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11社のケーススタディに学ぶ 副業・兼業のルールと労働時間・健康管理
厚生労働省は昨年8~10月にかけて、副業・兼業を認めている11社から、副業・兼業の解禁の背景や社内制度の概要などについてヒアリングを行いました。その結果を、厚生労働省労働基準局労働条件政策課労働時間特別対策室の本安貴登特別対策係長が解説します。
本安貴登
厚生労働省 労働基準局 労働条件政策課 労働時間特別対策室 特別対策係長
●「トップの決断」と「社内需要の高まり」
11社の「副業・兼業の解禁」の背景・動機は、「社員のニーズが高まったから」「トップダウンによる改革で」「ボトムアップによる」など、企業によってさまざまですが、基本的には多くの企業が、「多様な働き方を認める」ために副業・兼業の解禁を行っているという印象です。多様な働き方を推進するためにトップが社内の改革を進めてきた、というケースや、コロナ禍などもあって社員から副業・兼業など多様な働き方の需要が高まってきた、というケースがありました。
一方で、副業・兼業そのものへの捉え方は、企業によって分かれるところであり、「新たな人脈やスキルを獲得して労働者としての成長につなげてほしい」「主体的なキャリア形成をしてもらいたい」として、副業・兼業を積極的に推進したいと考える企業もあれば、「副業・兼業はあくまでも自由な時間の過ごし方の選択肢」であり、実際に行うかどうかは社員の自由に委ね、積極的な推進を行うものではないと考える企業もありました。
●「雇用による副業・兼業」を解禁している企業は11社中9社
具体的な「副業・兼業解禁」の中身を見ると、3つの特徴があります。
1つ目は、「雇用による副業・兼業(パート・アルバイトなど副業・兼業先と労働契約を締結するもの)」を解禁している企業(9社)と、「非雇用による副業・兼業(フリーランス、請負、業務委託など副業・兼業先と労働契約を締結せず、自ら事業主などとして行うもの)」に限り解禁している企業(2社)に分かれるということです。非雇用による副業・兼業に限り認めるとしていた理由としては、「労働時間の通算に課題があるから」などがありました。
2つ目は、全企業が社員の副業・兼業の実施にあたり、事前に「届出」や「許可申請」を行うことをルールとして定めていたことです。労務管理・健康確保などの観点から、「どのような副業・兼業を行うのか」「どの程度の時間、副業・兼業を行うのか」といった内容について事前報告を求めることが多い印象です。
また、自社での業務を本業としてもらいたいと考えている企業にあっては、副業・兼業を許可制とし、自社での勤務に影響が出ないよう、副業・兼業の実施時間や頻度などについて厳しく審査を行っていました。
3つ目は、今回は副業・兼業を認めている企業をヒアリング対象としましたが、そのなかで、副業・兼業を行う人の送り出しと自社への受け入れの双方を行っているという企業が2社あったということです。受け入れを行う理由は、「人材の多様性の形成」や「貴重な人材の確保」のためであり、特にデジタル人材など貴重な人材を確保するには、働き方が多様化する将来を見据えると、他の仕事の空き時間などの短い時間でも働ける制度を整えていくことが必要と考えていました。
●「管理モデル」を導入している企業は9社中4社
副業・兼業をする場合、「労働時間」は自社での労働時間と副業・兼業先での労働時間を通算することになります。通算方法としては、各企業において労働者から「副業・兼業先で何時間労働してきたか」の自己申告を定期的に受け、それを合算するか、「管理モデル」を導入するかの2種類があります。
管理モデルとは、副業・兼業時の労務管理における労使双方の手続上の負荷を軽くするためのもので、たとえば「自社での残業は45時間までにして副業・兼業先での労働時間は35時間にする」などと、自社での時間外労働時間と副業・兼業先での労働時間を通算して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となるように、あらかじめ自社での時間外労働時間の上限と副業・兼業先での労働時間の上限を設定し、その上限の範囲内でそれぞれ労働させるというものです。
今回ヒアリングをした範囲では、管理モデル導入は4社で、この母数は「雇用による副業・兼業を認めている」9社ですから、その約半数が管理モデルを取り入れていました。
●健康確保にも配慮した取り組みを
労働安全衛生法では、長時間労働者に対する面接指導などの健康確保措置が義務づけられています。健康確保措置の実施対象者の選定に当たっては、副業・兼業先での労働時間を通算することとはされていませんが、今回のヒアリングでは、副業・兼業に取り組む社員の健康状態を重視し、本業での労働時間と副業・兼業先での労働時間を通算した時間を基準に医師の面談・指導の対象としている企業も見られました。このように、副業・兼業を認めている場合には、副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じて法律を超える健康確保措置を実施することなどが望まれます。
また、フリーランスなどの非雇用による副業・兼業の場合でも、ヒアリングを実施した11社中8社で副業・兼業の実施時間に上限を定めていましたし、5社で副業・兼業の実施実績について定期的な自己申告による報告を求めていました。フリーランスとして副業・兼業を行う場合、副業・兼業先においては労働基準法などが適用されませんが、こうした場合においても健康確保のための取り組みを行うことが望まれます。
最後に、副業・兼業の解禁に取り組む(これから取り組まれる)企業の皆さまにおかれては、長時間労働を防止し、労働者の健康を確保するため、今後とも労働時間管理、健康管理に努めていただくとともに、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、職業選択に資するよう、副業・兼業の解禁の状況についての情報公開にも努めていただきますよう、よろしくお願いいたします。
<副業・兼業に関するヒアリング詳細>
11社の「解禁状況」と「労働時間管理」
今回、厚生労働省がヒアリングしたのは下記の11社。「雇用による副業・兼業」と「非雇用による副業・兼業」に分けて、それぞれの「解禁状況」「労働時間などの管理の工夫」の詳細を公開します。
※取り組み事例中の「副業」「兼業」などは各個社の呼称に基づき記載している。
本安貴登
厚生労働省 労働基準局 労働条件政策課 労働時間特別対策室 特別対策係長
●「トップの決断」と「社内需要の高まり」
11社の「副業・兼業の解禁」の背景・動機は、「社員のニーズが高まったから」「トップダウンによる改革で」「ボトムアップによる」など、企業によってさまざまですが、基本的には多くの企業が、「多様な働き方を認める」ために副業・兼業の解禁を行っているという印象です。多様な働き方を推進するためにトップが社内の改革を進めてきた、というケースや、コロナ禍などもあって社員から副業・兼業など多様な働き方の需要が高まってきた、というケースがありました。
一方で、副業・兼業そのものへの捉え方は、企業によって分かれるところであり、「新たな人脈やスキルを獲得して労働者としての成長につなげてほしい」「主体的なキャリア形成をしてもらいたい」として、副業・兼業を積極的に推進したいと考える企業もあれば、「副業・兼業はあくまでも自由な時間の過ごし方の選択肢」であり、実際に行うかどうかは社員の自由に委ね、積極的な推進を行うものではないと考える企業もありました。
●「雇用による副業・兼業」を解禁している企業は11社中9社
具体的な「副業・兼業解禁」の中身を見ると、3つの特徴があります。
1つ目は、「雇用による副業・兼業(パート・アルバイトなど副業・兼業先と労働契約を締結するもの)」を解禁している企業(9社)と、「非雇用による副業・兼業(フリーランス、請負、業務委託など副業・兼業先と労働契約を締結せず、自ら事業主などとして行うもの)」に限り解禁している企業(2社)に分かれるということです。非雇用による副業・兼業に限り認めるとしていた理由としては、「労働時間の通算に課題があるから」などがありました。
2つ目は、全企業が社員の副業・兼業の実施にあたり、事前に「届出」や「許可申請」を行うことをルールとして定めていたことです。労務管理・健康確保などの観点から、「どのような副業・兼業を行うのか」「どの程度の時間、副業・兼業を行うのか」といった内容について事前報告を求めることが多い印象です。
また、自社での業務を本業としてもらいたいと考えている企業にあっては、副業・兼業を許可制とし、自社での勤務に影響が出ないよう、副業・兼業の実施時間や頻度などについて厳しく審査を行っていました。
3つ目は、今回は副業・兼業を認めている企業をヒアリング対象としましたが、そのなかで、副業・兼業を行う人の送り出しと自社への受け入れの双方を行っているという企業が2社あったということです。受け入れを行う理由は、「人材の多様性の形成」や「貴重な人材の確保」のためであり、特にデジタル人材など貴重な人材を確保するには、働き方が多様化する将来を見据えると、他の仕事の空き時間などの短い時間でも働ける制度を整えていくことが必要と考えていました。
●「管理モデル」を導入している企業は9社中4社
副業・兼業をする場合、「労働時間」は自社での労働時間と副業・兼業先での労働時間を通算することになります。通算方法としては、各企業において労働者から「副業・兼業先で何時間労働してきたか」の自己申告を定期的に受け、それを合算するか、「管理モデル」を導入するかの2種類があります。
管理モデルとは、副業・兼業時の労務管理における労使双方の手続上の負荷を軽くするためのもので、たとえば「自社での残業は45時間までにして副業・兼業先での労働時間は35時間にする」などと、自社での時間外労働時間と副業・兼業先での労働時間を通算して、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となるように、あらかじめ自社での時間外労働時間の上限と副業・兼業先での労働時間の上限を設定し、その上限の範囲内でそれぞれ労働させるというものです。
今回ヒアリングをした範囲では、管理モデル導入は4社で、この母数は「雇用による副業・兼業を認めている」9社ですから、その約半数が管理モデルを取り入れていました。
●健康確保にも配慮した取り組みを
労働安全衛生法では、長時間労働者に対する面接指導などの健康確保措置が義務づけられています。健康確保措置の実施対象者の選定に当たっては、副業・兼業先での労働時間を通算することとはされていませんが、今回のヒアリングでは、副業・兼業に取り組む社員の健康状態を重視し、本業での労働時間と副業・兼業先での労働時間を通算した時間を基準に医師の面談・指導の対象としている企業も見られました。このように、副業・兼業を認めている場合には、副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じて法律を超える健康確保措置を実施することなどが望まれます。
また、フリーランスなどの非雇用による副業・兼業の場合でも、ヒアリングを実施した11社中8社で副業・兼業の実施時間に上限を定めていましたし、5社で副業・兼業の実施実績について定期的な自己申告による報告を求めていました。フリーランスとして副業・兼業を行う場合、副業・兼業先においては労働基準法などが適用されませんが、こうした場合においても健康確保のための取り組みを行うことが望まれます。
最後に、副業・兼業の解禁に取り組む(これから取り組まれる)企業の皆さまにおかれては、長時間労働を防止し、労働者の健康を確保するため、今後とも労働時間管理、健康管理に努めていただくとともに、労働者の多様なキャリア形成を促進する観点から、職業選択に資するよう、副業・兼業の解禁の状況についての情報公開にも努めていただきますよう、よろしくお願いいたします。
<副業・兼業に関するヒアリング詳細>
11社の「解禁状況」と「労働時間管理」
今回、厚生労働省がヒアリングしたのは下記の11社。「雇用による副業・兼業」と「非雇用による副業・兼業」に分けて、それぞれの「解禁状況」「労働時間などの管理の工夫」の詳細を公開します。
※取り組み事例中の「副業」「兼業」などは各個社の呼称に基づき記載している。
出 典 : 広報誌『厚生労働』2023年6月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |