菅政権が唱える「自助」「共助」「公助」が、コロナ感染禍で機能していません。むしろ、先進主要国に比べて、「公助」の貧困が、国民を不必要に不安に陥れ、経済を圧迫しています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年5月10日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
「公助」が日本から消えた
菅政権は7日、大方の予想通り、4都府県に出させていた緊急事態宣言を5月末まで延長を決め、さらに愛知県、福岡県も対象に追加しました。
しかし、発表の翌日には東京都で新規の感染者がまた1,100人を超え、大阪の100万人当たりの新規死亡者は、5月5日時点で19.6人と、インドの15.5人、米国の14.5人を大きく上回っています。
もはや個人も企業も政府の言うことを聞かなくなりました。政府は人流の減少が見られると緊急事態宣言の効果をアピールしますが、軽井沢や江ノ島、京都などの観光地の人出は、昨年4月の緊急事態宣言時の3倍から4倍以上となっています。
寿司屋や飲食店の中には生き残るために要請を無視して営業を続ける店が増えています。国民の間に「反乱」ともいうべき動きが見られます。
菅政権が唱える「自助」「共助」「公助」が、コロナ感染禍で機能していません。むしろ、先進主要国に比べて、「公助」の貧困が、国民を不必要に不安に陥れ、経済を圧迫しています。
今やコロナ対応の巧拙が経済成果の差にはっきりと表れています。うまく対応した台湾、中国、ニュージーランド、イスラエル、英国、米国の経済正常化に対して、失敗したインド、ブラジル、日本の苦境がはっきりしました。
感染拡大が景気の足かせ
内閣府が発表した4月の「消費動向調査」によると、消費者態度指数は4月になってまた1.4ポイント反落して34.7と、明暗分岐点の50を大きく下回っています。
日本経済はこの1-3月のGDPが個人消費の縮小を主因にマイナス成長になると見込まれています。春以降の回復期待が、感染の第4波到来によって、早くもとん挫しつつあります。
米国の1-3月のGDPが個人消費主導の年率6.4%成長を達成したのと対照的です。米国では高齢者の8割以上が、そして国民の半数以上が既にワクチンの接種を終え、戸外ではマスク着用の規制が外れました。政府の給付金がまだ2兆ドル余り個人の懐に残っているために、4-6月のGDPは消費の加速のもと、年率2桁成長(アトランタ連銀の「GDPナウ」)が見込まれています。
日本では緊急事態宣言に伴う規制よりも、感染拡大で高齢者を中心にまた不安が広がり、消費活動を抑制せざるを得なくなった面が少なくありません。
実際、この大型連休では若い人を中心に観光地への人出が大きく増えたのですが、これがまた感染不安を高めてしまった面もあり、消費マインドを冷やす側面を持っています。
ワクチン接種率がまだ2%と、アフリカ並みに遅れていることも不安の一因になっています。
今回の宣言延長は事前に予想されたことで、より強い規制が必要との声もありましたが、経済保証の制約もあって中途半端な規制に終わり、結局、国民自身が感染不安で動けなくなる事態を待つしかない状態です。これは感染の波とともに景気の悪化が周期的に来るパターンをもたらしています。
早急に感染を抑え込まないと、夏の東京オリ・パラも中止に追い込まれ、経済負担はさらに大きくなります。