農業における女性活躍に関する特徴把握分析
分析の目的
女性農業者は基幹的農業従事者の約4割(※1)を占める重要な担い手となっており、今後の農業の発展、地域経済の活性化のためには、生産・販売の現場で大きな役割を果たしている女性農業者の活躍が重要となっています。
本分析では、令和5年7月に公表した「農業における女性活躍に関する意識・意向調査」を起点として、女性農業者の農業経営への参画など農業における女性活躍に関する意識・意向を中心に、様々な手法で分析を行うことで、今後の我が国の農業における女性活躍の推進施策の更なる検討を行うための基礎資料とすることを目的としています。
(※1)「令和5年農業構造動態調査」より。基幹的農業従事者とは15歳以上の世帯員のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者。
分析のテーマ
- 就農のきっかけ別の女性農業者の特徴把握
- 女性農業者の農業経営等への関わり方別の特徴把握
- 女性が農業経営に参画している農業経営体の特徴把握
使用データ
分析方法
- クロス集計
- クラスター分析
- 傾向スコアマッチングと差の検定
分析結果の概要
- 就農のきっかけ別の女性農業者の特徴把握
意識・意向調査で調査した女性農業者の農業経営への関わり方及び研修・グループ活動への参加の状況について、女性農業者に関する先行研究(※2)の結果も参照しながら、就農のきっかけ別にクロス集計を実施し、その特徴を把握しました。
(1)就農のきっかけ別 現在の農業経営への関わり方
親元就農・新規参入では「経営者として関わっている」・「共同経営者として関わっている」という回答が多い状況でした。これは、先行研究の「親元就農の女性は、後継者や共同経営者として経営内部で明確な役割が与えられ経営に参画しやすい」という記述に沿った傾向であると考えられます。
また、結婚就農では「指示された農作業だけを行っている」という回答が多い状況でした。先行研究の「結婚就農については、家族間における女性の役割分担の状況や家族の女性の役割に対する意向により経営への参画状況が異なる」という記述のような背景が、本結果の要因を表していると考えられます。
(2)就農のきっかけ別 研修への参加状況
全体としては「参加したことがない」という回答が多い一方で、新規参入は「参加したことがある」という回答が多く、結婚就農は少ない状況でした。先行研究の「結婚就農の「経営不参加型」女性の背景には、能力形成・学習機会へのアクセスの乏しさ等がある」という記述に沿った傾向であると考えられます。
(※2)農林水産政策研究 第38号(2023.3):1-19 家族農業における女性の経営参画要因 佐藤 真弓 - 女性農業者の農業経営等への関わり方別の特徴把握
意識・意向調査で調査した、女性農業者の現在の農業経営への関わり方、農業経営との分担で主に担当しているもの(農業経営・育児・介護)及び年齢区分(5歳区分)を基に、クラスター分析による類型化を実施し、分類したクラスターごとの特徴を把握しました。
クラスター分析の結果、以下の特徴をもつ4つのクラスターに分類されました。
ID:1 主に家事・育児を担当し、指示された時だけ農作業に関わっている50歳未満の女性農業者
ID:2 育児をしながらも農業経営に関わっている50歳未満の女性農業者
ID:3 主に家事を担当し、指示された時や繁忙期のみ農作業に関わっている50歳以上の女性農業者
ID:4 経営者もしくは共同経営者として農業経営に関わっている50歳以上の女性農業者
(1)農業経営への関わり方について
クラスター別に今後の農業経営への関わり方を実現するための課題についての特徴を確認したところ、農業経営への関わり方によらず、50歳未満の世代では、「家事・育児・介護の負担」・「技術・知識・経験の不足」に課題を感じている女性農業者が多いことから、家事・育児・介護等の代行サービスの支援や、技術・知識・経験を養う研修の実施等の支援が必要と考えられます。
さらに、農業経営に関わっている女性農業者の多くは、休日や自由時間の確保を課題として感じていることから、上記の支援等により家事・育児・介護及び農作業に係る時間の削減にも繋げていくことが必要であると考えられます。
また、50歳以上の世代では「農作業のきつさ」に課題を感じている女性が多く、農業機械の導入等による支援が有効と考えられます。
(2)女性の家事・育児・介護の状況について
クラスター別に家事・育児・介護の分担についての意識の特徴を確認したところ、50歳未満の世代ほど、また経営に関わっている女性農業者ほど、家事・育児・介護の分担が適正だと思わないという回答が多い状況でした。
また、クラスター別にバランスの取れた農業経営への関わり方を実現するための有効な取組について確認したところ、50歳以上の農業経営に関わっている女性農業者は「女性が研修に参加することについての家族や地域の理解促進」や「農業委員・農協役員等の地域や団体の方針を決定する場への女性の参画」という回答も多いことから、研修参加の必要性の周知や農業関係の団体における女性登用の促進が重要と考えられます。 - 女性が農業経営に参画している農業経営体の特徴把握
農林業センサスにおいて、女性が農業経営に参画している農業経営体(※3)と参画していない経営体を比較し、女性が農業経営に参画している経営体の特徴を把握しました。なお、比較に当たっては、比較するグループ間で女性が農業経営に参画しているという状況以外の因子や条件が異なっているときに生じるバイアスを除去するために、傾向スコアマッチングという手法を用いました。
2020年の農林業センサスの個人経営体において、女性が農業経営に参画している農業経営体と参画していない農業経営体で農産物販売金額及び農業生産関連事業売上金額の平均を比較したところ、女性が経営に参画している経営体の方が、農産物販売金額及び農業生産関連事業売上金額とも統計的に有意に高い状況でした。
また、2020年の農林業センサスの法人経営体において、女性が農業経営に参画している農業経営体と参画していない農業経営体で農産物販売金額及び農業生産関連事業売上金額の平均を比較したところ、農産物販売金額は女性が経営に参画している経営体の方が高く、農業生産関連事業売上金額は女性が経営に参画している経営体の方が低い状況でしたが、統計的に有意な差は確認できませんでした。
(※3)65歳未満で150日以上農業に従事していて、経営主もしくは経営方針の決定に参画している女性がいる経営体
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