米大統領選が11月5日に迫る。ハリス副大統領かトランプ前大統領か――勝敗を分けるのは激戦州の行方だ。今回の選挙を読み解くカギは、アラン・リクトマン教授が提唱する「13のキーワード」。歴史的なデータ分析を基に、米政権の運命を左右する要因を探り、次期リーダーの可能性を展望する。混迷する選挙報道に翻弄されないために、冷静な視点が必要だ。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
米大統領選の結果を左右する13のキーワード
世界動向を左右する米国大統領選が、11月5日に迫った。民主党のハリス副大統領か、共和党の前大統領トランプ氏か。支持率はほぼ互角である。最後は、激戦7州の勝敗で決まるとされる。「もしトラ」もありうるのだ。
混沌とした米国の大統領選の結果を予見するには、過去の米国大統領選を分析してきた「科学的データ」を、頭に入れて視点を整理する必要があろう。次々と報道されるニュースに翻弄されないためにも不可欠だ。
アメリカン大学歴史学科のアラン・リクトマン教授は、自身が開発した「大統領選挙における13の鍵」モデル(13のキーワード)を用いて、過去40年間の大統領選で勝者を的中させてきた。ただ、1回の例外がある。開票では、僅差で決選投票かとされた局面で民主党候補が辞退し、当選者が決着したケースである。
13のキーワードは、1860年以降の米国大統領選挙の傾向を歴史的に分析してきた結果、選ばれたものである。この中で、与党が8つ以上の変数で有利であれば勝利と判断され、逆に与党が6つ以上の変数で不利であれば、敗北という判定が下されてきた。『時事通信』(3月7日付)から引用した。
リクトマン教授が、あげている13のキーワードは次の通りである。
1)与党の立場
2)予備選挙
3)候補者が現職かどうか
4)第3の候補
5)短期的な経済成果
6)長期的な経済成果
7)政策の変化
8)社会不安
9)スキャンダル
10)外交・軍事の失敗
11)外交・軍事の成功
12)現職者のカリスマ性
13)挑戦者のカリスマ性
歴史的データでハリス有利
前記13のキーワードに従うと、どういう結論が導かれるのか。
リクトマン氏は、次のような判断を下している。この判断は、先ずバイデン氏が立候補予定者であった時に下された結論をみておきたい。
バイデン氏に有利な変数は、「2・3・7・8・9・13」の6指標である。具体的に言えば、民主党内に主要な対立候補がいない現職で、トランプ政権時代から政策を変更している。社会不安やスキャンダルもない。一方のトランプ氏は、「ルーズベルト、レーガン両元大統領のように人々を鼓舞するカリスマはない」と指摘する。明確に答えられないのは経済と外交・安保で、「今は経済がうまくいっているものの、将来は流動的だ。また、中東やウクライナの情勢に人々は不満を抱いている」と見る。その上で、「トランプ氏が有利なのは、中間選挙で共和党が下院の過半数を制したことと、バイデン氏にカリスマがないことだけ」で、現状はバイデン氏に分があると分析したのだ。
バイデン氏は当時、年齢による心身の衰えが不安視され、支持率が低迷していた。それでもリクトマン氏は、「大統領選は本質的にホワイトハウス(現政権)の実績と強さを評価するもので、過去の例からも世論調査は選挙の結果を予測しない」とした。このように、3月時点では「バイデン有利」との判定であった。
その後、バイデンvsトランプのTV討論会(6月27日)で状況は一変する。 マスコミは「バイデン不利」と報道し、「バイデン辞退論」が大きなうねりとなり、バイデン氏は候補を辞退(7月21日)する羽目になった。
バイデン氏が候補を辞退して急遽、副大統領のハリス氏が立候補することになった。リクトマン氏は、新しい状況下でも「ハリス有利」という判断を変えていないのだ。
特に、民主党内でハリス副大統領に対抗できる他の有力な候補がいないことが有利な要素として挙げている。これが、党内の結束を進めるのだ。トランプ氏は、共和党内部で有力離脱者が増えている。歴史的な観点からみて、与党に不利に働く第3候補がいないことも有利な変数として解釈された。短期的、長期的な経済的成果もハリス副大統領に有利に働くと予測している。『USA Today』(7月29日付)が報じた。
以上の結論は、データから判断したものだ。だからと言って「ハリス勝利」と言い切れる状況にない。選挙は水物である。番狂わせもあり得る。トランプ氏が、「大衆迎合」戦術を次々と繰り出しているだけに。「ひょっとしたら」という事態に備える必要があろう。