広報誌「厚生労働」2020年11月号 Approaching the essence ─広報室長がめぐる厚生労働と“ひと”─|厚生労働省

Approaching the essence ─広報室長がめぐる厚生労働と“ひと”─

第3回・テーマ
ひとと社会をつなぐ地域プラットフォーム

 

 厚生労働省の政策にかかわるさまざまな場所を広報室長が訪れ、現場の生の声を届ける本企画。今回は、多世代の地域の人や組織をつなぎながら、高齢者が安心して暮らせるまちづくりに取り組む「みま~も」の活動を取り上げます。


住民・企業・専門職の関係づくりと
多様な参加で地域を“面”で支える






 「みま~も」は、まだ地域包括ケアシステムという言葉が定着していなかった2008年、医療・介護・福祉の現場で働く専門職が、地域に暮らす高齢者を“点”(専門職による個別支援)ではなく、“面”(地域のさまざまな主体の参画による支援)で支える必要性を感じ、そのしくみとして発足した任意団体です。

 発起人であり、牧田総合病院地域ささえあいセンターのセンター長の澤登久雄さんは、地域包括支援センターのセンター長であった経験から、「相談に来られる人は支援につなげることができますが、SOSの声を自ら上げられない人も大勢います。その人たちに支援を届けるためには、専門職だけでは目も手も足りません。地域のすべての人、企業や事業所などにも積極的にかかわってもらう必要があるのです」と強調します。

 「みま~も」では、地域の高齢者の変化に早期に気づくための「気づきのネットワーク」と、その気づきをもとに支援を行う医療や福祉の専門機関による「支援のネットワーク」の双方を一体として機能させることで必要な人に支援を届けることをめざしています(図)。月1回、住民向けにさまざまなテーマで開催される「地域づくりセミナー」、高齢者の緊急時に地域包括支援センターに連絡できるようにする「高齢者見守りキーホルダー」、商店街の空き店舗を利用して、さまざまな社会参加の活動を行う「みま~もステーション」などの活動に取り組んでいます。活動には高齢者が「みま~もサポーター」として参加、ときには講師を務めるなど「みま~も」の活動を担う主体としてかかわっています。

 「みま~も」の運営は、補助金や助成金に頼らず、企業や事業所の協賛金で支えられています。協賛する企業等はそれぞれの得意分野を活かして日々の「みま~も」の活動に携わるため、お金を出すだけでなく、人も出し、汗もかくことになります。この協賛のしくみをベースとして、「みま~も」は多彩な社会資源とのwin-winのネットワークをつくり、発足から10年以上たった今でも、その裾野は広がっています。










みま~も・座談会
多様な主体をつなぎ暮らしの安心と地域の可能性を実現する
(聞き手:大臣官房総務課広報室室長 野﨑伸一)




活動が生む関係性が
地域の人と組織をつなぐ


──私が澤登さんに出会った5年前、澤登さんは地域包括支援センターのセンター長をされていました。すぐにお邪魔して「みま~も」とのご縁が始まりました。そのあと、協賛のしくみをベースとして「のれん分け」が進み、同様の活動は少しずつ全国にも広がっています。この協賛というのがとてもユニークなしくみですよね。

片山●協賛金は1口2万円、2口以上という条件です。大企業も含め、ほとんどが2口です。

澤登●1社が多額の協賛金を払う形よりも、少額でも賛助会員の数が多いほうがネットワークは広がります。現在は90を超える会員がいます。

山本●企業や事業所が協賛するモチベーションはどこにあるのですか。

澤登●「みま~も」に参加するメリットの一つは、会員間の連携により、自社単独では考えられなかった事業が新たに立ち上げられることです。たとえば、あるとき、子育て世代のお母さんたちがパーティを企画しているというので、高齢者向け配食サービスを運営している会員に、「食事を安く提供できないか」と声をかけたところ、そのメニューが好評で、若い世代向けの商品開発に乗り出すことになりました。この会員は「みま~も」とかかわったことで視野が広がり、新規事業のヒントを得たわけですが、同じようなエピソードがある企業は多いです。

野口●私は商店街の役員をしていますが、商店街は高齢化し、このままでは立ち行かなくなるとの危機感を持っていました。そんなとき「みま~も」を知り、「きっといろんな人を連れてきてくれる」との期待を持って参加しました。実際、地ビールをつくる人や復興支援の人など、いろんな人が「みま~も」とコラボしてイベントをしてくれて、商店街の空き店舗が一時なくなったこともあります。

片山●「みま~も」が住民向けに企画しているセミナーで、病院の理事長が健康をテーマに講演をしたら、翌週、患者さんから「この間聞いた話がおもしろかった」と言ってもらえました。施設の入居者や患者が増えたというよりも地域との直接の関係性が生まれる。これこそがメリットだと言えます。


参加者を“お客さん”にしない

──ネットワークとしての活動をしていくうえで大切にしていることはありますか?

澤登●目的を明確化し共有すること、それと異なる役割を持つ3者以上の組織で1つのことに取り組むことです。目的が曖昧だと一緒に取り組めないし、たとえば3つの病院での活動など、似た組織では同じ役割を担うネットワークにしかならないからです。
 また、賛助会員を“お客さん扱い”しないのも特徴です。協賛金を出してもらって終わりではなく、人も出してもらいますし、一緒に汗もかいてもらう。

野口●冷や汗もかくけど(笑)。活動が常に前進しているから飽きません。たまに会合に出ると、変化・発展しているのに驚きます。これが、継続の秘訣じゃないかと思います。

澤登●発展のタネは協賛のしくみにあります。更新制で、辞めるのも入るのも自由という環境のなか、多くの人が行き来します。新しい人たちが入ってくると、この組織とはどんなことができるだろうという妄想から始まります。最初は僕一人でしたが、今は妄想する人が増えて、みんなの夢を出し合い実現できています。

金沢●夢を出し合う場があるのですか? 楽しそうですね!

澤登●月1回運営会議を開いて、今後の活動方針や活動内容を話し合いますが、協賛団体の代表者にも出席してもらい、アイデアや意見を出してもらっています。「みま~も」の協賛になることは、「みま~も」の活動の“主体”になることなのです。

野村●岡山市に出向し、「健康ポイント」の立ち上げにかかわっていましたが、CSRが目的だと企業がボランティア的な立場に留まり、活動は現場にお任せとなりがちで、主体的に活動してもらうことが課題でした。出資、協賛し、さらに一員として参加するとなると、その姿勢は全然違ってきますね。

澤登●発足当初から、すべての取り組みでwin-winを考えてきました。新しい人に対しては参加しやすいように、背中を押すようなこともあります。楽しく話しながらお互いに課題を突きつけ、企画が生まれるといった関係を大切にしています。

野村●人口が減っていくなか、各分野、とりわけ福祉分野はイノベーションが必要です。こういうプラットフォームがあると、いろんな人が集まって、多分野の人が他分野とつながって、それがまさにイノベーションを起こすのだと思います。私たち行政も、そういう意識を持たないといけないと思います。

澤登●「みま~も」には、個人で活動に参加し、応援してくれる「みま~もサポーター」もいます。「サポーター」は地域の住民の皆さんで、イベントや活動の担い手として協力してもらったり、セミナーの受講者として参加してもらったりと、多様なかかわり方をしてもらっています。


 



日常の暮らしにも安心感を

──せっかくなので、サポーターの方に直接お話を伺えるといいのですが。

片山●たまたま来てくれました(笑)。飯田さん、今日も手伝ってくれていますが、なぜこんなに頑張ってくれるの?

飯田静慧さん(みま~もサポーター)●なぜって、自分のため、元気でいられるから。何かエネルギーがわいてくるし、仲間と一緒に、わくわくすることができるし、こうやって自分が頑張れていることで自信にもなります。

澤登●私たち専門職の立場では、普通、飯田さんに会うことはありません。医療や介護が必要にならないと、会わないわけです。「みま~も」に参加することで、今は支援を必要としていない方たちと元気なうちから関係性をつくれるようになりました。飯田さんにとっても、いざというときに、自分をよく知る専門職がかかわってくれる。これは高齢者と専門職双方にとって理想的なことです。

飯田●そのとおり。今も、大船に乗った気持ちで安心して活動していられます。


──サポーターの存在は、澤登さんが「みま~も」を立ち上げようと決めたこととも関係していますね。

澤登●「みま~も」を始めたのは、自分たちだけで地域の高齢者の課題解決は無理だと感じたからです。地域包括支援センターは、相当数の相談に対応し、訪問することも少なくなく、マンパワーが足りません。今のしくみのままでは持続できないし、さらに言うと、私たちのところまでたどり着けない人も大勢います。そこで「地域に、暮らしのなかで高齢者を見守る“目”が増えて、変化に早く気づき、専門職がかかわれる仕組みが必要だ」という結論に至ったのです。

金沢●私は今、老健局で地域づくり支援に携わっていますが、大都市は地域のつながりが希薄で難しいと思っていました。しかし、都会の真ん中で民間企業などと一緒に、こんなふうに地域づくりができるんだなと驚きました。「みま~も」は、都市部のモデルとなりうるのではないかと思います。

澤登●大都市は、地縁が希薄なためネットワークづくりは難しいとの声もあります。しかし、見方を変えると、企業が密集し、多分野の人材が豊富です。「みま~も」は、そのメリットを大いに活かしたネットワークだと言えます。


“お仕着せ”の支援ではなく
「鎧」を脱ぎ生活者として

──以前、澤登さんから、日ごろ着ている「鎧」を脱ぐというお話を伺ったのが印象に残っています。

澤登●はい。私は普段、専門職の鎧を着ています。皆さんは公務員という鎧だと思います。鎧を着たままだと、目の前の人は利用者や患者でしかないのですが、本当にその人たちのことを考えるためには、自分も同じ立場になるかもしれないという当事者の視点を持つことが必要です。ここの活動にかかわる専門職は、地域の人たちが感じている思いを知り、地域によって育てられていると感じています。

片山●確かに、職員教育にもなっています。これも企業にとっては参加するメリットと言えます。うちの老人ホームの管理栄養士は、もう11年も「みま~も」の食を支えていますが、ここでの活動ですごく力をつけており、いろんな発想を自由に出していいという習慣が身についているように感じます。

山本●私は自治体から現在、出向してきています。自治体職員は目の前の課題への対応に追われ、広い視野で見るのは難しい面があります。「みま~も」のような事例を知ることは、自治体職員にとっても大切なことだと思います。

野口●ここ「アキナイ山王亭」はもともと商店街の空き店舗だったのを改修したものです。大田区は商店街に「お休み処」を設置する取り組みを推進しています。これには都や区から、最初の5年間の運営費への補助金が出ていて、それを充てて改修し、休憩所兼「みま~も」の活動拠点としました。そのときに、区のある職員の方が、私たちの思いを理解し一緒に考えてくれて、補助金の設計でも柔軟に対応してくれました。その結果、他の多くの「お休み処」が補助金が終わると同時に活動を休止するなか、ここは現在も継続でき、商店街も元気になっています。

野村●権限を持つ行政は、基準に適合しているかどうかのみに着目し、「適合していなければできない」となってしまいがちです。指導監査は行政の重要な仕事に違いありませんが、今後は、思いを持った住民の皆さんと一緒に何かを生み出すことにも頭を使うことが求められます。

山本●今日のお話を聞いていて、国のお金の出し方にもさまざまな課題があると感じました。もっと自治体を信じてもいいのではないかとも思います。お金には“使い勝手”が求められます。使う側の立場を考慮したお金の出し方をしないと、そのお金を活かせなくなります。行政は自分たちで決めたルールが正しいと考えがちですが、そこからはみ出したほうが、お金が活きるケースもあるということを学んだ気がします。

金沢●協賛金のしくみで自主的に運営しているのはすごいですが、国の補助金を極力緩やかに使えるようにすることもすごく大事ですね。住民や企業、自治体の「これをやりたい」という思いを受け止められるような柔軟性が必要だと思いました。

澤登●行政や専門職がやってしまいがちなのが、“お仕着せ”の支援です。自分たちの常識を振りかざして、「こうあるべき」と一方的に押しつける。そういう意識でいる限り、地域からは受け入れられません。
 行政や専門職に求められているのは、地域の人たちと同じ目線に立ち、同じ目的に向かって共に悩み、考え、汗をかく姿勢なのだと思います。言い換えると、自ら「主体」になるということです。そして、「主体」になるために不可欠なのが、「共感」です。地域の人たちと一緒に、怒ったり、泣いたり、笑ったり……。そういうことができる行政・専門職が増えていくといいと思います。


<座談会を終えて>



野﨑伸一:大臣官房総務課 広報室 室長

 みま~も」は、12年前の発足から試行錯誤しながら少しずつ広がってきました。コロナ禍でも悩みながら、皆が納得感を持って再び活動に参加できるように、一人ひとりと丁寧に対話を重ねたようです。

 久しぶりに「みま~も」を訪れて、改めて、「わたし」、つまり一人ひとりの主体がやりたいことを実現する、それをとても大切にされていると感じました。協賛のしくみにも、行政や専門職が鎧を脱ぐという澤登さんの言葉にもそれがよく表れています。

 また、地域の可能性を開きイノベーションが起こるプラットフォームの役割も浮かび上がりました。「わたし」を基点にすると、取り組みの裾野は無限に広がります。そこでの試行錯誤が実践の広がりと厚みを生むのだと思います。私たちも、「わたしはこう生きたい」「わたしたちはこうやりたい」という地域住民や自治体の主体化を少しでも広く受け止められるように、仲間たちと一緒に取り組んでいきたいと思います。


おおた高齢者見守りネットワーク(みま~も)
〒143-0016 東京都大田区大森北一丁目34番10号
【運営】大田区地域包括支援センター入新井
TEL:03-3762-4689
メール:info@mima-mo.net


 


広報誌『厚生労働』2020年11月号
発行・発売:(株)日本医療企画
 

出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省