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感染症危機管理専門家(IDES) コロナ危機を越えて安心の未来へ
2020年以降、世界中で新型コロナウイルス感染症が流行し、日本をはじめ各国がその対応に追われました。新型コロナパンデミックのなかで、その存在が注目されたのが、厚生労働省が中心となり2015年から養成している、国際的な感染症の危機管理オペレーションを行う「感染症危機管理専門家(IDES)」。
同感染症が5類感染症になってから1年が過ぎた今、その存在意義と活躍について、IDES生(修了生・現役生)に語り合ってもらいました。
IDES(アイデス)って何ですか?
杉原●IDESは、Infectious Dise-ase Emergency Specialistの略称で、「感染症危機管理専門家」のことをいいます。IDESは、厚生労働省が運営する約2年の研修プログラムによって感染症危機管理の専門家を養成するもので、2015年に私はプログラム第1期生として参加しました。
IDESに参加するきっかけについて教えてください
川並●私はIDES10期生の研修1年目となります。以前は脳神経外科医として臨床に従事してきましたが、現在は厚生労働省で感染症対策や危機管理計画、自治体や医療機関との連携業務に携わらせていただいています。今後は、検疫所、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターで研修し、2年目は海外の感染症危機管理関連機関で国内との比較をしつつ感染症危機管理を学ぶ予定です。
松平●私はIDES養成プログラムの9期生で、以前は離島における総合診療と保健所勤務に就いていました。プログラムでは臨床現場で得られなかった知識と経験を身につけながら、さまざまな専門分野やキャリアの人との出会い、つながる機会に恵まれた場であることを実感しています。
船木●確かに、このプログラムには、幅広い専門領域の専門家、行政機関の方々とつながり、意見を交わしながら、「日本の感染症危機管理をさまざまな立場で支えていく」という志を持った人が参加されています。私の場合は小児科+感染症科というバックグラウンドですが、同期には総合内科、血液内科、産婦人科などの専門家もいて、新たな時代に向け、幅広い力を備えたIDESが必要とされていることを実感しました。
日尾野●私も小児科のバックグラウンドからIDESをめざしました。水痘ワクチンの定期接種化後、こどもの入院数が劇的に減ったことを目の当たりにした経験が、公衆衛生政策や感染症危機管理に大きな関心を抱くきっかけになりました。
横浜検疫所における新型インフルエンザ疑いの患者対応訓練
IDESの社会的役割は何ですか?
杉原●近年、国境を越えた往来の増加、都市の過密化、行動様式の多様化など、さまざまな要因により新型コロナウイルスや新型インフルエンザなどの新興・再興感染症が出現し、人々の健康に対する世界的な脅威となっています。こうした、国際的な脅威となる感染症に対する危機管理には、感染症に関する臨床経験や疫学知識のみならず、行政マネジメント能力、国際的な調整能力など、総合的な知識と能力が求められます。同時に、国民の生命と健康を新興・再興感染症から守るためには、こうした知識と能力を有する人材を継続的に育成し、国内外で活躍していただくことが不可欠です。
横浜検疫所での研修
IDESとして活動するなかで最も印象に残っている出来事は?
松平●能登半島地震の被災地での活動です。「医療アクセスが乏しく、感染症対策のリソースが少ない場所でどのような感染症対策を実施するべきか?」「集団発生はどこで、どのように起こっているのか?」などについて、国立感染症研究所や日本環境感染学会と連携し、今後の災害対策に活かせる危機管理計画を実行できたことは、感染症に限らず健康危機管理の今後を考えていくうえで、有意義な経験でした。
船木●新型コロナウイルス感染症が中国で急拡大した2020年1月。武漢にいる日本人およそ700人の退避計画実行に携わったことです。未曾有の事態に対して、「どのような感染症対策を行い、日本への帰国を支援するのか?」ということを医療、行政、国際情勢などさまざまな観点から検討し、関係機関と連携して感染拡大を防ぐためIDESとして貢献できたことは、今後、いつでも発生しうる感染症危機管理対応事案に対して、世界的な視点をもって実行していくうえで貴重な体験でした。
日尾野●コロナ禍で、臨床現場では学ぶことのできない行政対応についてon the jobで習得できたことです。感染症分野で日本をけん引している専門家の方々と協働で、国際的に脅威となる感染症の危機管理対応に取り組んだ経験は、医師人生においてもかけがえのない財産となりました。また、米国の国立新興特殊病原体研修・教育センターでの実務研修を通じて、日本の感染症危機管理に有益な国際情勢や管理体制について学んだ経験も、ぜひ国内の医療政策や臨床の場で活かしていきたいと思います。
川並●4月から5月にかけて開催されたFETP(実地疫学)研修では感染症のアウトブレイク時にどのように感染拡大を食い止めるか、座学やワークショップを通して学ぶことができました。また、全国各地で公衆衛生業務を行っている方々ともつながる機会になりました。
検疫業務の実務研修
IDESとして今後の目標を教えてください
松平●国内でのへき地、特に離島医療・保健経験をベースに、感染症対策のリソースが限られた国内外の地域社会に貢献していきたいと考えています。そもそも日本自体が島国のため、IDESをはじめとする取り組みは、離島やへき地の医療・公衆衛生活動においても大いに参考にできる部分が多いと感じています。
船木●一つは、小児科と感染症科に関する臨床・研究経験を活かしつつ、こどもや妊婦、障害を持つ人の視点を常に持ち合わせたIDESとして活動を継続すること。もう一つは、IDESの存在や取り組みを広く知っていただくこと。そして、志の高い仲間と一緒に日本の感染症危機対策に貢献したいと考えています。
日尾野●私も臨床医としての経験に加え、コロナ禍における行政業務を通じて得たネットワークと調整力を活かし、多彩なジャンルの専門家と行政、国民の皆さまとの橋渡しのような役割を担い、日本の感染症対策に貢献していきたいと考えています。
川並●公衆衛生行政の業務は初めてですが、まずは仕事に慣れ、将来の感染症危機時に貢献できる人材となれるように精進します。将来的にはIDESとしての知識・経験を活かし、紛争などの理由で増え続ける移民・難民の健康問題にも関心があり、グローバル化が進む社会ならではの問題にも取り組んでいけたらと考えています。
岡●将来、起こり得る感染症危機に向けて、平時から準備を進めておくことが何よりも大切です。厚生労働省ではIDESをはじめとする人材育成に取り組んでいますが、国際機関や諸外国と強固に連携・協力できる体制の構築により、感染症への対応力を強化し、日本はもとより世界の感染症対策を含む健康安全保障の進展をめざしていきたいですね。
G7神戸保健大臣会合に参加(IDES養成プログラム2期生)
出典 : 広報誌『厚生労働』2024年7月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |