広報誌「厚生労働」2020年11月号 特集|厚生労働省

特集

第4次産業革命時代に求められる人材の育て方

<対談>
Society5・0時代に
必要な人材とその育成の方向性


第4次産業革命時代に求められる人材と人材開発政策の今後の方向性について、対談を通じて明らかにします。


法政大学
キャリアデザイン学部教授
武石恵美子さん



人材開発統括官付参事官
(人材開発政策担当)
篠崎 拓也


人材開発政策で
5つの方向性を明示


●「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会」の目的や10月に発表された報告書のポイントを教えてください。

篠崎 日本はSociety5.0の実現に向けた社会実装や第4次産業革命に伴う技術革新の進展を迎えるとともに、人生100年時代の到来で職業人生も長期化しつつあります。これらを見据えた対応が求められるなか、現行の第10次職業能力開発基本計画の対象期間が本年度末で満了することもあり、次期基本計画の策定に向けた検討のため、昨年10月から武石先生をはじめ9人の有識者を構成員として、「今後の人材開発政策の在り方に関する研究会」を実施し、このたび報告書をとりまとめました。

武石 今、世の中には「デモグラフィー(人口構造)」、「デジタライゼーション(デジタル化)」、「ダイバーシティ(多様性)」という3つのDによる変化が起きていて、これまでと異なる能力開発政策が求められています。議論中に起きた新型コロナウイルス感染症も、働き方や雇用状況に影響を及ぼしました。
 これらを踏まえ、Society5.0に向けた人材開発の在り方を議論し、「Society5.0の実現に向けた人材育成や『新たな日常』の下での職業訓練」、「労働者の自律的・主体的なキャリア形成支援」、「労働市場インフラの強化」、「特別な配慮が必要な方への支援」、「技能継承の促進」という、5つの基本的な方向性にまとまりました。


公共職業訓練と
企業教育の協力が不可欠


●デジタル人材の育成や職業訓練における課題とは?

武石 仕事や社会課題にどのデジタル技術を応用すれば価値が生まれるのかなど、応用力が個人に求められます。会社のなかで先輩の背中を見ながら培った能力と異なり、社会的・将来的な視点、社会にアンテナを張るネットワーク力、課題を発見する力を、自ら身につけないといけません。

篠崎 デジタル技術を扱う人が全体的に不足しているのも課題です。離職者に対する公共職業訓練でデジタル技術の利活用人材を育成するプログラムの開発・提供の強化は急務で、従来のモノづくり系の職業訓練にも、デジタル技術の学習を取り入れています。

武石 公共職業訓練は、教える側の体制整備、指導者のキャッチアップが大きな課題です。ただし、デジタル人材の能力開発というのは、AIやプログラミングを使いこなす技術を身に付けることではありません。技術を自身の仕事に活用するという能力開発が重要です。
 一方、これまで企業が従業員教育に注力し、それが労働者全体の職業能力を高めてきたこともあり、デジタル教育も進められています。ところが、技術進歩のスピードが速すぎて企業内教育のみでは対応しきれない部分もあるようです。企業任せだと追いつけないことになりかねず、働き手には自主的に学ぶ姿勢やマインドが求められています。


篠崎 Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた「EdTech(エドテック)」が教育分野で進展して、AIなどを活用した個別対応型のオンライン教育が始まっています。これを活用すれば、個人に最適化した学習環境が整い、時間と費用のメリットも見いだせるでしょう。


個人の自発的な学びを支援
人材投資の大切さも発信


●育成は、どのように進めていきますか?

篠崎 公共職業訓練を通じた支援に加えて、企業には人材開発支援助成金、個人にも教育訓練給付などを活用していただきたいです。また、人への投資が大事だというメッセージも発信していきます。

武石 企業には社内での教育をしつつも個人の自発的な学びを尊重し、丁寧にコミュニケーションを取りながら、自社に貢献する人材を育てる視点が求められます。一部の企業は自己啓発をする社員に時短勤務やサバティカル休暇を認めていますが、時間的なサポートはもっとあってよいと思います。また、コロナ禍ではオンラインの学習・研修環境が一気に進んだように、職業訓練でもオンライン化が進むと、場所に関係なく訓練を受けられます。対面の良さもあるので、うまく組み合わせながら人材育成・能力開発ができると効果的です。
 国は世の中の動きを見極めてキャリアの在り方を提案したり、労働者が困ったときに支援する制度の充実、時代の変化を捉えたキャリアコンサルティングの提供を行うことが重要です。先を見据えて引っ張ると同時に、流れにうまく乗れない人にはセーフティネットを張るという、両方の役割を期待してます。

篠崎 研究会のなかでは、政府は公共職業訓練と、他機関が実施する訓練との調整や連携をしてほしいとの指摘もあり、コーディネーター的な役割についても検討したいです。企業には労働者が他の人に教えるなど、教える・学べる文化が広がるよう、人への投資を拡大してほしいと考えています。






広報誌『厚生労働』2020年11月号
発行・発売:(株)日本医療企画

 
出  典 : 広報誌『厚生労働』2020年11月号 
発行・発売: (株)日本医療企画(外部サイト)
編集協力 : 厚生労働省