広報誌「厚生労働」2024年3月号 連載|厚生労働省

第8回:東北厚生局 企画調整課(復興支援室)

東日本大震災からの復興支援に取り組みながら「次の大規模災害」に備える

厚生行政の政策実施機関として、全国8(支)局で「健康・福祉」「医療」「年金」「麻薬取締」の業務をこなす「地方厚生(支)局」の仕事と、そこで働く人を紹介するコーナー。最終回は、東北厚生局の企画調整課にスポットを当てます。

<東北厚生局の概要>

東北6県(青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島)における厚生行政を管轄する地方機関。管内人口は約840万人で、日本の全人口約1.2億人の約7%に相当する。
宮城県仙台市にある本局のほか、保険医療機関や保険薬局などに対する指導監督や施設基準等届出の審査業務などを行う地方事務所を宮城県以外の管内5県に1カ所ずつ設置している。

職員は非常勤職員を含めて約190人。このうち女性職員は40%程度。事務職のほか、医師や歯科医師、保健師、看護師、薬剤師など多くの職種の職員がいる。


東北厚生局の企画調整課では、Instagram、YouTube、X(旧Twitter)の各種SNSの運用、同局ホームページの管理やパンフレットの作成などの広報業務も行っています。ホームページおよび各種SNSでは、厚生行政について国民の皆さまに、より深くご理解していただけるような内容のほか、採用情報も随時掲載しています。
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地方厚生局の業務の「総合調整役」

各厚生局の「企画調整課」は、組織目標や事業計画の策定、業務改善・職場改善の推進、広報、職員研修などといった、局内の業務運営に係る企画調整を幅広く行うとともに、保険医療機関等・保険医等の行政処分について審議する地方社会保険医療協議会の運営を担当しています。
さらに、東北厚生局の企画調整課では、「東日本大震災からの復興支援」を行っており、被災自治体などの活動支援のため、次に紹介する取り組みを実施しています。

被災自治体等との継続的な意見交換

東北厚生局のミッションの一つは、「東日本大震災からの復興を成し遂げられるよう、被災地に寄り添いながら復興支援を行うこと」です。そのため、企画調整課に「復興支援室」が設けられ、被災地域の復興状況、ニーズや課題、国(厚生労働省)への意見や要望を把握すべく、被災自治体などと意見交換を継続的に行っています。


 

今なお必要とされる被災者の心のケア

被災地では、目に見える復興が整いつつある一方で、被災者が抱える心の問題(震災による心的外傷後ストレス障害=PTSD、うつ病、アルコール関連問題等)はより複雑で多様に変化しています。

長く続く避難生活により、慣れ親しんだ地域コミュニティが分断したことによる孤独感、家族の分断(避難先に残る人と被災地に戻る人)、住み慣れたふるさとや生業を失ったことによる喪失感などのストレスを抱えており、飲酒量が増えて心身の健康を害し、周囲から孤立する方も少なくありません。このため、引き続き被災者の心のケアが必要です。また、原子力災害による避難指示が近年解除された福島県相双地域(相馬と双葉)とほかの被災地域では状況が異なり、心の復興の度合いは一律に進んでいるとは言い難い状況です。

心のケアにおいて自治体の保健師は頼りになる存在ですが、被災地では特に不足しています。そこで東北厚生局では、新たに保健師資格を有する者を「心のケア支援専門官」として配置し、こうした課題の解決に向け、27ページに紹介するような取り組みを行っています。

被災地視察・研修により震災の記憶・教訓を継承

復興支援室では、復興支援業務の一環として被災地視察・研修を実施し、「震災の記憶・教訓の継承」に取り組んでいます。参加した東北厚生局の職員は、現地で被災体験者(語り部)や施設の職員などから話を伺い、自分の目で被災地を見て、復興支援の重要性を再認識しています。

参加した職員からは「速やかに行動できるように日頃からの訓練や研修が大切」「想定外の災害でも役立つ知識を平時から身につけておくことが大事」といった感想が出ており、震災の教訓が防災への関心の高まりにつながっています。

災害発生に備えて「リエゾン研修」などを実施

東北厚生局では、大規模災害に備える体制整備のため、「リエゾン研修」や「防災訓練」を行っています。
リエゾン研修では、職員が被災地の災害対策本部で円滑に活動するために必要な知識を習得しています。
また、大規模災害を想定した防災訓練では、職員の安否確認や庁舎の被害確認、管内の被災情報集約、東北厚生局災害対策本部の設置といった初動対応ができているかを確認しています。

日本各地では季節を問わず、風水害や土砂災害、地震災害などが起きています。今年1月1日の能登半島地震では甚大な被害が出ており、被災地支援のため、東北厚生局からも政府の現地対策本部へ応援職員を派遣しています。東日本大震災を経験した東北厚生局は、今後もそこで得た教訓を継承しながら、大規模災害に備える体制整備に努めています。

「心のケア支援専門官」の活動例

(1)心のケアを担う自治体保健師の不足解消に向けた活動
被災自治体等を訪問すると、「被災地では保健師が不足している」との共通の声が聞こえてきました。そこで、保健師を養成する大学を訪問し、保健師を志望している学生のイマドキの就職事情を情報収集したところ、「被災地での採用活動では生活環境など地域の魅力を伝えることや、保護者の不安解消策も大事」といったヒントが見えてきました。
こうした情報をもとに、被災各県の担当者と被災地での保健師採用につながるような意見交換を行い、その縁で右記のバスツアー(フク★バスツアー)に参加しました。


福島県では、看護職への就業・定着促進を図るバスツアーを例年開催しており、2023年度はツアー内容を、被災地を巡り生活環境も含め知ってもらうなど、地域の魅力発信や、被災自治体で働く先輩保健師の講話などにリニューアル。
高校生や大学生を中心に保護者とのペア参加も多く、参加者からは、「被災地域の力になれたら良いです」「震災のことだけでなく、被災地域への関心もとても高まりました」といった感想が聞かれた

(2)被災3県の「心のケアセンター」への後方支援活動 被災3県(岩手、宮城、福島)の「心のケアセンター※」同士の橋渡しをしています。昨年末には近況報告会を開催し(写真1)、橋渡しの一つとして、みやぎ心のケアセンターで作成した「健康紙芝居」をふくしま心のケアセンターへ継承するきっかけづくりを行いました(写真2)。そのほか、岩手県こころのケアセンターが監修し岩手県が作成した「ゲートキーパー養成講座のテキスト」等(写真3)を共有するなど、それぞれのセンターがより効果的な事業運営を行えるように知見の継承・共有を後押ししています。

※震災体験によるPTSDや震災後の環境変化による心身への影響など、被災者の心のケアのニーズの高まりに対応するため、2011年度から岩手県、宮城県、福島県に設置され、保健師などの専門職が被災者の心のケアに関する取り組みを実施している。


近況報告会では、被災3県の心のケアセンターの活動状況などを情報交換。写真は、オンライン参加した岩手県こころのケアセンターの近況報告の様子


ふくしま心のケアセンターに継承された写真の健康紙芝居は、昔話からの独自の展開で、心の健康(アルコール問題など)について住民に親しみやすく普及啓発できる教材


ゲートキーパーは「命の門番」。悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のこと。写真のテキストは、自殺対策やメンタルヘルス啓発に有用な教材
 

企画調整課の調整専門官が語る「この仕事の魅力」

被災地の現状を本省に報告することで 今後の施策立案の一助に

佐々木博司


私は青森県八戸市役所から出向し、現在、企画調整課に配属されています。
ここでは、被災地支援の業務として、被災自治体との意見交換や被災地視察・研修を担当し、貴重な経験をさせていただいています。

被災自治体等との意見交換を通して現地の方々のお話を伺いましたが、ハード面は復興しているように見えても、住民の方の心の面では多くの課題が残されており、心の問題も地域によって状況が異なることがわかりました。そういった現状を本省に伝えることも復興施策立案の一助になっているのだと感じています。

出張の際の思い出といえば、原子力災害被災地域の福島県大熊町で食べた「常磐もの」の煮魚定食がおいしくて印象的でした。海が近いと、魚も新鮮。港町の八戸市で育ちましたが、東北厚生局のある仙台市も魚がおいしいですね(牛タンだけではありません)。職場の方に支えられつつ、この2年間で緑と食が豊かな仙台市が大好きになりました。
 

企画調整課の若手係員が語る「東北厚生局の職場環境」

周囲のサポートや充実した研修により 安心して業務に取り組める

鈴木 翔


私は昨年4月、東北厚生局に入局し企画調整課に配属されました。担当する広報業務では、6県の皆さまに当局の業務をわかりやすくお伝えするため、各課と連携しながら取り組んでいます。上司や先輩方のサポートもあり、日々成長とやりがいを感じながら携わることができています。

約1年間、東北厚生局で勤務してみて、非常に働きやすい職場だと感じました。採用前は業務に不安を感じていましたが、いざ働いてみると、上司や先輩方が業務の進捗状況について声をかけてくれたりするほか、若手職員を対象とした年金制度、医療保険制度、介護保険制度などの知識を習得するための研修も充実しており、安心して業務に取り組むことができています。

また、東北厚生局では積極的な休暇の取得を奨励しており、上司から休暇取得の状況確認をしていただけるなど休暇を取得しやすい環境が整っています。私も業務が滞らないよう調整しながら、月に1日以上休暇を取得し、心身ともにリフレッシュしています。




 

出典 : 広報誌『厚生労働』2024年3月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省