お米と食料安全保障
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お米で考える 「安全保障」
皆さん、今日もご飯、食べていますか?食事はすべての人の毎日に欠かすことができないものですが、私たちはこの先もずっと安全にご飯を食べていくことができるのでしょうか。
食べ物の供給が途絶えることがないように、国内の食料生産力の強化を基本に、外国からの輸入を円滑にしたり、万が一の時のために備蓄をしたりすることが必要です。このように私たちの食料を安全に安定的に確保することが「食料安全保障」です。
食料の供給不安には、世界的な人口増加等による食料需要の増大、気候変動による生産の減少など、国内外の様々な要因があります。こうしたリスクは近年高まっており、凶作や輸入の途絶等の不測の事態に備え、日頃から総合的な食料安全保障を確立していくことが急務となっています。
食料自給率の向上はとりわけ重要で、私たちの未来に深く関係しています。私たちの主食である「お米」は、唯一の国内で自給可能な穀物であり、国外で起きる食料供給上のリスクに対して影響をもっとも受けにくい、「安全な食料」の最たるものです。
この状態が持続可能なものであり続けるためには、私たち一人ひとりが、これまでと変わらず、いえ、もう少しお米を食べる機会や量を増やすことが、とても効果的であり、「確かなミライ」のために毎日の暮らしのなかですぐにできる行動なのです。
国内のお米消費の減少 ― 世界的には需要増
食生活の変化や高齢化に伴い、米の1人1年あたりの年間消費量は、1962(昭和37)年度をピークに減少傾向となっています。ピーク時には一人あたり年間118kgの米を消費していましたが、日本が高度経済成長の時代を迎え、その後、食生活が大きく変化したこと等によって、令和3年度のお米の一人あたりの年間消費量は半分以下の51.5kg(*1)になっています。
農林水産省 令和3年度食料需給表(令和4年度8月)
国内需要量の減少に伴い、2022年の主食用米等生産量は675万t(*2)と、ピーク時(1967年1,445万トン)の半分以下(*3)となっています。
一方、気候変動や新型コロナの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻などの影響もあって、小麦や大豆などの穀物価格が世界的に高騰していることより、世界的にはお米の需要が増加しています。USDA(アメリカ合衆国農務省)のレポート(*4)によると、2021年の世界の米消費量は2019年比で4.5%増加しています。
2022年は、気候変動や新型コロナの感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻に加えて、パキスタンの大洪水による影響で、世界的にお米の収穫量の減少が見込まれており、さらに食料安全保障への危機感が増しています。
世界では今この時も、食べるものに困っている人(飢餓人口、栄養不足人口)が約12億人もいます。日本は人口約1.2億人なので、10倍もの人々が生存の問題に直面しています。毎日不自由なく食べられることは、決して当たり前のことではないのです。
- *1 農林水産省, 令和3年度食料需給表(令和4年度8月)
- *2 農林水産省, 米の基本指針(案)に関する主なデータ等(令和4年度8月)
- *3 農林水産省, 食料・農業・農村政策審議会食糧部会(令和3年11月19日)
- *4 USDA「World Agricultural Supply and Demand Estimates」(9 Nov 2022)
食料自給率で考える 私たちの暮らし
食料自給率の数字が高ければ高いほど「安心して過ごせる」ことに、疑問を持つ人はいないでしょう。
幸いにもこれまで日本では長期間にわたって食料の供給が途絶えるようなことは起こらなかったので、「食料自給率」や「食料安全保障」は日々の暮らしとは遠い言葉、身近なものではなかったかもしれません。さまざまな食品が並んだ売り場の光景や、選びきれないほど豊かな外食の場所を目にしていれば自然なことです。
日本のカロリーベース自給率は38%、主要先進国で最下位となっています。「食料・農業・農村基本法」においても定められているように、国内の生産能力を強化することは食料安全保障における基本です。しかしながら、カロリーベースの自給率は戦後、長期的に減少傾向で推移してきました。
これは国が豊かになった事で通貨の価値が高まったこと、穀物生産に適した海外の農業大国の生産性が飛躍的に向上したことなどにより、輸入農産物に優位な経済環境に変化してきたことが原因として考えられます。また、食文化の多様化、欧米化によって国内生産余力のあるお米の消費量が落ちたことも大きく影響しているでしょう。
日本の生産額ベース自給率は63%と、こちらは主要先進国にも引けを取らない数値となっていますが、食料安全保障を確立するという観点では、国民の生命に直結するカロリーベースの自給率が注目されます。日本の穀物生産能力を高め、少しでも海外への依存度を下げたいところです。
我が国と諸外国の食料自給率
昭和40年度以降の食料自給率の推移
お米を作り、食べること=食料インフラを支えること
日本の食料自給率がここまで低くなった大きな要因は、最近までは海外から輸入した方が安く、経済的に合理的だったからです。しかし、気候変動や感染症の流行、世界的なインフレーションや政情不安などで、海外から安定的に調達できることは必ずしも当たり前でなくなってきています。
「日本には豊かな土壌、水があるから、有事の事態に陥り、作らなければならない状況になったら作ればいい、日本でも作ることはできるのだから、そうなったら手を打てばいい・・・」そう考えている人もまだ少なくはないのかもしれません。
ほんとうにそんなことが可能でしょうか。農地がなくなり、農業就業者も少なくなった状態から、そんなにすぐに対応できるものでしょうか。農作物は、そんなにすぐには栽培できません。一度、耕作放棄地になってしまった農地を再び作物が栽培できる同じ状態に戻すためには、5年かかると言われています。
有事になったからといって急には栽培できないだけでなく、農地や肥料などの農業資材や農業就業者も必要です。食料安全保障のためには、輸入先国の分散化や備蓄だけではなく、自国で食料の安定的な供給を確保できるよう、普段から農地・農業就業者の維持・拡大をはかる必要があります。
お米で言えば、消費量の減少などの影響もあって、1956(昭和31)年には332.0万haだった水田面積は、2022(令和4)年には235.2万haと、過去65年ほどの間に100万ha近く減少してきました(*5)。お米を食べることは、お米を作る農業が持続可能な産業であり、お米を作る人たちが今後も居続けてくれること、つまり「食料インフラ」を支えることでもあるのです。
しかしながら、国際比較をすると日本の就業者の高齢化は顕著で、農地の集積・集約によって生産性の向上は進んではいますが、この先、未来を担う意欲ある農業就業者の確保がますます重要になっています。これは、日本がさまざまな外的要因にさらされて食料危機に瀕した時に、「農業生産を国内に回帰させるだけの生産余力(人材)がまだ残っているか?」という点でも、非常に重要な課題です。
- *5 農林水産省, 作物統計調査 令和4年耕地面積(7月15日現在)(令和4年10月28日公表)
「お米を食べること」 と 「低い食料自給率」 のカンケイ
お米の自給率はほぼ100%です。「自給率がほぼ100%なら、バランスが取れているということでは?」 「日本の食料自給率が低いこととお米の消費の関連はあまりないのでは?」と思う人もいるでしょう。
しかし、国民全員が一口多くご飯(お米)を食べると食料自給率が1%上げられるという試算もあります。毎日の食事で、「一口多くお米を食べる」「お米を食べる回数をもう少し増やしてみる」ことを実践すれば、食料自給率を向上させられることも覚えていてほしいと思います。
食料自給率と私たちの暮らしの関係を、期待やあいまいな印象ではなく、着実に理解して対処していくために、食料品輸入には次の要素があることも知っておく必要があります。
- 世界的なインフレーション: 物やサービスの全般的な価格高騰
- 円安:海外通貨との交換レートの変動(輸入品の支払いで必要となる資金の増大)
- 異常気象や気候変動の農作物の生産への影響(需要に対して供給が減少すれば、価格が高騰する)
- 食料品輸出国の状況 (政治や人的な要因で起きる生産量や輸出量の減少)
これらは単独であっても、現在の日本が多くを輸入に依存するようになっている食料品の価格の高騰や、不安定な供給(品不足)という結果になって、私たちの暮らしに影響を及ぼします。さらに深刻な状況、2つ3つと重なっていけば、影響は相乗的に加算されていきます。
どの要素にも簡単な解決法はありません。「食料品の高騰・不安定な供給」 という暮らしへの影響が長期間に及ぶリスクに備えておくことも大切です。お米を今よりも少し食べることも「備え」のひとつです。
激動する世界情勢
海外では食料の安定供給を失い、国難に陥った事例が数多くあります。2000年代のメキシコでは、主食のトウモロコシの多くをアメリカに依存した状態でした。そこにアメリカのバイオエタノール増産政策が大々的に始まったことで、トウモロコシは次々に燃料製造に使われるようになり、価格が高騰しました。その結果メキシコの人たちは主食への安定的なアクセスを失い、食料安全保障を失うことになりました。この時には数万人規模のデモがおき、政情不安を引き起こしました。
近年では新型コロナウイルスの蔓延やロシアのウクライナ侵攻により、穀物価格が高騰し、購買力の弱い途上国だけでなく、先進国においても、燃料高騰や商流遮断によって生じたインフレーションにより、食料への安定的なアクセスが失われつつあります。これに加えて、高い購買力を身に付けた大国、中国の輸入増大も構造的な穀物価格の高騰に影響を与えています。
また、世界人口はついに80億人を突破し、毎年約8,000万人のペースで増え続けています。急激に増える食料需要を支え続けているのは農地の増加ではなく、単位面積当たりの収量の増加で、今後収量が頭打ちになった場合に、人類がどこまでの人口を今の食文化で養い続けることができるのかは誰にも分からないのです。
つまり、輸入に依存した現在の日本の食料事情が抱えるリスクは、日に日に大きくなっていると見て差し支えないでしょう。さらに、安いからといって本来は食料を自給できる国が輸入に依存することは、穀物価格の上昇圧力として作用すれば、購買力の弱い途上国の食料不安にも影響を与えかねないということも忘れてはいけません。
お米の大切さ ― 農業就業者の選択
過去50年以上にわたって日本人のお米の消費量は減り続けています。その一方で、今も変わらず日本人に最も多くのカロリーを供給してくれているのは、紛れもなく「お米」です。
お米には連作障害(同じ作物を同じ土地で作り続けると収量が落ち、病気になりやすくなる現象)がなく、何千年でも同じ場所で作り続けられるという大きな強みがあります。事実、そうしてアジアを中心に自然環境に適したお米づくりを続けてきたことによって、約50億という膨大なアジアの人口の食を支え、人の暮らしを今も支え続けているのです。
日本の食、皆さんの食卓を最後の最後に支えてくれるのは、国内の農業であり、「お米」です。もちろん、小麦や大豆等の穀物についても自給率を高めることが大切で、99%の国民が農業をしなくなった日本をはじめとした先進国において、また限りがある農地において「農業就業者に何を作ってもらうのか?」ということは極めて重要な選択になります。そして、その選択は皆さん一人一人の「毎日の食事」が決めるのです。
お米のポテンシャル ― 新たな産業創出の可能性
主要なものとしては、米粉の商品開発が進み、お米の可能性が広がっています。最近では、お米を原料とした従来にはなかった食用品の製造も行われるようになっています。
食べるだけではなく、お米からエタノールを作ることで石鹼や化粧品の製造も可能です。自然災害で傷んでしまったお米など、従来は廃棄するしかなかったようなお米を活用したバイオマスプラスチック樹脂も開発され、レジ袋やゴミ袋だけではなく、カトラリーや食器、歯ブラシなどの日用品がお米を使って製造可能になっています。お米を使った生分解性プラスチック樹脂の展開も始まっています。
米糠(ぬか)には、抗酸化作用のあるビタミン類やミネラル体の毒素の排出をすすめるフィチン酸、食物繊維などのすぐれた栄養成分がたくさん含まれています。米糠にはまだ発見されていない成分が多数あると考えられ、新たな製品や新薬の開発も注目されています。
このように日本の主食であるお米は、新産業の創出を促すポテンシャルも秘めているのです。そして、お米を食べることで、耕作放棄地となってしまう農地を減らし、お米を作る人を支えることはこうした可能性を広げることにもつながっています。
「食料安全保障」とお米のカンケイ (まとめ)
お米は国内で自給可能な穀物です。
そして、生産から流通、消費のサイクルが国内で回るので、最も安定した供給が見込め、世界的なインフレや為替変動、政情不安等で起きうる、輸入品の価格高騰や不安定な供給という、不確実性リスクが少ない 「安心・安全」な食料です。
ライフサイクルが国内で回り、生産・流通・消費の各段階で就業人口を抱える「お米」は、人・地域・環境・社会の持続可能性にも関連し、日本の農業・農村が喫緊の課題とする就業人口の減少や高齢化の克服という点においても、重要不可欠な役割を担う食料でもあります。
米は美味しいだけでなく、社会の安定、地球環境の保全、地域の活性化、就業の機会創出といった、持続可能な未来の実現や課題解決に 「食べること」 を通じて貢献することができる食料なのです。
もう少し、お米を食べてみようと思いませんか?
本記事の監修者(順不同)
齊藤 三希子
株式会社スマートアグリ・リレーションズ 社長執行役員
早稲田大学大学院で環境経済学を学び、総合コンサルティングファームを経て現職。 地域資源を活用した持続可能な地域モデルの創出や、Agri-Food Tech、カーボンニュートラル、バイオエコノミーなどの事業創出に従事している。
中森 剛志
中森農産株式会社 代表取締役
東京農業大学在学中から青果店などの経営を手がける。2017年に埼玉県加須市で、農作業のデジタル化により少数の人員で米、麦、大豆などを大規模に生産する中森農産を設立。数年で国内有数の規模に拡大している。
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お米と環境
生き物を育み、防災にも役立っている田園風景。SDGsやフードマイレージなど「お米」と環境について考えます。
*当サイト(「お米についてまじめに考える。)は、令和4年度輸入小麦等食品原材料価格高騰緊急対策事業のうち米消費拡大対策で作成したものです。
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