福祉・介護てんかん対策
1.てんかんとは
「てんかん」とは、「てんかん発作」を繰り返し起こす状態です。「てんかん発作」は、脳にある神経細胞の異常な電気活動により引き起こされる発作のことで、突発的に運動神経、感覚神経、自律神経、意識、高次脳機能などの神経系が異常に活動することで症状を出します。そのため、「てんかん発作」ではそれぞれの神経系に対応し、体の一部が固くなる(運動神経)、手足がしびれたり耳鳴りがしたりする(感覚神経)、動悸や吐き気を生じる(自律神経)、意識を失う、言葉が出にくくなる(高次脳機能)などのさまざまな症状を生じます。
原因
脳が発生する過程で生じた構造の異常、代謝異常症、遺伝子の異常などの生下時からの原因だけではなく、頭部外傷、中枢神経感染症、自己免疫性脳炎、脳卒中、認知症等のさまざまな脳の疾患が原因となります。
有病率
てんかんのある方は1000人に5~8人(日本全体で60万~100万人)と言われています。乳幼児から高齢者のいずれの年齢層でも発症します。特に小児と高齢者で発症率が高くなりますが、30~40代の方でも発症することもあります。
症状
「てんかん発作」には様々な種類があり、異常な電気活動を起こしている脳の部位に対応した様々な症状が出現します。「てんかん発作」は、ほとんどの場合数秒~数分間で終わりますが、時には数時間以上続くてんかん重積状態も起こります。
例えば「全般性強直間代発作」では多くの場合、意識がなくなり、全身が硬くなった後(強直相)、全身をガクガクとさせます(間代相)。症状が軽い場合には、一方の腕や顔の一部だけが数秒間だけ固くなるだけの方もいます。また、突然反応がなくなり数秒間だけ宙をみつめるのが発作の症状の方では、転倒したりけいれんしたりすることもなく、他者からは気づかれないかもしれません。
発作の前に決まって何かの臭いを感じるなど、何らかの感覚でこれから発作の起こることがわかる方もいます。こうした前触れの症状は「前兆」と呼ばれます。
治療
まず、抗てんかん薬による治療を行います。抗てんかん薬は「てんかん」の原因を取り除くことはできませんが、「てんかん発作」を起こりにくくします。抗てんかん薬には様々な種類があります。発作の種類やその他の状況(年齢、性、副作用など)により、使用する抗てんかん薬は異なります。
抗てんかん薬を内服することで、大部分の方は発作が抑制され、さらに一部の方では数年後には薬をやめることができるようになります。抗てんかん薬を内服しても発作が充分に抑えられない場合には、脳外科手術により発作が抑制されることもあり、食事療法や迷走神経刺激術といった他の治療により発作が軽減する方もいます。
2.てんかんについての啓発活動
てんかんに関して正しく理解していただくために、各種団体が啓発活動を実施しています。
てんかん月間(毎年10月)
てんかん運動10周年の1983(昭和58)年に、てんかんに関する啓発活動を全国で取り組む「強化月間」として制定されました[2012(平成24)年までは、毎年11月]。2013(平成25)年からは、日本てんかん協会と日本てんかん学会が10月に実施しています(10月は、日本てんかん協会が設立された月であるとともに、初めて日本てんかん学会の学術集会が開催された月です)。本月間にあわせ、全国大会等のイベント、講演会、街頭署名活動など、全国でさまざまな啓発活動が行われています。
世界てんかんの日(毎年2月の第2月曜日)
国際てんかん協会(International Bureau for Epilepsy: IBE)と国際抗てんかん連盟 (International League Against Epilepsy: ILAE)は、1997(平成9)年に世界保健機関(WHO)とともに、グローバルキャンペーン「てんかんを日陰から日向へ」を開始しました。IBEとILAEは、2015(平成27)年から2月の第2月曜日を「世界てんかんの日(International Epilepsy Day: IED)」に定めました(ヨーロッパ等では聖ヴァレンタインをてんかんのある人々を庇護した聖人として称えており、バレンタインデー直前の月曜日が選ばれました)。2016年より日本てんかん協会と日本てんかん学会の共催で東京で記念イベントを開催し、各種の啓発活動を行っています。
パープルデー(毎年3月26日)
カナダに住む一人の女の子、キャシディ―・メーガンさんが始めたキャンペーンです。この日は、世界各国の人がてんかんをもつ人への応援のメッセージを込めて「紫色のもの」を身につけます。講演会や音楽イベントなど、皆が楽しみながらてんかんへの理解を深められるイベントが各地で開催されます。
3.てんかん医療についての対策
てんかんのある方が地域で適切な支援が受けられるよう、てんかん診療の地域連携・ネットワークを構築し、全国で均一なてんかん診療を行える体制を整備する事業で、平成27年度より厚生労働省の補助事業として実施されています。本事業では、診療連携体制構築のほか、地域の住民に関する啓発活動、てんかんのある方やそのご家族への相談支援体制の構築、医療従事者への情報提供や研修の充実なども含まれています。
第7次医療計画
平成30年度からの第7次医療計画では、多様な精神疾患等に対応できる医療連携体制を構築するために、「良質かつ適切な精神障害に対する医療の提供を確保するための指針」を踏まえて、てんかんも含め疾患ごとに医療機能を明確にしていきます。
てんかん専門医制度
日本てんかん学会ではてんかんの適切な診断と治療を行うのに必要な臨床経験を有する医師を養成し、てんかんをもつ方の医療に寄与することを目的としててんかん専門医制度を設けています。
全国の主なてんかん診療施設のリストを掲載したサイトです(てんかんの診療次元が二次診療以上と自己申告している施設の一覧です)。平成29年はじめに、全ての保健所に、全国を8つに分けた各地区ごとの施設一覧が配布されています。
難病対策
てんかん発作を主な症状とする疾患には、難病に指定されているものがいくつかあります。
4.てんかんについての相談窓口
てんかん診療拠点病院
てんかん診療支援コーディネーターが配置されており、てんかんをもつ方やご家族への支援を行っています。
保健所
保健、医療、福祉に関する相談、未治療、医療中断の方の受診など幅広い相談を行っています。
電話、面談による相談があり、保健師、医師、精神保健福祉士などの専門職が対応します。また、相談者の要望によって、保健師が家庭を訪問して相談を行うこともできます。
面談や訪問を希望される場合は事前に電話で予約されることをお勧めします。多くの場合は相談者の居住地の担当保健師が対応します。自分の担当地域の保健師と会っておくと、その後の相談もスムーズに進みます。相談をご希望の場合、詳しくは、下記のリンク先よりご希望の保健所にご連絡をお願いします。
精神保健福祉センター
各都道府県・政令指定都市ごとに1ヵ所ずつあります(東京都は3ヵ所)。「こころの健康センター」などと呼ばれている場合もあります。
センターでは、精神保健福祉全般にわたる相談を電話や面接により行っています。センターの規模によって異なりますが、医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、臨床心理技術者、作業療法士などの専門職が配置されています。
このほかデイケア、家族会の運営などの事業も行っていますが、センターによってその内容が異なりますので、詳しくは、下記のリンク先より電話をするか、ホームページなどでご確認をお願いします。
5.てんかんに関連する学会等
てんかん学並びにこれと関連する学術の進歩向上を図ることを目的として、医師を中心として設立された学術団体です。医療専門家、てんかんをもつ方々や支える人々、政府、および公衆に対して、てんかんをもつ人への理解およびてんかんの診断・治療に不可欠な教育的、研究的資源情報を共有する機会を提供することを使命としています。また、てんかん学を通じて日本の医学会にも貢献しています。
てんかんに関する正しい知識の普及啓発及びその理解の促進、てんかんに関する情報誌等資料の作成及び普及、てんかんのある人とその家族に対する相談及び指導等の支援、てんかんに関する調査研究、国内外の関連団体等との連携及び交流、てんかんに関する諸制度の推進等幅広い領域での活動を行うことにより、てんかんのある人及びその家族の福祉の増進に寄与することを目的とする組織です。てんかんに対する啓発、てんかんに悩む人たちの社会援護活動、てんかん施策の充実をめざした調査研究や全国的な運動を行っています。
我が国におけるてんかんセンターの質の向上、てんかんの医療連携の促進、てんかんケアの普及、並びに会員相互の交流・情報交換を目的とする団体で、全国のてんかんセンターが相互に緊密な連携を図り、多職種による議論、研修、情報交換などを行っています。
6.てんかんについての研究
厚生労働省科学研究
- 研究課題名:てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究
- 研究年度:平成23年度 ~ 平成25年度
- 研究開発代表者:大槻 泰介(国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科診療部 部長)
報告書については、厚生労働科学研究成果データベースでご覧いただくことができます。
AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)
- 研究課題名:てんかんの多層的多重的医療連携体制の確立に関する研究
- 研究年度:平成29年度 ~ 平成31年度
- 研究開発代表者:寺田 清人 (静岡てんかん・神経医療センター 医長)