広報誌「厚生労働」2024年11月号 特集2|厚生労働省

職業訓練や助成金などを活用 全世代リ・スキリングのすすめ

人口減少による労働供給制約やDX・GXの進展、職業人生の長期化など、社会経済環境が大きく変化してきているなかで、企業と労働者個人の継続的な成長のために、一人ひとりが新たなスキルや知識を身につけていくことが重要となってきています。

本特集では、新たなスキルや知識の習得のキーワードとして注目されている「リ・スキリング」にスポットを当て、国の支援策や企業の取り組み事例、リ・スキリングに取り組んだ経験者の声を紹介します。

リ・スキリングを進めるために必要なことは?

リ・スキリングの普及のためには、政労使の協働によって、ひとり一人が主体的かつ継続的に新たなスキルや知識を獲得することのできる環境を整備していく必要があります。

一方で、日本は先進諸国と比較しても、まだまだリ・スキリングに取り組んでいる企業や個人の割合が少ないのが現状です。こうした背景もあり、誰でも、いつでも、希望に応じて主体的に学び直すことができる社会を実現するために、政府としてさまざまな取り組みを進めています。

<Part1>
リ・スキリング支援担当者 座談会
在職者も離職者も全世代が対象の支援策

これまで政府は「三位一体の労働市場改革」を掲げ、構造的な賃上げを実現するべく取り組みを進めてきました。その一つが「リ・スキリングによる能力向上支援」です。パート1では、厚生労働省のリ・スキリング支援にかかわっている人材開発統括官の職員が支援策を解説します。

参加者
人材開発総務担当参事官室:熊谷美穂
訓練企画室:佐々木健吾
若年者・キャリア形成支援担当参事官室:林 達也
企業内人材開発支援室:山内久美子
人材開発政策担当参事官室:羽生奈那子
キャリア形成支援室:藤井淳史
能力評価担当参事官室:加茂大貴

離職者向けの職業訓練と在職者向けの職業訓練

熊谷●今年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針)」にも「全世代型リ・スキリング」が盛り込まれ、リ・スキリングに関する取り組みについては引き続き大きな関心が寄せられていると思います。
厚生労働省としても多くの支援策を用意していますが、一言でリ・スキリングと言っても、対象者によって支援の形が変わってきますよね。

佐々木●そのとおりです。たとえば、支援の一つとして「職業訓練」を実施しています。職業訓練にもさまざまな種類があり、大まかに離職者向けの訓練と在職者向けの訓練に分けられます。

離職者向けの訓練は、求職者の方を対象に、就職に必要な職業スキルや知識を習得するための訓練を無料で実施しています。職業スキルは訓練コースによって異なりますが、機械加工分野からデジタル分野までのスキルと多岐にわたり、年間およそ14万人の方々が受講しています。

在職者向けの訓練は、企業の生産現場が抱える課題解決のため、生産性の向上や業務改善、新たな製品づくりに必要な専門知識や技術を習得するための訓練を実施しています。この在職者向けの訓練は、年間11万人の方々が受講しています。
厚生労働省では、このような訓練を総称して「ハロートレーニング」と呼び、キャリアアップや希望する就職を実現するための支援を行っています。

個人と企業それぞれに助成金や給付金を支給

熊谷●個人の方が民間の教育訓練機関などで講座を受講した場合の給付制度もあります。

林●「教育訓練給付制度」(図表1)です。この制度は、労働者の主体的なスキルアップ、リ・スキリングを支援するため、厚生労働大臣の指定する講座を受講・修了した場合に、その費用の一部を給付するものです。

給付率の高いほうから専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練があります。公的職業資格の取得をめざす講座など約1万6,000講座が指定されています。
具体的には、大型自動車免許などの輸送分野、看護師や介護福祉士などの医療・社会福祉分野、データサイエンティストなどのIT分野などのさまざまな分野の講座があり、土日・夜間の受講やオンラインでの受講が可能なものもあります。指定講座は「教育訓練講座検索システム」に掲載され、PCやスマートフォンから検索が可能です。
また、本年10月の受講開始分から、リ・スキリングをより一層後押しする観点から専門実践教育訓練と特定一般教育訓練の給付率の引き上げを行いました。ぜひ、ご活用いただければと思っています。


熊谷●企業のなかで働く方がリ・スキリングする際の助成制度もありますよね。

山内●企業内の人材育成を行う事業主の皆さまに対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する「人材開発支援助成金」という制度があります。この助成金は、主に4つのコースに分かれており、特に「人への投資」を強化するため、2022年度に「人への投資促進コース」と「事業展開等リスキリング支援コース」(図表2)を創設し、2026年度まで、ほかのコースより高い助成率・助成額で支援を行っています。

人への投資促進コースでは、高度デジタル人材の育成やサブスク型(定額制)訓練などのさまざまなニーズに対応する5つのメニューを設けています。
事業展開等リスキリング支援コースでは、新規事業立ち上げなどの事業展開や企業内のDX・GXに対応した人材育成など、従業員のリ・スキリングに取り組む事業主を対象に、高率助成で対応しています。

人材育成の取り組みは企業の成長にもつながるので、ぜひ、人材開発支援助成金をご活用いただきたいと思います。



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羽生●企業内にリ・スキリング文化を定着させるためには「労使の協働」もとても重要です。
厚生労働省では、労使が協働し、効果的にリ・スキリングに取り組んでいくための「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定しています。

このガイドラインには、学び・学び直しの具体的な内容や実践論が記載されているほか、公的支援策や企業事例なども紹介しています。また、特設サイトの充実にも力を入れていて、今後もシンポジウムの開催情報や解説動画、診断コンテンツなど、さまざまな情報を発信していく予定です。企業の経営者や人材育成担当の方だけでなく、広く従業員の皆さまにもご覧いただきたいと思います。

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リ・スキリングの方向性がキャリコンで明確に

熊谷●単にリ・スキリングを実施するだけでなく、前後にキャリアコンサルティング(略称キャリコン)を行うとより効果的とも聞きました。

藤井●キャリアコンサルティングとは、職業選択に限らず、職業生活設計や能力開発などに関してご相談に応じ、助言や指導を行うことを言います。キャリアコンサルティングを受けることで、今までのキャリアを振り返り、将来の見通しを立てることができ、リ・スキリングの方向性が明確になります。

また、企業としても、職業生活の節目に、リ・スキリングを含めたキャリアコンサルティングを従業員に対して実施することで、主体的なキャリア形成が促進され、モチベーションの向上や働きがいの醸成、さらなる成長意欲を促す効果も期待できます。
キャリアコンサルティングは、47都道府県にあるキャリア形成・リスキリング支援センターおよび全国のハローワークに設置しているキャリア形成・リスキリング相談コーナーで、無料で受けることができます。

熊谷●リ・スキリングの機運が盛り上がるように、これからも使いやすい施策・制度を提供していかないといけないですね。

技能五輪国際大会が21年ぶりに日本で開催!

熊谷●人材開発の分野で今、盛り上がりを見せているのは技能五輪ですね。2028年に技能五輪国際大会が日本で開催されることが決まったと聞きました。

加茂●技能五輪国際大会は、若手技能者が製造や情報通信などの技術を競う唯一の世界レベルの技能競技大会で、2年に1回開催されています。
今年の9月9日にフランス・リヨンで開かれた総会での招致プレゼンテーション後、加盟する国と地域による信任投票が行われ、満場一致で日本(愛知県)に決まりました(写真)。

日本での開催は21年ぶり4回目です。世界レベルの技能を多くの方にご体感いただき、日本の将来を担う技能人材の増加につなげていきたいと思います。

<Column 1>
新たに「団体等検定制度」を創設しました!

「団体等検定制度」は、事業主団体等が、労働者等の技能と地位の向上に資することを目的に、雇用する労働者以外の者を含めて実施する職業能力検定について、

・検定合格者が、社内での職務等級の昇級に際して考慮されている
・検定合格者は、現場の責任者として活躍が期待されている
・検定の実施により、業界内の技能水準の統一・向上を図っている

といった、技能振興上奨励すべきものを厚生労働大臣が認定する制度です。
従来の社内検定認定制度は主に企業内の労働者を対象としていましたが、この団体等検定制度は受検対象を広げ、より多くの労働者の社会的評価の向上をめざすものです。

この団体等検定の認定を受けることで、「厚生労働省認定」の検定であるという表示やロゴマークを使用し、対外的にアピールすることができます。当制度を人材育成にご活用ください。


団体等検定ロゴ

<Column 2>
「キャリアコンサルタント」を活用してみよう!

生涯のキャリアを通じて、出産・育児などのライフイベントやプライベートとのバランスを取りながら、リ・スキリングを含めたキャリア形成をしていく重要性が高まってきています。中高年世代では、セカンドキャリアを見据えたキャリア・プランの再設計も必須です。そのため、キャリア形成支援の専門家である国家資格の「キャリアコンサルタント」との面談を通じて、自分が置かれた状況、与えられた役割、働き方や働く意味・目的などについて理解を深め、節目ごとにキャリアを充実させるためには何が必要かを考えていくことが大切となります。

また、企業・団体としては、職業生活の節目にリ・スキリングを含めたキャリアコンサルティングを従業員に対して実施することで、主体的なキャリア形成が促進され、モチベーションの向上や働きがいの醸成、さらなる成長意欲を促す効果も期待できます。
キャリアコンサルティングの流れ

 

 

出典: 広報誌『厚生労働』2024年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省