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「聞こえる」を大切にする 「聞こえにくい」「聞こえない」に寄り添う(後編)
現在、難聴の患者は約1, 430万人(国民全体の約10%)いると言われています。
難聴の原因はさまざまで、年齢などにかかわらず誰しもがなる可能性があるものです。
本特別企画では、主に成人の難聴についての正しい知識・情報を発信し、その予防と早期発見・早期受診の重要性を周知します。
前号に続く後編では、誰でもなる可能性がある突発性難聴、ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)・騒音性難聴、加齢性難聴を取り上げ、それぞれの特徴や原因、予防や治療などを解説します。
突発性難聴かも……
☑左右どちらかの耳が聞こえづらかったり、音をうまく感じられない。また、耳鳴りがしたり、耳が詰まった感じがする
☑40~60代で、耳の調子が悪いのと同時期に、ストレスや過労、睡眠不足を感じていた。または、喫煙歴や糖尿病を持っている
騒音性・ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)かも……
☑工事音や機械音を日常的に大音量で耳にする職場に勤めており、騒音障害防止の対策が何もされていない場所で仕事をしている時間が長い
☑ヘッドホンやイヤホンで、周囲の音が聞こえない音量で長時間、音楽や音、声を聞いている。もしくは、長時間聞いている間に耳を休ませる時間を取っていない
加齢性難聴かも……
☑聞こえない・聞こえづらいので、家族や友人との会話やコミュニケーションを控えている。もしくは、躊躇(ためら)うようになった
☑テレビやインターホン、各種のリモコン、電子レンジなどの電子機器の音が聞こえにくくなった
突発性難聴
突然、耳の一方が聞こえにくくなる
早期受診・早期治療が大切
Q1 突発性難聴の特徴を教えてください。
A1 突発性難聴は突然、左右の耳の一方(ごくまれに両方)が聞こえにくくなることが特徴です。音をうまく感じ取れない難聴のうち、原因がはっきりしないものの総称で、幅広い年代に起こりますが、特に40~60歳代に多く見られます。
難聴の程度は人によって異なり、まったく聞こえなくなる人もいれば、耳鳴りや耳が詰まった感じの症状だけの人もいます。そのため、後者では難聴に気づくのが遅れてしまうことがあります。
Q2 突発性難聴になる主な原因はなんでしょうか。
A2 耳の最深部の側頭骨内にある内耳に存在し、音を感じ取って脳に伝える役割をしている有毛細胞が、何らかの原因で傷つき壊れてしまうことで起こります。血流障害や、ウイルス感染が原因であると考えられていますが、まだ明らかになっていません。ストレスや過労、睡眠不足などがあると起こりやすいことが知られています。
Q3 予防する方法はありますか。
A3 はっきりとした予防法というものはないですが、過労やストレスに注意し、健康状態を良好に保つことが重要です。一番大事なことは、発症後早期(1週間以内)に治療を受けないと難聴や耳鳴りが残存したりすることがあるため、早めの受診と治療開始をすることです。
Q4 なってしまった場合はどのような治療がありますか。
A4 治療は、内服や点滴の副腎皮質ステロイド薬による薬物療法が中心になります。また、血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)やビタミンB12製剤、代謝促進薬(ATP製剤)などを使うこともあります。ストレスの影響が考えられるときは安静にして過ごします。
十分に回復しない場合や全身投与が難しい場合は、耳の中にステロイドを注入する「ステロイド鼓室内注入療法」が行われることがありますが、その効果に対する評価は定まっていません。
突発性難聴になりやすい人の特徴
ストレスや過労、睡眠不足、糖尿病や喫煙歴などがあると起こりやすいと言われており、特に40~60歳代の働き盛りに多く見られます。
突発性難聴について知ってほしい!
突発性難聴は、発症後に早期に治療を受けないと難聴や耳鳴りが残ったりすることがあるため、早期受診・早期治療が大切です。発症後早期(1週間以内)に適切な治療法を受けることで、約40%の人は完治し、残りの60%のうちの半分の人には何らかの改善がみられると言われています。
治療開始が遅れれば遅れるほど治療効果が下がり、完治が難しくなってしまうので注意が必要です。違和感を覚えたら耳鼻咽喉科を受診しましょう。
監修:一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 大森孝一 石川浩太郎
騒音性難聴
大きな音を長時間聞き続けると発症
日頃からの予防対策が重要
Q1 騒音性難聴の特徴を教えてください。
A1 職場においては、工場や建設現場などを中心に大型機械や鋼製部材を用いた生産活動や工事が行われることも多く、これに伴う機械音や工事音などが騒音源となって、そこで働く労働者が難聴を発症することを騒音性難聴と呼んでいます。4000Hz付近の比較的高い音から難聴が進行しますが、通常の生活には支障がないため、聞こえにくさの自覚がない、または耳鳴りのみ感じることがあります。
難聴が進行し、500Hz~2000Hzの会話域に難聴が及ぶと聞こえにくさを自覚するようになります。
Q2 騒音性難聴になる主な原因はなんでしょうか。
A2 私たちの耳の奥には、音の振動を電気信号に変えて脳に伝達する役割を持つ細胞(内耳の有毛細胞)があります。大きな音を長時間聞き続けていると、この細胞が傷つき壊れてしまいます。その結果、音を感じ取りにくくなり、難聴を引き起こします。
Q3 予防する方法はありますか。
A3 予防については、「騒音障害防止のためのガイドライン」において対策を示しており、具体的には以下のような措置を事業者に求めています。
(1)騒音障害防止対策の管理者の選任
(2) 適切な聴覚保護具の使用
(3) 雇入時等健康診断、定期の健康診断およびその結果を踏まえた措置の実施
(4) 作業場における騒音測定およびその結果を踏まえた措置の実施
(5) 管理者、労働者に対する安全衛生教育の実施
(詳しくは「騒音障害防止のためのガイドライン」や「騒音障害防止のためのガイドライン・パンフレット」をご参照ください)
Q4 なってしまった場合はどのような治療がありますか。
A4 騒音性難聴はじわじわと進行し、いったん聴力が失われるとその回復は難しく、残念ながら治療薬はまだありません。そのため、何よりも予防が大切です。
騒音性難聴になりやすい人の特徴
トンネル工事や船舶製造・修理など大きな騒音が出る職場では注意が必要です。「騒音障害防止のためのガイドライン」では、対象となる作業場を具体的に列挙しています。
なお、別表に該当しない作業場であっても、継続的に等価騒音レベルが85 dBとなるなど騒音レベルが高いと思われる業務を行う場合には、対策を講じることが望ましいとされています。
騒音性難聴について知ってほしい!
騒音性難聴は少しずつ進行していくため、初期には自覚しにくく、進行に気づけません。そのうえ、一度失った聴力を元に戻すことは困難です。騒音性難聴のリスクについて理解し、日頃から予防対策に取り組むことが重要となります。
監修:一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 大森孝一 石川浩太郎
ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)
Q1 ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)の特徴を教えてください。
A1 ヘッドホンやイヤホンで大きな音を長時間連続して聞き続けることによって、聞こえにくくなったり、耳鳴りがしたり、耳が詰まった感じがしたりすることをヘッドホン難聴またはイヤホン難聴といいます。
Q2 ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)になる主な原因はなんでしょうか。
A2 私たちの耳の奥には、音の振動を電気信号に変えて脳に伝達する役割を持つ細胞(内耳の有毛細胞)があります。大きな音を長時間聞き続けていると、この細胞が傷つき壊れてしまいます。その結果、音を感じ取りにくくなり、難聴を引き起こします。
Q3 予防する方法はありますか。
A3 大音量・長時間の使用を避けるために、可能な限り音量を小さくしましょう。WHO(世界保健機関)の推奨する限度は、大人は80㏈以下、こどもは75㏈以下で、それぞれ1週間に最大40時間です。
● 音量を上げ過ぎないために、遮音性の高いヘッドホンやイヤホンを使いましょう。
● 音量と視聴時間をモニターして、長時間の使用を避けましょう。
● 少なくとも1時間に1回、10分程度は耳を休めましょう。
Q4 なってしまった場合はどのような治療がありますか。
A4 ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)はじわじわと進行し、いったん聴力が失われるとその回復は難しく、残念ながら治療薬はまだありません。そのため、何よりも予防が大切です。
詳しくは「ヘッドホン(イヤホン)難聴-e-健康づくりネット」をご参照ください
ヘッドホン(イヤホン)難聴になりやすい人の特徴
ヘッドホンやイヤホンで大きな音を長時間連続して聞き続ける人がなりやすいと言われています。日本でもこの10年で、10~40歳代の聴力が低下してきていると報告されており、その原因の一つに、ヘッドホンやイヤホンで大きな音を聞き続けることが挙げられています。
ヘッドホン(イヤホン)難聴について知ってほしい!
ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)はじわじわと進行し、いったん聴力が失われるとその回復は難しく、残念ながら治療薬はまだありません。そのため、何よりも予防が大切です。聞こえにくさだけでなく、耳鳴りや耳が詰まった感じなど、耳に違和感があれば早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
加齢性難聴
加齢により徐々に進行する聴力低下
耳にやさしい生活で悪化防止
Q1 加齢性難聴の特徴を教えてください。
A1 年齢を重ねることで徐々に進行する聴力低下のことを指します。
一般的に40歳代から聴力が低下する傾向があると言われており、65歳を超えると、聞こえづらさを感じる人が急激に増え、75歳を超えると約半数の人が聞こえづらさを感じているとも言われています。
Q2 加齢性難聴の日常生活への影響はどのようなものがありますか。
A2
● 危機察知能力が低下する
● 社会的に孤立し、うつ状態に陥ることがある
● 家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなる
● 人と話をすることに自信が持てなくなる
● 認知機能に影響をもたらす可能性もある
といった影響を与えると言われています。
Q3 予防する方法はありますか。
A3 加齢に伴う難聴は老化現象の一種なので、誰にでも起こりうることです。進行を遅らせる、加齢以外の原因を避けるという意味での予防は十分に可能です。
具体的には、耳にやさしい生活を心がける、老化を遅らせるための生活習慣の見直し、聞こえにくいと感じたときに速やかに耳鼻咽喉科を受診する――などがあります。
Q4 なってしまった場合はどのような治療がありますか。
A4 聞こえにくいと思った場合、耳鼻咽喉科を受診しましょう。加齢性難聴と思っていたら、耳垢が詰まっていたり、中耳炎など別の病気が見つかる場合もあります。これらの場合は、適切に対処すれば症状の改善が期待できます。
また難聴の程度によって、補聴器の導入が推奨される場合もあります。導入初期は補聴器の調整が必要なため、自己判断で購入せず、まずは補聴器相談医の資格がある耳鼻咽喉科医に相談することが推奨されます。
加齢性難聴に気づくポイント
緩やかに進行するため、難聴の初期は自分では気づかないことが多いです。
テレビの音量が以前より大きいこと、インターホンやリモコン、電子レンジなどの電子音が聞こえにくいことなどが日常生活での気づきとなります。
加齢性難聴について知ってほしい!
高齢者自身で難聴に気づくには、地域での活動に積極的に参加することも一助になります。検査だけでなく、交流の場に行くことで、自他で気づく可能性が上がります。
難聴を支える専門職は耳鼻咽喉科医だけでなく、言語聴覚士や補聴器技能者などがいます。お住まいの地域にいる専門職や相談窓口を活用し、難聴に不安を感じたら相談をしてみてください。
監修:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 佐治直樹
出典: 広報誌『厚生労働』2024年11月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |