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Approaching the essence─広報室長がめぐる厚生労働と“ひと”─ 広報改革
<厚生労働省の広報を変える―より良い国民生活を実現するために―>
「ゆりかごから墓場まで」。厚生労働行政は、一人ひとりの人生に寄り添う国民に最も身近な行政です。厚生労働省の政策を知り、理解し、活用することがより良い生活につながるため、国民の皆さんへの広報活動が非常に重要となります。厚生労働省では現在、広報活動の充実のための改革を進めています。改革の現状と今後の展望を説明します。
広報改革の3つの柱
厚生労働省が進めている広報改革の柱の1つ目は、政策を知ってもらうための広報活動(マーケティングPR)です。これは、民間企業でいえば、商品やサービスに関する広報に相当します。
厚生労働行政では、数多くの政策が実施されており、厚生労働省ウェブサイトなどで日々、最新の情報やリーフレットなどを提供しています。さらに、そのなかでも新型コロナワクチンなど、とりわけ国民の皆さんにご理解をいただきたい政策については、「重点広報」と位置づけて、日常的な取り組みに加えて、広報室の持つノウハウやSNS・ウェブサイトなどのツールを駆使して、より積極的に「届ける」ための広報活動を実施しています。
2つ目の柱は、厚生労働省そのものを知ってもらうための広報活動(コーポレートPR)です。この一環として、本誌月刊『厚生労働』は2020年7月から「職員の顔が見える広報」をコンセプトに本格的に誌面リニューアルを行いました。「政策」を立案する職員が政策内容とそれに対する情熱や思いを伝える誌面を毎号掲載しています。また、「顔が見える広報」をより多くの方に届けるメディアとして、厚生労働省noteの公式アカウントを近く開設予定です。
3つ目の柱は、インターネットを活用した広報活動(デジタルPR)です。国民の皆さんの情報収集の手段としてウェブやスマートフォンが中心となっています。このため、厚生労働省ウェブサイトの構成の見直しやコンテンツの強化に取り組んでおり、TOPページの情報整理や導線の見直しを継続的に進めています。
またTwitterやFacebook、LINEなどのSNSによる情報発信も強化しています。Twitter、Facebookのフォロワー数が大きく増加しているほか、昨年2月に新型コロナウイルス情報に関するLINE公式アカウントを開設し、既に200万人を超える方々にフォローいただいています。
厚生労働省の政策は人生に寄り添う身近なものです。一人でも多くの国民の皆さんにご理解とご活用をいただけるよう、厚生労働省では今後も、「共感」と「信頼」を寄せていただけるような情報発信、そのための広報体制の強化に努めていきます。
<対談:「信頼される厚生労働省」に~広報改革のこれからの課題とは~>
現在進められている厚生労働省の広報改革。PRの専門家の目にはどのように映っているのでしょうか。長年企業や自治体のPRに取り組んできた菅井利雄さんをお招きし、これまでの広報改革の取り組みの評価と、今後の課題を探ります。
ブレインズ・カンパニー代表取締役社長
菅井利雄さん
厚生労働省 大臣官房総務課 広報室長
野﨑伸一
「顔が見える広報」の2つの視点
野﨑●厚生労働省の政策は国民の生活と密接につながっています。政策の推進には、国民の皆さんにご理解いただくことが重要ですが、その前提は国民の皆さんから厚生労働省が「信頼のおける組織」だと感じていただくことだと考えています。そのための広報活動なのですが、厚生労働省のこれまでの広報は、マスメディアを通じた広報が中心で、自分たち自身の発信力を高める努力は不十分でした。
そこで、国民の皆さんからの自分たちへの共感と信頼を育て、理解を得られる情報発信力を強化する必要があると、昨年1月から、「広報改革」に取り組んでいます。その一環としてコーポレートPR、特に「職員の顔が見える広報」に力を入れています。
菅井●厚生労働省で進めている「顔が見える広報」の取り組みには大賛成です。加えるならば、広報、特にコーポレートPRでは、国民が求める情報を的確に変化に合わせて発信できる適応力が求められます。迅速に動ける広報と、中長期を俯瞰して進める広報の2つの軸が機能しているか、コーポレートPRではここを評価しないといけません。その意味ではまだ課題は残っています。
一例ですが、気象庁では自然災害が発生した際に、長官ではなく担当課長が記者会見します。実務担当者の話はわかりやすく、汗をかいて国民のために仕事をしている様子が伝わります。それが受け手の共感や信頼につながる。これがめざしたい「顔が見える広報」です。厚生労働省でも、新型コロナに関する広報などで、課長クラスがもっと前面に出てもよいと思います。
トップの発信には準備に時間がかかりますが、すぐに実務の責任者が出てきて、真摯に現状と今後の見通しなどをわかりやすく話せば、メディアだけでなく国民にも「よくやっている」と評価されるはず。もちろん、トップの発信も大切ですから、役割を決めて柔軟な姿勢で広報に取り組むことが大切だと思います。
適切なタイミングの見極めが効果的な広報に不可欠
菅井●たとえば、「熱中症」に関する情報を国民が「欲しい」と感じるのは夏よりも前、本格的に暑くなってからでは遅い。つまり、タイミングをとらえた情報発信が重要です。インパクトのある政策の施行や調査結果の発表は、メディアも注目しますから、その時期に合わせた情報の発信や、取材を受ける準備をするなど戦略を考えることも大切です。年間カレンダーの準備も必要ですね。
野﨑●その点も厚生労働省の広報の重要な課題です。これまでは各部局の判断に任せてしまっていた反省から、各部局が重点的に広報したい政策を、どのタイミングで、どのようなメッセージや方法で国民に提供するか、広報室が各部局に伴走しながら一緒に考えていくという取り組みを昨年から始めました。1年目は4件しか手が上がりませんでしたが2年目の今年度は12件と大きく増え、少し手応えを感じています。
菅井●手応え十分ですね。成功事例が増えれば、ほかの職員の刺激となって「やっていこう」という雰囲気が生まれるでしょうから、今後にも期待が膨らみますね。そして戦略性に、俊敏な適応力も加われば広報が一層効果的に機能するようになります。
野﨑●まだまだ不十分ですが、一つ例を挙げると、コロナ禍での生活困窮者の増加に危機感を感じ、昨年末、担当課と相談し、ウェブサイトやSNSで「生活保護の申請は国民の権利です」と発信しました。初の試みでしたが、大きな反響がありました。
菅井●年越しを前に「年末」というタイミングですぐ対応する動きが取れたことがいい反響につながったのだと見ています。とはいえ、どのタイミングが広報的に機能するのかを見極めるのは、広報経験がある人でないと難しいです。部局に任せきりではなく、広報室がどうリードしアシストできるかがカギですね。
身近な存在になるために
野﨑●菅井さんも委員として参加されていた「コロナ禍の雇用・女性支援プロジェクトチーム」では、支援を必要とする方に情報が届いていないとの指摘が相次ぎました。これを受けて、デジタルによる発信や、わかりやすい広報資料の作成の取り組みを一層強化していくつもりです。
菅井●厚生労働省のデジタルPRは、多様なメディアを用いていて、頑張っていると思います。ただ、情報が届いたときに、国民から見て厚生労働省が遠い存在なのではないかと。誰から、どこから情報が届くと国民は「なるほど」と思うのかを考えるのも広報上の重要なポイントです。ターゲットを動かすための広報の適役は誰か。すべて厚生労働省単独でなければいけないと考えるのは早計です。たとえば、企業が消費者の声を拾い上げて広報に活用しているように、厚生労働省も、NPO法人や自治体、病院、医師会などの主体的な情報発信と連携した広報も考えてはいかがでしょうか。より国民に近い存在からの情報だと親近感にもつながり、最終的に政策主体の厚生労働省と国民の距離も縮まります。
深掘りしたいときの情報源である厚生労働省のウェブサイトがわかりにくいという課題もあります。テーマごとに情報がまとまったページをもっと増やす必要がありますね。
国民が「うれしい」「頼れる」と思える情報発信ができれば、厚生労働省は信頼され、身近な存在になると思いますね。
野﨑●国民の皆さんに身近な存在と感じてもらえるまで、息の長い取り組みだと思いますが、発信する情報の中身と発信の方法の両面で、厚生労働省の職員の意識や組織の文化が変わるような広報改革を地道に進めていきたいと思います。
<広報改革を支えるスタッフ>
広報改革には、民間出身のスタッフや省内の有志など、さまざまなバックグラウンドの人たちがかかわっています。
◎厚生労働省の広報とブランディング強化
大臣官房総務課広報室 広報戦略推進官
野口奈津子
(大手PR会社や化粧品会社で企業広報、ブランディングに従事)
今年6月に広報戦略推進官に着任しました。
これまでPR会社と企業の双方において、新規事業の立ち上げ、ブランディング、PR、マーケティング業務など約30年にわたり豊富な経験を積んできました。
厚生労働省の広報は、国民の皆さまに情報をわかりやすく伝えて広く浸透させ、ターゲットを明確にし、情報が必要な方に確実に情報を届け行動を起こしていただくため、戦略的広報やブランディング施策をより強化していく必要があると感じています。
そのため政策の担当部局には、外部の専門家を招いた研修や広報室による個別コンサルテーションなど、従来のやり方にとらわれない視点での広報戦略を実践するための全面的なバックアップを行い、厚生労働省全体の広報力を向上させていくことが目標です。
「広報は厚労省ブランディングの重要な役割」という認識のもと、より一層の国民の皆さまからの共感と信頼をいただくために情熱をもって取り組んでまいります。
◎厚生労働省のWebマーケティングとは
大臣官房総務課広報室 広報分析専門官
松本暁尚
(大手IT・小売・飲食でデジタルマーケティングに従事))
厚生労働省で初のWebマーケターとして、現在はWebマーケティングの観点から広報効果の数値的な分析およびホームページやSNSなどのデジタルツールの運用や各部局へのサポートを行っています。
現状の広報の課題としては、省庁が伝えたい内容と情報が欲しい方の間に大きな乖離があり、情報が必要な方が本当に必要とする情報に辿り着くことが難しいという形になってしまっています。
それを解決するために厚生労働省では現在、ホームページなどのオウンドメディアに存在する膨大な情報を分かりやすく整理し、さらに官民連携によりさまざまな外部企業の協力を得て、国民の皆さまに一次情報として届けられる仕組みづくりを行っています。
省庁としてさまざまな制約があるなかでも、読み手の視点に立ち、分かりやすく見やすい内容になっているのかを常に念頭に置き、情報が必要な方には迷わずに、適切なツールにて情報が届けられるよう今後も改善を続けていきたいです。
分かりやすい広報指導室室長
越水大吾
(PR会社より出向)
広報改革の初期からかかわっています。職員は皆、国民の利益を第一に考えた施策づくりに注力していますが、「広報」をどうするかというところまで考える余裕がなかなかないのが実情です。私はPR業界から来た者として、より多くの国民に施策を届けるための広報を、SNSを始めとするデジタルツールやチラシの活用などを通じて支援しています。今後は、今までの知見を活かし、他者に依らない自立できる広報をめざしていきたいと思います。
分かりやすい広報指導室コミュニケーション専門官
望月未和
(不動産ディベロッパーで広報・販促に従事)
今年の2月に入省し、広報室に在籍しています。厚生労働省内には、施策を講じる立場から独自の言葉や表現があり、そのままでは国民に伝えたいことが伝わりづらくなってしまっていることを感じています。各課室が使う表現の意図を理解し、どこまで読み手(国民)が受け取りやすい表現にできるか、読み手に近い感覚を活かして落としどころを模索している最中です。広報改革が進んでいくように、本格化してきているさまざまな取り組みで力を尽くしたいです。
広報室参与
三原康佑
(警備会社に在籍)
広報改革の実行チームが立ち上がった当時、広報戦略推進官として広報室に在籍していました。途中、コロナの影響で鈍化してしまった部分もありましたが、再度力を入れて動き出す広報改革をぜひ推し進めていけるように“民間の視点”でサポートしたいと強く思いました。国民に寄り添った厚生労働省の存在を、より身近な存在に感じてもらえるように、今後もかかわっていきたいと考えています。
<こんなことも… 「カケル・プロジェクト」を開始します!>
広報改革により多くの職員にかかわってもらえるように、「カケル・プロジェクト」として、広報に関心・意欲のある若手職員を募集しました。
選ばれた10名の職員は、「広報改革コミュニケーター」として、厚生労働省noteへの「顔が見える広報」の投稿や省内広報などに主体的にかかわってもらいます。
出 典 : 広報誌『厚生労働』2021年9月号 発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト) 編集協力 : 厚生労働省 |