広報誌「厚生労働」2020年12月号 実践Report|厚生労働省

実践Report

 厚生労働省の職員たちが自身の担当する分野の実践の場にお邪魔し、
そこで学び、感じたことなどを紹介します。


FILE1:保険局高齢者医療課

神奈川県大和市における高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施
~住民主体の介護予防への医療専門職の関与~


保険局高齢者医療課
湯野真理子





高齢者へのアウトリーチ支援を積極的に推進

 高齢者の特性を踏まえた保健事業を効果的・効率的に実施するため、全国的に「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」が展開されています。このなかで推進したい取り組みの一つが「高齢者の通いの場等への医療専門職の積極的関与」ですが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、通いの場自体を中止している自治体も少なくありません。

 今回は、新しい生活様式を取り入れながら、住民主体で「高齢者の通いの場」を再開し、そこに市の医療専門職も積極的に関与して保健事業を展開している神奈川県大和市にお邪魔しました。

 大和市は、県の中央部に位置し、人口約24万人、高齢化率23.9%(今年10月現在)の都市です。2009年に「健康都市 やまと」を宣言し、「人の健康」「まちの健康」「社会の健康」の3つの柱を軸に施策を展開。市民の健康を守る保健事業も積極的に推進させてきました。特に、2013年から全国に先駆けて取り組んでいる、管理栄養士によるアウトリーチ型の「高齢者の低栄養予防・重症化予防」は、多くの高齢者に喜ばれ、病態や身体機能が安定することで医療費や介護給付費の抑制にもつながっています。

 2019年度からは、高齢者が集う「通いの場」に医療専門職が関与しフレイル予防に取り組む試みを開始しました。


医療専門職がサロンで健康チェックとフレイル予防

 今回取材した通いの場「中央4丁目サロン」は市の自治会および社会福祉協議会で企画・運営され、誰でも自由に参加することができます。

 この日はコロナの影響で半年ぶりの開催でしたが、12名が集まり、サロンの再開と久しぶりの再会を喜ばれていました。感染症対策として「受付時の検温、手指消毒」「参加者の連絡先の収集」「マスク着用」「参加者同士の距離の確保」「室内の徹底換気」を実施していました。

 このサロンでは普段はテーマを設けず、地域の出来事や相談事についての雑談を中心に開催していますが、この日は市の管理栄養士・歯科衛生士が訪問し、健康チェックとフレイル予防の講話が行われました。健康チェックでは、コロナの生活への影響や現在の健康状態についてのアンケートを行い、回答結果は専門職がその場で確認していました。心配な点があった方には、個別に声かけをし、簡単な健康相談を行っていました。

 フレイル予防の講話でも、コロナの影響を踏まえて、「マスクをつけていると口を大きく動かす機会が減るため、口の筋肉が衰えているかもしれません」といった新しい生活様式のなかで気をつけるべきポイントなどが紹介されました。そして、各自が家でもできる口腔体操や早口言葉などの練習をしました。

 講話後の質疑応答では、「歯間ブラシの使い方」や「口内炎の予防方法」など、普段から気になってはいるけれど、なかなか聞く機会がないような質問が多くあがりました。専門職が一つひとつ丁寧に回答し、高齢者の安心につなげていました。


高齢者の悩みや不安解消へ

 中央地区社会福祉協議会の叶会長は、「高齢者には、仲間同士のおしゃべりのために気軽に集まれる場所を提供することも大切だと考えている。ただ、高齢者の共通の悩みとして身体の不調や健康状態に対する不安がある。医療専門職がサロンに来てくれて話をしてくれるのはとても心強く、ありがたい」と話していました。

 コロナ禍で「人が集まる」ということがマイナスに捉えられるご時世ですが、久しぶりに再開したサロンの様子を拝見し、たとえ自治会の集まりであっても、高齢者にとって「外出する」「誰かと会う」「会話をする」という人とのつながりが健康を保つためにいかに重要かということを改めて認識しました。また、そこに医療専門職がかかわることは、高齢者の日常の小さな悩みの解消につながったり、健康状態の変化に気づく機会となり、高齢者が住み慣れた地域の中で元気に暮らしていくことを支援する重要な活動だと感じました。






FILE2:子ども家庭局保育課

「待機児童問題の解消」をめざし保育所の現状と工夫を知る

子ども家庭局保育課課長補佐
神森雄樹




公立・私立・認可外など多様な施設・事業を訪問

 日本では子どもの数は減り続けていますが、働く女性の割合が増えるなど保育へのニーズが高まっています。いわゆる「待機児童問題」への対策にこれまで力を入れて取り組んでおり、今年4月時点で約1万2,000人と調査開始以降最少となりました。

 しかし、待機児童の状況は地域によって異なります。このため、これからは全国的に保育所を増設するアプローチだけでなく、地域ごとの特性を踏まえた支援を検討していくことが必要です。

 待機児童対策も含む保育行政の実態を知るためには、各種統計・調査や電話ヒアリング等の実施ももちろんですが、より具体的に実情を理解するためには、保育を提供している実践の場にお邪魔して、そこで働く方々と直接お話をすることが不可欠です。

 今回は東京都世田谷区の皆さんにご協力いただき、さまざまな保育施設・事業(計6カ所)の実践を拝見しました。保育施設・事業は、経営主体が公立のもの、私立のもの、また、法律に基づいて認可されているもの、認可されていないが届出により運営されているものなど千差万別ですが、今回お邪魔したのは次の6施設です。

①公立(区立)の保育所
②保育ママ(区が認定する自宅で少人数を預かる事業)
③私立(社会福祉法人)の保育所
④小規模保育事業
⑤認証保育所(都独自の基準該当施設)
⑥認可外ベビールーム


趣向・工夫を凝らした取り組みを知る

 認可保育所の場合、法律や条例で定めた最低基準をクリアする必要がありますが、各保育施設・事業は地域の保育ニーズなどを実現するため、さまざまな趣向・工夫を凝らし、独自の取り組みを実施されていました。

 たとえば、今回伺った公立の保育所では単に保育施設というだけでなく、地域の子育て支援施設として、入園児童以外のための集いの場を設置するほか、施設間の連携にも力を入れていること。私立の保育所では、歴史ある法人の保育コンセプトに裏打ちされた明確な方針に基づいて運営がなされていること。保育ママを含む小規模の保育施設では、保護者との関係性にも重きを置くことができること。また、認可外の施設では、利便性の高い駅や繁華街の近接地にスペースを構える結果、行政の施設基準には合致しないものの、各家庭の個別の預かりニーズを受け止めていることなどが印象に残りました。

 また、保育所には新型コロナウイルス感染症の拡大下においても、社会を維持するために必要な施設として、原則開所をお願いしてきました。そのようななかで、各施設の立地やスペースの関係でその工夫の在り方は様々でしたが、極力児童への保育の提供内容に大きな変更がないように工夫していることがわかりました。


質の高い多様な保育を提供できる環境創出

 今回の訪問を通じ、同じ法律・条令の適用を受ける世田谷区内の保育施設であっても、各施設がそれぞれ保育の哲学を持ち、立地条件や人材確保の状況などの制約を受けながらも、それぞれの形で保育の提供を行っていることが肌感覚としても理解できました。

 こうしたさまざまな努力や工夫による多様な保育が、その質を担保しつつ必要な方々に提供できる環境づくりのために知恵を働かせていかなければならないと感じました。

 このような政策立案のためには、実践の場にお邪魔することが非常に重要です。全国を回ることはできなくても、限られた時間のなかで、より多くの、かつさまざまな保育所を見ることで、全国に向けて用意すべき支援メニューを準備していくことが必要だと実感しました。

 冒頭に触れた待機児童対策だけでなく、人口減少地域における保育の在り方の検討など、保育行政の課題は多岐にわたります。今後とも、多様な地域の取り組みから直接学ばせていただくことで、地に足のついた政策を立案していきます。




広報誌『厚生労働』2020年12月号
発行・発売:(株)日本医療企画

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年12月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省