- ホーム >
- 報道・広報 >
- 広報・出版 >
- 広報誌「厚生労働」 案内 >
- 新型コロナウイルス最前線
新型コロナウイルス最前線
最終回
新型コロナウイルスから学ぶこと ~次なる感染症危機に備えて~
本誌2020年11月号からスタートし、約3年にわたり「新型コロナウイルス感染症の動向と対策」を紹介してきた本連載。最終回は総括として、同感染症対策の司令塔であった「厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部」(以下、コロナ本部)のメンバーたちに、以下の3つの項目について聞きました。
3つの質問
質問(1)コロナ本部での主な業務や役割
質問(2)コロナ期間中に印象的だった出来事や取り組みなど
質問(3)今後、同様の危機管理対応が必要になった場合に活かしたいこと
●平時からの体制整備が最重要
江浪武志 内閣府大臣官房 審議官(経済財政運営担当・経済社会システム担当)
<当時の役職>
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部戦略班長(2020年8月~2023年7月)
(1)戦略班では、専門家の先生方のご協力を得ながら、感染症の流行状況の把握、感染症の重症度等の評価等を行い、本部内の医療班等の各班と連携して対策を行いました。
(2)今般発生した新型コロナ対策では、2020年12月に発生したアルファ株対策としての変異株スクリーニング等の実施、ワクチン接種が進むなかでの2021年8月のデルタ株流行への対応、さらに2021年末からのオミクロン株流行による感染症対策と社会経済活動の両立の取り組みなど、新しい変異株が発生するたびに、対策の強化や見直しが必要となりました。
(3)今後の新しい感染症対策としては、平時からの体制整備等が最も重要です。今回の新型コロナ対策におけるさまざまな取り組みを経験として蓄積できるよう、私自身も今般の対策に従事した経験を伝えていき、今後の体制整備に貢献できればと思っています。
●医系技官として入省した意味を実感
鷲見 学 内閣官房 内閣感染症危機管理統括庁 審議官
<当時の役職>
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部
保健班長(2020年8月~2021年9月)、医療班長(2021年9月~2023年7月)
(1)保健班長としては主に、保健所支援、保健師定員増、IHEAT設立、HER-SYS運用、海外からの入国者対応(My SOSの活用など)、オリパラ対応等に携わっていました。医療班長としては、全体像策定、医療従事者派遣、G-MISを活用した医療逼迫状況の把握、救急搬送困難事例への対応、デルタ株からオミクロン株への移行・5類移行に向けた調整(入院調整など)、地域医療構想との調整、医療計画策定、感染症法改正作業とその施行作業(協定締結医療機関など)を行っていました。
(2)新型コロナが中国において発生した初期には外務省国際保健政策室長として関与し、その後、厚生労働省に戻ってからも保健班長と医療班長として3年間ずっと新型コロナにかかわり続けられたこと、そのプロセスすべて、そして5類移行まで見届けられたことが、私にとってとても印象的で得がたい経験でした。
(3)この3年半の経験(さまざまな課題含め)を最大限に活かして、現在所属する内閣官房において、新型コロナの次の感染症に対応するための実効性のある行動計画を策定していきたいと思います。これだけ大きな公衆衛生危機に責任ある立場でかかわり続けられたことは、厚生労働省に医系技官として入省した意味があると強く感じます。
●事前のシミュレーションの大切さ
佐藤康弘 厚生労働省 大臣官房人事課大臣室 大臣秘書官
<当時の役職>
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部 保健班(2020年8月~2022年7月)
(1)私は、主にHER-SYSの運用、データ分析に携わりました。
(2)デルタ株が流行した第5波の時期に自宅療養者が急増し、保健所による健康フォローアップ業務がパンクしそうになった際に、患者自身がスマホから健康状態(体温・症状等)を入力するMY HER-SYSの導入を積極的に働きかけたことで、全国的に急速に普及しました。それにより、オミクロン株が主流となった第6波・第7波において、過去最大の自宅療養者数となったにもかかわらず、関係者の皆さまによる大変なご尽力と相まって、波を乗り越えることができたと感じています。
(3)もともとは、感染者数の迅速な把握というデータ収集を主眼に導入した仕組みですが、事前の準備が不十分ななかで、戦場と化していた現場に円滑に導入することは極めて困難であったことは事実です。事前のシミュレーションの重要性を強く感じたところであり、平時からの備えの積み重ねが重要という原点に立ち、関係者と議論を積み重ねておくという当たり前のことをしっかりと行っていく必要があることを、今後に活かしていきたいと思います。
●迅速な対応には指揮命令系統が重要
五十嵐久美子 厚生労働省 健康局健康課 保健指導室長
<当時の役職>
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部 保健班(2021年4月~現在)
(1)保健所の体制強化のための支援が主な役割。具体的には、人材確保(IHEATの創設・応援派遣調整、受援体制)、全庁体制による指揮命令系統、積極的疫学調査やクラスター対応、HER-SYSの活用、健康観察のための地域医療機関との連携等の体制整備やオリンピック開催時には東京都と連携し特設の保健所の運用を支援しました。
(2)感染初期より人員を派遣するなどの直接的な自治体支援を行い、その時々で変化する現場の課題や具体的ニーズを把握しともに解決してきた経験は、全国的に感染拡大した際の体制構築に役立ちました。
また、国から出される事務連絡の解説にオンライン会議などを活用し丁寧に説明する機会を設けたことや、国民へのわかりやすい情報提供も自治体に公表しました。これらは、戦略班、医療班、広報班などコロナ本部内での連携が功を奏しました。
(3)昨年度の法令改正において、「平時からの備え」として、自治体における予防計画や健康危機対処計画の策定が示されました。ただ、コロナウイルスのように変異などにより想定外の事態が起こることは避けられません。想定外の事態に迅速に対応するためには指揮命令系統が重要であり、機能するよう継続的な訓練が重要です。
第一線で感染症対策に尽力いただいた自治体職員の皆さまに改めて感謝申し上げます。各自治体での知見がレガシーとして次世代に引き継いでいただけることを期待しています。
●2万5,000人の陽性者を水際で食い止める
若林健吾 厚生労働省年金局 年金課長
<当時の役職>
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策本部 水際班長(2021年6月~2022年6月)
(1)2021年6月から水際班に所属し、新たに設置された検疫所業務課長として、入国時の検査の実施、陽性者の隔離、検疫施設での待機などの水際対策の企画立案、各検疫所を通じた実施業務を担当しました。
(2)同年夏には東京2020大会が開催されて大量の選手団などを受け入れ、秋からは入国緩和に向けた準備を進めましたが、12月にオミクロン株が発生して振り出しに戻りました。このときはウイルスの流入を遅らせるべく検疫を再強化して、最長10日間の検疫施設での待機を厳格に求めたことからホテルなどの待機施設の確保や運営に難渋しました。
翌2022年春からは再び入国緩和を始めましたが、入国者全員に対する検査や書類による審査手続きは空港での大混雑につながり、数時間にも及ぶ待ち時間が大きな負担になりました。このため、専用アプリを利用することで、検疫手続きに要する時間を大幅に短縮する「ファストトラック」を導入しました。これは前年夏から検討を始め、将来の入国緩和を見越してオミクロン株への対応時も開発を継続したもので、緩和のタイミングで導入できたことは幸運であり、入国者と検疫職員の負担軽減の面で大きな威力を発揮しました。
(3)振り返ると、相次ぐ変異株の発生、検疫の強化を求める声と緩和を求める声の間で、検疫を取り巻く状況は目まぐるしく変化し、水際対策の特性上、常に機動的な対応が求められました。こうした変化に柔軟に対応するためには、従来の紙媒体と手作業による検疫手続きではなく、ファストトラックのようなデジタルによる基盤を用意しておくことが必須であることを痛感しました。
これまで約250万人の入国者の検査を行い、約2万5,000人の陽性者を水際で食い止めました。これは、全国で約1,500人の検疫所職員だけで対応することは不可能であり、検査機関、ホテルなどの待機施設、医療機関、エアライン、輸送バス、アプリの運営、入国後のフォローアップなど、多くの民間事業者の支援によって完遂されたものです。この場を借りて感謝申し上げます。
本年9月に検疫所業務課は役目を終えて統合されますが、次なる危機に備える教訓としてデジタル化と民間との協力関係の2点を指摘し、今回構築したシステムや協力関係が重要な「インフラ」として将来に引き継がれることを期待します。
【編集後記】
対話のある広報で現場の支えに
厚生労働省 健康局 総務課 山口恵子
<当時の所属>
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部 広報班
参与(2020年8月~2021年3月)、広報戦略推進官(2021年4月~現在)
広報班では、コロナ特設HPやリーフレット、SNSなどでの情報発信、正しく情報が報道されるよう定期的な記者向けブリーフィングを実施するなどの対応を行い、コロナ本部の各班と連携し、わかりやすい情報発信に努めてきました。
この連載を開始した当初は、ウイルスに対する過度な不安から、差別偏見という課題も発生したため、「広がれありがとうの輪」など新たな取り組みを検討しつつ、正しい情報を適切な表現で繰り返し発信し続けました。特に、公衆衛生対策においては、医療をはじめとした現場の状況を踏まえて、各ステークホールダーと連携し、国民の皆さまの理解と行動につなげていくための情報発信が不可欠です。その土壌を育てるためにも、平時から“対話のある広報”に取り組み、丁寧に届けていきたいです。
出典 : 広報誌『厚生労働』2023年9月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |