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「働く高年齢者」の 安全と健康を確保する
「人生100年」といわれる時代を迎え、2022年時点で、雇用者全体に占める60歳以上の割合は20%近くに達しつつあります。それにつれて職場での高年齢者の労働災害が増え、同年の労働災害による休業4日以上の死傷者数約13万5,000人の30%弱を、60歳以上が占める状況になっています。
本特集では、「高年齢者の労働災害増加」という新しい社会課題に対応するため、厚生労働省が2020年に策定し、高年齢者を雇用する企業に周知を図ってきた「エイジフレンドリーガイドライン」について、その内容と企業による取り組み事例を紹介するとともに、高年齢者の労働災害のなかで特に多い「転倒→骨折」の大きな要因となる「骨粗しょう症」対策も取り上げます。
現状分析
今、労働現場で起きていること
増加する「働く高年齢者」の労働災害
<現状1>働く人の5人に1人、労災死傷者数の30%弱が60歳以上
60歳以上の働く人は2003年段階では雇用者全体の10%を下回っていましたが、その後20年かけて緩やかに上昇し、2022年には18.4%と、ほぼ5人に1人となりました。それに伴い、労働災害(以下、労災)による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の割合も増加。20年前には15%だった比率が30%近くへと倍増しています。
<現状2>60歳以上の労災発生率は30代と比べ男性2倍、女性4倍
2023年の「働く人1,000人当たりの労災発生率」を見ると、最も低い30~34歳の男性1.93人、同女性0.98人に対して、60~64歳は男女とも3.5人以上、65歳以上では同4人を超えています。また、「労災による休業見込み期間」も、年齢が上がるに従い長くなる傾向を示しています。
<現状3>男性は「墜落・転落」防止、女性は「転倒」防止が急務
高年齢者の労災について、どのようなものが多いのかを分析すると、男性では脚立などからの「墜落・転落」において若手労働者との発生率の差が顕著で、60歳以上の働く人1,000人当たりの労災発生率0.91人は20代の同0.26人の約3.5倍。
女性では「転倒による骨折等」の若年労働者との発生率の差が目立っており、60歳以上の同2.41人は20代の同0.16人の約15.1倍です。転倒や墜落・転落の防止対策は特に重要な課題といえます。
<Part1>
高年齢労働者の安全と健康確保のための
「エイジフレンドリーガイドライン」とは?
パート1では「エイジフレンドリーガイドライン」など、高年齢労働者の労働災害の増加傾向に歯止めをかけ防止するための厚生労働省の取り組みについて、労働基準局安全衛生部安全課の澤田京樹中央産業安全専門官が解説します。
澤田 京樹
労働基準局安全衛生部 安全課 中央産業安全専門官
高年齢労働者の労働災害防止対策
近年、労働災害による休業4日以上の死傷者数が増加傾向にありますが、そのうち大きな割合を占めるようになってきているのが高年齢労働者によるものです。
2023年時点で労働者全体に占める60歳以上の方の割合は18.7%となっているのに対し、死傷者数全体に占める60歳以上の割合は29.3%となっています。その発生状況としては「転倒」や「墜落・転落」が多くなっています。また、年齢が上がるにしたがって休業が長期化する傾向があります。
こうした現状を踏まえ、厚生労働省は2023年度からの5カ年計画「第14次労働災害防止計画」(図表4)のなかで、「高年齢労働者の労働災害防止対策の推進」を重点対策事項として定め、具体策として2020年に策定した「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」(図表5)を踏まえた対策を各事業所に求めています。
エイジフレンドリーガイドラインでは、職場における高年齢労働者の身体機能の低下などを要因とする労働災害のリスクの評価を行い、そのリスクを低減させるための対策、すなわち身体機能の低下を補うような対策(照度の確保、通路の段差解消、重量物取り扱い作業や介護作業における補助機械(リフト等)の導入など)の実施を求めています。
あわせて体力チェックの実施などで、「転びやすくなっている」など労働者ご自身の体力の状況を「見える化」していくことなども求めています。
たとえば、飲食店を経営するサッポロライオンさんでは、労働環境の整備だけでなく、「健康チェック」として体力の状況把握などを行うことを通して、事業者側だけでなく労働者側にも労働災害防止の必要性を意識させることで、体力づくりの取り組みを促進するなど、より実効的な労働災害防止対策につなげています。
「エイジフレンドリー補助金」
ただ、エイジフレンドリーガイドラインは全体としてはまだあまり認知されていないのが実情で、2022年に行ったアンケート調査では、本ガイドラインを「知っている」と答えた事業所は17.9%でした。
さらに、そのうち「対策を行っている」ところは約6割、全体の11%に過ぎず、この11%の事業で取り組んでいる対策内容も、定期健康診断などと回答された事業が多く、労働者の身体機能の低下を補う対策を行っている事業はわずかでした。こうした現状も踏まえ、厚生労働省は本ガイドラインに基づく実質的な対策の促進を図るためのさまざまな施策を実施しています。
その一つとして、2020年度からの中小企業向けの「エイジフレンドリー補助金」(図表6)があります。この補助金は、高年齢労働者の身体機能の低下を補うための対策、高年齢労働者にとって危険な場所、負担の大きい作業を解消する工事や設備の購入対策を主な補助対象(2分の1、上限100万円)としています。
運動に若いうちから取り組もう
さらに2024年度からはこの補助金に新しいコースを設け、労働者の転倒防止のための、専門家などによる労働者への身体機能チェックと運動指導への補助を始めています。
このコースでは、既存コースで設けていた労働者の年齢要件(60歳以上)をなくしています。高年齢労働者に多いのは職場での転倒による骨折などですが、転倒の原因は「物につまずく」よりも、「何もないところでつまずく」や「足が上がらない、もつれる」というもののほうが多くなっており、その対策としては若いうちから運動により身体機能を維持していくことが重要となるからです。
つまり、健康のためだけでなく、職場や日常生活での怪我の防止のためにも、高年齢になってからではなく、若いうちから意識して運動に取り組み、筋力や体力を維持していくことが重要です。
このコースでは補助率も2分の1から4分の3へと引き上げており、そのような取り組みを強く支援しています。
「骨粗しょう症」対策も重要
なお、労働災害の男女別の傾向では、50代以上の女性が職場で転んで骨折する事例が増えており、その理由として、中高年齢の女性の労働者の増加と「骨粗しょう症」のリスクとの関係が挙げられます。
現時点での骨粗しょう症検診の受検率は約5%となっており、政府としてはこれを15%まで上げるという目標を掲げていますが、エイジフレンドリーガイドラインに基づく、転倒災害をはじめとした労働災害の防止のための職場環境の整備と骨粗しょう症を予防する取り組みを一緒に進めることが、労働災害の減少につながると考えています。
出典 : 広報誌『厚生労働』2024年7月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |