食品トレーサビリティ普及のための要因分析
分析の目的
農林水産省では、食品事業者が食品を取り扱った際の記録を作成し保存しておくことで、食中毒など健康に影響を与える事故等が発生した際に、問題のある食品がどこから来たのかや、どこに行ったかを調べることができる食品トレーサビリティの取組を推進しています。しかしながら、食品トレーサビリティは、記録の整理・保存に手間がかかることや、取組の必要性や具体的な取組内容がわからないなどの理由から、特に中小零細企業での取組率が低いのが現状です。(トレーサビリティ関係)
そこで、これらの課題を解消し、食品トレーサビリティの取組を着実に推進するため、特に取組率の低い流通加工業者の内部トレーサビリティ(入荷した食品の特定のロットと出荷した食品の特定のロットを対応付ける記録の保存)について、その要因を探るとともに、よりターゲットを絞り込んだ効果的な取組向上のための施策の展開を目指すことを目的としています。
使用データ
分析方針
- 令和4年度生産者及び流通加工業者の食品トレーサビリティに関する意識・意向調査のうち、流通加工業者の内部トレーサビリティ(以下「内部トレサ」という。)に関する質問項目の概観は以下のとおりです。
- 「内部トレサの記録を保存しているか」に対する回答状況に基づき、回答者をA~Cの3グループに分け、
(1)取組状況ごとの属性情報の可視化
(2)業種ごとの回答状況の可視化
(3)取組向上のキーとなる回答項目の抽出
を行い、内部トレサの取組向上のための有効なアプローチを探りました。
分析結果の概要
(1) 取組状況ごとの属性情報の可視化
- 流通加工業者について、A~Cグループごとに食品製造業、食品卸売業、食品小売業及び外食産業の構成割合をみると、A~C全てに共通して、食品小売業・外食産業が全体の70%以上を構成しているとともに、内部トレサの取組を行っていないグループほどその構成割合が高くなっていることがわかりました。
- さらに、平成28年経済センサスにより食品製造業・食品卸売業・食品小売業・外食産業ごとの経営組織・常用雇用者規模・売上額規模をみると、A~Cグループのおおまかな特徴は以下のとおりです。
(2) 業種ごとの回答状況の可視化及び(3) 取組向上のキーとなる回答項目の抽出
- 流通加工業者について、業種ごとの回答状況の可視化及び取組広報のキーとなる回答項目を抽出した結果、特徴的なものは以下のとおりです。
【A・Bグループについて】
- A・Bグループについて、「記録の保存方法」をみると、回答率の高い項目としては「作業記録(紙媒体)」が多く挙げられている一方で、ABを分類する重要な項目としては「電子データ」が重要な変数として抽出されました。このことから、現状は紙媒体で記録を保存している業者が多いものの、電子データによる記録ができている業者は記録作業の負荷を軽減、効率化を図っていると推察されます。
- A・Bグループについて、「内部トレサが役立ったこと」をみると、回答率の高い項目及びABを分類する重要な項目として「原材料・製品の入出荷先・数量の確認」が多く挙げられています。また、ABを分類する重要な項目としては、食品製造業・食品卸売業では「表示の根拠」、食品小売業・外食産業では「税務・経理事務(確定申告など)」が、食品卸売業以外では「在庫管理」が挙げられています。
- A・Bグループについて、「今後改善したいこと」をみると、回答率の高い項目及びABを分類する重要な項目として「作業量の削減(記録表の整理整頓を含む。)」が多く挙げられています。また、食品製造業・食品卸売業では、ABを分類する重要な項目として「作業員教育や人材育成」、食品小売業・外食産業では「知識習得」が挙げられています。そもそも知識やノウハウが不足しているのか、それとも一定の知識やノウハウはあるもののその作業が可能である人材が限られているのか、業種によって状況が異なっていると考えられます。
【B・Cグループについて】
- B・Cグループについて、「記録を保存していない理由」をみると、回答率の高い項目としては「取扱数量が少ないため」が多く挙げられています。BCを分類する重要な項目としては全業種において「記録の保存は要求されないため」が、また食品製造業以外では「入出荷記録の重要性が低いと感じているため」が共通しています。このことから、取引数量や取引先からの記録保存の要求にかかわらず、入出荷の記録が重要であることの認知を高めるとともに、取り組んでいないことに対するリスクを周知することが有効と考えられます。
【A~Cグループ共通】
- A~Cグループについて、「記録の保存を行うときに負担となること」をみると、回答率の高い項目としては「作業量の増加」が多く挙げられている一方で、AB分類モデルでは「記録保管場所の確保」や「記録表ひな形やフォーマットの作成」が重要な項目として挙げられています。また、全ての業種に共通して、BC分類モデルでは「知識習得」が重要な項目として挙げられています。A~Cそれぞれの段階で負担となることは異なっているため、これに応じた対策が必要と考えられます。
- A~Cグループについて、「参考とした情報源」をみると、最も回答率が高い項目として「官公庁や自治体」が、次いで「組合」が多く挙げられていますが、特にAグループでは「特にない」も多く挙げられています。また、AB分類モデルにおいては、全ての業種において「組合」が重要な変数として挙げられています。情報の提供元として、「官公庁や自治体」「組合」が重要な役割を果たしていると考えられるため、これらのタッチポイントを活用した情報発信を行っていくとともに、特にどこからも情報を得ていないような業者に対しては、積極的な周知活動が必要と考えられます。
(3) 考えられるアプローチ
以上を踏まえ、取組向上のために有効と考えられるアプローチをまとめると下図のとおりです。
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