広報誌「厚生労働」2024年9月号 特集2|厚生労働省

居づらい、相談できない、伝えづらいを変える 不妊治療と仕事が両立できる企業づくり

現在、日本では不妊治療と仕事の両立に取り組む企業が注目されています。関連する法律(次世代育成支援対策推進法)の改正や、両立に取り組む優良企業に対する認定制度の創設なども進み、企業には、労働者が不妊治療を受けながら安心して働き続けられる職場環境の整備が求められている状況です。

本特集では、不妊治療と仕事の両立の実態や、不妊治療への正しい理解や配慮、両立を支援する施策や企業事例を紹介します。

<不妊治療と仕事の両立の“今”>

不妊治療をしている労働者が増えている一方で、そのことを職場に伝えていない当事者が約半数、当事者の把握ができていない企業が約6割に上るという現状があります。不妊治療をしている労働者の本音を調査結果から読み解きます。

【仕事と治療の両立ができなかった理由】

・待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しいため
・精神面で負担が大きいため
・体調、体力面で負担が大きいため など

【職場でオープンにしていない理由】

・伝えなくても支障がないから
・周囲に気遣いをしてほしくないから
・不妊治療がうまくいかなかったときに職場に居づらいから など
 

<Part2 両立を支えるために企業ができること 行政側>

不妊治療は通院回数の多さや、通院と仕事の日程調整の難しさ、精神面での負担の大きさなどさまざまな要因で、仕事との両立が困難になりがちですが、そうしたなかでも不妊治療に取り組む夫婦は増えています。今、企業に求められる「不妊治療を受けながら安心して働き続けられる職場環境の整備」について、厚生労働者の担当者が解説します。


松尾佳子
雇用環境・均等局 雇用機会均等課 女性活躍推進係長

「不妊治療」に特化せずとも柔軟な支援制度設計を

上記で示したデータにもあるように、不妊治療によって誕生する子どもが増えており、不妊治療を受ける人の数が増加傾向にある一方で、企業などにおける仕事との両立の取り組みはまだまだ不十分な状況です。実態として、7割以上の企業は仕事と不妊治療との両立支援制度を設けていない・導入していないというデータもあります。

そうしたなかで、当事者の4人に1人が不妊治療と仕事との両立ができず、仕事を辞めたり、雇用形態の変更を余儀なくされたり、あるいは不妊治療を諦めてしまったり、という難しい状況に陥っているのです。

企業の取り組みについては、必ずしも「不妊治療」と名前がつく支援制度をつくる必要はありません。たとえば、時間単位で使える柔軟な休暇制度や、テレワークや短時間勤務など、不妊に限らず「仕事と家庭の両立支援」に使える制度を設ける取り組みも、不妊治療と仕事との両立に資するものだと考えています。

実際、「不妊」という名称がついていない制度のほうが使いやすいという労働者の声も聞かれます。また、ほかの健康課題に関する取り組みとまとめて制度設計することは、社内周知もしやすく、不妊治療をまだ考えていない人(将来、制度を利用するかもしれない人)も関心を持ちやすいといったメリットが考えられます。

治療も仕事も諦めずに両立する方法を官民で追求

不妊治療は、当事者にとって身体的・精神的負担が大きいものです。さらに、金銭的な負担や時間的な負担もあります。こうした労働者の負担軽減に企業が取り組むことは、人材の確保・定着の観点から企業にもメリットがあると考えています。企業の皆様には、ぜひ積極的に取り組みのご検討をお願いしたいと思います。

国としても、「不妊治療と仕事との両立に係る認定」や「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」、「不妊治療連絡カード」といった取り組みを通じて、企業の両立支援の取り組みを支援しています。各企業の状況に合わせて、こうした支援制度の活用もご検討いただきたいと思います。

ただし、不妊治療と仕事との両立支援を進めるためとはいえ、プライバシーの面から不妊治療を受けていることをオープンにすることを嫌がる人も多数います。企業はこの点に十分に配慮しなければなりません。不妊治療に取り組めば「必ずこどもができる」というわけではない点も、オープンにされない理由の一つだと思います。

そのため、企業(上司)側は面談や日頃からのコミュニケーションで従業員が不妊治療と仕事との両立について相談しやすい環境づくりに取り組み、また、相談を受けたらどの範囲まで共有するか本人に確認することが大切です。また、不妊治療を受けていることを職場に一切伝えていない(伝えない予定)とする労働者は約半数にのぼっている現状もあるなど、企業が「不妊治療を行っている従業員の有無」を把握していないという課題もあります。

自社には対象者がいないと決めつけず、全ての企業において、不妊治療と仕事との両立をしやすい職場づくりをぜひご検討いただきたいと思います。厚生労働省のホームページでは、企業や当事者に向けて両立支援に関する資料や、研修会(令和6年度の研修会の開催につきましては、厚生労働省のHPでお知らせします)・シンポジウムの動画など、両立支援のツールを提供しています。この機会に、ぜひご活用してみてください。

【不妊治療と仕事との両立に係る認定】

次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画に盛り込むことが望ましい事項に「不妊治療を受ける労働者に配慮した措置の実施」が追加されています。
また、2022年4月1日から「不妊治療と仕事との両立に係る認定制度(くるみんプラス)」が創設されました。自社の行動計画にこの両立支援に係る取り組みを盛り込み、認定の取得をめざして取り組むことも重要です。認定されると、右のマークが使用できるようになります。

【不妊治療連絡カード】

不妊治療を受ける、または今後治療を予定している労働者が、企業に対し不妊治療中であることを伝えたり、企業の不妊治療と仕事の両立を支援する制度などを利用する際に提出したりすることを目的として、厚生労働省が作成し、活用を勧めているものです。

企業や職場において、労働者が不妊治療と仕事との両立に関する理解と配慮を求めたり、企業や職場と労働者のコミュニケーションを図るためのツールとして、また、両立支援制度を利用する際に主治医などが記載する証明書として役立ててください。


【助成金】
両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)
不妊治療のために利用可能な
休暇制度・両立支援制度
(1)不妊治療のための休暇制度
(2)所定外労働制限制度
(3)時差出勤制度
(4)短時間勤務制度
(5)フレックスタイム制
(6)テレワーク
を利用しやすい環境整備に取り組み、不妊治療を行う労働者の相談に対応し、(1)~(6)の休暇制度・両立支援制度を労働者が利用した中小企業事業主に対し助成を行っています。

また、働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休取得促進コース)を利用できる場合もあります。

詳細は、厚生労働省のホームページ「不妊治療と仕事との両立のために」をご参照ください。

 

出典 : 広報誌『厚生労働』2024年9月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省