広報誌「厚生労働」2021年7月号 特集|厚生労働省

企業と社会を元気にする 高齢者が活躍できる職場のつくり方


人生100年時代を迎え、高齢になっても働き続けられる社会づくりが求められています。企業には、高齢の労働者が安心・安全に働ける職場環境を実現するための取り組みが不可欠。職場づくりのポイントや企業事例などを紹介します。




働く高年齢者とその労働災害が増加

 今年4月から「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、70歳までの就業確保措置が事業主の努力義務となりました。高年齢者の活躍の場が広がっている一方で、労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の労働者が占める割合は26・6%で、増加傾向にあります。

 高年齢者は身体機能の低下などにより、若年層に比べて労働災害の発生率が高く、休業も長期化しやすいことが調査からもわかっています。働くすべての人が安心・安全に働くためにも労働災害防止・職場環境の改善は重要です。

 国では、昨年3月に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を策定しました。高年齢労働者と、高年齢労働者を雇用する事業主の双方は、安心・安全を意識しなければなりません。






<Part2 職場環境の整備>

高齢者にとって安心・安全な職場づくりのポイント

高年齢労働者が安心・安全に働ける職場づくりのポイントについて、厚生労働省労働基準局の職員に聞きました。



労働基準局 安全衛生部安全課
副主任・中央産業安全専門官
井上 栄貴


ガイドラインを策定し高年齢労働者の安全確保

 近年、働く高年齢労働者が増え、60歳以上の雇用者数は過去10年間で1.5倍になりました。それに伴って、高年齢労働者の労働災害も増加しています。労働災害による休業4日以上の死傷者数の26.6%は60歳以上の高齢層であり、転倒や墜落・転落災害の発生数は若年層に比べて高くなっています。

 そこで国では、高年齢労働者の特性に配慮した安心・安全の職場をめざすために、昨年3月に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を策定しました。同ガイドラインは、高年齢労働者を雇用する事業者と労働者に求められる取り組みを具体的に示したものです。
それでは、それぞれについて見ていきましょう。


ハード・ソフトの両面で職場環境の改善に努める

 まず、事業者について説明すれば、次の5つについて、高年齢労働者の就業状況や業務内容などの実情に応じて、国の支援なども活用し、実施可能な労災防止対策に積極的に取り組む必要があります。



 1つ目は、「安全衛生管理体制の確立」です。経営トップは自ら、高齢者労働災害防止対策に注力する方針を表明し、その担当者や組織体制を明確化。対策について労働者の意見を聴く機会や、労使で話し合う機会を設けます。労災発生の頻度や重篤性から危険源の特定をしたり、災害事例やヒヤリハット事例から発生リスクを洗い出すことで、対策の優先順位を検討することも忘れてはなりません。

 2つ目は、「職場環境の改善」です。ハード面の対策としては、身体機能の低下を補う設備・装置の導入が挙げられます。たとえば、
・通路を含め作業場所の照度を確保する
・不自然な作業姿勢をなくすため、作業台の高さや作業対象物の配置を改善する
・階段には手すりを設け、通路の段差を解消する
・涼しい休憩場所を整備し、通気性の良い服装を準備する
・転倒防止のため、滑りやすい場所では防滑靴を利用してもらう
・解消できない危険箇所には標識などで注意喚起をする
などです。

 また、医療機関や介護施設ではリフトやスライディングシートなどを導入し抱え上げ作業を抑制すれば、腰痛などの予防になります。コロナ禍の今であれば、こうしたリフトなどの機器を活用することで身体の密着を減らせるため、感染対策にもなります。

 一方、ソフト面の対策としては、敏捷性や持久性、筋力の低下などの高年齢労働者の特性を考慮して作業内容などを見直します。たとえば、
・勤務形態や勤務時間を工夫し、就労しやすくする
・作業速度、作業姿勢などに無理がないように配慮する
・暑熱の環境での作業は、年齢を重ねるにつれ対処しにくくなるので、意識的な水分補給を推奨する
・始業前の体調確認を行い、体調不良時は速やかに申し出るように指導する
などです。

 これらの例を参考に、それぞれの実情に応じた改善に取り組んでみてください。


健康や体力の把握と適切な対応に努めよう

 3つ目は、「高年齢労働者の健康や体力の状況の把握」です。健康状況を把握するため、定期的な健康診断を確実に実施しましょう。

 労働時間によっては、健康診断の対象にならない労働者もいます。その場合は、地域の健康診断等(特定健康診査等)の受診を勧め、受診できるように勤務時間の変更や休暇の取得で柔軟に対応するようにしましょう。

 併せて、事業者、高年齢労働者の双方が体力の状況を体力チェックにより継続的・客観的に把握する必要があります。事業者は労働者の体力に合った作業に従事させ、労働者が身体機能の維持・向上に取り組めるようにします。

 たとえば、加齢による心身の衰えを調べるフレイルチェックなどを導入したり、厚生労働省作成の「転倒等リスク評価セルフチェック票」などを活用するのもよいでしょう。事業者の働き方などに合わせた体力チェックを実施する場合は、評価基準は社内での検討を踏まえて、合理的な水準に設定します。

 こうした健康や体力の状況に関する情報の取り扱いについては、労働者が不利益を受けないように留意しなければなりません。

 4つ目は、「高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応」です。加齢とともに、脳・心臓疾患の発生確率が増加することを踏まえ、基礎疾患の罹患状況を事前に把握し、労働時間や勤務形態、作業内容などに留意します。また、心身両面の健康保持・増進に取り組むため、メンタルヘルスにも配慮しましょう。

 5つ目は、「安全衛生教育」です。ハード・ソフトの両面からの安心・安全な職場づくりには、作業内容とそれに伴うリスクを高年齢労働者に理解させることが重要です。写真・映像などを活用したわかりやすい説明と丁寧な教育訓練を実施すると同時に、現場の管理監督者や共に働くほかの労働者に対しても高年齢労働者特有の特徴と労災防止対策について教育を行うようにしましょう。


労働者に求められる自らの健康を守る努力

 次に、高年齢労働者に求められるのは、事業者が実施する取り組みに協力するとともに、自己の健康を守るための努力の重要性を理解し、自らの健康づくりに積極的に取り組むことです。なかなか自覚しづらいことですが、労働者一人ひとりが、自らの身体機能の変化が労働災害リスクにつながり得ることを理解しておかなければなりません。



 労働者に求められる事項としては、次のようなものがあります。
・自らの身体機能や健康状況を客観的に把握し、健康や体力の維持管理に努める
・法定の定期健康診断を必ず受けるとともに、法定の健診の対象とならない場合には、地域保健や保険者が行う特定健康診査等を受ける
・体力チェックなどに参加し、自身の体力の水準を確認する
・日頃からストレッチや軽いスクワット運動などを取り入れ、基礎的体力の維持に取り組む
・適正体重の維持、栄養バランスの良い食事など、食習慣や食行動の改善

 高年齢労働者だけではなく、すべての働く人の労災防止のためにも、これまで説明してきた取り組みを導入・実施することが重要です。

 労働災害が減少し、多くの労働者が活躍できる職場環境が増えることを願っています。

 高年齢労働者の労働災害防止措置に係る経費の補助として、上限100万円、補助率2分の1の「エイジフレンドリー補助金」(申請期間は10月末まで)を設けていますので、ご活用ください。


 

 

 


 

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2021年7月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省