未来につなぐ和食
第一線で活躍する和食の達人から将来を担う子どもたちへ想いをつなぐ連載企画「未来へつなぐ和食」。
初回は山田チカラさんです。山田さんは、肉を昆布締めにしたり、エスプーマという器具を使って和食の出汁をムースにするなど、多彩な調理法を駆使して独自のフュージョンスタイルを生み出す食文化プロデューサーです。また、食材と消費者を料理でつなぐことをライフワークとしています。今回は、和洋の料理に精通する山田さんに和食のベースとなる出汁とそのうま味について語っていただきました。
日本にはうま味のもとになる食材がたくさんある
水原夢花さん(以下、水原)私は将来アナウンサーになりたいのですが、山田さんはどうして料理人になったんですか?
山田チカラさん(以下、山田)静岡で農業をしている祖父母が作ったお茶や米に感動したのが食に興味を持ったきっかけです。国内で料理の修行をした後、23歳でスペインに行き、「エル・ブジ」というレストランで最先端の技術を学び、バルセロナで店を持ちました。店では日本の調理技術を使い、和と洋を融合させることに取り組みました。
水原日本の料理の方法は海外とは異なるのですか?
山田日本には昆布やカツオ節、干し椎茸、あるいは乾燥させた野菜などうま味のもとになる材料がたくさんありますが、当時のスペインではそれらが手に入りにくかったので、現地のネギやポルチーニというキノコを乾燥させたものから和風の出汁を作ってみるといった工夫をしていました。
そもそも、出汁って何なのですか?
動物性や植物性の食品のうま味成分を水に溶け出させたもので、料理の風味を引き立ててくれるスープです
うま味を自在に表現できるのが和食のすごさ
水原うま味というのは?
山田基本味の1つです。昔は塩味、甘味、苦味、酸味という4つの基本味があるとされていたんですが、東京帝国大学(現東京大学)の池田菊苗(きくなえ)博士が5つ目の基本味の成分を発見して、「うま味(Umami)」と名づけました。とはいえ、発見される前から、日本だけでなく、外国でも経験的にうま味を使っていたんです。例えば、スペインでよく使うトマトを噛んでから舌の上で転がしてください──。唾液がジワッと出てきたでしょう。うま味成分があるためです。それを感じることで食べ物を体に摂り入れる準備が整うんです。
水原生きるために必要な仕組みなんですね。
山田国や民族を問わず、すべての人間はうま味を求めます。生まれて最初に口にするもの、母乳にもうま味成分がたっぷり含まれていて、赤ちゃんのころから本能的に求めるようになっているんですよ。そんな大切なうま味を自在に表現できるのが和食のすごさです。
ほんとだ。トマトを噛むと唾液が自然に出てきますね
西洋料理の出汁は「取り出す」、和食の出汁は「出てもらう」
水原西洋料理と和食は出汁の取り方に違いがあるのですか?
山田西洋料理の出汁は肉や野菜を焼いたり、煮込んだりしますが、和食の出汁は、あらかじめうま味を凝縮させた材料を使ってうま味を引き出します。だから、出汁を「取る」ではなく、「引く」という表現を使います。これは僕の感覚なんですが、西洋料理の出汁は「取り出す」、和食の出汁は「出てもらう」という感じです。
水原そうなんですか!
山田これは昆布を一晩水に浸しておいた出汁です。飲んでみてください。
水原いただきます。──昆布が強く感じられます。体に優しそうな味ですね。
山田次に昆布出汁にカツオ出汁を少し足したものを味わってみてください。複数の材料の出汁を足すことを合わせ出汁といいます。味の相乗効果とか、相互作用といいますが、異なる成分を合わせることでより強くうま味を感じられるようにできるんです。
合わせた出汁は、今まで口にしたことがある味です。いつも食べている料理に使われていたんですね。
昆布のグルタミン酸とカツオのイノシン酸といううま味成分を含む出汁は、香りも味も良く、色々な料理に使われるんです。
この食材はどこから来たのか、どのように作られたのか
水原外国の人たちから和食はどのように思われていますか?
山田調理技術を学ぶために多くの料理人が日本を訪れるようになっています。出汁の引き方を知っている人も多くなっていますし、僕のところに来る外国人の中にはカツオ節の産地にまでこだわっている方もいます。でも、さすがに産地の方々がカツオ節をつくる苦労までは知りません。「日本の出汁はいいよね、ものの5分で取れる」と言う人がいたので、「このカツオ節1本作るのに何か月かかっていると思う」とたしなめました(笑)。和食はヘルシーであることからも注目されています。うま味を使うことで塩や砂糖をあまり使わなくてもおいしい料理ができるんです。
水原出汁やうま味という和食の文化を守っていくため、私たちはどのようなことをしていくべきでしょうか?
山田食は食材ありきです。料理をするとき、食べるとき、この食材はどこから来たのか、どのように作られたのか、生産者を想うようにしてください。僕たち大人は、ご飯を釜で焚いたり、魚を丸ごと買って切り身にしたりという昔ながらの食の素晴らしさを知ってもらえる環境を整えていかなければならない、と思っています。
やまだ・ちから●1971年、静岡県出身。18歳で静岡・熱海の「ラ・ルーヌ」に入店。その後、スペインに渡り、店舗を経営、世界一予約の取れないレストランといわれた「エル・ブジ」のフェラン・アドリア氏に師事。2007年、東京・南麻布にレストラン「山田チカラ」をオープン。
みずはら・ゆめか●2009年、東京都出身。オスカープロモーション所属。モデルとしてCMやテレビ、雑誌で活躍。趣味は絵を描くこと、ドラマ・映画鑑賞。特技はバレエ。
「和食文化継承リーダー研修」とは、次世代に対して和食文化を伝える担い手を育成するプロジェクトです。令和4年度までに910名の方が和食文化継承リーダーとして認定され、さまざまな場で活躍しています。この、和食文化の魅力と文化継承の方法を学ぶための今年度の研修は、8月1日(火曜日)から募集を開始します。
リーダー間の交流に加え、ご自身のスキルアップや新たな気づきを得ることもできるイベントにご参加いただけます。また、毎回多彩なゲストも参加します。
月に1回程度、給食だよりなどで使える情報、スキルアップに関する情報などをメールでお知らせします。
ご自身のフィールド以外での活動を希望される方は、個別にご相談ください。
-
1回約10分、全12回の講座を受講します。和食の基本的な知識、魅力等を知り、和食文化の豊かさと未来へと伝える大切さを学びます。
-
基礎研修で得た知識をさらに深めつつ、次世代に和食文化をどのように伝えるかの実践的な方法を学びます。ご自身の都合のいい日に参加できます。
-
これまでに学んできた研修内容を活かして、職場などの自身のフィールドで和食文化の継承に関する活動を実践し、その取り組みに関するレポートを提出します。
研修のさらに詳しい日程や内容、今年度の募集の詳細については、下記のホームページで確認できます。
- 幼稚園・保育所等の教諭・保育士・栄養士や小学校の教諭・栄養教諭・学校栄養職員、地域や各種メディアで和食文化継承活動を行っている方など
- 全都道府県
- 農林水産省
- 無料
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449