広報誌「厚生労働」2023年1月号とびラボ企画|厚生労働省

デザイン×政策~メンタルヘルスをもっと身近なものにするためには~

広報誌「厚生労働」2023年1月号とびラボ企画

2022年8月に行われた「デザイン×政策~メンタルヘルスをもっと身近なものにするためには~」と題した勉強会。本勉強会に込めた企画委員の思いや勉強会の様子をレポートします。

とびラボとは?
厚生労働省では、職員が今の担当分野にとらわれず、自分自身の関心で新しい出会いや学びを求めてチャレンジすることを応援する提案型研修・広報制度があり、通称「とびラボ」(とびだす“R”ラボ)と呼ばれています。これは、職員が関心のある政策分野に継続的にかかわることおよび厚生労働行政の政策分野における現場の支援者、当事者などと出会い、現場での実践に関する学びを深めることを支援することで、職員の厚生労働行政に関連する幅広い実践的な知識の習得および職務を行う意欲の向上を期待するものです。とびラボ企画では、職員が企画したこのような活動を発信しています。


<企画提案者の思い>


山口正行
内閣官房こども家庭庁設立準備室 内閣参事官
(当時:子ども家庭局家庭福祉課虐待防止対策推進室長)


市民に届く制度のデザインを

生命保険会社のCMで、サッカー選手がリフティングをしている間に保険の見積もりができた、というものがあります。商品を選んでもらうために知恵を絞っている民間企業と異なり、申請主義の建前を取る役所では、支援を届けるための工夫が足りないと感じています。

そこで、デザインを学んでいる大学生の皆さんや、他省庁の若手職員と一緒に、必要な支援を届けるためのワークショップを企画しました。この企画を通じて、政策のインターフェイスの重要性に対する理解が深まればと思っています。


美大生や経済産業省とコラボ
「メンタルヘルス」について議論


厚生労働省は、昨年8月に2日間を使って、美大生と経済産業省とコラボし、厚生労働省の担当する「メンタルヘルス」を題材に政策の伝え方についてワークショップを行いました。

◎今ある課題を解決する「未来ビジョン」を作成

立案した政策を、必要としている人に的確に届けるためには「制度をどう設計するか」、「いかにわかりやすく伝えるか」など、デザインの視点が不可欠です。そこで、今回のとびラボ企画では、厚生労働省と美大生、経済産業省がコラボし、「メンタルヘルス」という重要だけれども届きにくいテーマについて、4つの小グループに分かれてワークショップを開催しました。

ワークショップは二日間にわたって行われ、各参加者は近い未来を想像し、それに向けて、どのような制度設計ができるのかを考えました(バックキャスティング=図表参照)。



一日目は、「未来の兆しカード(社会で今起きていることが網羅的に示されたもの。ネット記事や新聞記事など)」を見ながら、解決すべき課題を踏まえて未来を想像したシナリオを、各自三つずつ作成するというものでした。ここで、厚生労働省が学生に示したのは、メンタルヘルスには「スティグマ(無知・偏見・差別など)」と「地域共生社会」の二つの主要課題があるということ。スティグマや地域共生社会については、各グループで学生からの質問を同省職員が受けるかたちで話が展開され、お互いが理解を深め情報を共有しました。

そのうえで各グループでは、自分たちが解決したい課題、成し遂げたいことに立脚したシナリオを「未来ビジョン」として統合する作業を行いました。


◎メンタルヘルスの課題に学生視点から問題提起

二日目は、一日目に描いた未来ビジョンに課題を掛け合わせてアイデアを創出。デザインの視点から、具体的に直近3~5年間で何が実現可能かをバックキャスティングで考えるワークを実施しました。

Aグループの議論では、学生から「精神疾患を抱えている方の悩みは、疾患の対症療法だけではなく、環境が改善しないと根本的に解決しないと思う。その疾患を短所と見て治そうとするけれど、それは『マイナスから0』に戻すことにしかならない。0に戻すだけではなく、良いところを見つけて伸ばす活動をもっと増やすことがよいのではないか」と問題提起がされました。それを受けて、別の学生から「線引きをしっかりしたうえで0からプラスにすることと、マイナスを0に戻すことを分けて行うのはいいと思う」と賛同の声も。

問題提起した学生はさらに、「まず手をつけるとしたら教育の現場だと思う。精神疾患は疾患だということを周囲の誰もがわからずに終わってしまうことは悲しいことだと思うので、教育現場で個性や精神疾患というテーマを取り上げて『知る』のがよいのでは」と発言。これに対しては、別の学生から「精神障害を『個性』という曖昧な、健常者側にとって良い感じの言葉で捉える風潮があり、問題をうやむやにしているように感じるという障害者の声を聞いたことがある。先生たちの負担が増えてしまうデメリットがあるけれども、精神障害や疾患については一律的な教育では息苦しいので、臨機応変な対応をしてほしい」との声が出ました。




◎楽しいと思える未来を実現するために

別のグループでは、課題解決のアイデアとしてAIや動物など、人ではないものとの共生に焦点を当てた提案がありました。

「人と人との間のわだかまりや違和感を、AIや動物という存在が客観的に映し出してくれるんじゃないか」という意見を皮切りに、「AIが管理するようになったら、今見えていない疾患が見えてきたり、症状のグラデーションの部分が明確になったりする。精神疾患という病名がついているからカミングアウトしにくい。私はこれがこれくらい苦手とか、これがこれくらい得意というように、公表ができるようになればよい」「知能の高い動物が人間と会話できるような時代が来たら、それだけでセラピーになるかもしれない」「AIが職を奪うっていう話になっているけど、これをサポート役としてうまく共存できたらいい」などなど。こうした意見が学生・職員間で活発に交わされました。

各グループでのワークショップが終盤に近づいたとき、司会者から「アイデアを考えるときに、このアイデアが実現した未来は楽しそうだという自分の感覚、自分のなかでのワクワク感を大切にしてください。これ面白くないかもと思い始めてしまうと、具体的な内容を考えるのが難しくなってしまいます」との助言も。

各グループの意見をまとめるところまで進むと、最終的なアイデア発表になります。どういう人が困っていて、どういうアイデアを使うとハッピーになるかを、学生と職員が一緒になってスキット(寸劇)形式で表現しました。各グループの発表では、行う側にも、観る側にも笑顔が多く見られました。


<企画委員から>



 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2023年1月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省