獣医師と生産者ができること
更新日:令和元年11月1日
耐性菌の発生と伝播を極力抑え、抗菌性物質を今後も有効に使っていくためには、農林水産省の取組に加えて獣医師と生産者の協力が重要です。
以下では、薬剤耐性菌の発生を極力抑え、抗菌性物質の有効性を最大限発揮するためにできることをまとめております。
適切な飼養管理による感染症の予防
飼養環境を整え、家畜の健康を良好に維持し、ワクチンを使って感染症の発生を予防することが大切です。感染症を予防することで抗菌性物質の使用機会を減らすことにつながり、薬剤耐性菌の発生を抑制できます。
家畜の生産者は、家畜伝染病予防法の規定に基づく飼養衛生管理基準をしっかり守るとともに、次の事項についても積極的に取り組み、感染症を予防する必要があります。
- (1) 家畜の健康状態に悪影響を与える飼養環境(畜舎内の高・低温、高・低湿度、換気不良等)の改善
- (2) 感染症を予防するための適切なワクチン接種
- (3) 家畜の健康状態を良好に保つため適切な飼料の給与及び栄養管理
獣医師は、家畜の特徴を十分に考慮しつつ、飼養衛生管理基準の遵守状況及び上述の(1)~(3)の事項について、定期的に確認し、問題がある場合は家畜の所有者又は管理者に対し指導することが大切です。
適切な病性の把握と診断
家畜の生産者は、家畜の異状をすぐに発見することが大切です。そのために、日頃から使用する家畜をよく観察し、健康状態を把握することが重要です。異状が確認された場合には、速やかに獣医師の診察を受けてください。
獣医師は、家畜の特徴を踏まえ、家畜の所有者又は管理者から、発病時期、発病後の経過、措置等について聞き取り、必要に応じて、血液、乳汁、糞便等を材料とした臨床病理検査等により、病原体(細菌か、ウイルスかなど)や感染状況(一次感染か、二次感染かなど)等の病性を的確に把握し、治療方針を決定することが大切です。
診断に当たっては、感染畜が飼養されている農場及びその周辺地域における感染症の発生状況・経過、治療の内容・結果、予後等に関する情報も考慮してください。
また、今後の診断及び使用する抗菌性物質の選択に資するため、診察及び治療の経過を診療簿に記録し、保存してください。 原因菌が分離される可能性のある糞便又は病変部を採材して菌分離等を行い、原因菌の検索を行うとともに、分離された原因菌については薬剤感受性試験を行ってください。
なお、抗菌性物質の選択に当たっては、農林水産省動物医薬品検査所のホームページに掲載されている薬剤耐性菌のモニタリング情報(家畜由来細菌の抗菌剤感受性調査)等を参考にしてください。
有効な抗菌性物質の選択と使用
獣医師は、診断された感染症に対し、抗菌性物質を使用して治療する必要があると判断した場合には、対象感染症の病性、薬剤感受性試験の結果、原因菌に対する薬剤の有効性、投与方法、体内動態、適正な使用禁止期間・休薬期間等を総合的に考慮して抗菌性物質を選び、適正に使用する必要があります。
また、過去の使用経験、周辺の地域における感染症の発生状況にも配慮し、抗菌性物質の選択及び使用に当たり、特に次の事項に留意する必要があります。
- (1) 抗菌性物質は、動物用医薬品として承認された用法・用量及び効能・効果に基づき、投与間隔、投与期間及び使用禁止期間を考慮し、対象家畜の治療に必要な最小限の投与期間としてください。
- (2) 薬剤耐性菌の選択を抑えるため、第一次選択薬は、原因菌の感受性試験において感受性を示した抗菌性物質の中で、できるだけ抗菌スペクトルの狭いものを選んでください。なお、一般的に抗菌スペクトルの広い抗菌性物質は、多くの微生物に対して抗菌活性を示し、より多くの種類の薬剤耐性菌が選択されやすくなります。
- (3) 医療で重要な抗菌性物質であるフルオロキノロン、第3世代セファロスポリン等の第二次選択薬は、第一次選択薬が無効の場合にのみ選んでください。
- (4) 経路は、可能な限り抗菌性物質の腸内細菌への暴露が少ないものを選んでください。
- (5) 食用の家畜への未承認薬の使用及び適応外使用は原則として行わないでください。また、食品衛生法(昭和22年法律第233号)により、食品中から検出されてはならないとされている物質等、人の健康に悪影響を与える可能性がある成分については、食用の家畜への使用が禁止されています。
- (6) 感染症が常在している又は一部の家畜に感染が認められた等の理由から、感染のおそれがある健康な家畜に対して抗菌剤をあらかじめ投与することは、極力避けてください。このような投与は、感染症の特性、当該農場における感染症の発生履歴、家畜の免疫状態・群構成、ワクチン等、他の防疫措置の実施の有無等を踏まえた感染症のまん延の可能性等を鑑み、投与しない場合に感染症が拡大する可能性が高いと判断される場合に限り、獣医師の責任において極めて限定された条件の下で厳格に実施してください。
- (7) 抗菌性物質の併用は、毒性の増強により副作用の出現を助長する、有効性を阻害するような薬理学的拮抗をもたらす、使用禁止期間・休薬期間に影響を与える等のおそれがあることから、極力避けてください。 また、抗菌性飼料添加物も使用禁止期間・休薬期間に影響を与えるおそれがあるため、その使用状況を十分に把握し、当該飼料添加物と同じ成分の抗菌性物質を使用する場合には、飼料が含む当該成分の量を考慮して使用量を決定してください。
- (8) 原因菌に対する家畜の抵抗性を高め、抗菌性物質の有効性を十分に発揮させるため、家畜が体力の消耗の激しい、又は下痢により重度の脱水症状を示している場合には、症状の改善・緩和を図るための対症療法(補液等)の併用を考慮してください。
- (9) 抗菌性物質投与後の病状の変化から、初診時に使用した抗菌性物質の治療効果を見極め、使用を継続すべきか、薬剤を変更すべきかを判断してください。薬剤を変更する場合、抗菌性物質の選択は、(4)の薬剤感受性試験の結果に基づいて行ってください。
また、抗菌性物質を変更する場合、同じ系統の抗菌性物質を使用しないでください。
抗菌剤の使用に関する情報の共有
抗菌性物質の責任ある慎重使用を徹底するため、生産者や獣医師を含めた関係者が抗菌性物質の使用に関する情報を共有することが重要です。特に獣医師は、農林水産省が公表する全国ベースでの抗菌性物質の流通量及び薬剤感受性の状況に関する情報を把握するとともに、抗菌性物質の使用に関する次の情報についても、獣医師間だけでなく、地域の家畜保健衛生所、製造販売業者、店舗販売業者、生産者等とも積極的に共有する必要があります。
- (1) 診療地域における感染症の発生状況・経過、抗菌性物質の使用状況・有効性及び薬剤感受性の情報
- (2) 感染症予防及び治療に関する情報
- (3) 抗菌性物質の薬物動態の情報
- (4) 抗菌性物質の使用に当たっての注意事項(投与期間の限定、第二次選択薬としての使用等)
お問合せ先
消費・安全局畜水産安全管理課
担当者:薬剤耐性対策班、飼料安全基準班
代表:03-3502-8111(内線4532)
ダイヤルイン:03-6744-2103