第106回 漢方処方解説(58)清肺湯|2023年度|漢方随想録|名城大学

特設サイト第106回 漢方処方解説(58)清肺湯

今回ご紹介する処方は、清肺湯(せいはいとう)です。 新型コロナウイルス感染症も新たな変異株の流行がはじまり、インフルエンザやその他の感冒の流行も相まって、医療現場では咳止めの薬が不足しています。少し前にご紹介した竹如温胆湯も長引く咳を鎮める咳止めの薬でしたが、この清肺湯も咳止めの漢方薬の一つです。粘稠な痰を出そうとして咳き込み、ようやく出せたかと思うと、また痰が絡むというような場合によいと言われます。

清肺湯の構成生薬は数が多く、黄、桔梗、桑白皮(そうはくひ)、杏仁、山梔子、天門冬(てんもんどう)、貝母(ばいも)、陳皮、大棗、竹如、茯苓、当帰、麦門冬、五味子、生姜、甘草の16種です。この中で、天門冬や麦門冬、五味子は肺を潤し、肺にこもった熱を冷まし、乾いた痰を潤して排出しやすくすると考えられており、貝母や杏仁、桔梗はともに去痰作用を増強すると言われています。また、黄や桑白皮、山梔子、竹如も肺の熱を冷ます作用をもち、当帰は補血に、茯苓や陳皮、大棗、甘草、生姜は脾胃を補い、体内の水分代謝を改善して、痰の生成を抑制する働きをもつとされます。

構成生薬の中ではじめて出てきたものに、桑白皮や天門冬、貝母があると思います。 桑白皮は、クワ科マグワの根皮を用いる生薬で、鎮咳、去痰、利尿、消炎等の作用をもちます。以前ご紹介した麻杏甘石湯に桑白皮を配合したものが五虎湯(ごことう)という処方で、これもまた鎮咳薬として利用されます。天門冬は、ユリ科クサキカズラの根を湯通しあるいは蒸したものを用いる生薬で、ステロイドサポニンを含有し、同じく鎮咳や去痰、利尿や止渇に用います。さらに、貝母はユリ科アミガサユリの鱗茎を用いる生薬で、ステロイドアルカロイド類を含み、鎮咳、去痰、排膿の作用をもちます。いろいろな植物の根や根茎、果実などが咳止めや去痰に使われていることがよくわかると思います。

天門冬

天門冬

桑白皮

桑白皮

貝母

貝母

清肺湯の臨床応用としては、COPDという略称で知られる慢性閉塞性肺疾患が第一に挙げられ、慢性気管支炎や肺気腫、気管支ぜんそくなどに用いられます。一般的な感冒に引き続き生じてしまった長引く気管支炎においても、痰が多いときには奏効することがあるとされています。鎮咳や去痰に応用される処方は、本コラムで紹介してきた小青竜湯や麻杏甘石湯、麦門冬湯や竹如温胆湯などいろいろあります。五虎湯や滋陰至宝湯(じいんしほうとう)、神秘湯(しんぴとう)、柴陥湯(さいかんとう)など、他にもいくつかあり、咳や痰の種類や症状に合わせて使い分けることができます。ドラッグストアや薬局でみかけたときには、薬剤師にお尋ねください。

(2024年2月2日)

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