和歌山県有田川町 三孝農園・三枝代表に聞く
有田川町は、国の重要文化的景観に指定されている「あらぎ島」をはじめ、自然環境に恵まれた町であり、「有田みかん」や「ぶどう山椒」など、全国ブランドの農産品が自慢の町です。
町では、多目的ダムからの河川維持放流水を生かした町営の小水力発電や町有施設への太陽光発電設備の設置など、町をあげて再生可能エネルギーの導入も進めています。
そんな「再エネのまち」で、営農型太陽光発電に取り組んでいる三孝農園の三枝孝裕さんにお話を伺いました。
(営農型太陽光発電についてはこちらでご紹介しています)
(聞き手:近畿農政局経営・事業支援部食品企業課)
農業経営改善のために、営農型太陽光発電事業に着目
三孝農園では、温州みかん等かんきつ類の生産を家族経営で行っています。極早生から中晩柑までを栽培していますが、収穫や出荷の時期には多くの労働力を必要とするため、雇用とその費用確保が経営課題のひとつです。
そもそもは、農業用倉庫の屋根に太陽光パネルを設置したのがはじまりで、家庭用のものが普及し始めた頃に電力の固定価格買取制度について調べ、設置するメリットを感じたことから導入しました。
その後、平成25年に、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光パネルを設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する「営農型太陽光発電」が制度上可能となったことを知り、農地の有効活用や売電収益を使った雇用の確保ができると考え、営農型太陽光発電の設置検討を始めました。
前例のないかんきつ類での営農型太陽光発電の農地転用許可申請
三孝農園で栽培している「不知火」
かんきつ類は、他の植物にくらべて日射量が重要と思われがちですが、私が学生の頃、農研機構果樹研究所で「かんきつ類は必要以上の日射量は生育量に影響しない」というデータが載った文献を読んだことがありました。また、先行してかんきつ類での営農型太陽光発電を行う取組を視察し、実際の生育状況を確認できたことで、自らの栽培経験も踏まえ、問題なく栽培できる確信がありました。
しかし、営農型太陽光発電は町内初の取組だったため、手続きに必要な書類作成に時間がかかり、特に、パネルの下の遮光環境で「地域の平均的な単収と比較して概ね2割以上減収しない」こと等の営農の適切な継続が確保されているかの説明に苦労しました。
手続きに必要な書類は、和歌山県果樹試験場の協力を得て、先述の文献を参照し作成・提出しましたが、光合成による生育量と収穫量の関係性を証明できず、受理されませんでした。
そこで、近隣のハウスみかん栽培では夏場に黒い遮光ネット(遮光率50%)をかけていることに着目し、遮光ネット下部のみかんは露地栽培に比べ生育が劣ることはないことから、太陽光パネルを設置しても生育や収量に影響がないという証明ができました。 県果樹試験場の協力に加え、地元の農業委員会にも相談に乗っていただきながら、許可を受けることができました。
将来は売電収入を後継者育成に
1号機(下部で由良早生を栽培)
営農型太陽光発電の1号機は、比較的樹高が低い「由良早生」の園地に設置、2号機はハウス栽培をしていた「不知火」の園地で、ハウスの支柱も活用するなど自分で設計し地元事業者と協力して設置しました。
現在は売電収入を収穫時の人件費等に充て、農業経営の改善に役立てていますが、将来は経営移譲に役立てたいと考えています。後継者への経営移譲のためには、農作業等の研修が一定期間必要ですが、研修中は経営面積を増やせず、収入の増加が見込めないため、売電収入を後継者への給与に充てることで、余裕のある経営や、スムーズな経営移譲につながると考えています。
想定外のメリット
1・2号機ともに、パネル下での農作業は従来どおり行って、支柱等は作業の支障になっておらず、日陰が出来ることで夏場の摘果作業等が楽になったと感じています。また、園地では、パネル設置前から「由良早生」「不知火」を栽培していましたが、設置後も収量、品質ともに低下は起きていません。むしろ「由良早生」においては、パネルにより生じる日陰部分では、夏場の強日射による日焼け果の減少や、小玉果の減少がみられ、やや単収が増加するなど思わぬ効果もありました。
地域への普及と今後の展望
私と同じように、農業経営を主としつつ発電事業をそのサポートにする取組が拡がればよいと考え、地域で興味のある方へ、設備の設計や収支計画、農地転用の申請などのアドバイスも行っています。
今後は、高齢化等で耕作できなくなった地域の農地を受け入れ、会社組織を立ち上げて若者を雇用したいと考えています。雇用した若者が会社での経験を生かし、将来的には独立できるような、若手農業者のステップアップのための受け皿を提供したいと考えています。
ありがとうございました。
お問合せ先
大臣官房環境バイオマス政策課再生可能エネルギー室
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