広報誌「厚生労働」2023年10月号 特集|厚生労働省

あなたの気持ち、行動に移しませんか よし!自分も「臓器提供」について考えよう!

1997年に臓器移植法が施行されてから、この26年間、日本の臓器提供数は常に年間100件前後で推移してきました。
ただし、2021年の世論調査によると、仮に自分が脳死・心停止と判断された場合、臓器を「提供したい」と答えた人の割合は39.5%で、10人に4人は臓器提供に前向きなのです。

そこで本特集では、臓器提供の意思を持つ人たちの行動を後押しし、日本における臓器提供数を少しでも増やすため、「臓器提供の最新事情」「実際に行われた臓器提供手術の当事者・支援者による体験談」「家族の臓器提供の経験者と臓器提供を受けた経験者それぞれの思い」「臓器提供の意思表示の仕方」などの情報をお届けします。


 

<Part1>イントロダクション
今年度は過去最高の提供ペースで推移   日本の「臓器提供」の最新事情

日本における「臓器提供」は現在、どうなっているのでしょうか。その最新事情と課題、国の対応などについて、厚生労働省の担当者に聞きました。


解説
吉川美喜子
厚生労働省健康・生活衛生局難病対策課
移植医療対策推進室 室長補佐


●昨年度から提供数が増加した理由とは?
日本は昨年度、脳死下での臓器提供数が過去最多を記録しました。ご家族が臓器提供を承諾し、脳死判定を受けられた患者さんの数が全国で106人。これに心停止下(心臓死下)で臓器提供をしていただいた16人を足して、計122人の方々がご自身の臓器を移植を行うために提供されたことになります(図表1。図表2は都道府県別)。



今年度も今のところ、昨年度以上のペースで推移しており、8月末時点で累計で985人の方々が脳死下の臓器提供に応じてくださっています。
こうした傾向の理由の一つは、マスコミの移植医療に関する報道で、国民の皆さんが臓器提供について思い出されたこと。もう一つは、さまざまな政策の後押しもあり、医療者側の体制がここにきて少しずつ整ってきたからだと推測されます。

また、2010年施行の改正臓器移植法で15歳未満のお子さんからの臓器提供が可能となり、その体制整備と国民の皆さんへの普及・啓発を行った結果、2019年度は過去最多11例の脳死下臓器提供がありました(図表3)。



その後、昨年度はこどもの臓器提供について、臓器移植法の運用指針の改正が行われ再び11例、今年度は8月末現在13例の臓器提供が実施されています。

日本と同じくオプトイン方式(本人が生前、臓器提供の意思表示をしていた場合、または家族が臓器提供に同意した場合に臓器提供が行われる)で臓器提供の意思を確認するドイツ、韓国、アメリカ(図表4)では、救命できない患者さんの家族に対し、臓器提供できる機会があることを医療者が確実に話すよう促す政策がとられています。また、学会などを通じて、臓器提供に関する医療従事者への教育がなされています。



日本でも、2008年に日本医師会が作成した「終末期医療に関するガイドライン」が、2020年に「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」へと改定されました。終末期医療に関する単なる“事前指示”の枠組みを超えて、「人生の最終段階を迎えたときに、臓器提供はどうするか」といった事柄を、ご本人と家族と医療チームで総合的に話し合っておく機運が高まってきました。

●慣れている施設からのノウハウ提供を促す
他方、臓器提供においては、「実行できる医療施設が少ない」という問題もあります。
脳死下臓器提供施設として必要な要件を満たしている医療施設数は、昨年度末時点で全国に895施設。しかし、臓器提供を実施した医療施設数は昨年度およそ60施設にとどまります。

必要な要件を満たしている医療施設に臓器提供できる患者さんがいないケースはありますがそれ以外の理由で臓器提供未実施の医療施設は、「やったことがないから怖くてやれない」「人材やリソース面でどれくらいの負担になるかわからないから実施に踏み切れない」といった事情を抱えている可能性があります。

国はこの問題の解消に向け、いわば“慣れている”施設から不慣れな施設へのノウハウの提供や人材派遣を促す取り組み「臓器提供施設連携体制構築事業」を進めています。
以上ここまで、日本における臓器提供の現状を説明してきました、もちろん、「臓器提供しない」と意思表示していただいても全然構わないのです。

問題は、そういう機会がきたときにどうするのかをきちんと家族で話し合っておかないと、ご本人の意思がわからなかったり、ご本人の意思は明確でも、家族がそれを咀嚼できなくて、ご本人の気持ちをドナーにつなぐことができなかったりすることです。
そうした残念な結果を生まないためにも、臓器移植の意義の啓発普及を図り、家族に臓器提供の可能性についてお話しできる医療体制を構築すべく、政策を進めていきます。
 

<Part4>インフォメーション
「臓器提供」の意思表示はこうします



臓器提供の意思表示は、健康保険証・運転免許証・意思表示カードへの記入、インターネットによる登録に加え、普及が進んできているマイナンバーカードに記入することでもできます。

仮に家族の誰かが脳死・心停止と判断され、本人が臓器提供について何も意思表示をしていなかった場合、臓器提供を承諾するかどうかは家族の総意で決まることになりますが、2021年の世論調査によると、家族の臓器提供を決断することに対し「負担に感じる」と答えた人の割合は約9割を占めます。

また、患者さんが脳死判定を受けたタイミングで臓器提供をする旨の意思表示欄・カードが出てきて、家族の間で「何だこれは!?」となることもあるようです。家族に負担をかけないためにも、お元気なうちに、もしものときに備えて、家族の皆さんで納得できるまで臓器提供について話し合っておいていただくことが大事です。

なお、10月21日に「第24回臓器移植推進国民大会」が広島県で開催されます。臓器移植についての理解を深めていただくために、高校生によるスピーチコンテストや演劇など、さまざまな企画が予定されています。

 

出典 : 広報誌『厚生労働』2023年10月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省