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地方六団体代表委員
岡山県知事 石井正弘
高松市長 増田昌三 添田町長 山本文男 |
地方六団体代表委員である我々3名は、本年3月16日の第2回中央教育審議会義務教育特別部会に参加して以降、新しい時代にふさわしい義務教育の在り方について、熱心かつ真摯に議論し、特に、費用負担の在り方について、義務教育費国庫負担金等を税源移譲し一般財源化すべきとの意見を強く主張してきたところである。
しかし、義務教育特別部会における答申(案)の取りまとめにおいて、地方六団体の主張してきた内容は全く採り入れられることなく、現行の国庫負担制度の堅持を是認するものとなっており、また、昨年の政府・与党合意において明記され、中央教育審議会において審議を求められていた「費用負担の在り方についての地方案を活かす方策」も全く示されていない。
そして、答申(案)を多数決により決定したことは、審議会運営として極めて異例であり、結果として地方六団体の意見は圧殺されることとなった。
我々は、地方分権の趣旨に沿った義務教育の改革をすることこそが真の義務教育改革、すなわち「新しい時代の義務教育を創造する」ことであると考えている。我々は、地方分権時代にふさわしい義務教育改革についての基本的な考え方を、今一度、簡潔に下記のとおり取りまとめた。
これにより、なお一層のご理解をいただき、我々がこれまで部会において提示した答申(案)に対する意見を採用し、地方案を活かす方策を織り込んだ答申となるよう修正することを、再度、強く求めるものである。
【地方分権時代にふさわしい義務教育改革について】
(1)義務教育改革のあるべき姿
○ 地方六団体は、義務教育における地方分権を推進する立場から、義務教育にかかる経費をこれまでのように文部科学省から与えられるシステムではなく、地域の子どもたちのことを最も理解する地方公共団体が、自らの財源である地方税などの一般財源で、住民の意向に沿った形で措置できるようにするシステムへと改革するために、義務教育費国庫負担金全額を地方税等による一般財源で賄うこととするべきであることを再三再四主張している。
我々は、単に国と地方の財源問題として提案しているのではない。今後の教育を、全国一律に画一的なものとして行うのか、あるいは地方公共団体の創意工夫を活かした多様な人材教育としていくのかという義務教育の在り方そのものについて基本的な 選択を求めるものである。
○ 文部科学省主導で行われた「ゆとり教育」は、全国一律・横並びで実施したため全国一斉に問題が生じたが、地域の教育の伝統や独自の文化を活かしてそれぞれの地域で多様な人材育成に力点を置いていたなら、必ずしもこうはならなかったに違いない。
21世紀は変化が激しく、国際的な影響を強く受ける時代である。新しい時代を見抜き、対応できる能力を持った多様な人材が求められている。激しい変化の時代において、個性ある考え方、柔軟性のある行動をとれる多様な人材を育成するためには、地方分権の趣旨に沿った改革を基本に義務教育改革を進めることが重要である。
(2)地方六団体が義務教育費国庫負担金等の一般財源化を提示した背景・理由
○ 昨年6月、「骨太方針2004」に基づき、平成18年度までの三位一体の改革として概ね3兆円規模の税源移譲を前提に、国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめるよう地方六団体は政府から要請された。これを受け、地方六団体は、侃々諤々の議論を交わし、多くの困難を乗り越えて、平成16年8月24日、内閣総理大臣に「国庫補助負担金等に関する改革案」を提出し、その中で、義務教育費国庫負担金等の一般財源化を提案したものである。
○ 地方六団体は、地方自治法第263条の3において設置の法的根拠を有する団体であり、それゆえ、政府から国庫補助負担金の具体的な改革案を提示するように求められたのである。各団体は、それぞれの団体において決められた手続き・手順を踏んで団体としての意思決定を適正に取りまとめた。
地方議会において、多くの義務教育費国庫負担金堅持の意見書が出されているという意見等があるが、個々の団体では異論はあったとしても、今回の地方六団体の改革案の提出に至る経過及びその意思決定の手続きを踏まえる限り、地方六団体の改革案は、「小異を捨てて大同につく」という地方六団体の総意であり、政府として尊重すべき地方の意見である。
○ 地方案の提案の背景として、一つは平成5年の衆・参両議院における「地方分権推進に関する決議」を契機にして、地方分権が時代の大きな流れとなり、平成12年の地方分権一括法の施行により、義務教育に関する事務は地方公共団体が自らの判断と責任において実施すべき「自治事務」であることが明確になったことが挙げれる。
また、教育行政に関しては、他の一般行政から独立した教育独自の枠組みの中で文部科学省を頂点とする上意下達の円筒型システムがつくり上げられており、国庫補助負担制度はそれを財政面から裏付けるものとして分権型教育の推進にとって阻害要因となっている。
しかも、義務教育に必要な経費は国と都道府県が折半するとされながらも、実は、昭和60年度以降、義務教育費国庫負担金の対象が次第に縮小され、既に義務教育に要する経費の7割以上は、地方税や地方交付税等の地方自治体の一般財源で賄われている。今や対象として残ったのは教職員の給与費本体の2分の1の国庫負担だけに過ぎない。
○ 地方六団体は、このような状況も踏まえ、義務教育費国庫負担金についてその全額2.5兆円を地方税や地方交付税等の一般財源により賄うこととすることにより、地方が自主的・自立的な教育を実施することを提案しているものである。
なお、平成18年度までの第1期改革において、中学校教職員の給与等にかかる負担金8500億円をまず一般財源化することとしているのは、あくまでも、政府から要請された平成18年度までの経過的な対応として打ち出しているものである。
(3)地方六団体が提案する国・都道府県・市町村の適切な役割分担
○ 教育に関する国家の責務は、単に中央政府としての国だけではなく「国及び地方公共団体」が協力して果たすべきものである。先に述べたように義務教育が地方公共団体の自治事務とされているのはこの趣旨を法律上明確にしたものである。
地方六団体は、「国は義務教育標準法による標準的かつ適切な学級規模の明示、学習指導要領によるあるべき学習内容の提示等、統一的、基本的な義務教育の内容・水準を定めることを基本にし、地方はその水準・確保を守りながら、それぞれが独自に創意工夫を発揮し、地域のニーズに適合した、自主的・自立的な教育の具体的な実施を担うべき」とする教育における地方分権時代にふさわしい国と地方の役割の在り方を提言している。
○ 「義務教育標準法を守りながら一般財源化により自由度の高い義務教育を推進するが、義務教育標準法は国の拘束・関与そのものではないか」との意見があるが、地方公共団体は、法律に基づいて行政を行い、手続き的には、法律で守るべき最低限の事項を決定し、具体的にどのように行うかは、住民が選挙で選んだ地方議員による議会の民主的な手続きで制定した条例に基づいて行われている。法治国家において守るべき最低限の事項、最低基準を守りながら、地方が自らの財源と自らの責任で自由度の高い教育をするということに何の矛盾もない。
(4)義務教育制度の根幹の維持
○ 国民が一定水準の教育を等しく受けることができるよう、憲法で定められた機会均等、水準確保、無償制といった義務教育の根幹は、国及び地方公共団体において担保しなければならない国家としての責務である。
義務教育制度の根幹の維持は、国庫負担金制度の存廃とは別の問題である。
現在の義務教育における水準確保は、学級編制基準を定めた義務教育標準法や学習内容を示した学習指導要領等によって担保されている。
(5)義務教育にかかる費用は地方税等の一般財源で確実に確保
○ 国庫補助負担金改革は、国庫補助負担金を地方税に振り替えること(税源移譲)であり、地方交付税総額を変動させるものではなく、全体として必要な財源は確保されることになる。しかし、地方公共団体によっては、国庫補助負担金に見合う税収が税源移譲では確保されないところもあるので、そうした団体に対しては、地方交付税により適切な財源保障が行われるものである。
すなわち、地方公共団体の財政運営に必要な財源については、毎年度の地方財政計画の策定を通じて、地方交付税等必要な財源が確保され、それぞれの団体に対しても、地方交付税の算定を通じて適切に措置されるものである。このことは、総務省や財務省のヒアリング結果からも明らかである。
○ 義務教育費国庫負担金を廃止し全額税源移譲した場合の試算(都道府県比較)として、「40道府県で財源不足が発生する」、「今よりも2割の先生が削減の危機」といった資料がある。この試算は、地方交付税制度を無視した、義務教育費国庫負担金と税源移譲の関係だけに着目したもので、現実の財政運営から大きくかけ離れたものである。現行制度においても、東京都を除く46道府県が地方交付税を交付されているが、現実に、教育面の財源が不足している訳ではない。2割の先生が削減されるというのは全く根拠のない見解である。
○ 地方公共団体に任せて義務教育費水準の適正支出を担保できるのかとの意見もあるが、地域住民の最大関心事は子どもの教育であって、地方行政において最も優先されているのは教育であり、地方公共団体は、国・地方を通じて厳しい財政運営を行う中、これまで教育を最重点課題として取り組んできたことから見ても、負担金が廃止されても教育水準が低下することはあり得ない。
また、教育費を削減して他の使途に回すような首長はただの一人もおらず、それを許しておく地方議会はない。地方はむしろ国が定めた標準や基準以上に独自に財源を乗せ、手厚くし、教育をより良くしていこうとしているのが現実である。
地方の首長や地方議会に対しては、解職請求や解散請求の制度があり、常に住民の監視にさらされ、住民の審判が下されることになっており、国に比べ、格段に民意が反映されるシステムとなっている。
○ 義務教育費国庫負担制度と地方一般財源のどちらが財源として安定的・確実かについては、国の予算の40%以上が国債という借金でしか組めない状況、文部科学省自身がこれまで税源移譲のない一般財源化を進めて地方に負担転嫁してきたこと等から、国庫負担だからといって安心ではないということを真摯に受け止める必要がある。
(6)義務教育費国庫負担金全額の地方一般財源化がもたらす効果
○ 義務教育費全額を地方税等の一般財源で賄うこととすることにより、
① 学級編制や教職員配置に関する国の基準を満たした上で、地方公共団体が当事者意識を持って、地域の教育環境や児童・生徒の実情に応じた学校配置、弾力的な学級編制や教職員配置が可能となる
② 教職員給与に限らず、教育効果の高い外部人材の活用や外部委託、教材の購入・開発、教育関係施設の整備等の様々な取り組みに財政資源を効果的に配分できる
③ 義務教育に関する地方公共団体の責任が住民に対して明確になり、多種多様な取り組みが促進される
④ 創意工夫が可能となることにより、さらに各地域における教育論議が活性化する
⑤ 交付申請や実績報告・検査などの事務に国・地方を通じて多くの労力や費用がかかっているが、国・地方を通じた事務の効率化を図ることができる
といった効果が見込まれる。
また、住民が自分の納めた税の使途である学校をより厳しい目で見ることとなり、教職員の自覚が高まり教師の質の向上にもつながること、学校まかせという意識が低くなり、地域ぐるみで教育を支えようという意識が高まること、そして何より、義務教育における地方分権化が図られ、地方公共団体が自らの責任の下、より総合的かつ主体的な教育を展開することができる。
○ 義務教育特別部会に提出された「総額裁量制のもとでの国庫負担金制度と一般財源化による地方分権の比較」の資料によって、全額一般財源化しても適正な義務教育が実施できるということ、現行の国庫負担制度を維持しなければならない根拠がないこと、すなわち全額一般財源化しても何ら問題がないということが既に実証されている。
住民に身近な地方公共団体は、常に住民と直接相対しているからこそ、国に先駆けて様々な教育施策に取り組んできているのである。現在、多くの地方公共団体が構造改革特区の制度を活用して、独自の教育施策を展開している。総額裁量制をはじめ国はそれに追随して施策展開をしているに過ぎない。
国は、義務教育について最低限守るべき大枠を決定し、後は地方公共団体が自らの財源で自主的・自立的な創意工夫による地方分権型の教育システムへと改革すべきである。
(7)公立学校施設整備についての地方案の考え方
○ 地方六団体は、公立学校施設整備費負担金・補助金については、次のように主張している。
・ 公立学校施設等の整備については当該地域の児童・生徒数や配置の現状、将来の見込み、教育の方針等を踏まえつつ、各地域が自主的、計画的に整備していくべきものであることは義務教育が自治事務であることからも明らかである。
・ 公立学校施設整備費負担金・補助金については、地方に確実に税源移譲をするとともに、個別の地方公共団体に対しては、地方債と地方交付税により万全の措置を講じる必要がある。
・ 公立学校施設整備費負担金・補助金の額は、当初予算ベースで年々減額されており、負担金・補助金があるからといって、安定的に必要額が確保され、施設整備が進んでいるという状況にはなっていない。
・ 負担金・補助金については、金額算定の基礎となる建築単価が現実と乖離していることや、対象となる施設部分が限定されていることから、多くの地方公共団体では、制度上の補助率を大きく切り込んだ補助金しか受け取ることができず、地方の超過負担が大きい、国による事業採択時期が地方自治体の事業計画と合わない、全国で画一的な補助基準であるため住民のニーズに十分応えられない、補助申請に係る手続きが煩雑であるなどの問題がある。
○ 公立学校施設整備費負担金・補助金を一般財源化すれば、全て地方公共団体が自らの権限と責任において実施することになり、補助金待ちの姿勢が改められ、耐震化を含めて地域の実情に即した施設整備が一層進む。
また、施設整備費負担金・補助金については、国債が財源であることを理由に税源移譲はできないといった見解があるが、国債も、国税で償還するものであり、税源移譲すべきことは当然である。経済財政諮問会議においても税源移譲を可能とする前向きの議論が行われている。
(8)教育委員会制度・教職員の人事権に対する意見
○ 教育委員会制度の見直しについて、地方公共団体の意向を踏まえた改革をすべきである。
教育委員会の設置の在り方に関しては、会議が形骸化している、国の示す方針に従う縦割りの集権型の仕組みになっている、合議制のため責任の所在が不明確となっている、迅速な意思決定ができないなどの問題が指摘される。教育行政における政治的中立性・継続性・安定性の確保や、首長への権限の集中等については、首長の公選制及び議会によるチェック機能をはじめ民主制の原理により解決されるべき問題であり、また教育委員会制度をとらなくても専門性は十分確保できる。さらに、国の文部科学行政には行政委員会制度はとられていないことなどを考えるならば、教育委員会の設置は地方公共団体の選択に委ねるべきである。
○ 首長と教育委員会の権限分担に関して、これをできるだけ弾力化していくことが適当であるとされているが、不十分である。文化財保護や社会教育も含め、文化、スポーツ、生涯学習支援については、総合行政の中で首長主導で、その責任の下に行うこ とを原則とすべきである。
○ 教職員の人事権は、基本的に義務教育の実施主体である市町村に早期に移譲すべきである。都道府県が有する教職員の任命権等について、広域的な人事交流の仕組みも講じながら、中核市をはじめとする都市自治体に所要の税財源措置と併せて早期に移譲する必要がある。
なお、それ以外の一般の市町村への権限・財源移譲については、広域の人事異動等を考慮し、共同して義務教育を担う広域的な組織の設置を検討した上、その具体化を図る必要がある。