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- <10月10日は「世界メンタルヘルスデー」>~目に見えない疾患や障害の有無・程度にかかわらず~誰もが安心して自分らしく暮らせる社会へ
<10月10日は「世界メンタルヘルスデー」>~目に見えない疾患や障害の有無・程度にかかわらず~誰もが安心して自分らしく暮らせる社会へ
国では、精神障害やメンタルヘルス上の課題の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らせる社会である「地域共生社会」の実現のために「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」を推進しています。特別企画では、精神障害などの「目に見えない」ものをどのように伝え、理解することができるか、座談会を通じて解き明かします。あわせて、世界メンタルヘルスデーのイベントも紹介します。
【メンタルヘルスとは】
メンタルヘルスは、身体の健康ではなく「心の健康」を意味します。気分が落ち込んだり、ストレスを感じたりすることは自然なことですが、このような気分やストレスが続いてしまうと、「心の調子を崩してしまう」原因にもなります。心の不調は、周囲の人に気づかれにくく、自分からも伝えづらいため、回復に時間がかかってしまうこともあります。日頃から家族など身近な人とメンタルヘルスについて話し合い、理解を深め合うことが大切です。
<座談会>
伝えたいこと、伝わらないこと
~一人ひとりがメンタルヘルスを考えるために必要なこと~
メンタルヘルスのことをどのように伝えていけばいいのか、どう理解し合えばいいのか。その難しさと必要性について、当事者と医療従事者、メディア関係者、厚生労働省職員の4者で語り合いました。
◎「精神疾患を持っている人」と報道されること
田中:メンタルヘルスに関して発信していくことについて、皆さんとお話ししていきたいと思います。
厚生労働省として、いろいろな発信を試みてはいますが、なかなか難しさを感じているのが現状です。物事を伝えることやそのプロセスなどの視点を考えつつ、それぞれの立場での意見を聞かせてください。
秋山:世界全体の状況と比べた場合、メンタルヘルスに関する日本の状況がひどく悪いとは、私自身はあまり思っていません。厚生労働省や民間での前向きな取り組みが進んでおり、メンタルヘルスへの社会的な関心も改善し始めているように感じます。このチャンスをどう活かせるかが重要だと思います。
ただ、取り組みのなかで最も遅れているのが、当事者や家族と私たち医療従事者との連携であると思います。この連携をどううまく噛み合わせていけるか。この座談会が、連携の問題について考えるきっかけになればと思い参加しました。
小阪:私自身は当事者の代表だとは決して思っていません。当事者を代表して話すことは難しいので、今回は、当事者のなかの一個人として話をさせていただければと思います。
たとえば、犯罪に関する報道等ですが、「容疑者には精神障害があった」と報道され、そこで終わってしまうと、その記事等を見なかったことにしたくなることがあります。その記事等を見た人がどう思うかを考えると、精神障害に対する偏見を助長してしまう部分が大いにあると感じるからです。理想的な報道の仕方はすぐには思いつきませんが、メディアの人にはそのような偏見を助長するような報道のやり方ではなく、乗り越えられるような形を工夫してほしいと思います。
守屋:小阪さんの話を聞いていて感じたのは、「偏見などが起きてしまうのは、知らないからどう扱っていいのかわからない」という問題がメディアの側にあるからかもしれないということです。そもそもの基本となる正しい理解が浸透していないのではないかと思います。何が誤っていて、何が事実なのかわかっていない。何が伝えなければいけないことなのか、逆にどこが伝えたらいけないことなのか、という理解がメディア側にはまだ足りていないのかもしれません。
そして、メディアを受け取る側もどう受け取ったらいいのかということも含めて、正しい理解が〝当たり前〟になることが必要だと思います。
どうやって伝えるかというのは本当に難しい。信頼関係がないと取材はできないし、本音を引き出せないけれど、伝える側が正しく理解していないと真意を伝えられません。
藤田:事件が起きて容疑者の方が精神疾患を持っていた場合、報道の仕方によっては「精神疾患を持っている人=危ない人や犯罪を起こしてしまう人」と誤解が起きる可能性があります。報道をどう受け取るかは視聴者のメンタルヘルスの理解度にもよる一方、報道の仕方に疑問が残ることはあります。
◎精神疾患の症状には波がある
小阪:精神疾患を持っている人の犯罪率が高いというデータは見たことがありません。そして、精神疾患の場合は病状が重い軽いだけで判断するのは難しく、症状は重くなったり軽くなったりという体調の波もあるように思います。そうした波があるということは、一般の方にも知ってほしいことの一つです。
秋山:メディアだけの責任ではないのですが、メンタルヘルスに関する情報の全体が正しく発信されていないと思います。どんな病気でも、病気が重い方から軽い方まで幅があります。日本に400~500万人くらいいるといわれる精神疾患の患者さんのほとんどは症状が軽く、普通の生活をしているため、傍から見てもわからないでしょう。メディアの方も症状が軽い患者さんについての情報をどう報道したらよいのかわからないのかもしれません。
また、当事者の方が活動されるときにも、精神疾患の程度が中度から重度で、苦労している方が集まられることが多いと思います。「精神疾患でも症状が軽い人がたくさんいる」という事実を、社会にインパクトをもって伝えられるように、メディア、当事者・家族、医療従事者が集まって、きちんとした企画を立てる必要があると思います。
◎当事者の声を正しく伝え共感されるような発信を
田中:取り上げるきっかけやタイミングは難しいと思いますが、日常的な当たり前のことを当たり前に取り上げる手法はあるのでしょうか。
守屋:報道は新しいものを取り上げるのが大前提です。そのため、日常にありふれているようなことでもキャンペーンなどの形にして、大きなパッケージをつくってテレビや新聞だけでなくSNSなどのさまざまな媒体を活用し、当事者の声をすくいあげながら、みんなでつくっていくような発信の仕方ができるのではないかと思います。
秋山:私は、現在メンタルヘルスについて何のニーズも感じていない人に働きかける際、「メンタルヘルス」という用語を使うことが、本当に効果的なのかと思うことがあります。それよりは、たとえば若い世代に、「自分の心配を、周りの人にうまく伝えよう」といったコミュニケーションスキルや他者への信頼の改善をめざす働きかけをすることで、自然に、メンタルヘルスに関する一次予防や二次予防が効果的に達成されるのではないでしょうか。
一般社会に働きかけるときには、メンタルヘルスに関する専門用語をなるべく使わないようにすることで、よりたくさんの人々が、呼びかけに反応できるようにしていきたいですね。
小阪:予防を考えるときに、病気になったことを後悔してしまうような予防の呼びかけは良くないと思っています。また、心の不調は誰にでも起こりうることで、普及啓発と予防をセットで考えることが大切と伝える必要があります。当事者の想いや声を置き換えずに率直に伝えれば、共感を得られたり、もっとわかりやすかったりするかもしれません。
精神疾患に対しては偏見が多いため、その偏見をどう乗り越えていくかがリカバリーのきっかけになったりもします。自分は一人じゃないと感じること、同じ仲間と出会えることがリカバリーを歩む際には効果的です。家族にも理解されなくて、自分の家でも居場所がなくなり孤独感が増していくと、自分はダメな存在だと思ってしまいます。本人のペースに合わせて、長い時間をかけて寄り添う支援が大切だと思います。
守屋:メンタルヘルスを報道するうえで自分が大事にしているのは、共感を呼び起こすものであってほしいということ。正しいことを伝えるだけではなく、共感性を喚起することができれば100点。それが、いわゆる共生社会を実現することにつながるのではないでしょうか。
藤田:必ずしもすべての人が偏見を持つというわけではありません。ただ、どう接したらよいのかわからないという人は多くいるのではないでしょうか。自分も含め、そうした層には、共感という切り口はとてもいいと思います。共感性を呼び起こすようなものであれば、ハードルが低くなり、入りこみやすいです。
◎セルフケアの大切さと深めて広げる伝え方
田中:対談を経て、考えが変わったり、新たな気づきになったりした点はありますか。
秋山:精神疾患を持つ人への支援の難しさの理由として、どういうときに、何を、どう援助すればいいかが一般の人には非常にわかりにくいことが挙げられると思います。精神疾患による困りごとについて、一般の人にも簡単に理解できるようなわかりやすいツールを整えることが、非常に重要だと思います。そのうえで、どんな支援をどんなふうにすればよいかについて、わかりやすいガイドを提供すれば、精神疾患を持つ人と周囲の協働が進むと思います。
小阪:セルフマネジメントをどうしていくか。当事者が主体的にリカバリーを歩む際には、セルフマネジメントも欠かせない要素になりますので、そうした観点からも考えていくことが大切なのではと思いました。
秋山:セルフケアについても検討するべきことがあると思います。一番大切なのは、「ご本人が自分をよりうまくセルフケアできるために、医療従事者は、ご本人に対して、どういうケアができるのか」ということです。精神疾患を持つ人にとってどんなセルフケアが可能か、周囲がどのようなケアをすれば、ご本人のセルフケアの力がパワーアップするのかについては、当事者・家族との連携を通じて、医療従事者が、もっと理解を深める必要があると思います。
守屋:メディアの責任として、もっと当事者性や一人ひとりに向き合っていくことが大切ですね。一回の取材で終わりではなく、継続して取材し、しっかりと深めて広げることが、伝える側の責任だと思いました。
藤田:第三者の誰でも、「リカバリー」という視点なら持ちやすいのではないか、という気づきがありました。私もそうした視点を持っていきたいですし、今回の座談会で、自分なりにフィットする考え方を見つけることができた気がします。
<世界メンタルヘルスデー JAPAN2022~つながる、どこでも、だれにでも~>
世界精神保健連盟(WFMH)は1992年から、メンタルヘルス問題に関する社会の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的に、10月10日を「世界メンタルヘルスデー」と定めました。現在は、世界保健機関(WHO)も協賛し、正式な国際デー(国際記念日)となっています。
厚生労働省でも、メンタルヘルス問題について国民に広く関心を持ってもらい、身近なものであることを知ってもらうため、今年は同日にトップアスリートやピアサポーターなどによる対談の様子をYouTubeで配信します。第1部では、「誰にでも起こりうる」メンタルヘルスの問題について、トップアスリートの話を聞きながら、一緒に考えます。第2部では、統合失調症やうつ病などの精神疾患について「正しく知り、向き合うこと」が、なぜすべての人にとって大切なのか、ピアサポーターの体験談も交えて考えます。
●日時
10月10日(月・祝) 午前10:00配信開始予定
●問い合わせ
厚生労働省
社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課
Tel:03-3595-2307
詳しい情報はこちら
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/mental_health_day/
特設サイトでは、世界メンタルヘルスデーJAPAN 2022に向けて、著名人、
関係団体などからのメッセージ動画、一言メッセージを掲載しています。
出 典 : 広報誌『厚生労働』2022年10月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |