広報誌「厚生労働」2021年9月号 特集|厚生労働省

健康のために身につけたい薬の教養 薬・薬局の新常識


身近にある薬局やドラッグストアは、誰しもが一度は利用したことがあるのではないでしょうか。日々の健康管理のなかで、「薬」や「薬局」はとても重要なものです。本特集では、知っておきたい薬や薬局の基礎知識と最新事情について解説します。



<薬局・薬剤師の新常識
新たな薬局の認定制度開始>


今年8月から「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の認定制度が始まりました。この2つの薬局の機能を含め、皆さんが活用できる薬局について、厚生労働省の担当者が解説します。


永井智美
医薬・生活衛生局総務課


薬や健康づくりの相談から治療のサポートまで

 薬局は薬を受け取るだけの場所だと思っている人も多くいます。しかし、実際には、病気になる前の地域住民の健康づくりをサポートし、病気になっても医療機関や介護関係施設と連携して入退院や、在宅での療養など、さまざまな場面での薬物療法に対応しています。

 薬局を活用するうえで大切なのは、かかりつけの薬局や薬剤師を持つことです。「かかりつけ」を持つことは、専門家である薬剤師に何でも相談でき、自分の薬の服用歴や現在使用中の薬に関する情報を一元的・継続的に把握する意味でとても大切です。これは、薬剤師や薬局側が決めるのではなく、皆さん一人ひとりがそれぞれのニーズやライフスタイル、治療中の疾患に応じて自ら選択し活用するものです。相談しやすい薬剤師がいる、通いやすい場所にある、など自分に合ったかかりつけ薬剤師・薬局を見つけてください。

薬局を選ぶうえで参考になるポイントを紹介します。

 まず、先ほどのかかりつけの機能を持っていることに加えて、地域住民の健康維持・増進を積極的に支援する「健康サポート薬局」です。市販薬も多くの種類を扱っており、健康に関するさまざまな相談に乗ってもらえます。現在はコロナ禍で実施が難しくなっていますが、薬や健康に関連した相談会や教室を開催している薬局もあります。

 また、今年8月から新しく始まった制度として「認定薬局」があります。「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の二つを認定します。病気になった患者が安心して薬による治療が受けられるよう、医療機関などと連携して患者を支えていく役割を持つ薬局です。




地域連携薬局と専門医療機関連携薬局

 患者は入退院や、自宅、介護関係施設での療養など、さまざまな場で治療を受けますが、療養の場が変わっても、薬は継続して飲んでいることが多いです。そのため、薬局はさまざまな医療機関・介護関係施設などと情報連携しながら、患者の薬物療法に責任を持って対応する必要があり、こうしたことが確実にできる薬局を「地域連携薬局」といいます。

 たとえば、入院や退院をしたときには入院先の医療機関や利用する地域の介護施設などと連携し、それまでの服薬状況を伝えることで、それぞれの場での適切な薬の選択や治療方針の決定につなげることなどの役割が期待されます。

 また、「専門医療機関連携薬局」は、がんなどの専門性の高い薬物療法が必要な場合に、専門医療機関と治療方針などを共有しながら連携して対応を行う薬局です。

 近年、がん治療は外来受診も多くなり、抗がん剤は飲み薬も増えてきたので、薬局で扱う機会も多くなっています。薬の服用の仕方に注意が必要であったり、服用期間中に副作用が生じやすかったりするので、薬局の薬剤師は、医療機関の治療方針を把握したうえで、高い専門的知識を持って治療にかかわり、患者の相談に応じていくことが求められます。また、抗がん剤の混合・調製など、特殊な調剤に対応できる能力も必要です。専門医療機関連携薬局は病気の区分ごとに認定するもので、現在は「がん」に関する薬局を認定しています。

 最近は高齢化が進み、たくさん薬を使用する患者が多くなったり、新しい薬が次々につくられたりと、薬を飲む環境が変わってきています。それでも薬を安心・安全に使用できるよう、ここまでに紹介したようなさまざまな薬局の制度がつくられてきました。薬局では、薬剤師が薬の観点から、患者の病気や症状の改善、健康づくりなどを考えながら仕事をしています。頼りになる相談相手としてぜひ活用してみてください。



<処方箋の新常識
来年度中に電子化スタート>


これまで当たり前に「紙」で渡されていた処方箋がデジタルに変わります。来年度中に運用開始をめざしている電子処方箋の仕組みやそのメリットについて、厚生労働省の担当者に聞きました。


奥野哲朗
医薬・生活衛生局総務課 課長補佐


医療機関から薬局に処方箋が電子的に伝わる

 現在、処方箋は紙で渡され、患者自身が医療機関から薬局に持って行く仕組みになっています。これを電子化することで、ご本人が紙を持って行かなくても、薬局は電子的に処方箋が受け取れるようになります。

 その仕組みについては、安全に情報のやりとりを行うことができるマイナンバーカードのオンライン資格確認の基盤がすでに構築されているので、これを活用します。

 電子処方箋のクラウド型のサーバーに、医療機関は電子処方箋を登録します。

 薬局は、患者の本人確認を行い、そのサーバーから患者の電子処方箋を取得します。薬剤師は電子処方箋をもとに服薬指導や薬剤の交付を行います。

 その際、患者の同意のうえで、医療機関や薬局が過去の処方・調剤情報を見ることができます。

 電子処方箋は医療情報であり、患者にとって大事な情報なので、セキュリティを確保した安全な方法でやり取りができるように準備を進めています。




電子化による3つのメリット

 電子処方箋システムを導入することのメリットは大きく3つあります。

 1つ目は、紙の処方箋がなくなることによるメリットです。処方箋の偽造や再利用の防止、印刷するのにかかるコストや保管するスペースの削減、患者が持って行く必要がなくなることなどが挙げられます。

 2つ目は、処方内容の電子化によるメリットです。薬局から医療機関へ、疑義照会を反映した調剤結果などの伝達、医療機関での患者情報のシステムへの反映が容易になるとともに、調剤に関する入力の手間の軽減や誤記入の防止などにつながります。

 3つ目は、処方・調剤情報を共有できるようになるという点です。医療機関は、蓄積された処方・調剤情報をベースに診療・処方できるようになり、飲み合わせを確認したり、同じ薬を二重に処方することを防ぐことができます。薬局・薬剤師は患者の過去の処方・調剤情報を参照したうえで疑義照会や丁寧な服薬指導を実施できるようになります。薬局・薬剤師の業務の質向上や効率化、ひいてはより質の高い医療の提供にも結びつきます。

 また、患者自身が直近の処方・調剤情報や過去の薬剤情報を一元的に確認することも可能です。

 今後はさらに、電子であるメリットを活かして、重複投薬のチェックが機械的にできるようにしたいと考えています。

 たとえば、同じ成分の薬が二重に処方されようとしている場合、システムの画面に「重複投薬の薬剤あり」といった表示が出ることを考えています。


患者・国民にとって利用しやすいものに

 患者は、マイナンバーカードを持参して医療機関や薬局で意思表示さえしてもらえば使えるという形になっています。健康保険証での電子処方箋の取り扱いも考えているので、マイナンバーカードを持っていなくても利用は可能にする予定です。当面は安心・安全な運用のために慎重な導入を図っていきたいと考えています。

 電子処方箋では、お薬手帳で得られるのと同じだけの情報を見ることができますが、お薬手帳が不要になるわけではありません。患者の副作用やアレルギー歴、市販薬の服用状況など、お薬手帳でわかることもたくさんあります。

 この仕組みは、患者が希望しなければ進んでいかないものです。また、デジタル化に苦手意識のある高齢者でも利用しやすいものをめざしているので、ぜひ希望や要望を出していただければ幸いです。

 

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年9月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省