広報誌「厚生労働」2022年12月号 特集|厚生労働省

早期発見・早期治療につなげるために 正しく知ろう!がん検診

日本では、がんは30年以上も死因第1位になっており、2人に1人ががんになると言われています。がんによる死亡や、治療などによる生活の質の低下を減らすには早期発見・早期治療が重要で、がん検診はそのカギを握ります。本特集では、国が推奨する5つのがん検診とその重要性について解説します。


がん検診未受診の理由
※出典:令和元年7月がん対策・たばこ対策に関する世論調査(内閣府大臣官房政府広報室)



●検診未受診の理由から見えるがん検診への偏見

国では、施策に関する国民の意識を把握するため、世論調査を実施しています。この調査の一つに「がん対策・たばこ対策に関する世論調査」があります。

令和元年度の同調査の結果から、がん検診に対する国民の考え方や不安が見えてきます。今回注目するのは、「がん検診未受診の理由」です。

最も多い回答は「受ける時間がないから」で、検診に行く時間を捻出することが難しいと考える人が多くいることがわかります。また、健康に自信があり、特に不調を感じていない、心配になったら受診すればいい、という自己判断で受けていない人も多くみられます。

こうした結果をみると、がん検診の実情について「知らない」や「偏見を持っている」人が多数いるようです。この特集では、がん検診への不安や偏見を払拭していきます。



国が勧める5つのがん検診

健康だからこそ定期的なチェックを!

2021年に「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」が改正されました。国では、この指針に則って5つのがん検診を勧めています。推奨されているがん検診について厚生労働省の担当者が解説します。


渭原(いはら)克仁
健康局 がん・疾病対策課 課長補佐



●科学的根拠に基づくがん検診で死亡率減少

日本では、健康増進法に基づいて、市区町村が努力義務として住民にがん検診を実施しています。国が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(以下「指針」)で定めているがん検診は、胃がん・子宮頸がん・肺がん・乳がん・大腸がんです(図表1)。



この5つのがん検診は、「決められた対象者」に「決められた間隔」で実施することで死亡率が減少するという科学的根拠を土台にしており、この方法を確実に現場に適用し実施していただくことで初めて死亡率減少効果が得られるものになっています。

また、指針では、指針で定められた方法を確実に現場に落とし込むこと、決められたプログラムを遂行できる体制を整え、精度管理(検査が均一にできているか)を徹底すること、検査結果を追跡してフィードバックしてがん検診事業の品質を管理することにも重点を置いています。

多くの国民の皆さまががん検診を受診すると、がんの早期発見の可能性が高まり、結果5つのがんによる死亡率が下がります。この考えを理解していただき、がん検診の受診対象者には定期的に受診していただきたいです(図表2)。




●がん予防につながる健康教育

指針には、がん検診そのものについてだけでなく、がん予防につながる健康教育についても記載しています。検診を受けることの重要性を理解することや正しい知識を持つことが、検診への理解や受診につながると考えられるからです。

がんに関する正しい知識の普及と合わせて、市区町村において、「胃がん」では胃がんと食生活、喫煙、ヘリコバクター・ピロリの感染などとの関係を、「子宮頸がん」では子宮頸がんとヒトパピローマウイルスへの感染との関係を、「肺がん」では肺がんと喫煙の関係を、「乳がん」では乳房を意識する生活習慣(「ブレスト・アウェアネス」)を、「大腸がん」では大腸がんと食生活との関係などを「がん予防重点健康教育」として実施するようになっています。

がん検診の受診対象者やその周囲の方々にがん検診について関心を持ってもらい、正しい知識を持ってがん検診を受けていただきたいと考えています。


●5つのがん検診を推奨している理由

市区町村のがん検診は、指針に沿って行うことを推奨しています。指針は、時代とともに変わるがんの罹患状況などを考慮して、直近では2021年10月に改正しました。

がんにも、がん検診にもさまざまなものがありますが、胃がん・子宮頸がん・肺がん・乳がん・大腸がんを推奨しているのには理由があります。これらのがんはこれまでの研究で、罹患率や死亡率が高い一方で検診を行うことで死亡率を下げる効果があることが確認されており、がん検診を受診するメリット(利益)がデメリット(不利益)を上回っているからです。

そもそも、がん検診には7つの基本条件があります(図表3)。1つ目はそのがんになった場合、亡くなる人が多いこと。2つ目は、検診で確実に死亡率を減少させられること(研究で証明されている必要がある)。3~5つ目は、検査を確実かつ安全に実施できる方法があることと、検査の精度が高いこと。6つ目は、治療方法があること。7つ目は、検診のメリットがデメリットを上回らなければいけないことです。

がん検診のメリットとは、がんの死亡率を下げることと、「異常なし」の判定で安心感が得られることです。



一方、デメリットは、検査によって偽陰性(がんがあっても、がんだと診断ができない)と偽陽性(がんではないのに、がん疑いで別の検査をしなければいけない)があること、過剰診断と検査による偶発症がありうるという点です。過剰診断とは、がんではないものをがんとして診断することではなく、命に関わらないようながんを見つけてしまうことを指します。

指針では、死亡率を減少させ、かつデメリットを少なくメリットを多くするための対象者と受診間隔については、専門家による研究や議論を重ね、定めています。これが変わってしまうと、メリットとデメリットのバランスが崩れてしまい、デメリットのほうが増えてしまいます。それは絶対に避けなければなりませんが、今後医学が進み、新たな科学的根拠が認められた検診方法が出てきた場合、指針の内容が変化していくことも考えられます。


●精密検査は怖がらず  受けることが大切

国は、がん検診について、研究や調査、専門家による議論を進め、指針の改正を行うとともに、国民に対してがん検診無料クーポンや検診手帳の配布をするなど、市区町村や企業と連携して、がん検診の受診率向上に取り組んできました。

しかし、男性の肺がん検診を除き各がん検診とも、第3期がん対策推進基本計画に掲げた目標である、がん検診受診率50%には届いていません。がん検診を受診しない理由を調査すると、「時間がない」「健康に自信がある」「心配があればいつでも受診できる」などの回答が多く挙がっています。

こうした国民の声を受けて、がん検診について正しい認識を持ち正しい行動をとっていただくべく、受診勧奨やがん検診に対する正しい知識・理解を深める普及啓発、利便性への配慮に努める取り組みなどを市区町村と協力して行っています。がん検診に興味・関心を持ち、がん検診をぜひ定期的に受診してください。

また、がん検診の受診だけでなく、受診した結果「要精密検査」になった方には、精密検査を確実に受診していただきたいです。精密検査の受診の有無は、がん検診の精度管理にもつながります。精度管理体制としては、市区町村が都道府県や検診実施機関と連携し、相互にモニタリングとフィードバックをして、確実に住民の結果を評価することとしています。

これによってエビデンスに基づいて行っている検査の精度を高く保つことができるので、この体制を整備することは非常に大切です(図表4)。




第3期がん対策推進基本計画の精密検査の受診率の目標値は「要精密検査」となった人の90%です。5つのがん検診のうち、乳がん検診の精密検査が一番高く、全国平均が89.2%。大腸がん検診の精密検査受診率は71.4%であり、がん種ごとや都道府県によってバラツキがあります。

「精密検査を受診せずに放置するとがんの発見が遅れるため、要精密検査となった場合は精密検査を必ず受診する」と皆さまに認識していただくことが必要です。


●少ない時間で受けられ  自治体の費用補助もある

がん検診は、科学的根拠に基づき、対象者が受けると確実にがんの死亡率が下がるものですが、まだまだ受診率が50%を下回っている状況です。これでは、がん検診の効果を発揮するには不十分です。

対象者全員が確実にがん検診を受診することで、死亡率減少効果が発揮されます。そのため、国はがん検診を受診する重要性について広く発信しています。

検査は100%正確ではないので、場合によっては、小さいがんを発見できない可能性があります。しかし、受診間隔が決められているので、大事に至る前に次の検診で発見ができるようになっています。早期に発見をすることで早期に治療を開始できます。一度の検診で安心して受診をやめるのではなく、対象者は(決められた頻度で)定期的にがん検診を受診することがとても大切です。

がん検診も、基本的には問診後検査となっており、また同日に別の検査も受診できるなど、受診者に配慮されたものになっています。短い時間で検診を受けられるので、手間を惜しまずに検診を受けに行ってみてはいかがでしょう。

費用についても、市区町村のクーポンなどを利用することで、自費で受けるよりも安く受けられます。お住まいの市区町村のHPなどで確認してみてください。

また、新型コロナウイルス感染症の流行でがん検診の受診を迷っている方もいるかもしれませんが、検診実施施設では感染対策がしっかりと取られており、密にならないように配慮もされているので、安心して受診してください。がん検診は不要不急の外出ではありません。

こうした状況下だからこそ、自分自身の健康を守るために、がん検診を受診していただきたいです。



 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2023年1月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省