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2024年4月の改正「改善基準告示」適用で自動車運転者の働き方が変わる
来年4月1日、「トラック」「バス」「ハイヤー・タクシー」の運転者の時間外労働について年960時間の上限規制が始まります。併せて、自動車運転者の拘束時間等の基準を定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」も改正され、同日から適用されます。
本特集では、改正された改善基準告示の内容を解説するとともに、長時間労働の実態が見られる事業者に対し、監督指導を行っている労働基準監督官の取り組みを紹介。加えて、発着荷主などによる長時間の荷待ち解消のため新設された「荷主特別対策チーム」の活躍を伝えます。
改善基準告示の改正の背景
運輸・郵便業は、過労死等のうち脳・心臓疾患による労災支給決定件数が最も多い業種です(2022年度56件うち死亡件数22件)。
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(以下「働き方改革関連法」)では、労働基準法が改正され、新たに「時間外労働の上限規制」が設けられ、自動車運転の業務にも「年960時間」とする規制が適用されることになりました(2024年3月31日まで適用猶予)。
また、働き方改革関連法の国会附帯決議等では、改正法施行後5年の特例適用までの間に改善基準告示の改善を求められていました。
そこで、労働政策審議会労働条件分科会の下に自動車運転者労働時間等専門委員会が設置され、トラック、バス、ハイヤー・タクシーの各作業部会で検討が重ねられた結果、昨年9月に改善基準告示の見直し案が取りまとめられ、同年12月に改正、来年4月1日から適用される運びとなりました。
<Part2>違反を見つけ改善基準告示を遵守させる
労働基準監督署の「自動車運転者」監督指導
自動車運転者に長時間労働の実態があった場合、その是正を企業側に監督指導する労働基準監督署。その監督指導の実情とめざす目的について、当事者の労働基準監督官に話を聞きました。
●母親からの涙ながらの電話で違反が発覚するケースも
これまで時間外労働の上限規制適用が猶予されていたのは「自動車運転者」と「医師」と「建設労働者」などの職種で、共通しているのは「施主の依頼が絶対である」ことです。
建設業は工期遵守、医師は医師法第19条「応召義務」の規定により、診療要請があれば拒めません。自動車運転者、たとえばトラック運送会社は「無理ならほかに頼むから」と荷主に言われれば、断ることは困難です。
「依頼される側の立場が弱い世界で、ビジネスを成立させ、法令も守らなくてはいけない。どの会社も、そのジレンマのなかで頑張っておられます。ですから、労基署の監督指導も強権発動的なものではなく、指導対象との信頼関係の下、任意の協力で進むのが理想です。そうでないと指導を前向きに捉えてもらえず、改善にもつながりません」と、さいたま労働基準監督署の珍田圭則第一方面主任監督官は話します。
珍田監督官によると、自動車運転者の長時間・過重労働の情報は、ドライバー本人のみならず、その家族から寄せられることが多いとのこと。特にトラック運転者に多く、運送会社の代表者が勤務実態を把握していなかったせいで、70日以上連続勤務になっていた若手のトラック運転者の母親が「うちの息子が帰ってこない」と泣きながら電話で訴えてきたこともあったといいます。
「早速、指導に行ってその方の日報を抽出すると、山のように積み上がりました。それを見て初めて実態を知ったその会社の社長は、『申し訳なかった。すぐ直す』と涙ぐんでおっしゃり、翌月すぐに週40時間労働に是正してくださいました。今でも印象に残る事例です」
珍田監督官の感触では、確信犯的に法令違反を犯している事例はまれで、大抵は規制内容を理解していないか、理解していても労務管理が不適切で結果的に違反しているかのどちらかのようです。
●長時間労働を是正し若者が入りやすい業界に
こうした1つの企業に対する監督指導は1回で済むとは限りません。情報提供を受けて対象の事業所を訪れても、大半の代表者は労基署の臨検に不慣れで、パニックになり不適切な初期対応をしてしまうこともしばしばだからです。
また、珍田監督官の経験では、顧問契約先の社会保険労務士事務所の名刺を渡され、「そこに行って」と代表者に丸投げされたこともあるとか。あえてその指示どおりに動き、本来事業者が自ら対応しなければいけないことをその社労士から説諭してもらうと、再度赴いた際は先方から非礼を詫びてきたそうです。
監督指導が1回で済まないことには物理的要因も。近年は運送会社もシステム化が進み、ある事業所の労務管理を精査しようにも、本社から資料を取り寄せてからでないと営業所も対応できないなどのケースがあるからです。そうした場合は、その場で確認できる限りのものを確認し、残りは期限を決めて提出を求めます。その場で是正勧告をした項目の確認も兼ねて、2回目、3回目の監督指導に赴くことも珍しくありません。
「物流業界では、いわゆる3K労働のイメージが払拭されず、若者が入ってきません。長時間労働の是正は不可欠で、小売など他業界では既に一般化しているスキマ時間のスポット就労を許容するといった、『潜在労働力はすべて活かす』施策も視野に入れて自動車運転者の働き方を再構築する必要があります。改正された「改善基準告示」の施行後1~2年は本当に大変でしょうが、各社の事業にとってプラスになる監督指導はどういうものかを私たちも心がけ、前向きな変化を一緒につくっていきたいと思います」
<Part3>2022年12月から始まった要請活動
「荷主特別対策チーム」の活躍
トラック運転者の長時間労働の改善には、運送業者の努力だけでは困難で、発着荷主の理解と協力が欠かせません。そのために都道府県労働局に新設された「荷主特別対策チーム」の活躍について、東京労働局の事例を通して紹介します。
●荷主側の当事者意識と協力が不可欠
「改善基準告示」の改正を受け、東京労働局では昨年12月23日、「発着荷主などに対し、長時間の荷待ちを発生させないよう要請し、改善に向けた働きかけを行う」ことを目的とする「荷主特別対策チーム」を発足させました。
たとえば、製造業者が運送業者に発注し、自社製品を工場から発送すれば、製造業者は「発荷主」。小売業者が商品を仕入れて運送業者に店舗まで運んでもらえば、小売業者は「着荷主」となります。
労働基準法における自動車運転者の労働時間規制については、その適用が一部猶予されてきましたが、その猶予期間が来春4月に終了し、時間外労働の上限を年間960時間とする規制が適用されることになります。
これとあわせて、トラック運転者の人手不足が重なり、物流が滞ることが懸念されており、物流業界で「2024年問題」と呼ばれるこの問題を解決していくためには、荷主側の協力も不可欠です。同対策チームはこの認識の下、対象となった荷主企業へ要請に赴くだけでなく、改善に向けた具体的な活動の相談に乗ったり、改善事例をモデルケースとして情報提供したりするなど、荷主側の取り組みを支援しています。
「要請に赴いた先では、『労働時間の上限規制とは』『改善基準告示とは』という説明から始めます。『2024年問題』と言えば、もう大体の方はわかってくださいますが、なかには、当事者意識が薄い荷主企業もまだおられます。我々の活動が、その認識を変えるきっかけになればと思います」と、東京労働局労働基準部監督課の國府田純一地方労働基準監察監督官は語ります。
●長時間の荷待ち解消が物流危機回避の実効的施策
要請対象となる荷主企業の情報は、厚生労働省ホームページ「長時間の荷待ちに関する情報メール窓口」から集めるほか、国土交通省ホームページ「トラック輸送適正取引推進相談窓口」に寄せられた相談からも得ています。労働基準監督署が運送会社に監督指導に入った際、長時間労働の原因・背景として荷主企業の問題を把握する場合もあります。
「要請に赴く数は、東京労働局だけで月に50~60件程度あります。今後は年間1,000件近くになるのではないかと想定しています」と國府田監察官。長時間労働の改善は、「物流クライシス」回避に向けた実効的な施策。長時間の荷待ちを極力発生させないようにすることは、最終的に荷主企業側にとっても利益になります。
「代表者の方はそこがわかっておられても、物流担当者の方がご存じでなかったり、小規模企業だと経営者でも理解されていなかったりするので、改めて説明して要請活動を行っています」と、東京労働局中央労働基準監督署第四方面の平岡徹也主任監督官は話します。
「今後は、国土交通省のトラックGメンが行う荷主への働きかけにも同席するなど、関係省庁とも連携しながら、時間外労働の上限規制と改正後の改善基準告示の円滑な施行に努めていきます」(國府田監察官)
出典 : 広報誌『厚生労働』2023年12月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |