広報誌「厚生労働」2024年3月号特別企画|厚生労働省

座談会 国土交通省&厚生労働省の連携による「働き方改革」

この4月、「建設業」「ドライバー」「医師」へ時間外労働の上限規制が適用されます!
「再配達なし」「運賃値上げ」「診療時間内受診」などへのご理解・ご協力を!

「働き方改革」の一環として、時間外労働の上限規制が労働基準法に規定され、2019年4月から適用されています(中小企業は翌年4月)。

一方、「建設業」「ドライバー」「医師」は、長時間労働の背景に業務特性や取引慣行の課題があることから、時間外労働の上限規制の適用を5年間猶予されてきました。今年4月、その猶予期間が終了します。

この機会に、国土交通省の「建設業」「ドライバー」の働き方改革の担当者と厚生労働省の「医師」の働き方改革の担当者が、その周知徹底の取り組みと、その先にある、「国民の皆さんにお願いしたいこと」について語り合いました。

「長労働時間」「低賃金」解消で若手人材確保へ

本安●今年4月から時間外労働の上限規制が適用される「建設業※1」「トラック・バス・タクシーのドライバー※2」「医師※3」について、「働き方改革」はどのように位置づけられていますか。

※1:災害時における復旧および復興の事業を除き、一般業種と同じ時間外労働の上限規制が適用。
※2:時間外労働の上限は年960時間に。
※3:時間外・休日労働の上限は最大年1,860時間に。

仕切●「建設業」は社会資本整備の担い手であり、かつ、災害時には地域社会の安心・安全確保の最前線に立つ重要な業種です。
ところが、そこで働く人は全産業平均より出勤日数が多く、労働時間が長いことから、若手人材が集まりにくい状況になっています(図表1)。今後、「持続可能な建設業」を実現するためには、働き方改革は必須です。



渋谷●「トラック運送業」は国民生活と日本経済を支える重要な社会基盤ですが、建設業と同じく全産業平均より労働時間が長く、賃金も低いため、若手がなかなか入ってきません(図表2)。低賃金解消へ向け、賃上げが必須です。
また、長時間の荷待ちや契約外の付帯作業などに見られる荷主との取引慣行上の旧弊も、解消すべき課題だと思います。



石田●「バス運送業」も国民生活と日本経済を支える重要な社会基盤ですが、長い労働時間と低賃金が課題です(図表2)。高齢化率も高いことなどを踏まえると、若者や女性の雇用を促進するためにも賃上げや、柔軟で多様な勤務形態の導入などが必要です。それがひいては安心・快適で働きやすい職場環境の整備につながると思います。
また、人手不足解消のためには、自治体や民間発注者、利用者(旅客)らが、運行ダイヤや旅程に対し理解と配慮を示す必要もあります。

中尾●「医師」は人の命を直接救う仕事を担い、皆さま、強い思いを持って業務に取り組んでおられるなかで、近年は減りつつあるものの、やむを得ず長時間労働となっている勤務医の方がいらっしゃいます(図表3)。



今年4月からは、勤務医について、年間の時間外・休日労働時間の上限は原則960時間となります。また、地域医療の確保などに必要な機能を担い、都道府県知事の指定を受けた医療機関の勤務医については、特例水準として年間1,860時間が上限となります。
これと併せて、追加的な健康確保措置として勤務間インターバルの確保や月の時間外・休日労働時間が一定以上となった方に対する面接指導の実施が求められることになります。
医療の質・安全を確保し、持続可能な医療提供体制を維持していくため、長時間労働の医師がいる医療機関全体での勤務環境の改善が必要です。

働き方改革実現に向け国民や医療機関に情報発信

本安●時間外労働の上限規制が適用猶予されてきた業界における働き方改革の実現には、国民のご理解とご協力を得ることが肝要だ、と厚生労働省では考えています。
そのため、たとえば労働基準局では国土交通省と連携し、俳優の小芝風花さんをイメージキャラクターに起用し、建設・自動車分野や医師に関して、ポスターや動画、テレビCMなどを通じて国民の皆さまに広報活動を行ってきました。これに加えて、医師についても情報発信の取り組みがありますね。




動画の視聴はこちらから


中尾●はい。医師の働き方改革を進めるためには、一般の市民の皆さまにもご協力いただくことが重要です。このため、俳優の貴島明日香さんをイメージキャラクターとして起用し、ご協力いただきたい内容をわかりやすくまとめた動画の作成など、広く情報発信を行っています。動画では、診療時間内の受診へのご協力や、複数主治医制※4の導入やタスクシフト・タスクシェア※5にご理解を求めることなどを行っています。
また、医療機関に向けても、管理者層向けの研修会を実施し、労務管理への理解促進や労働時間の短縮に関する好事例の紹介などを行っています。
勤務環境の改善に向けた取り組みは、各医療機関の置かれた環境によって多岐にわたります。何から着手すべきかは、各医療機関の課題などに照らして、院内の関係者で十分に話し合っていただきながら検討することが望ましく、各医療機関で試行錯誤しながらさまざまな取り組みが行われているところです。

※4:患者の治療を行う医師がチームを組んで対応する取り組み
※5:医師の担っていた業務の一部をほかの医療スタッフに任せたり、分担する取り組み

適正な工期設定や長時間荷待ち是正に取り組む

本安●国土交通省では、どのような取り組みを行っていますか。

仕切●まず、建設業関連では、働き方改革推進には「長時間労働を前提としない工期の確保」が重要であることから、適正な工期設定や見積もりのために考慮すべき事項を「工期に関する基準」にまとめ、周知徹底を図ってきました。
加えて、国土交通省の直轄工事においては、原則すべての現場で週休2日を確保できるような工期を設定するとともに、同様の取り組みを地方公共団体にも働きかけてきました。民間の発注者に対しても、実地調査に基づき、工期適正化のための指導を行っています。

本安●工期適正化に関しては今後、法律面でも整備が進むと聞きました。

仕切●中央建設業審議会・社会資本整備審議会の基本問題小委員会において中間とりまとめが策定されており、著しく短い工期の制限を徹底するため、注文者だけでなく受注者についても、著しく短い工期による請負契約の締結を禁止することを検討すべきである旨の提言をいただきました。この中間とりまとめを踏まえ、必要な制度改正に取り組んでいきます※6。

※6:本座談会実施日時点(昨年12月18日)の状況

本安●社会全体として、工期ダンピングをやめる方向に向かいたいですよね。
他方、トラック業界とバス業界では、どんな取り組みが行われているのでしょうか。

渋谷●トラックに関しては、荷主や元請事業者のご理解とご協力を得ることが大変重要ですので、法律に基づく働きかけや要請を通じて荷主や元請事業者に対し、長時間の荷待ちや契約外付帯業務などの違反原因行為を是正するよう求めてきました。
厚生労働省などとの連携においても、昨年7月から「トラックGメン」を新たに設置し、悪質な荷主などへの監視を強化しています。また、運賃交渉力の弱い運送事業者の適正運賃収受支援の目的で「標準的な運賃」を定め、トラック事業者が賃金の原資となる運賃を適正に収受できる環境づくりに努めています。
人材確保の取り組みとしては、荷積み・荷降ろしの負担軽減に資する複数の施策(テールゲートリフター等設備の導入、フォークリフト免許の取得促進、ダブル連結トラック等輸送効率の高い車両の免許取得促進など)を進めています。

石田●バスに関しては、運賃算定基準の見直しや運賃改定の迅速化により早期の賃上げなどを促してきたほか、二種免許取得費用の支援など、事業者による人材確保・養成の取り組みもサポートしています。具体的には、まず乗合バスは過去20~30年も運賃未改定の事業者が多数でしたが、今年度以降、大手事業者を中心に本格的な運賃改定申請が順次行われています。
国土交通省としても運賃改定の迅速化のため、運賃認可権限の地方運輸局への大幅な委譲や、申請書類の簡素化を実施しました。
貸切バスについては昨年8月に運賃見直しを行い、実勢約25%の値上げとなる新運賃を公示。賃上げにつながるよう努めています。

本安●トラックドライバー関連では、「物流2024年問題」の対策も待ったなしです。こちらも、法律面で整備が進んでいましたね。

渋谷●物流負荷軽減のためには、荷主企業や消費者の意識改革・行動変容が不可欠です。特に荷主企業には、経営者層の意識改革により全社的に物流改善に取り組んでもらうべく、役員クラスに物流管理の責任者を配置するよう義務づけるなどの規制的措置の導入を進めています※6。

※6:本座談会実施日時点(昨年12月18日)の状況

「みんなで進もう。働きやすい未来へ!」

本安●最後に、国民の皆さんへの、ご理解とご協力を得るためのメッセージをお願いします。

渋谷●現代の「ネットで頼めばすぐ物が届く便利さ」の陰には、トラックドライバーの長時間労働があることを知っていただいて、再配達にならないよう配慮するなど、ご協力ください。

石田●運賃などの値上げはバス運転者の職場環境改善の原資ですので、ぜひご理解をいただければと思います。また、バスの発車時には道を譲っていただく、パーキングエリアやサービスエリアなどのバス枠に車を停めないなど、バスの安全な運行のため、できることからご協力くだされば幸いです。

高橋●医療現場における働き方改革は、他業種と同様、行政、医療機関それに国民が一体となって取り組むことが重要です。
先ほど出ました「診療時間内の受診」以外に、いつものかぜの場合はまず診療所に行くなど、医療機関へのかかり方の配慮をお願いしたいと思います。

仕切●建設業を「給料が良く、休暇が取れ、希望が持てて、カッコいい」という新4Kの職場にすべく、国土交通省としても一層の取り組みを進めていきます。上限規制の適用を、ピンチではなくチャンスに変えましょう!

本安●そうですね。「みんなで進もう。働きやすい未来へ!」を合言葉に、これからも頑張っていきましょう。


 

 

出典 : 広報誌『厚生労働』2024年3月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省