とふれあった後には、必ず、石けんを使用して十分に手洗いをしましょう。
・ 動物の糞便には触れないようにしましょう。
・ 動物とは、キス等の過剰なふれあいをしないようにしましょう。
・ 動物とふれあう場所では、飲食や喫煙等をしないようにしましょう。
【参考】
○ ガイドライン
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/pdf/02-11.pdf
○ ポスター
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/pdf/02-12.pdf
 

腸管出血性大腸菌の症状と診断について

Q35 腸管出血性大腸菌に感染するとどんな症状になるのですか?

A35

腸管出血性大腸菌の感染では、全く症状がないものから軽い腹痛や下痢のみで終わるもの、さらには頻回の水様便、激しい腹痛、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし、時には死に至るものまで様々な巾があります。しかし、多くの場合(感染の機会のあった者の約半数)は、おおよそ3~8日の潜伏期をおいて頻回の水様便で発病します。さらに激しい腹痛を伴い、まもなく著しい血便となることがありますが、これが出血性大腸炎です。発熱はあっても、多くは一過性です。
これらの症状の有る者の6~7%の人が、下痢等の初発症状の数日から2週間以内(多くは5~7日後)に溶血性尿毒症症侯群(HUS)や脳症等の重症合併症を発症するといわれています。
激しい腹痛と血便がある場合には、特に注意が必要です。

Q36 血便があるのですが、腸管出血性大腸菌に感染したのでしょうか?

A36

血便の原因には、腸管出血性大腸菌等の腸管出血性大腸菌感染症以外にも、細菌性赤痢等の他の感染症、腸重積、大腸がん、あるいは痔疾(ぢ)等、さまざまな原因があります。原因を調べるためには、医療機関で検査を受けることが必要です。血便は重要な注意信号の一つです。腸管出血性大腸菌感染症だけを恐れるのではなく、症状があるときには医師に相談してください。

Q37 HUSって何ですか?

A37

HUSとは溶血性尿毒症症侯群(Hemolytic Uremic Syndrome)の略です。様々な原因によって生じる血栓性微小血管炎(血栓性血小板減少性血管炎)による急性腎不全であり、(1)破砕状赤血球を伴った貧血、(2)血小板減少、(3)腎機能障害を特徴とします。HUSの初期には、顔色不良、乏尿、浮腫、意識障害等の症状が見られます。
HUSは腸管出血性大腸菌感染の重症合併症の一つであり、子どもと高齢者に起こりやすいのでこの年齢層の人々には特に注意が必要です。

Q38 腸管出血性大腸菌は人からうつるのですか?

A38

腸管出血性大腸菌の感染は、飲食物を介した経口感染であり、菌に汚染された飲食物を摂取したり、患者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入ることによって感染します。
腸管出血性大腸菌は100個程度の菌数でも感染すると言われていますが、感染するのは菌に汚染された飲食物を摂取したり、患者さんや無症状病原体保有者(以下、「患者さん等」と書きます。)の糞便で汚染されたものを口にした場合だけで、職場や学校で話をしたり、咳・くしゃみ・汗等では感染しません。
ヒトからヒトへの感染を予防する基本は手洗いです。排便後、食事の前、下痢をしている子どもや高齢者の排泄物の世話をした後等は、せっけんと流水(汲み置きでない水)で十分に手洗いをしましょう。
空気感染や接触感染をするものではありません。誤った知識から腸管出血性大腸菌の患者さん等が差別や偏見を受けることのないように気を付けましょう。

Q39 母乳から感染することはありますか?

A39

母乳の中には腸管出血性大腸菌は含まれていないので、母乳を介して感染することはありません。日頃から清潔に心がけ、特に授乳の際には乳首等を清潔にしてください。

Q40 どんな検査をすると腸管出血性大腸菌だとわかるのですか?

A40

下痢の原因となる病原体には、腸管出血性大腸菌等の病原大腸菌以外にもさまざまな細菌やウイルス、原虫等があります。しかし、腸管出血性大腸菌のように出血性大腸炎をおこし、HUS等の合併症をおこすのはベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌といわれるものです。
下痢の原因が腸管出血性大腸菌によるものかどうかは、便の検査によって調べることができます。便から大腸菌が検出された場合には、「血清型」といわれる大腸菌の分類の検査やベロ毒素産生能の検査を行います。ベロ毒素産生能があれば腸管出血性大腸菌であり、「血清型」の分類により、腸管出血性大腸菌O157やそれ以外にもO26やO111等であることがわかります。

Q41 診断薬は開発されたのですか?

A41

人の便中の腸管出血性大腸菌を検出する試薬(診断薬)として日本で承認されているものは、23製品あります(平成19年6月30日現在)。これらは腸管出血性大腸菌O157の菌体を検出するもの、あるいは、腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素を検出するものに分けられます。
また、これらの中には人の便から菌を培養した後に、大腸菌が腸管出血性大腸菌O157かどうか判定する診断薬と、糞便から腸管出血性大腸菌O157を直接数時間以内に検出する迅速検査の診断薬があります。ベロ毒素を検出する診断薬も、同じように、菌を培養した後に検査するものと直接糞便から迅速検査を行うものがあります。
さらに、これらの他、血清中の腸管出血性大腸菌O157に対する抗体を検出するための診断薬もあります。

腸管出血性大腸菌の治療方法について

Q42 下痢の時はどうしたらいいですか?

A42

腸管出血性大腸菌は下痢を起こす原因のごく一部にすぎません。下痢の原因が腸管出血性大腸菌であるかどうかを確認するために、必ず医師の診察を受けましょう。
下痢の治療の基本は、安静、水分補給、消化しやすい食事の摂取等です。これらのことに気を付け、医師の指示に従いましょう。
なお、下痢便の付着した衣服については、他の人の衣服と別に洗濯するようにしましょう。(Q45参照)

Q43 市販の薬は使っていいのですか?

A43

腸管出血性大腸菌感染症と診断された場合には、医師の診断に基づいた治療を受けることが最も大切です。
腸管出血性大腸菌による感染症の治療には、使わない方が良いとされる薬もあります。たとえば、腸管の運動を抑える働きの下痢止め薬や痛み止め薬の中には、ベロ毒素が体外に排出されにくくするものがあります。自分の判断で薬を服用せずに医師の診察を受けましょう。

Q44 治療薬はできたのでしょうか?

A44

現在、様々な方面から研究開発が進められておりますが、特に,腸管出血性大腸菌が産生する毒素に対して特異的に結合中和する「モノクローナル抗体」や中和剤の開発が進められています。

Q45 万一感染していたら、家族はどんなことに注意したらいいのですか?

A45

まず必要なことは、患者さんと同じ飲食物を摂取した家族が感染していないかどうか、あるいは患者さんから家族への感染がないかどうかの診断を受けることです。この時に便の検査は、症状がなくても行われることがあります。同時に、家庭内の消毒についての知識を得て、必要な範囲での消毒を行います。また、2次感染予防のために、日常生活での患者さんへの接し方についての知識を得て実行することが大切です。これらのことは保健所の職員が指導していますので、良く聞いて、分からないことがあれば質問してください。

○ 家庭での主な注意点は以下の通りです。

・ 水洗トイレの取っ手やドアのノブ等、菌の汚染されやすい場所を逆性石鹸、消毒用アルコール、次亜塩素酸ナトリウム(※2)や亜塩素酸水等を使って消毒する。ただし、次亜塩素酸ナトリウム(※2)は金属腐食性があり、消毒以外の薬剤の拭き取りを十分にするよう注意が必要。また、亜塩素酸水もステンレス以外の金属製品に付着するとサビや変色を起こすことがあり、薬剤の「使用上の注意」の確認が必要。
  ※2: 家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤でも代用可能。
・ 患者本人は、調理や食事の前及び用便後に流水(汲み置きでない水)で十分に手を洗い、逆性石鹸や消毒用アルコールで消毒する。
・ 家族の者も食事前等は流水で十分に手を洗う。
・ 患者の便を処理する場合(おむつの交換等)にはゴム手袋や使い捨ての手袋等を用いる。ゴム手袋を用いた場合には使用後に消毒する。また、おむつ交換による汚染の拡大を防止するため、決められた場所で行う。
・ 患者の便で汚れた下着は、薬品等の消毒(つけおき)をしてから、家族のものとは別に洗濯する。また、煮沸をしても十分な消毒効果があります。
・ 患者はできるだけ浴槽につからず、シャワー又はかけ湯を使う。
・ 患者が風呂を使用する場合は他の家族と一緒にはいることは避け、乳幼児は患者の後に入浴しないように気を付ける。風呂の水は毎日替える。バスタオルは、ひとりで一枚を使用し、共用しない。

Q46 便の検査を受けたところ、症状はないのですが腸管出血性大腸菌が検出されたと言われましたがどうすればよいですか?

A46

症状がないにもかかわらずベロ毒素を産生する菌であることが確認された場合、こうした人を「無症状病原体保有者」といい、本人に症状がなくても、他の人にうつす可能性があります。そのため、感染症の法律上は、患者と同様に便の検査でベロ毒素産生菌が陰性になるまでの間は飲食物の製造や飲食物に直接接触するような業務につくことが制限されます。
なお、自然に菌が陰性化することもあり、引き続き便の検査を受けて菌が便中にいなくなったかどうかを観察する必要があります。また、抗菌剤を使って治療することも菌の陰性化に有効ですが、これらも含めて診断した医師とよく相談して対応を決めることが大切です。
【参考】
腸管出血性大腸菌感染症の治療については、「一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版)」をご参照ください。
アドレス https://www.mhlw.go.jp/www1/o-157/manual.html

感染症法について

Q47 感染症法では、どのような取扱いになっていますか?

A47

腸管出血性大腸菌感染症は、平成11年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(「感染症法」)では、三類感染症に位置づけられています。三類感染症とは、感染力、かかった場合の重症度等からみると危険性が非常に高いとはいえないが、特定の業務(飲食物を取扱う業務等)に従事することによって他者への感染を起こす可能性があるとされるものです。対応する措置としては、飲食物を取扱う業務(Q46参照)への就業制限、消毒等があります。
患者さん等の治療にあたっては、必要に応じ、医療の観点から、腸管出血性大腸菌感染症についても入院して頂く場合があります。また、便の検査でベロ毒素産生菌が陰性であること(病原体を保有していないこと)が確認されれば就業制限は解除されます。
なお、医師は、腸管出血性大腸菌感染症の患者さん等を診断したときは、最寄りの保健所長に届け出る義務があります。

Q48 飲食店を経営していますが、感染症法が適用されるとどうなるのですか?

A48

患者さん等の自覚に基づいて、自発的に休暇を取ったり、就業制限対象業務以外の業務に一時的についたりすること等が基本ですが、感染症法においては、都道府県知事等が当該患者本人に対して、必要に応じて就業制限を通知することになっています。就業制限の対象となるのは、飲食物の製造、販売、調整または飲食物に直接に触れる業務です。具体的には「Q49飲食店の従業員等が感染した場合に、業務から離れなければいけませんか?」を参照してください。
また、提供した飲食物が腸管出血性大腸菌感染症の原因となった場合は、食品衛生法に基づいて営業の停止等の措置がなされます。

Q49 飲食店の従業員等が感染した場合に、業務から離れなければなりませんか?

A49

腸管出血性大腸菌感染症に対する就業制限は、特定の業務に対して(Q48参照)行われ、その期間は、検便で菌が陰性化するまで(病原体を保有しなくなるまで)の間です。
従って、例えば、飲食店の調理員等の業務には就業制限がかかりますが、その飲食店の会計係等の飲食物に直接触れることのない業務には就業制限はかかりません。
これらの就業制限は、一定の業務につくことを制限したものであり、当該職場における就業全体を禁止したものではないので、便中の菌が陰性になるまでの一時的な業務の変更等で対応可能です。誤った知識や誤解から、患者さん等が長期の休暇や解雇等の社会的不利益を受けることのないよう、注意が必要です。

行政の対応について

Q50 腸管出血性大腸菌感染症の患者が発生した場合、どんな調査が行われますか?

A50

腸管出血性大腸菌感染症の患者が発生した場合、医師は保健所に届出をしなければなりません。
医師からの届出により腸管出血性大腸菌の感染症又は食中毒が発生していることを探知した保健所は、患者の過去の行動調査(喫食調査、動物との接触歴等)や、患者の家族の健康調査、利用した施設の調査、関係食品等の試験検査等を行います。
調査の結果、食中毒と判断された場合、被害の拡大防止のため、原因食品の回収・廃棄や、原因施設の営業の禁停止等の措置がとられます。また、感染症であった場合は、感染源の消毒等が行われます。
なお、複数の地域で単発的に発生しているようにみえても、広域に流通する同一食品を原因とする食中毒の発生もあることから、食中毒調査では、食品の流通状況のさかのぼり調査や、患者や食品から検出された菌のDNAの型の確認を合わせて行っています。

Q51 厚生労働省ではどんな対策を行っているのですか?

A51

厚生省(当時)では平成8年3月に食品衛生調査会食中毒部会に大規模食中毒等対策に関する分科会を設置し、近年の食中毒事例の大規模化問題を検討しておりましたが、平成8年5月以降、腸管出血性大腸菌O157の食中毒が大量に発生したことから、次の対策を行っています。
1 発生予防対策(食中毒予防対策)
腸管出血性大腸菌による食中毒の発生を予防するため、昨年来、集団給食施設等に対する監視・指導の強化、とちく場・食肉処理場における衛生管理の徹底等を実施してきました。
具体的には、次のことに取り組んでいます。
(1) 食中毒予防のための家庭用手引の普及
家庭に対して食中毒を予防するための調理上の注意事項を示した家庭用の手引(平成9年3月作成)の普及を図っています。
(2) 大量調理施設衛生管理指針の普及
集団給食施設等の大量調理施設における食中毒の発生防止を図るため、調理工程等における重要管理事項を定めた大量調理施設衛生管理指針(平成9年3月作成)の普及を図っています。
(3) 食肉の衛生管理の徹底
平成8年及び9年にと畜場法の施設基準及び衛生管理基準を改正し、と畜、解体、処理の過程で腸管出血性大腸菌等の病原微生物を含む牛等の体表の付着物や消化管の内容物が食肉を汚染しないよう措置を講じました。また、枝肉の微生物汚染の全国的な実態を把握し、衛生管理の向上に資するため、毎年、と畜場における枝肉の微生物汚染実態調査を実施しています。
(4) 食材の汚染実態調査
平成10年から腸管出血性大腸菌を含む病原大腸菌、サルモネラ等について、挽肉、生レバー、生食用野菜等の食材の汚染実態について、毎年約3,000検体の全国的な調査を行い、陽性食品の処分や注意喚起を行っています。
(5) 集団給食施設の衛生管理者の研修
集団給食衛生管理者に対し、食品の衛生管理に関する研修を実施するよう、都道府県に対し求めています。
(6) 集団給食施設用指導ビデオの普及
集団給食施設の衛生管理に関する指導用ビデオを作成し、その普及を図っています。
(7) 国民への普及啓発
多様な媒体や方法を通じ、国民に対して食中毒の発生防止に役立つ情報を提供しています。
2 原因究明対策
(1) 食中毒発生時の対策要領の改訂
都道府県等において、食中毒が発生した場合の対策要領を予め定める等必要な措置を講じるよう求めています(平成9年3月通知)。
(2) 食中毒調査のための指針の普及
保健所が行う食中毒調査の具体的な実施方法を定めた食中毒調査の指針(平成9年3月作成)の普及を図り、必要に応じ、菌のDNAの型の確認を行うよう都道府県等に対して求めています。
(3) 腸管出血性大腸菌の検出・解析技術の向上
腸管出血性大腸菌の迅速かつ確実な検出・解析等を行うため、国立感染症研究所において地方衛生研究所の研究員等を対象として、パルスフィールド電気泳動法、ビーズ法による菌の分離等に関する研修を実施しました。
(4) 食品からの検出方法の改訂
研究班の成果を受け、食品中からの腸管出血性大腸菌O157の検出方法を改訂しました(平成9年7月)。また、平成18年11月には、O157に加えてO26を検出する方法に改訂しました。
3 診断治療対策
(1) 「一次、二次医療機関のためのO157感染症治療のマニュアル」
医療機関においてO157を早期に診断し、早期に適切な治療が実施できるよう医療機関に対する周知を行っています。
(2) 治療薬の開発の推進
腸管出血性大腸菌が産生する毒素に対して特異的に結合中和する「抗II型志賀様毒素ヒト型化モノクローナル抗体」を希少疾病用医薬品に指定しました(平成13年4月)。今後、助成金の交付、試験研究に対する指導・助言等を行い、開発の推進を図ります。
(3) 患者さん等の発生状況の把握
腸管出血性大腸菌感染症と診断した医師は感染症法に基づいて届出を行うこととなっています。それを集計して全国の発生状況は感染症発生動向調査週報(IDWR:国立感染症研究所感染症情報センターホームページ)等により週単位で公表しており、地域において発生が異常に多い場合等に把握することが可能です。

Q52 腸管出血性大腸菌についてどんな研究をしているのですか?

A52

腸管出血性大腸菌の研究はこれまで多角的な視点から行われており、現在までに行われた主な研究成果の一部を紹介します。

○ 腸管出血性大腸菌感染症の診断法、治療法の研究
O157を含めた種々の血清型の菌体を一度に検出可能な診断法、感染後に 体内でベロ毒素を中和、細菌に腸管粘膜への定着を阻止して合併症の発症を抑制する新たな治療法の開発に関する研究を推進しています。

○ 免疫学的検査法の有用性
臨床での迅速診断には免疫学的検査法がPCR法や培養法に比較して簡便性、迅速性において優れており、腸管出血性大腸菌の感染を早期に推定し、吸着剤の適用を決定する手段としては、有用であると考えられています。

○ 抗菌剤が治療に有効かどうか、特にHUSの合併率を減少させるかどうかの調査研究により、ホスホマイシンがHUSの合併率を減少させる可能性があることがわかってきました。

Q53 どこに相談すればいいのですか?

A53

最寄りの保健所で健康相談を受けることができます。その上で、腸管出血性大腸菌に関して二次感染の恐れがあり、健康に不安を抱いている方等に関しては、便の検査が受けられます。なお、下痢等の症状のある方は、かかりつけの医師の受診をお勧めします。血便のある方は速やかに受診をしてください。

照会先

● 健康局結核感染症課
Q9及びQ10(腸管出血性大腸菌感染症について)
Q13及びQ34(動物からの感染について)
Q42からQ46(治療法について)
Q47からQ49(感染症法について)

● 医薬・生活衛生局水道課
Q29及びQ30(水道水について)

● 医薬・生活衛生局生活衛生課
Q32及びQ33(プール、公衆浴場及び温泉について)

● 医薬・生活衛生局審査管理課
Q41(診断薬について)

● 医薬・生活衛生局食品監視安全課
食中毒について、その他

ご協力いただいた専門家(五十音順、敬称略)

* 平成19年8月改訂時
** 平成29年9~10月改訂時
*** 令和3年12月改訂時

朝倉  宏 国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部長(***)
大西 貴弘 国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部第二室長(***)
大西  真 国立感染症研究所細菌第一部長(**)
工藤由起子 国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部長(***)
品川 邦汎 岩手大学農学部教授(*)
寺嶋  淳 国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部長(**)
花木 賢一 国立感染症研究所安全実験管理部長(***)
山本 茂貴 国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部長(*)
吉倉  廣 元国立感染症研究所長(*)
渡邉 治雄 国立感染症研究所副所長(*)