事業者へのインタビュー:味の素株式会社
事業者へのインタビュー
味の素株式会社は、「うま味」のもとであるアミノ酸の研究を起点に、日本だけでなく世界各国で現地の食文化に合った製品を開発しており、特に調味料の分野では圧倒的なシェアを実現しています。 この度、企業のSDGsの取組について、味の素株式会社 サステナビリティ推進部 国田 佳津彦さん、経営企画部 金井 靖明さん、食品統括部 大山 夏奈さんにお話を伺いましたので、その内容を紹介いたします。
写真中央:経営企画部 経営戦略グループ マネージャー 金井 靖明さん
写真右:食品統括部 戦略企画グループ 大山 夏奈さん
取材日:2024年3月19日味の素本社にて
アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する
創業のストーリー ~ おいしく食べて健康づくり ~
当社は、今年で創業115年を迎えます。その始まりは、ドイツに留学していた池田菊苗博士がドイツ人と日本人の体格と栄養状態の差に驚き、「うま味を通じて粗食をおいしくし、日本人の栄養状態を改善したい」という志を持ったことにあります。池田博士は、帰国後研究を続けて、1908年にグルタミン酸が「UMAMI(うま味)」の素であることをつきとめました。その後、池田博士の志に共感した、味の素グループの創業者鈴木三郎助が、1909年に世界で初めてうま味調味料「味の素®」を製品化しました。ちなみに、味の素株式会社の創業日は、「味の素®」の第1号が誕生した1909年5月20日としています。以来、味の素グループは「おいしく食べて健康づくり」という創業の志を受け継ぎ、おいしさと健康のさらなる両立を追求しています。
志(パーパス)と重要な事項(マテリアリティ)を刷新
当社は、2023年2月に、従来型の3か年中期経営計画をやめ、中期ASV経営2030ロードマップを公表しました。これは、2030年や、さらにその先の2050年を見据えて、その時に当社がありたい姿を掲げ、そこからバックキャスティングで経営計画を考えるように、大きく方針転換をしたということです。長期視点でのロードマップになりますので、地球環境や社会がこの先どうなっていくかということも意識した結果、志(パーパス)と重要な事項(マテリアリティ)を刷新することとなりました。
刷新に当たっては、我々のうちだけに閉じずに、社会のステークホルダーの皆さんと一緒に考えていく必要があると考え、取締役会の下部組織として社外の有識者からなるサステナビリティ諮問会議を設置し、共に検討をしていただきました。現在は、第2期の諮問会議が発足しており、刷新したマテリアリティに基づいてしっかりと実行できているか、我々がこうした活動をどのように伝えていくべきかなどについて、ご意見をいただいています。
新たな志(パーパス)「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに
貢献する」
当社は、うま味調味料のグルタミン酸から始まり、そこから100年以上にわたってアミノ酸のはたらきの研究や役割を徹底的に追及していく中で、体調を整えるようなアミノ酸や機能性フィルムなど、様々な技術や製品・サービスを生み出してきました。さらにそれらを最大限に活用し、社会課題の解決やWell-beingへつなげる独自の科学的アプローチを総称してアミノサイエンス®と呼んでいます。食品にとどまらないアミノ酸事業は当社独自の強みであり、これからより追求していく分野だと考えて、新たな志(パーパス)にアミノサイエンス®というワードを入れています。
当社のコーポレートスローガンである“Eat Well, Live Well.”を実現するためには、事業を通じた社会価値と経済価値の共創が不可欠であり、「共創力を磨き、生活者視点をもってWell-beingを実現し、事業活動を通じて共創された価値を還元する」というサイクルを繰り返していくことで、より豊かな未来へと発展できると考えています。
当社は、これからも社会価値と経済価値の共創を追求し続け、食と健康の課題解決のその先へ、アミノサイエンス®により人・社会・地球のWell-beingへ貢献していきます。
2つのアウトカムの実現に向けた取組
当社の新たな志(パーパス)を実現するためには、2030年までに、「環境負荷の50%削減」と「10億人の健康寿命の延伸」という2つのアウトカムを両立して実現することが必要と考えています。
環境負荷を50%削減
当社は、2030年に環境負荷50%削減というアウトカムの実現に向けて、温室効果ガス(GHG)、プラスチック廃棄物およびフードロスの削減、持続可能な調達の実現といった目標を継続し、これらの取り組みを推進します。環境負荷というのは、GHGや海洋プラスチックなど目に見えないことが多いのですが、そうした課題についても、しっかりエビデンスベースで取り組んでいくことが会社の使命だと考えています。
気候変動リスクへの対応
農産物をはじめ多くの自然の恵みを利用する当社にとって、気候変動への対応は持続的に事業活動を行う上で喫緊の課題です。そのため当社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に基づき、対応策の検討と関連情報の開示を進めています。
GHG削減に関し、スコープ1(自社が直接排出するGHG)については、バイオマス燃料への切り替えなどにより目標達成に向けて目途が立ってきています。スコープ2(自社が間接排出するGHG)については、再生可能エネルギー利用などGHG発生の少ない燃料への転換を進めています。スコープ3(原材料仕入れや販売後に排出されるGHG)については、製品ライフサイクル全体のGHG総排出量の約60%を原材料が占めていることから、原料サプライヤーへのGHG削減の働きかけや新技術導入に向けた検討を進めています。
- MSG・核酸事業におけるバリューチェーン横断型
- グローバルワンチーム“BRIDGE”によるGHG削減の取り組み
- 当社のうま味調味料「味の素®」などの原材料として活用しているグルタミン酸ナトリウム(MSG)。MSG・核酸製造時に排出されるGHGは、全社の約40%以上を占めています。そこで、気候変動リスク対策のために海外法人を巻き込んだグローバルワンチームでのバリューチェーン横断型プロジェクト(“BRIDGE”)を立ち上げ、持続的イノベーション創出の仕組みを構築することでGHG排出量を大きく削減することに挑戦しました。R&Dや生産部門では世界最高レベルの低資源利用発酵技術を構築し、海外技術部・工場部門との協業により本技術の導入を加速化しました。また、各工場間でのナレッジの共有に基づく省エネ活動を強力に推進しました。その結果、MSG・核酸製造時のGHG排出量を大幅に削減することができました。
スコープ1+2:▲132 kt※
スコープ3 :▲336 kt※ - ※2018年度に対する2021年度実績
- 詳しくは以下のページをご参照ください
- 温室効果ガス排出削減に貢献する「バイオサイクル」
- 当社では、タイ、ブラジル、ベトナム、インドネシア等、グローバルで独自のアミノ酸発酵のバイオサイクルを構築しています。それぞれの国・地域で入手しやすい農作物を主原材料として発酵法でアミノ酸を生産しており、アミノ酸抽出後の栄養豊富な副産物(コプロ)を肥料や飼料としてほぼ100%活用しています。このような循環型アミノ酸発酵プロセスを「バイオサイクル」と呼び、従来の化学肥料製造に伴う温室効果ガス排出量の削減や持続可能な農業の支援に取り組んでいます。
- 詳しくは以下のページをご参照ください
10億人の健康寿命を延伸
当社 は、世界中の様々な人が栄養価の高い健康的な食事をとれるようになることがグローバルな健康課題解決に必要だと考えています。簡単においしい食事をつくれる調味料や食品が、手軽に買える価格でどこでも入手でき、その地域ならではの食習慣や風味を尊重したものであれば、それが実現できる。
私たちは「妥協なき栄養」という栄養へのアプローチを通して、人びとがより健康的な生活を送れるよう支援していきます。
- 料理を評価できるNPS(栄養プロファイリングシステム)の開発
- 栄養バランスの良い食事を推進するために、食品の健康度を評価するための栄養プロファイリングシステム(NPS)の活用が進められています。既存のNPSは、主に市販されている個々の製品に含まれる栄養成分量を評価するために開発されたものがほとんどです。しかし、日常の食事には加工食品ばかりでなく、家庭で調理した料理等、各国・地域によって異なる多様な要素が含まれています。その実態を考慮し、味の素グループは料理の栄養価値を評価する栄養プロファイリングシステム(ANPS-Dish)を開発しました。世界の産官学それぞれのステークホルダーと関わりながら、健康的で栄養バランスのよい食事の推進と、それを評価し、生活者に伝える仕組みを構築していきたいと考えています。
- 詳しくは以下のページをご参照ください
コーポレートガバナンス強化の取り組み
2021年に指名委員会等設置会社に移行したというのが、当社としてはかなり大きな変化です。指名委員会、報酬委員会、監査委員会というものを設置しており、委員会のメンバーのうち社外取締役が過半数を占めています。指名委員会というのは、取締役やCEOを誰にするかというのを決めるわけですが、当社はそれを、社外取締役中心に構成される委員会で決めており、役員の報酬についても社外取締役の方々が世の中のトレンドを見ながら決める形に変えました。このため、今の社長の藤江についても、万一、パフォーマンスが支払いに見合っていないと判断された場合、いつでも次の人を指名できるという設計にしており、ガバナンスを徹底しているということです。
また、業績に連動した報酬に関する指標に、経済価値だけでなく、社会価値指標や無形資産強化指標を設定し、役員の報酬をASV経営2030ロードマップに関する進捗に連動させることで、取組強化へのインセンティブをつけています。
取り組みを持続的に進めるために
SDGsの達成に向けた取り組みは、短期的に見るとすぐに自社の売上につながるものではないかもしれませんが、お客様に価値を伝え、ご理解いただけるように働きかけることが重要だと考えています。また、地球環境が悪化したり、気候変動による災害が発生したりすれば、原料である農作物の収量が下がるなど、結果的に安定的な原料確保が難しくなり、将来のコスト上昇につながるリスクもあります。それを今から抑える努力をすることにより、中長期でみると実はコストダウンになるというメリットがあると考えています。ただこうした取り組みはとてもチャレンジングで、色々なイノベーションが生まれてこないと実現できないと考えています。
なお、タイ、インドネシア、ベトナムで、トレードオンプロジェクトとして、環境や社会課題に貢献することがどう経済価値に繋がるかという検証をしたところ、プレミアム価格での販売でも購入してくれることに加え、従業員のエンゲージメントがものすごく上昇するという結果がでました。エンゲージメント上昇により、優秀な人材が入社してくれる、従業員の流出が防げる、という好循環が生まれます。そうして一緒に働く人達が新たな事業を生み出していくことで、直接的ではありませんが、間接的な経済価値は確実に出てくるという手応えを感じています。
また、まだ検証したことはありませんが、SDGsに取り組んでいることでお客様からの信頼が得られて当社のファンになってくれる、そうした取り組みをしている会社のものだから買いたいと思ってもらえる、といったポジティブな影響もあるかと考えています。
SDGsの取り組みは、生活者の皆様が生活していく上でのQOL向上に貢献できる仕事だと考えており、すぐにお金を生む仕事ではないかもしれませんが、将来的に生活者の皆様と従業員、双方の幸せ、Well-beingにつながる仕事だと思います。未来世代に今の豊かな地球環境を残しつつ、人・社会のWell-beingも同時に達成するには、一企業では実現が難しいので、様々な方々との協力が不可欠と考えています。
インタビューのご協力ありがとうございました
企業が取り組むSDGsの一部です。
お問合せ先
大臣官房 新事業・食品産業部 企画グループ
代表:03-3502-8111(内線4139)
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